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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
134/286

第一三〇話 個人の意識②

前回、黒いなにかの死人の攻撃により、秀の安否がわからない状態に。

 挿絵(By みてみん)


回禄(かいろく)】を切りつけては燃えていく黒い何かの死人……勢いが強すぎるし、盾無しに攻撃をするにはちょっと怖いな。


「【回禄(かいろく)(れん)】」


 切られて盾が消えてしまわないように、自身に張った炎の盾を一重から三重に増やす。防御が確実にできる状態にしてから目を左右にキョロキョロと動かした。

 探せ、打開策を。

 単純な話この黒いもの全てが敵であるというのなら、一気に燃やしてしまうのが一番手っ取り早いだろう。


回禄(かいろく)】を体に張ったまま足元から火を起こし、拳をぐっと握って一気に離すようなイメージで外へと強く広く展開した。

 紙が燃える音をふんだんに撒き散らせながら、黒いものたちはいとも簡単に粉々になり、灰になってゆく。

 耐久はあんまりないみたいだな。

 それならこの調子で全て燃やしてしまえばいい。

 そう、考え始めた直後だった。

 なんだ、この音。

 灰が砂嵐のような音を鳴らしながら蠢いていた。

 音の根源――燃やされ地に落ちた灰たちは砂鉄が引き合うように一箇所に収束して、また黒い物の姿を取り戻して地表に上がってくる。


「これは……想像以上に面倒な相手かもしれねぇな」


 姿を見せた彼らは螺旋を描くように綺麗に列を成してはくるくると回る。そしてどんどんその列の幅が狭まっていく。

 もしあの螺旋を描いているのが変化(へんげ)の一環だとしたら、これ以上面倒になる前にカタをつけたい。

 身に纏った【回禄(かいろく)】を解除し、防御は捨てて真正面から螺旋へ向けて走った。

 どうすればいいかはまだ決まってないけど、とにかくあれが集合するのは止めたほうがいい気がするから。

 俺が攻撃態勢に入ったことに気付いた彼らは、その怒りを体現するかのようにこちらへと一部を飛ばしてまた斬りつけようとしてくる。

 だけどもう、さっきまでとは違って奴らの動きが俺の目にははっきりと映っていた。

 長谷川の【鎌鼬(かまいたち)】を思わせる斬撃を、飛んで、ひねって、転がって躱し、敵を見据えてすぐさま立ち上がる。

 ここぞと言わんばかりに足元から新たに多くの黒いもの達が生成された。

 どこからでも新たに作り出せるのか?


「【火柱(ひばしら)】」


 下から襲いくる死人達から体を守るため、更にはそのまま灰にするために、自分の体を巻き込みながら炎を円柱状に立ち上らせる。

 ボッと炎が広がる音を聞けば、一気に奴らが消え去ったのは確認するまでもない。


「【炎神(えんじん)】!」


 その場から一蹴して螺旋の近くまで近接し、その内部に向けて火の龍を送り込む。


「散れ」


 俺の言葉を合図に龍はその身を破裂させ、芯から焚き付けたにも関わらず、燃えたそばから空間に生まれていく黒いもの達。キリがない。

 新たに生まれた者たちも同じように勢いのまま四方八方から真っ直ぐ俺の頭を狙って飛んでくる。

回禄(かいろく)】が簡単に断ち切られたことを思えば、当たれば大出血間違いなし。体を斜めにひねって、腰を逸らして、横っ飛びをして姿勢を低く躱して。手をついたそのまま前転の要領で斜めに跳ぶ。

 攻撃の仕方は単純だから速さに慣れてしまえば避けること自体は難しくはない、だけど。


「て、か、ず、が! 多いなっ……!」


回禄(かいろく)】を再度体に纏わせそれを外へと一気に広げ、無理やり周囲の死人たちを燃やす尽くす。

 どうせすぐにまた生まれ始めるんだろうが、避け続けるよりは幾分かマシだろう。

 そもそも何の死人か把握できなきゃ対処も何もない。ポケットから通信機を出して耳につけ、何度か呼びかけては未だ姿の見えない秀の応答を待つ。

 少しして、ザザッと砂嵐の音とともに気だるそうな返事が返ってきた。


『もしもし……って、あーあ、通信機壊れかけてるよ。修理必要だねこれは……』


 大きなため息を吐いてぶつぶつと言う秀。声の感じ的に彼に問題はなさそうだ。

 だけど砂嵐とは違う何かの音も聞こえて、なおかつ顔を出さなかったあたり、秀もその場で死人と戦っているのだろう。


「そっちは平気か?」

『うん、問題ない。ごめん、盾は張ったんだけど、勢いが強すぎてゴミ箱の裏側まで飛ばされちゃったよ。こっちの討伐はもう終わるから、すぐ加勢に行くね』


 お、いい位置にいてくれてるじゃないか。


「ならちょうどいいや。帰って来る前に、ゴミ箱の中何が入ってるか調べられるか? こいつら喋りもしなければ攻撃も一定で、すぐ増えてくるしどうすればいいかよくわからないんだ」


 実際のところ、あのゴミ箱というものは物体が中に入れられた瞬間に圧縮されるから、普通なら何が入っているかなんてわかりゃしないのだが、


『わかった。二分頂戴』


 さすがだ研究員。

 通信機の奥で一際甲高い氷が硬いものに当たったような音が鳴って、急に静かになる。宣言通り討伐は完了したらしい。


「……お出でですか」


 秀との会話を終えると、空中にどんどん生まれてきた黒いものたち。彼らを視認した直後、また俺目掛けて切りつけてくる。

 吹雪を思わせる猛攻をさっきまでと同じように避けながら、何がどうなっているのか見定めるようとすると、ある事に気が付いた。


 ――待て、この黒いの、黒だけじゃない。


 ただの黒い物体だと思ってたけど、どうやら違うらしく、色々な模様と黒くない色、白やら薄い緑やらが入り混じっていた。

 吹き荒れる沢山の色のものたちを避け続けていると、後ろへ後ろへと後退させられてゴミ箱付近にある人工木の前まで追い詰められる。


「な……?」


 同じような攻撃がここでも続けられながら、気付いた時には一部の奴らが一箇所に集まり始めていた。

 やばいような気がしてそちらに意識を向けた瞬間、それらは大きな槍状に変化し急に目の前に現れる。


 ――飛ばしてきた!?


 直感で頭を下げて避けた。

 すると頭の僅か数ミリ上だったのだろう。悪寒が走って、俺の後ろにあった木に当たり、ダルマ落としにでもあったかのように、文字通り()()()()()

 殺傷力はピカイチ。

 認識できたのはほとんど感覚に近かった。

 ほぼ見えなかった……よく避けたな俺。


『土屋、わかったよ』


 ちょっと焦ってどうしたものかと考えていると、通信機から聞こえる秀の声。ちらっと腕時計を見る。

 ジャスト二分ってとこか、すげぇや。


『レシートだ』

「レシート?」


 ふと、最近思い当たる経験があったことに気が付いた。

 まさか……いや、決めつけるのは良くない。考えるのは後にしよう。


『うん。感熱紙でしょう、あれは。多分ゴミ箱で圧縮された時に発生する摩擦熱で黒くなったんだろう』

「なるほど、模様と他の色のやつがあるのはそういうことか。だとしたら、時間さえかけりゃ燃やせば紙だからどうにかなるんだろうな」


 さっき考えていた通り、ぶっちゃけゴミ箱内にある全てを燃やし切ればいいだけの話なのだろう。だけどそれって……一体どれくらいの量があるのかと思うと、現実的ではない気がする。


「どうしたもんかな」


 凄まじく速い槍の攻撃の後、エネルギー切れだったのか暫く動きを見せなかったレシート達は、今度は小型の槍を多量に作り出しては飛ばしてくる。

 さっきの大きいものよりもあまり勢いはないみたいだから、避けるのはやめて【火炎(かえん)(つるぎ)】で炙り斬りながら頭を回転させる。


『土屋、ちょっと避けて』


 耳の通信機と、自分から少し離れた上の方から聞こえる秀の声に、反射的に十メートルほど横へと跳び退いた。

お読みいただいてありがとうございます。


秀の無事と死人の確立。

お相手はレシートでした。

前回時点で気付かれた方がもしかしたらいらっしゃったかもしれません。

膨大な数のレシートの死人。ここからどうやって戦うかを隆一郎は考えます。


《次回 個人の意識③》

決着。二人の性格の違いによる掛け合いを楽しんでいただけたら幸いです!

そして、伏線回収です。

よろしくお願いいたします。

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