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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一三二話 みんなで鍛錬

前回、レシートの死人と決着。

彼らを死人にしたのは周りの意識の問題でした。

 挿絵(By みてみん)


「っていうことがあってね」


 俺の後ろから、秀が昨日のレシートから生まれた死人について阿部と加藤に話しているのが聞こえる。


「うぅん……難しいね」

「ワシも気にしたことなかったのう、弟達が買ったお菓子じゃってチェックして、小遣い帳に書かせてその後は燃えるゴミ行きじゃった」


 加藤お前兄弟いたのか。いい兄貴してんだな。

 と言ってやりたいが生憎俺はその会話の中には参加していない。悪いな加藤、言ってやれなく、て!?


「ぴぃっ」


 ああ、つい変な声が出ちまった。

 でも危ない。今のは、マジで危ねぇ。

 震えそうなほどの恐怖を感じたのは、ロボ凪さんの蹴りが目の前を通過したから。

 なんとか避けることはできたものの、腰をこれでもかというくらい仰け反らした姿勢では、あまり格好良く避けたとは言えなかった。


「つっちー、ダサいぞー」

「るっせ!」

「ふふ。じゃあ凛ちゃん、続けるね?」


 この状況を友達に見られてると思うとちょっと恥ずかしくなる俺は、事の経緯を思い返す。


 昨日凪さんから遠征先の報告があったことで、学校の方でも何か死人を生まないための対策を練るために、午後の授業は中止して職員会議をすることに決まったんだそうだ。

 帰る前に世紀末先生とすれ違って、内緒だぞと教えてくれた。

 ホームルームでは単純に臨時の職員会議だとしか言われなかったから、妙に納得してしまった。


 それで急遽時間に余裕ができた生徒一同は大体はどこかに遊びに行くらしい。

 俺達もどっか行くかと秀に振ってみたが、待ってましたと言わんばかりに長谷川が間に割り込んできて。今しかないでしょと舞い上がりながら提案してきたのが、以前長谷川が未来と約束していた互いの弱点を補うための鍛錬をしようという話。


 長谷川は未来に遠距離での攻撃の精度を上げる方法を、未来は長谷川にその場で瞬時に理解して行動に移る方法を教え合うということ。

 こんな時でも遊びに行くではなく鍛錬をしようになるあたり、本当にあいつらはストイックだと思う。

 まあ斎がいないからって理由で、秀もどこかに行こうというのはあまり前向きではなかったし、ちょうどよかったのかもしれない。


 どこでするかという話になって、「じゃあついでに土屋のロボ凪さんとの鍛錬も見てみたい」なんて秀の一言で、俺の家の地下、鍛錬場で行うことに決定した。さすがに五人も来ると大所帯だから、一応母さんにだけはメールを入れて。


 ぶっちゃけた話、基本このダサい戦い方を見せるのは未来だけにしておきたかったから乗り気ではなかったんだけど、未来が嬉しそうだったから断れなかったんだよな。


 というか、見たいって言うならちゃんと見とけよ秀。

 さっきからずっと阿部と加藤と話してるじゃねぇか。

 いや、いいけどさ別に。俺も昨日の奴らのことはみんなに話したかったし。


「紙じゃなくて、電子レシートのサービスってあるじゃない? 全部そうなったりしたらいいのかなぁ」

「そうだね、捨てられる事もないしそれはいいかもしれない。まぁそもそもの話、再利用できるなら今回みたいな事も起こらなかったと思うんだよね」

「日常に浸透してるだけに、難しい課題じゃのう」


 ああ、違う。秀が見てないからぶーたれてんじゃねぇわ、俺も一緒にその話したかっただけだ。

 急にその事実に気が付いて、何にやきもち妬いてんだと自分に言いたくなる。

 でもまあいいや。今は結構調子いいし、集中。目の前のロボ凪さんを倒すことだけ考えよう。

 思考をシャットアウトして、目の前で繰り出される乱撃を一つ一つ見極めていく。

 正面、上、正面、右、いや……右、斜め!

 拳の照準がどこに向かっているのか、今までで一番クリアに見えた。


「反撃するなら、今……!」


 体を大きくのけぞらせて躱したロボ凪さんの拳。

 次の攻撃がくる前に。この一瞬の隙を見逃すな!


 ぐっと右手を握りしめ、一直線に殴りかかってきていた彼の、その綺麗な顔の左頬に全力で振りかぶった。

 ――手応えが、あった。

 防御をさせる暇もなく、反撃をする素振りをも見せず、ロボ凪さんを完全に出し抜いての攻撃は、しっかりと彼の顔に届いていた。

 の、だが。


「やっ……へぶっ」


 一度攻撃が決まれば喜んでしまって、思いっきり反撃を食らうまでがセオリーだとでもいうのだろうか。

 今まで殴るしか手からはしてこなかったのに、目がギラッと光ったかと思えばチョップが飛んできた。

 びっくりしてもろに食らってしまった手刀は想像以上の痛み、というか……頭、割れそう。

 まあそうだよな、素体の拳でマテリアルを壊せる化け物並の超人様のチョップが、痛くないはずがなかったんだ。


「す、ストップ、ストップで……」


 まるで顔は殴るなよとでも言ってるみてぇだな。

 あまりにも視界がぐらぐらになってしまったから少し休憩しようと思って、ロボ凪さんを停止させて壁際においたストップウォッチに目を向けた。

 表示されている数字は、『2時間47分』。


「お、おぉおぅおおお!?」

「わ!?」

「ちょ、なにつっちー急に!」


 その数字を見た俺は奇声を上げながら、鍛錬中の未来と長谷川の間に体を突っ込んだ。

 未来から教えを乞うていた長谷川にはキレられたけど、ご生憎様。俺の喜びを伝える方が優先だ。


「未来。見ろ、最高記録だ」


 どうしたのと近寄ってくる秀たちもほったらかして、未来に高揚を隠せないままその数字を押し付けるように見せてみた。


「うん? わ、本当だ。一気に一時間も延びてる! すごいじゃないの隆」


 さすがに未来も驚いたみたいだ。

 未来が今言った通り、俺の今までの最高記録よりも一時間ちょっと長く耐えられていたのだ。


「しかもだぞ。俺今回、三回ロボ凪さんぶん殴った」

「つっちー、嬉しいのはわかるけど顔がすんごいニヤけてて気持ち悪い」


 しょうがないだろ、ようやっとこの課題がクリアできるかもしれない希望が見えてきたんだから。

 こんなに嬉しいことが今この時点で他にあるもんか。


「ちょ、俺凪さんに報告の電話入れてくる」


 考えてみれば電話なんて迷惑では、といつもの俺ならしないのだが、今回ばかりはちょっとテンションが上がりすぎて行動を抑えることができなかった。

 くすくす笑う未来の声を背に、俺は鍛錬場を一旦出て今は誰もいないリビングへと向かった。

お読みいただいてありがとうございます。


ようやく凛子の願い通り、鍛錬をする運びとなりました。なんだかんだで約束した球技大会から既に二週間以上。よく我慢しました。


隆一郎も少しずつ成果が出てきております。

嬉しそうで何より。


《次回 師匠と弟子》

いつぶりだ?の隆一郎と凪での二人の会話です。

よろしくお願いいたします。

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