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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一三八話 Death game『解』①

【Death game 模擬大会ルール】


・体力ゲージの三分の一を削れたら10ポイント、半分まで削れたら40ポイント。倒し切ったら100ポイント。合計150ポイントが付与される。


・戦闘の途中で離脱して、一キロ以上相手から距離を取れたら体力を回復できる。


・ポイントを既に持ってる人と殺り合って勝利した場合、倒した分の150ポイントに加え、その人が保有していたポイントの半分が勝利側に移動する。


・最初の一時間はタッグを組める。二人で倒した場合、獲得したポイントは半分こ。


・他の模擬大会をしているプレイヤーのPKでも同様にポイントが入る。


前回、ルール説明がありました。

 挿絵(By みてみん)


 ――ちかり。

 数秒後、暗かった目の前が明かりに照らされて、入ったと認識しながら瞼を開ける。

 未来との鍛錬は森のステージだったけど、果たして今回は?


「あ……海?」


 目の前に広がるカンカンの日差しとそれを照り返す綺麗な水。熱そうな砂浜と、波打ち際にはアニメで見るような大きな大きな巻き貝が転がっている。

 これぞ、海! って感じの光景。

 作り物だなあと瞬時に理解できるのは、今がDeath game(デスゲーム)の中だという認識があるのも理由の一つだけど、現実の海はこんなに綺麗じゃないからだろう。

 実際の海は、昔みたいな不法投棄はなくてゴミはさほど落ちていないものの、完全に濁った水がザバザバと溢れているだけの『綺麗』なんて言葉とは程遠いものなのだ。


「どれくらい前の話なんだろうな、海が綺麗だったなんていうのは」


 一人呟きながら感慨に耽っていると、サクッと砂を踏む音が聞こえた。


「先手必勝!!」


 よく知った明るくて可愛らしい声。

 俺が振り向いたすぐ目の前には青白い燐光。


「阿部!?」

「【減力解放(げんりょくかいほう)素体(そたい)】!」


 その光が阿部加奈子のものであると知った直後、俺の体に異変が起きた。

 ぞわりとこそばいような痒いような感覚と寒気。

 気持ち悪くて腕を(さす)ろうとした。しかし。


「ふにゃああああっ!?」


 衝撃の事実に思わず叫び声を上げた。


()()()()()だこの腕っ! ていうか、()()()だ今の俺の声!?」

「ぶふっ……!」

「わ、笑うにゃよ、阿部! てめー俺ににゃにしやがった!?」


 ガキっぽい声で必死に叫ぶ。

 だっておかしいんだ。

 触ったそこにあったのはあまりにも細っこい、言うなれば幼稚園児みたいな腕で。手なんか全体的に妙な丸みを帯びちまって、鍛え上げた俺の筋肉はどこへやら。

 更にヤバいのは、急に低くなった視線。

 背は俺の方が高かったのに寸刻の間に逆転されて、今は見上げないと阿部の顔が捉えられない。


「あっ、まさか!?」


 意に反してまとわりつく『にゃ』の言葉で最悪の光景が浮かんだ俺は、短くなった腕を必死に伸ばして頭と腰を順々に触った。

 すると、そこにあるのだ。

 本来は人間の体にあるはずのないものが。

 あるわけがない、ふわふわの()()()と柔らかな()()が。


「んだよこれぇえええっ!!」

「ふふふっ、土屋君可愛いよ〜」

「ざけんにゃ! 元に戻せこんにゃろう!」

「ダメだよ〜、元になんて戻さない」


 いつものようにゆるふわな笑顔を俺に向けていた阿部は、「だってね?」という切り出しの言葉とともに、らしくない嘲笑うかのような表情を浮かべた。


「私はみんなみたいに攻撃要素をあまり持ってないから、まともにやると勝てないんだよ〜。だからその人が持つ()()()()()()()()()()()()()の。そうしたら、きっと私にも勝機があるはずだから」


 自分の顔の横を指さす阿部。

 そこにあるのはDeath game(デスゲーム)お馴染みの体力ゲージ。加えて《VS隆一郎》の文字と、普段は載っていないものも表示されていた。

 それは、オフェンス値11%、ディフェンス値89%という数字。前に秀が説明してくれた、与えられた文字から連想できる()()()()のパーセンテージだ。


「まぁそんなわけだから……ごめんね? 土屋君」


 柔らかな微笑みを見せた阿部は、俺のもふもふの耳に手を伸ばして優しく触れてくる。

 ぴくりと勝手に跳ねる様子を可愛がるように、息がかかる位置まで唇が近付いて、囁かれた。


「少し小さくなっててもらうよ」


 普段は感じない色っぽさに妙な恥ずかしさを覚えて顔が熱くなると同時、阿部の口から出た()()()()


「【融解(ゆうかい)】!」

「ひっ……!」


 まずいとすぐに判断。反射的に左へ避けた。

 だが砂浜独特の踏み込めなさによるものだろう。地を蹴る力が伝わらず、完全には避けきれない。


「ぐ……ッ!」


 右腕に強烈な痛みが走り、顔を歪ませた。

 ヂヂッとDeath game(デスゲーム)独特の体力を削られた音が鼓膜を揺らす。

 視界の端にある体力ゲージに表示された《ヒット:120》という知らせは、満タンで千ある体力のうち、今の攻撃によって約十分の一が削られた事実を表すもの。


 ――未来とのやり合いでは消してたもんな。なんか新鮮でいい!


 体勢を崩されたが関係ない。俺は先ほどよりも力強く踏み込んで走り、阿部へ直進する。

融解(ゆうかい)】を浴びた右腕は徐々に溶けていくらしい。泥のようになって俺が通った位置にボトボトと落下していった。


「残念、ちゃんと当たれば一発なのに!」


 阿部はこちらと距離を取りながらもう一度【融解(ゆうかい)】を行うための動作――指を鳴らそうとする。


「させにゃい!」


 今度こそ避けようと思いっきりジャンプをした。


「ふふっ、ねぇ土屋君。今の土屋君ね、自分で思ってるよりもだーいぶ小さいと思うよ?」


 パチンッ!


「うお!」


 避けたと思った。

 だけど避けきれていなかったのだろう、右腕と同じような痛みが左足を襲う。

 ヂヂッとまた体力ゲージが減る音を聞きながら、俺は勢いのまま前方に転がって顔から砂浜にダイブした。


「わっ! 早速ポイントもらえたよ〜!」


 砂が口に入って激しい咳に見舞われる中、阿部の歓喜の声を聞いて俺は顔を上げる。


《ヒット:180》

《加奈子:10ポイント獲得》


 どうやら体力の三分の一を削られたらしい。

 阿部の意識は現在、空中に表示されたそのパネルに向いている。

 逃げるとすれば、今!


「げほっ、ひ、【火柱(ひばしら)】!」


 円柱状の炎をいつものように上ではなく、砂浜に向けて作り出す。

 砂を巻き上げながら数個の細長い穴を開け、驚く阿部の視界を奪いつつ俺は地中へ逃げ込んだ。


「わわっ、土屋君ずるい!!」

「ずるくねぇ! 戦略的撤退だ!!」


 そうだ、別にこのままトンズラしようなんて思っちゃいない。

 とりあえず作戦を考えたいだけ。

 こんなに小さい体じゃ避けるのもままならないし、これ以上溶かされるのもごめんなだけ!

 そう自分に言い聞かせ、外の光も差し込まないほどの深い穴を【火柱(ひばしら)】で更に掘り進めた俺は、全部繋げて隠れるためのスペースを確保した。

【第一三八回 豆知識の彼女】

融解:加熱や圧力変化などで起こる。


当本人は気付いていませんが、隆一郎も使える技だったりします。

強いです(ムキッ)


お読みいただきありがとうございました。


《次回 Death game『解』②》

続きの加奈子戦です!

よろしくお願いいたします。

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