第一三九話 Death game『解』②
【Death game 模擬大会ルール】
・体力ゲージの三分の一を削れたら10ポイント、半分まで削れたら40ポイント。倒し切ったら100ポイント。合計150ポイントが付与される。
・戦闘の途中で離脱して、一キロ以上相手から距離を取れたら体力を回復できる。
・ポイントを既に持ってる人と殺り合って勝利した場合、倒した分の150ポイントに加え、その人が保有していたポイントの半分が勝利側に移動する。
・最初の一時間はタッグを組める。二人で倒した場合、獲得したポイントは半分こ。
・他の模擬大会をしているプレイヤーのPKでも同様にポイントが入る。
前回、砂浜の中に逃げた隆一郎でした。
「戦略的撤退? ふふっ、残念。どんなに深いところへ逃げたって、私には関係ないんだよ〜! 【解明】!」
阿部の楽しそうな声。砂でできた壁の上部に赤い横線が浮き出てくる。まるでレーザーのようなその赤線は瞬きする間も無く下りてきて、ぴたりと、俺の目線で止まった。
「見つけたよ土屋君! 【融解】!」
「はっ!?」
指パッチンの音が聞こえ、今度は俺の右足が溶け出した。
「痛っ! あ、阿部ッ!? てめぇ、にゃにしやがった!?」
「えっへへーっ! 【解明】はね? 『解』の漢字からの連想で、相手がどこにいるかを読み取る技なんだよ〜! しっかりどこにいるかはわからないのが欠点だけど、その感じだと当たったみたいだね? やったー!」
嬉しそうな阿部の説明を聞きながら横にあるパネルに目を向ける。
《ヒット:200》
《加奈子:40ポイント獲得》
体力ゲージは俺が残り半分。対してこちらはまだ一ダメージすら阿部に与えられていない。
「くそ……マジで厄介だにゃ」
一筋、汗が流れる。
阿部の視界にいるいないに関係なく【融解】で俺を溶かすことが可能。しかも、【解明】の範囲内ならどこでどう隠れようが見つけ出して、攻撃できるということ。
それだけじゃない。
今はダメージゼロだから使われていないが、もしこちらの攻撃が当てられたとしても【痛み無し】を使われて回復される。
やるとしたら【融解】を使われないように阿部を欺いた上で、HPを一発でゼロにできる攻撃が最適。
でもそんな高度なこと俺にできるだろうかと考えていると、阿部は今までよりも少し大きな声で俺を呼んできた。
「ねぇー出ておいでよ土屋くーん! 見えないよ〜!」
「隠れてんだから見えたら困るっての!!」
胴体は正常だから言い返すぐらいの元気はあるが、俺に残ってるのは頭と胴体、左腕。足は太ももの半分ぐらいまでしかないから、走るという選択肢は捨てざるを得なかった。
――どうする。ここにいたって体力回復できるわけでもねーし、体も元に戻らなさそうだし。
どう対応しようかと考えを巡らせていると、唐突に襲ってくる嫌な予感。
「【回禄】!!」
「【融解】!」
技名を言ったのはほぼ同時。指パッチンの音がわずかに後から聞こえ、俺の体を覆う炎の盾だけが溶けた。
「あー! 防御したね!? ずるいよ!」
「ずるくはねぇよ!?」
「ずるいよ! 隠れてるもん、見えないもん! なのに防御まで! ずるいよ!!」
――見えない?
「もおお!」と叫びながら何度も指が鳴らされる。
その都度俺も【回禄】で体を覆って守り、炎が溶けて再構築されてを繰り返す。
「にゃぁ、阿部! お前の【解明】って、俺が見えるわけじゃにゃいのか!?」
「え? 見えないよー! 相手の形がわかるだけだから!」
赤いレーザーが拾い集めた情報が阿部の脳へ流れてきて、その大まかな形状でそこにあるのが何なのかを判断するらしい。
阿部から返ってきたその説明を聞いて、俺はつい口の端を上げて「へぇ……」と呟いた。
閃いたのだ。この状況を打開する方法を。
「冴えてるじゃにゃいか。俺のくせに」
ニヤリと笑い、【回禄】を続けながら右手のひらを上に向けて指を開く。
「【木炭】」
蒸し焼きにした木材を炭化させて作る木炭を、阿部に気付かれないよう少しずつ生み出した。
その数をどんどん増やしては繋げていき、ただの木から人の形へ作り変えていく。
更に防御力をアップさせるため、その人型の木炭にも【回禄】を纏わせた。
「【火砕サージ】」
用意ができたところで、俺は自分の体を火山灰と空気の混ざった高熱の爆風に変える。
火砕サージとは、火山ガスが主体となった希薄な流れのこと。流動性が高く、高速で流れるそれはとてつもなく危険で、斜面を這い上がる場合もあるという。
自然災害は怖いなって思いながら見てたニュースが、こんな形で力になってくれるなんてな。
先ほど逃げるために【火柱】で空けた、地上へ繋がるいくつかの穴。その中から阿部の一番近くに出られるだろう道を選び、爆風になった俺は砂を削りながら勢いよく外へと向かう。
「しつこいよ土屋君! 早く出てこないとっ……こうだよ!」
阿部の【融解】が、纏った炎の盾ごと【木炭】を溶かした音がした。
「怖ぇにゃ、おい!」
あちらから俺の姿が見えないのであれば、似たような形のもので代替えすればいい。単純な発想だが上手くいったようだ。
「あ、あれ? なんで、ダメージになってない!?」
手応えがあったはずなのに《ヒット》の通知が出なくて戸惑う阿部。そこに追い打ちをかけるようにして、すぐ真横にある穴から急に爆風が這い出してきた。
「残念、あれはフェイクにゃ」
人の形じゃないのに俺の声がするその高温の何かに、阿部は驚いて小さな声を上げた。
火砕サージ化した自分の体を瞬時に元へ戻し、左手と頭、胴体だけになった俺は、溶けてほぼ無い足に【花火】を作り出す。
阿部に向かって上空から速攻で飛び、左手を大きく振りかぶった。
「わ、わぁああ! 【運気の解放】!!」
せめてもの抵抗として、運気を上昇させる技を繰り出した阿部。
相手の技を当たらないようにする作用があるらしいが、これには一つ欠点がある。それは――。
「あっ、避けられない……!?」
そう、彼女の言う通り。
あくまでそうできる『可能性』が高まるだけなのだ。
遠距離攻撃なら軌道の逸らし方も色々あるから上手くいったかもしれない。だけど今回飛んできたのは近い位置からの俺自身だから。
運が良くても絶対に避けられない距離から攻撃してしまえば、【運気の解放】はただの言葉でしかないのだ。
「見誤ったにゃ、阿部」
にぃっと笑い、拳に赤々とした炎を生み出した。
「まとめて返させてもらうにゃ。【炎拳】!!」
ドオッと鈍い音と重なって、体力ゲージが一気に動く。
一番HPを削れるだろう人間の急所、鳩尾に拳を全力で打ち込んだ。
阿部は息が詰まったような声を出しながら吹き飛んで、数メートル先で落下。盛大に砂が舞う。
体が小さいとはいえ、【火砕サージ】でアップしていた俺のスピードと、そこへ追加された【花火】による強襲。更に凪さんや未来に俺が唯一褒められる長所、馬鹿力の上乗せ。
「拳は凪さん直伝だからにゃ。ガキを甘く見るにゃよ」
勝利を告げるファンファーレ。
突っ伏した阿部の前に立った俺は、炎を纏ったままの腕でガッツポーズをした。
《Excellent!!》
《ヒット:1000》
《WINNER:隆一郎》
《ポイント総計:150ポイント獲得》
【第一三九回 豆知識の彼女】
隆一郎は女の子の腹を全力で殴ることができる。
もちろん日常ではしませんが、戦闘となれば思いっ切り殴れます。ある意味、切り替え上手。
お読みいただきありがとうございました。
《次回 剣か槍か》
隆一郎、全力でからかわれます。
よろしくお願いいたします。