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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一二九話 個人の意識①

前回、久しぶりの斎君が顔を出したものの、遠征先の様子を見てまたも早退を。

 挿絵(By みてみん)


 その日の夜、当番に当たっていた俺と秀はいつも通り零時前にゴミ箱の前に集まって、暫く死人との戦闘を繰り広げていた。


「斎さ、今日早退したでしょ? あの後かららしいんだけど、ずっと部屋にこもりっきりで研究してるんだよ」


 死人と戦いながら話すのはもうお手の物らしい秀は、逃げていく雑魚な死人たちを瞬時に討伐していく。

 一撃できっちりと倒していくのは見事だ。


「部屋って、斎の?」


 俺も討伐に当たりながら、怒りではなく哀しみに覆われた死人を【(おく)()】で戻していく。

 不審に思われない程度に捕獲の必要がある死人もさがしてるけど、以前に比べて増えたとは言え、そんなにすぐすぐ見つかる訳では無いらしい。


「うん。斎の研究室だけ皆と分かれてるんだよ。斎専用の部屋と、皆で一緒にする時用のデスクがあるんだけど、その専用部屋から出てこないんだ」


 秀が作り出す幾多の【氷剣(アイスソード)】が地面から現れて、死人達を足元から一気に串刺しにしていく。


「それ、飯食ってんのか?」


 俺も【火柱(ひばしら)】を広範囲に向けて起こし、危なげなくガラス玉へと変えていく。

 未来や長谷川も前に言ってたけど、今日もやたらと数が多い。時計はもうすぐ三時を指そうとしているが、既に討伐した死人は百を越えようとしていた。

 それでもお互い余裕があるという点では、大して強い相手が多い訳でもないってことだけど。


「いや、ご飯は食べてなさそうだった。心配になって作って声掛けに行ったんだけど、バーあるから大丈夫って断られちゃった」


 コイツ料理できんのか。ハイスペック男子かよ。


「バーって、あれか? 一本あたり一食分の栄養摂れるやつ」

「そうそう、『たべるんバー』」


 なんとも可愛らしい名前をしているがなかなか優秀な食べ物で、カロリーと栄養素、ついでに水分までしっかり摂れる優れもの。売り場には長期の出張にいかがですかなんてサラリーマン向けにポップ広告が貼られているぐらいの物だ。


「確かに完全食だから栄養的には問題無いんだろうけど……」

「でしょう? 心配だよ」


『ピギャアァアア』


 背中側から襲ってきた蜂の死人。

 撃ち放たれた毒針っぽい紫の針の乱射をジグザグに地を蹴って躱し、前方へ跳んで一気に間合いを詰める。


『ギィッ』


 怒りに燃える蜂の死人に拳を振るい、頭を()いだ。

 顕になった青色の玉、死人の心臓をえぐり取って、左方向にいる恐れで動けなくなっている竹馬の死人へ叩き付ける。

 心臓と心臓がぶつかり合って、同時に沈黙。細かな粒子となってガラス玉へと集約する。


「土屋、キューブに頼らないで討伐すること増えたね」


 背中側からの声の主に目を向けると、手を貸してくれと顔が訴えていた。

 彼の前方には図体のでかい真っ白な四角い死人――恐らく発泡スチロール――がいた。

 氷とは相性が悪いだろうな。


「自分の感覚で生死の判断ができるから割といいぞ」


 死人の周りが炎の壁になるよう【回禄(かいろく)】を張る。


「僕は無理。自分の手で命を奪ってる感触を味わうなんて」


 炎の内側に秀が透明の平たい氷、【純氷(じゅんぴょう)】を作り出す。炎によってできた光を浴びて、虫眼鏡で光を一点に集めて発火させる要領で死人から直接火を起こす。

 秀との連携攻撃、【氷像(ひょうぞう)】の『ファイア』。

 火に溶かされ、悲鳴をあげて体に穴を開けていく死人は、身を捩りながら徐々に赤い涙をポロポロと流し始めた。


「【(おく)()】」


 炎の攻撃を続ける中、火のアーチを死人の頭から地面へと下ろしてみる。

 だけど今回は元に戻すことは叶わず、送り火は地面に着いた時点でふわりと消え去り、同時に死した死人は辛い顔のまま粒子へと変わり、集まっていく。

 ――わかってあげられなかった。何が哀しくて、何に怒っているのか、理解をしてやれなかった。

 もどかしい思いを抱きながら、小さなガラス玉を拾い上げた。


「さっきの話だけど、俺も命を奪ってる感触はあるよ。けど慣れちまったかな」


 話の途中になってしまった秀からの返答に、顔は向けないでその場で答える。


「それ、死人に向けて言った言葉じゃなかったら警察沙汰のセリフだからね?」


 わかってる? とでも言いたそうな秀は、一旦周りにいる死人の全てを殲滅できた今の間にガラス玉を回収しに回る。


「玉の方からこっちに寄ってきてくれたりしねぇかなー。この回収作業がいつもいつもめんどくせぇ」


 俺も文句を垂れながら同じように一つ一つ拾い集めた。


「考えてみなよ。土屋がそうしようと思って能力使ったら、全部燃えて灰になっちゃうでしょう」

「そこは加減してだな……って、秀、お前ならできんじゃね? 【氷河(リンク)】とか」


 地面一帯に氷を張って、俺たちがいるところが低くなるようにして周りを高くしたら転がってくるのではないかと、身振り手振りで説明する。


「なるほど、ナイスじゃん。土屋のくせに」


 くそムカつく。ニヤニヤすんな。

 何でコイツはいつも微妙にからかうような言い方をしてくるんだ。

 どっちかと言うとお前の方がいじられキャラだっつーのに。


「時間短縮できたね」

「だなー。効率重視するのは大事だな」


 俺の予想通り、結構遠い位置にあるガラス玉達も上手くこちら側へと転がってきてくれて、ほとんど動かないで回収に成功した。やったぜ。


「あ、取りこぼし発見」


 更に少し離れたところにある人工の木の近くに、目を凝らさないと見えないが一つ残ったガラス玉を見つけた。


「ああ、範囲外だったかな」

「かもしれねぇ。取ってくるわ」


 可哀想にぽつんと残されたガラス玉に歩み寄って、手を伸ばした時、玉が薄らと黒く光った。いや、玉が光ったわけじゃない。玉のすぐ下にある()()が、黒く伸びたように変形した市松模様を浮かばせていた。それは瞬く間に地面一帯を覆う。

 ――これは……!?


「秀、盾!!」


 起こりうる最悪の可能性を瞬時に把握して秀に自身を守れと命令する。

 同時にゴミ箱の周りにある住宅街と自分の体へと【回禄(かいろく)】を張った。

 次の瞬間、目の前を黒く平たい何かが竜巻のごとく渦巻いた。

 勢いはすさまじく、鋭い切れ味で俺の炎をさっくりと切りつけて小さな亀裂がいくつも入っていく。

 ざあっと紙がばら撒かれるような音が連続して耳を支配して、見ている景色が回っている錯覚を起こすほど、黒い何かは嵐のごとく高らかに舞う。


「秀っ、大丈夫か!?」


 くそ強い黒い何かからの攻撃に、街の安全を気にしながら秀の安否を確認した。

 だけど声は返ってこない。ただザラザラと紙が擦れ合う音が連なるばかり。


「……集中」


 きっと大丈夫だと信じて、俺は動き回る見えない速さの黒いものの隙間に意識を寄せていく。

 黒い、黒い、黒い。見続けると次第に慣れてきた自分の目は、一つ一つの形を認識させ動きを把握していく。

 そして見破った黒いものたちの隙間から見えた先には――何もいない。

 だけど死人の気配は全身にひしひしと感じていて、唐突に理解する。

 この黒いものは死人の能力なのではなく、この黒い物自体が死人であることに。

 一体いくつあるのか、気が遠くなるようなほどの膨大な数の黒いものたち全てが死人であることを、俺はその瞬間認識した。

お読みいただいてありがとうございます。


突如現れた黒いなにかの死人。

とてつもない量、色は黒、紙がざらざらと擦れ合う音。鋭い切れ味……彼らは一体何者でしょうか?

それは案外身近な物でした。

次回答え合わせです。


《次回 個人の意識②》

死人の正体と、秀の安否。

是非またご覧下さいませ。

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