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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一二三話 クールなマッシュルーム

前回、携帯を没収された隆一郎でした。

 挿絵(By みてみん)


 昼休み、弁当を食べてから吉住のところへ行こうと思って、二組へいつものように秀を飯に誘いに行った。秀の用意が済んで教室を出てきた丁度その時、一組のドアから未来が顔を覗かせる。


「隆。世良ちゃんこっちに来るって」


 小走りで近寄ってくる未来が見せた、彼女の携帯に送られてきたメールは異常に長い。

 つらつらと綴られた文を要約すると、一緒に昼ご飯を食べながら話が聞きたいということだった。そのほかの文面は未来への好意というか、なんだ。メールくれて嬉しいだの会えるの嬉しいだの、あんまり関係のないことの羅列だった。

 球技大会以降会ってなかったのもあって、久しぶりに話ができることが嬉しいのだろう。


「じゃあついでに加藤への紹介も兼ねて、みんなで飯食いに行くか。いいだろ? 秀」

「えぇ……皆でご飯って性に合わないよ……」


 こいつはまた。


「秀、こういうときは頑張って合わせろ。大勢苦手でも勉強会とかはできただろ」

「あれはいつものメンバーだったからであって、しかも加藤君が入ってきたのは急だったでしょう。元から人が多いのわかっててそこに行くなんて僕は絶対嫌だからね」

「じゃあ凛ちゃん達にも声かけに行ってくるね」

「……聞いてた? 相沢」


 聞いてない。だって俺も聞く気なんてねぇから。

 秀の泣き言は完全に無視してみんなを呼びに行く未来は、多分俺と同じで、秀にはもっと周りと交流を持ってもらいたい側なのだろう。未だに体育以外の時は、伸びかけのふわふわ髪と眼鏡のせいで、喋らないのも相まって男子からは陰気扱いだから。

 特に、いいやつなのがわかってるだけにな。


 結局みんなで食べることに長谷川たちも同意したせいで、秀の意見は泡と消え、天気もいいからと暑いながらも屋上で飯を食うことになった。

 後から合流した吉住は初めての面々ではないにしろ、少し緊張した様子で俺たちの輪の中に腰を下ろした。


「未来先輩、皆さん、お久しぶりです」


 あんまり硬くならないで済むように、未来は飯を食べながらケトを紹介した。というか、ケトに飯をあげていた。

 食うのかよそいつ。おキクは飯食わねぇのに。


 吉住は最初こそ目を潤ませ何度もごめんねと謝っていたものの、ケトがもういいとでも言うように大きな単眼を愛らしく笑わせるもんだから、罪悪感も次第に薄れていったようだった。

 どちらかというとケトは未来からもらえる飯が嬉しくてそっちに集中したいようにも見えるが。

 加藤に至っても、初めは驚きはしたが、すぐにいつものハイテンションで笑って話しかけていた。

 マジで思う。こいつは順応性が高すぎると。


 本人曰く「相沢さんが大事にしてる子を怖がる必要ないじゃろ」ということらしい。

 お前の未来への感情は、いったいどこまでの範囲の事柄を許容する力があるんだ。


「……で、結構普通の会話をしてたはずなのに」


「触らないでください! 私の未来先輩です!」

「横から出てきといて何を抜かしとんじゃマッシュルーム頭!!」


 なんでこうなった。


「ま……!? こ、この短髪オヤジ!!」

「ああ!? 親父言われるほど老けてねぇじゃろが!!」


 さっきから未来を挟むようにして、左右から吉住と加藤が言い合いを繰り広げていた。

 間にいる当本人はどうしたらいいやらと眉尻を下げた困った顔をしている。


「ケトっちが寝ちゃったら愛情の矛先が未来ちーに向いちゃったねぇ」


 あははと笑いながら、弁当を食べ終わった長谷川が立ち上がり、「そろそろ勘弁してやってー」と二人を引き剥がしに行ってくれた。

 ナイスだ。俺は今弁当を食うのに忙しいからな。


「ケト、疲れちゃったのかな?」


 デザートなのか、隣に座っている秀が購買で売ってるストロベリー味のシェイクを飲みながら俺に聞いてきた。


「かもな。今日はこのまま寝かせてやろうと思う」


 あぐらをかいた俺の足の上で、気持ちよさそうに寝ているケト。その頭を撫でてやりながら返事をして、美味そうだなーと秀の持っているシェイクを見る。

 今回は秀が買ってきたわけではなく、どうやら阿部からの差し入れのようだ。

 言いはしないけど、秀の隣でにこにこと嬉しそうにしてるから、多分そうなんだろう。

 だから悪い秀。今ばかりはお前の優しさはいらん。

 いる? と言いたそうな顔でシェイクをこっちに向けないでくれ。

 それをもらったら恐らく俺は阿部から恨まれるんだよ。

 こう、「秋月君のために買ってきたのに」みたいな顔で見られそうだからやめてくれ。


「いや、大丈夫」


 そんな悪夢から逃れようと、弁当の最後に残した卵焼きを頬張った。


「んめ」


 甘めのふわふわな卵焼きは完全に俺好みの味付けで、食べたら幸せな気分になる。

 あまりにもわかりやすい顔をしていたのか、秀が「さっきのケトみたい」と笑った。うるせぇよ。

 ――あ。


「ああ、そうだ。ケトで思い出した。秀さ、最近入ったマダーで、『譲』の文字を持つやつのこと知らないか?」

「『譲』?」

「ああ。この間会った男の子なんだけど、ちょっと様子がおかしかったから気になって」


 次の日にでも聞こうと思ってたのに、斎が来てないことの方が気になって忘れてしまっていた。

 秀は俺の話を聞くなり、斎から借りているのか、あいつがいつも持ってるサイコロを出してマダーのリストを見てくれた。


「んー、文字自体は登録されてるけど、使用者については空欄だね。本部に申請行ってないんじゃないかな?」

「んん、それってシフトには入ってないってことだよね?」

「うん。阿部もキューブに好まれたら本部に行って手続きしたでしょ? だからこの使用者さんは訓練生の枠の中にも入れてないはずだよ。土屋、その子は死人と実際に戦ってたの?」

「多分。ちょうどやられそうになってるところで対面したから、詳しいことはわからないんだ」


 わからないが……ゴミ箱からだいぶ遠い所で、キューブも展開してのあの状態。

 あの子が当番に入ってなかったにしても、戦ってたのは間違い無いだろう。


「あぁああああああああ!! 長谷川!! 何するんじゃあぁあああ!!」

「長谷川先輩ひどいですぅうううう!!」

「うっさい二人とも! 未来ちーの迷惑も考えな!! ご飯食べられないでしょうが!!」


 おい、まだ食べれてなかったのか。

 罵声を浴びせられて流石に大人しくなった加藤と吉住は、しゅんとして正座に座り直した。

 加藤はいつも通りだけど、吉住のクールキャラは未来の前だとどこかにすっ飛んじまうみたいだな。

 やっとこさ落ち着いてご飯が食べられるようになったらしい未来を見て、良かった良かったと頷く阿部の隣で、話を戻すねと前置きをした秀はリストからこちらに目を移した。


「やっぱり斎に聞くのが確実だね。斎ならデータ以外で把握してることもあるかもしれない」

「そっか。わかった、ありがとな」


 また学校来た時にでも聞くしかねぇな。

 そこで話が終わって、秀がそのデータを閉じようとした時、阿部が何かに気づいたように首を傾げた。


「ねぇ秋月君。ここ見て?」

お読みいただいてありがとうございます。


お久しぶり世良ちゃあああん!

キャラ紹介の中に顔入ってるのに全然登場させてやれなくてごめんよおおお!

はい、世良は基本的にはクールビューティです。でも照れ屋さんで素直な子なので、未来には一切隠すことなく好意を寄せています。


さてさて、少し前に助けた男の子、『譲』の文字を持つ人物について少し触れました。未だに名前も年齢も分からない彼、一体何者でしょうか。


《次回 なんでマッシュルームが》

実は今回と次回、題名がお気に入りです。

よろしくお願いいたします。

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