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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一四二話 Death game『風』①

【Death game 模擬大会ルール】


・体力ゲージの三分の一を削れたら10ポイント、半分まで削れたら40ポイント。倒し切ったら100ポイント。合計150ポイントが付与される。


・戦闘の途中で離脱して、一キロ以上相手から距離を取れたら体力を回復できる。


・ポイントを既に持ってる人と殺り合って勝利した場合、倒した分の150ポイントに加え、その人が保有していたポイントの半分が勝利側に移動する。


・最初の一時間はタッグを組める。二人で倒した場合、獲得したポイントは半分こ。


・他の模擬大会をしているプレイヤーのPKでも同様にポイントが入る。


前回、不思議な男の子に会った未来でした。

 挿絵(By みてみん)


 ズドンッ!! と砂を蹴っただけとは思えない衝撃音を鳴らしながら、長谷川は【鉄扇(てっせん)】を連続で振り下ろしてくる。

 俺は【火炎(かえん)(つるぎ)】を体の前で構え、勢いを殺しながら受け止め続けた。


「ほんっとにもう、よく止めてくれる……!」

「当たりたくないからなっ! 絶対痛ぇもん、それ!」


鉄扇(てっせん)】に炎の光を反射させながら、長谷川は更に力を入れて押し込んできた。


「まぁ痛いだろうね。アタシが『風』のイメージから作り出せる、唯一の刃物なんだから!」


 急に長谷川の武器が後ろへ引かれ、押し合うものがなくなった俺は体勢を崩す。

 それと同時、再度殴るように振るわれた。


「くっ!」


《ヒット:98》


 肩を抉り、引き裂く強烈な鉄。

 本来の鉄扇というのは護身用で、肉を持っていくような威力はないはずなのだが、長谷川の【鉄扇(てっせん)】は刃物と言うだけあってかなり鋭利にしてあるらしい。

 咄嗟に後ろへ飛び退くも、彼女の猛攻は止まらない。炎の剣でなんとか相殺しようと試みた。だが。


 ――小さいっ!


 同じ近距離攻撃でも未来の【木刀(ぼくとう)】とはまるで違う。

 彼女の武器の特徴は、三十センチほどしかない本当に小さなもの。

 サイズが倍以上ある自分の剣で迎え撃とうとすれば、動作が大振りになるせいで隙が生まれてしまう。長谷川はそこをうまく突いてきた。


「ほらほら、どうしたの? ダメージが入ってるよ」

「このっ……うっせぇ!!」


 対応できなかった分の攻撃が俺の体力を二桁ずつ奪っていく。

 ダメージとしては大きくないものの、このままいけばやられるのは明白だった。


「くそが、やっぱり分が悪い! 【難燃の紐(ストリング)】!!」


火炎(かえん)(つるぎ)】を捨て、【鉄扇(てっせん)】を受け止めるのではなく体を(ひね)って躱しきる。

 燃えない紐を手に生やし、自在に操って長谷川の武器を暴力的に奪い取った。


「ほーら、もう慣れてきた。マジで厄介だわぁ!」

「正確だからな、お前の攻撃! 狙う場所さえわかれば避けるのは簡単だ」


 奪った【鉄扇(てっせん)】に炎を纏わせて、自分の武器に変えた俺は彼女の頭に振り下ろす。


「その『狙う場所』が捉えられないからみんなアタシにやられるんだけどねぇ」


 面白そうに、動揺するように目を見開いて笑う。

 新たに【鉄扇(てっせん)】が長谷川の手に作り出され、俺の炎を纏った【鉄扇(てっせん)】を彼女はすんなりと受け止めた。


 そして、薙ぐ。


「ぐっ……!?」


 《ヒット:110》


 初めて入れられた三桁ダメージ。

 俺が持っていた武器は今の一瞬で手中から消えていて、無防備な俺の胸元を横に引き裂いた。


「残念、浅かったか」


 舌を鳴らし、長谷川は更に俺へ振り下ろす。

 咄嗟に横に転がって避け、砂が体に纏わりつくのも構わず跳ねるように立ち上がる。


「ああ、そうだよな。いくら俺が炎を使ったって結局はお前の武器。生み出すも消すも、自由自在ってわけだ!」

「ふっふん、ご名答! 奪われた自分の能力で倒されてたまるもんですか」


 掴むものがなくなってしまった【難燃の紐(ストリング)】。

 その量を大幅に増やして網状に結い、長谷川をとっ捕まえるべく上空と砂の下、両方から攻める。追加で【花火(はなび)】を足に起こし、急速に接近した。


「『炎』……ね。よくそこからこんなもの作り上げること!」


 強気な表情を崩さない長谷川は【鎌鼬(かまいたち)】を繰り出した。

 生み出された風の刃によって網は全てみじん切りにされ、捕獲するという理想は叶わなかった。

 だけど、俺もそれだけでは終わらせない。

 隠していたもう一つの紐を砂の中から引っ張り出し、長谷川の手首に当てて【鉄扇(てっせん)】を払い除けた。

 本当は動きを止めた上で打ちたかったけど、武器を吹っ飛ばせただけでもう十分!

 手に炎を纏わせて、【炎拳(えんけん)】を放つべく俺は腕を振り上げた。


(えん)け……」

「ねぇ、つっちー」


 長谷川の、急にまじめなトーンの声。


「女の子の顔、殴っていいの?」

「んぅ!?」


 変な声が俺から出て、長谷川の左頬に入るはずだった拳が逸れた。

 勢い余って砂浜にダイブする。

 また砂を吸い込んだ俺は本日二度目の咳に見舞われた。


「ゲホゲホッ、ぶぇっ」

「汚い咳の仕方しちゃって」

「うっせ……けほっ、卑怯な手ぇ使うからだろ!?」

「のんのん、卑怯は承知の上。使えるものはぜーんぶ使う! それがこのアタシ、Death game(デスゲーム)王者の()()()ですよ?」


 自分で様とか言いやがったこいつ!

 俺を見下ろしながら得意げに自慢する様子にちょっとばかり引いていると、長谷川の指が一度円を描くように回された。


「【風車(かざぐるま)】」


 空中に作り出された親指程度の小さな風車(かざぐるま)。それが長谷川の背丈ほどまで急激に成長して、回転しながらこちらに飛んできた。


 ――楽しい。


「でっけぇ技ってさ、案外脆い部分があるの知ってるぜ」


 口を拭い、ついていた砂を落としながら俺は指に力を込めた。


「【熱線(ねっせん)】!」


 熱く柔らかい鉄を指先から生み出して、格子状に変形させて放つ。

 それを見た長谷川の目が一瞬だけ大きくなった。


「わっ!?」


 バシュッと鞭が当たるような音に重なり《ヒット:230》のパネルが出現。

 体をのけぞらして貫通こそ避けられたものの、飛んできた【風車(かざぐるま)】を切り裂いた流れで奥にいた長谷川にもダメージを与えられた。


「お、おおっ!」


 初めて使った新しい技の威力に俺のテンションが跳ね上がる。

熱線(ねっせん)】はただの紐である【難燃の紐(ストリング)】と違って、灼熱の温度を纏った細い金属線。

 鍛錬で凪さんの【(いと)】という技を見て、俺も似たようなことができるんじゃないかと思って生み出したものだ。

 凪さんのは光を纏っただけの糸に見せかけて、相手を焼き切るほどの威力と有刺鉄線みたいな棘を併せ持った超怖い代物だから、全く一緒にはならないけれど。


「やだっ、つっちー今何したの!? (いった)いわぁ!」

「へっへーん、教えてやるもんか!」


 お返しではないが「べ」と舌を出してやると、カチンときたらしく【鎌鼬(かまいたち)】が放たれた。

 目にも留まらぬ速さで飛んでくるそれらを、もう一度【火炎(かえん)(つるぎ)】を作り出して斬る。対処できない分は体を柔らかく使ってスレスレで避けた。


「大体な、それぐらいで痛いとか言うな! さっきの俺なんてもっと痛かったんだぞ!」

「はぁー? これより痛いものがあるっての!?」


 更に飛んでくる攻撃を躱しながら、阿部の【融解(ゆうかい)】で片腕と両足を失ったと説明すると、長谷川はニヤついて俺の足元に【竜巻(たつまき)】を起こした。


「溶けるのは確かに痛いよねぇ。アタシは絶対受けたくないっ!」

「【回禄(かいろく)】!!」


 生み出された風の渦巻きによって砂と石が舞い上がり、俺の炎の盾にぶつかって弾け飛ぶ。

 ステージがステージだから周りのものも加勢して、いつも以上に強いのだろう。【回禄(かいろく)】が破られそうになって防御に手いっぱいになると、長谷川は指先をこちらへ真っ直ぐに向け、その後自分の口元へ置いた。

 確か、今の動作は――!


「気がついた? 残念、もう遅いよ。【風前(ふうぜん)(ともしび)】」


 指先に蝋燭ほどの火が灯される。それを息で吹き消された瞬間。


「がっ……!」


《ヒット:650》

《凛子:10ポイント獲得》

《凛子:40ポイント獲得》


 全身に広がる火傷のような痛みと熱さで俺は膝をついた。

風前(ふうぜん)(ともしび)】。前に一度だけ見たことがある。確か、風を含むことわざから取った、相手の体力を大幅に削る技!


「盾で守ってても効果あるのかよ、それ……!」

「ふふ、狙いさえ定められるならそんなの関係ないからね。そーれ追加!」


 更に巻き起こる風。

 体の痛みで意識が逸れた俺の頭からは、【回禄(かいろく)】を作り出すイメージがすっぽりと抜け落ちてしまっていた。

 覆っていた炎が揺らぐ。それによってできた綻びから【竜巻(たつまき)】の強襲を受けた。


《ヒット:100》


 まずい。非常にまずい。


「ほらほら。あと少しだよ? 頑張って負けてね、つっちー」


 空気が唸る。

 これまでとは比べ物にならない風の音にふと海の方を見ると、あら大変。波が荒れ狂っていた。


「おまっ、あれはやばいって!!」

「知るもんですか! せっかく自然の力を借りられるステージなんだもの、使わなきゃ損でしょ!」


 楽しげで上機嫌の凛子様は、「だからさ、つっちー」と前置きをして言った。


「お腹、冷やさないようにね?」


 投げられた言葉を証明するかの如く、長谷川の力によって生まれた風が更に海を動かした。

 それはまるで台風のように海水を下から上へと引っ張り上げ、大きく波打たせるとともに水温を低下させる働きがあるらしい。

 冷たい冷たい海の水が俺の頭から降ってきて、陸地にいるというのに溺れそうな程の海水の餌食となった。

 一桁ずつダメージが入る。三、七、四。

 どうやら体内の酸素量が低下するだけでもダメージと見なされるらしい。


 ――くそ、タチが悪い!


 なんとか海面に出ようとするも、荒れ狂う海の水は尋常でないほど俺を振り回した。

 上へ下へ、右へ左へ。体がいうことを聞いてくれない。

 少しずつ失われていく酸素と相まって、一度に受けるダメージ数にも増加が見られた。

 このままじゃ、押し切られる。


 ――打開策、打開策! 何かないか? あいつの意表をつくような、何か!


 肺の中身に危機感を覚え、水に揉まれながら必死に考えた。

 長谷川は俺自身も知らない強みを知っていた。

 その対策をあらかじめ練っていたのだろう。だから多彩な技と体術を繰り出して、俺が動きを見極める前に他の戦法に変えている。

 俺を、慣れさせないために。


 ――ちゃんと……わかってたよ。


 言われなくても。戦わなくても。

 お前が強いことくらい、ずっと前からひしひしと感じてたよ。


「決着をつけようか」


 海上から、長谷川の声が侵入する。

【第一四二回 豆知識の彼女】

(いと)】は《遠征-3日目-③》で凪が鞭の死人に対して二度使っている。


凪さんは技名をあまり口にしない人です。

更に、今回の【(いと)】や同じ時に使っている【(つるぎ)】もそうですが、極端なほどシンプルな技名にしています。

死人対策の一環で、聞いただけでは細かい能力がわからないようにしているのだとか。

とにかく尋常でないほどの徹底ぶり。

この辺りはどこか本編で話させたいところです。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 Death game『風』②》

凛子様、戦闘の続きです!

よろしくお願いいたします。

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