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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一四三話 Death game『風』②

【Death game 模擬大会ルール】


・体力ゲージの三分の一を削れたら10ポイント、半分まで削れたら40ポイント。倒し切ったら100ポイント。合計150ポイントが付与される。


・戦闘の途中で離脱して、一キロ以上相手から距離を取れたら体力を回復できる。


・ポイントを既に持ってる人と殺り合って勝利した場合、倒した分の150ポイントに加え、その人が保有していたポイントの半分が勝利側に移動する。


・最初の一時間はタッグを組める。二人で倒した場合、獲得したポイントは半分こ。


・他の模擬大会をしているプレイヤーのPKでも同様にポイントが入る。


前回、海にのまれた隆一郎でした。

 挿絵(By みてみん)


「決着をつけようか」


 海上から、長谷川の声が侵入する。


「【風神(ふうじん)(まい)】!」


 脳を(よぎ)る、手を翻すあの動き。

 よく知っている。それは長谷川の十八番。

 赤い強風が剣を振るうように襲ってくるのだ。

 俺の体力はもう既に百を切っている。

 防御に優れた【回禄(かいろく)】だって、所詮は火。水の中じゃ消えちまうから盾には使えない。

 あの技は強い。当たれば、負ける。


 ――負けんのは……嫌だな。


 そう自分の感情がハッキリと頭に浮かんだからだろうか。

 ふと、未来の話を思い出した。


 ――優勝した長谷川さんの決め手やった、【風神(ふうじん)(まい)】。あれが強いんは、酸素の取り込み量が多いせいやと思う。


 一昨年だっただろうか。戦法を勉強するためにマダーの大会を観に行っていた未来。

 その日の夜にはもう分析を終えていて、技の特徴を口頭で教えてくれた。

 通常、空気中に含まれる酸素の割合が全体の約二十一パーセントであるのに対して、あの風に含まれる量は、おそらく九十パーセントほどだろうと。


 ――酸素が多すぎるとな? 逆に人体には悪影響が出るんやって。やからパワーと相まって、殺傷力がめっちゃ高いんやろうね。


 息ができず思考を手放しそうになりながら、一緒に行けば良かったなぁ。なんて少し後悔する。

 あいつの目の色はマダーの中では既に知られていたから、安心して送り出して、帰ってきたらどうだったか感想を聞くようにしてたんだっけ。

 あの頃は……ゲームとはいえ人同士の殺し合いなんて見たくないって蹴ってたもんな。結局俺、一度も観に行かなかったんじゃないか?

 そう思うと、模擬大会とはいえ今は楽しみながら参加している。切り替えができるようになったんだろう。


 ――ならやっぱり、負けたくねぇな。


 肺の中の空気が尽きた。

 危機感じゃない、危機だ。

 なのに、こんなに落ち着いてるのはなぜだろう。

 体力ゲージが減る音、水の音、風が向かってきている音。

 全部全部、とてもゆっくりに聞こえる。


 ――蒸発。


 妙なほどぼんやりとした意識を、急に引き戻してくる一つの案。

 ハッとして目を見開き、拳を握って勢いよく突き上げた。


 ドッパアァァンッ!!


 波が大岩にぶつかったような轟きに次いで、海が縦横に割れる。

 長谷川の「ひゃっ!?」なんて短い悲鳴を聞きながら、水を失った俺は随分と高い位置から落下。

 迫る赤い強風に耐えるため体勢も整わぬまま【回禄(かいろく)】を作り出した。


「あたっ」


 砂浜に尻から着地した俺はボテッと大そうな音を鳴らす。しかし長谷川の【風神(ふうじん)(まい)】への対処はギリギリ間に合って、半球状の炎が阻んだことで静かに消滅した。

 いや、静かとは言えないか。厚揚げをフライパンで焼いた時みたいな音。

 ジュウ? ジュワッ? そんな感じ。

 なんでイメージが厚揚げなのかは知らん。昼前なんだ、腹が減ってきてるのかもしれない。


「ちょっと、つっちー……」


 上空から降ってくる、長谷川の怒号の前触れ。


「何してくれんのよ!? 塩まみれになったじゃないの!!」

「わ、悪かった! わざとじゃない、マジでごめん!!」


 キーキーと怒りを言葉に乗せて全力で騒ぐ長谷川。

 申し訳ないことに、俺が海水を【蒸発(じょうはつ)】させたせいで塩だけが残ったらしく、それを頭から被って真っ白になっていた。

 本当に悪気はなかった。

 ただ直前に厚揚げのイメージが浮かんでいたせいで、トッピングは塩か。なんて考えてしまってちょっと笑いそうになる。


「てか、びっくりした! なんか、俺! 息しなくても大丈夫な体らしい!!」

「はぁ!? 何バカなこと言ってんのよ、思いっきり肩で息してるじゃん!」


 完全に無呼吸状態だったにも関わらず案外冷静だったから、全く問題が無いように思えたが、残念。やっぱり呼吸は乱れていたらしい。

 言われてから全力で息をしている自分に気がついた。


「大体ね、水がどうにかできるなら最初っからそうすればよかったじゃないの。やっぱりバカなの?」

「いや、ここしばらく、水中戦、っしてなかったから、忘れてた!」


 息も絶え絶えにそこまで言ってから、ふらついて立ち上がる。

 体力ゲージにちらと目を向けてみると、残り一桁になるまで追い詰められてしまっていた。


「まーいいや。もうあとちょっとだし、ほんとにもうこれで終わり!」


 空から降りてきた長谷川が俺に指先を向け、自信ありげな顔で勝利を宣言する。


「お覚悟を。つっちー」


 手のひらが翻され、再度【風神(ふうじん)(まい)】が放たれた。

 赤い強風は俺目掛けて急速に迫る。


「覚悟? んなもんしてやらねぇよ。【炎神(えんじん)】!」


 俺の頼みの綱。拳を突き出して、炎の龍を真っ向から叩きつけた。

 炎と風がぶつかり合い、周りが海の壁になっているせいで反響する重たい音が、頭と心臓へ太鼓のように響く。


「無駄だよ。そんな炎じゃアタシの風は止まらない!」


 長谷川の風が周りの空気を巻き込み、巨大な渦を形成する。見る間にどんどん膨れ上がって、【炎神(えんじん)】の三倍はありそうなほどにまで達した。

 炎が押し返されてくる。


「わかってるよ、それが強いのは……!」


 俺自身も風圧で飛ばされそうになりながら、重心を意識して踏ん張って、【炎神(えんじん)】を作り出している手だけを()()させる。


「えっ、なにを……!」

「火はさ、酸素濃度が高ければ高いほど大きくなるんだよ」


 押し合いの力が急に弱まって驚く長谷川へ、俺はそう簡単に説明した。

 酸素が圧倒的に多いこの攻撃。無駄な窒素や二酸化炭素が少ない分、その特性は顕著に現れる。

 だからこそ、対抗するんじゃなくて()()()()()

 炎の龍の中に敢えて長谷川の風を取り込んで、こちらの炎を膨張させるのだ。


「火の温度と燃焼効率の底上げ。それがお前の技でできるんなら……利用するしかねぇよなぁ?」


 俺がにっと笑った瞬間、【炎神(えんじん)】は風を食い始める。炎が取り込んだ風、そこにある酸素が炎と結びつき、噴射するように長谷川へ突撃した。


「嘘ぉ!!」


 半泣きの悲鳴をかき消す大爆発。

 周囲の海を炎が照らし、透明の水を赤く染め上げる。


《ヒット:761》

《隆一郎:10ポイント獲得》

《隆一郎:40ポイント獲得》


「ちっ、さすがに削りきれなかったか!」


 与えたダメージで長谷川がまだ倒れていないと知った俺は即座に【火炎(かえん)(つるぎ)】を作り出す。追い討ちをかけるべく炎の中へ飛び込もうとした。


「ん?」


《ヒット:800》

《隆一郎:10ポイント獲得》

《隆一郎:40ポイント獲得》


 立て続けに出てきたもう一つの表示。それは長谷川以外の誰かにも当たった事実を示すもの。

 俺自身、爆風に巻き込まれながら攻撃したものの、キューブで生み出した能力は自分のものであればどれだけ危険であっても怪我をしない。それはDeath game(デスゲーム)においても変わらない。

 つまり、俺と長谷川以外の誰かがそこにいる?


「巻き込んじゃったか」


 見知らぬ人なら申し訳ない。目を凝らしてよく見てみる。

 爆煙の向こう側にいる、長谷川を守るようにして立つ人影に違和感を覚え、その人物が誰なのかを認識した瞬間。俺は声を張り上げた。


「だーっ!! お前はなんでいるんだよ!?」


火炎(かえん)(つるぎ)】を砂浜へぶっ刺して、さっき倒したはずの人物がなぜそこにいるのかと問いただす。

 にこにこと、いつもの愛らしい笑顔で「きたよ〜」と言いながら手を振ってくるのは、正真正銘、阿部加奈子だった。


「加奈! びっくりした!」

「えへへ〜、急にごめんね? でも【防御(プロテクション)】間に合ったみたい。よかったぁ〜!」

「よかったぁ〜! じゃねぇよ、なんで!? インターバルは!?」

「あ、言い忘れてたわ。今回は復活までの時間はかからなくて、違う場所からスタートになるだけなのよ」

「そうなの〜。案外近いところで復活できて、二人が戦ってるのが見えてね。ついヘルプにきちゃった〜!」


 説明を聞いた長谷川は、「ありがとねー」と煤だらけの状態で阿部に抱きついた。

 照れ笑いする阿部は長谷川に向けて【痛み無し(ノーペイン)】を使い、体力を瞬く間に回復させる。削れていた阿部の体力も同じく急激に復活してしまう。


「な……な……」


 まごついてそんな言葉しか出てこない。

 彼女らの体力は満タン。対して、俺。たったの八。


「じゃあ土屋君、覚悟してね? やられた分はきっちりとお返ししてあげるから! 【クイック】!」


 阿部の手のひらが長谷川と阿部自身に向けられて、速さの底上げが行われた。

 彼女らに張り付いたキューブの模様が一段と濃さを増す。


「ありがと加奈ー! 愛してるっ!」


 更にぎゅっと抱きしめてくる長谷川に阿部は心底嬉しそうに表情を緩ませた。


「あ、あの、阿部さん? さっき全力で殴ってごめんな。申し訳ありませんでした」

「鉄で殴るようなヤツのセリフじゃないわ」

「凛子様も、申し訳ありませんでした」

「きもっ!!」


 ひでぇ。いや、自分でも気持ち悪く感じたからこれに関しては否定のしようがないか。

 少し相手が戦意を落としてくれたらと思ったが――もちろん本当に悪かったと思ってる――さすがにそう簡単にはいかない。長谷川が両手に【鉄扇(てっせん)】を作り出していた。


「これはちょっと……」


 無理がありすぎる、と思う。

 タッグを組む気満々の二人に笑顔を向けられ、冷や汗をかく俺。

 かくなる上は――。


「逃げる!!」


 ダッシュした。


「あーっ! つっちー逃げたー!!」

「追いかけよう凛ちゃん!」

「追ってくんな、追ってくんな! 【花火(はなび)】!!」


 足に火を起こし、超スピードで距離を取る。


「逃がさないよ! 【疾風(しっぷう)】!」


 長谷川が体に風を纏って、俺と同じスピードで飛んでくる。

 やっぱり風の能力、クソ厄介!!


「許せ! 【爆破(ボム)】!」


 女の子を爆発に巻き込むなんて。とかまた言われそうだが、そこまで気にしてやれるほどの余裕は今の俺にはない。

 周辺を爆破して彼女らが追ってこられないよう視界を遮りながら全力で飛んで、海から離れた俺は近くの林に入った。


《隆一郎:逃亡により体力回復》


 そんな表示とともに受けたダメージがリセットされる。

 書かれた文字に悪意があるように見えるのはきっと気のせいだ。

 きっと。多分。恐らく。

【第一四三回 豆知識の彼女】

大会は毎年行われているわけではない。


最後に行われたのは一昨年。その頃はまだ未来さんは大阪にいたので、ガッツリ関西弁の頃です。

そしてほくろの地域だけか、それとも関西圏はそうなのかわかりませんが、〜からだと思う。と言う時、〜のせいだと思う。と言います。

わかりやすくするために今後変更するかもしれません。よろしくお願いいたします。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 髪飾り》

隆一郎、危機!

よろしくお願いいたします。

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