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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一二二話 届かぬ返事

前回、唾君たちをお祓いしてもらったために時間が遅くなって、授業が始まってしまいました。

 挿絵(By みてみん)


 俺も遅れながら階段を上って教室の前まで行くと、閉まったドアの奥――静かな教室の中で、先生が授業をする声がした。


 ……この、遅れて教室に入るの、嫌なんだよなあ。

 瀬戸にも悪いことしてしまった。あいつ怒られたりしてないだろうか。


「……しゃあねぇ」


 教室のドアをやむなくガラッと開けると、わかっていたことだがクラスの奴らの目が一斉にこちらを向いて、一部あっと言うような顔をした。社会の授業中だったために教壇にいる世紀末先生は、こちらを睨んでため息をついた。


「土屋。昨日は話し込んで授業に遅れ、今日も遅れ、お前は俺の授業に出るつもりがないらしいな?」


 やべぇ、怒ってる。


「悪い世紀末先生。けどほら、俺もやることが色々」

「冗談だ。それは感謝してる」


 俺の言葉を遮って、先生はふっと笑った。というか、一気にしょぼくれた俺が面白かったのか、くくくと笑い始めた。

 演技だったのかよ。うますぎだろ。


「ほら、さっさと座れ。俺じゃなきゃ内申に響くかもしれないから、今後は少し気をつけておけよ」


 マジで優しい先生だな。

 俺がマダーだってことがわかってるせいかもしれないが、どうやらお咎めはないらしい。


「うす」と軽く返事をしてから席に移動すると、周りから土屋だけずるいなんて声が上がる。

 文句を言いたいのもわかるけど、ある程度は見逃してくれ。こちとら一応命かけてんだよ。

 ブーブー言う奴らにうっせぇと笑って返しながら席についた時、誰もいない自分の前の席を見た。

 谷川斎。

 学年が変わってしばらくは名前順の席のままらしく、未だ斎と席が前後な俺は、空席の机を見ながら授業の準備をした。


 ……まあ、明日には来るだろう。研究しつつも学校にはちゃんと来る真面目なやつだからな。


 ノートだけは取っといてやろうと一枚余分に紙を用意して、斎の分の板書もしながらぼんやりと、頑張っている姿を想像した。


 無理してないといいけど。


 少し心配になって、二人分の板書をした授業の終了後、メールを送ることにした。


『適度に休憩しろよ』


 まあ、これでいいか。見たら『うん』だけで返せるしな、これくらいなら。


「なあああああ土屋!! これ見ろ! 正義の味方、ヒーロースギモートっ、見ッ参!!」

「……お前はいつも楽しそうでいいなあ」


 ニカッと笑って変なことを叫び出したクラスメートの杉本は、何を思ったのか今の授業で使っていた三メートルぐらいのデカい世界地図を広げて、マントのように背中にたらしていた。

 もちろんそんなデカイ世界地図は学生の俺達がもらっている物な訳がない。世紀末先生がみんなに見えるようにと自前で持ってきたものだ。


「杉本!! 返しなさいっ」

「やーだっぺ!」


 可哀想に先生。杉本のせいでくしゃくしゃになってしまった地図を見て嘆いていた。

 一旦はその光景に気持ちがほぐれたものの、その後いくつかの授業を受けて時間が経つたび、認識する。

 いつも明るい斎がいない。

 ……寂しい教室。


 今朝秀と話していた通り、結局斎は一日顔を出さなかった。

 メールも、返ってこなかった。


 ――集中してんのかも。まあ明日はさすがに学校来るだろ。


 だけど、俺の予想ははずれ、斎は次の日も、その次の日も、学校に来ないどころかメールすら返してこなかった。



「谷川ー……は今日も休みか」

 三日目の朝のホームルーム。斎が来ていないことを知らせる先生の声を聞きながら、二回目のメールを送ろうとした時、一通メールが入っていることに気が付いた。

 携帯触ってるのがバレたら没収だから、隠しながら慌ててそれを開く。だけど残念ながら送り主は斎ではなく、メールを打つのが不慣れなのだろうことがよくわかる、短文のひらがな多めの文字。


『後でせらちゃんのところに行く。』


 理由が書かれていない未来からのメールに、『どうした』と簡単に送り返す。

 返信に時間がかかるだろうなと思って画面を閉じたが、割とすぐ返ってきて小さなバイブ音が鳴る。

 珍しいなと開いた瞬間目に入ったのは、たった二文字。


『ケト』


 こいつ、携帯普段から触らなくてメール打たないからって、時間かかってもいいからもう少し相手にわかるように打てよ。

 先生にバレないようにしながら必死で二文字送ってきたんだろうが、俺相手だからって少し手抜きすぎやしないか。


 だけどなんとなく察してしまう理由に、『俺も行くから待ってろ。昼休みでいいか』と詳細を聞く。

 恐らくだが、バスケ部の後輩吉住世良に、ケトを見せに行くと言っているのだろう。死人になってしまう前の、バスケットボールだったケトのことを知っている彼女に。

 球技大会のあの日……ケトのことを思って泣いてくれた、彼女のために。


 ぼーっとしながら未来の返事を待っていると、ひょいと、手に持っていた携帯が宙に浮いた。


「あ」


 やってしまった。


「土屋、これは?」


 いつの間にかホームルームが終わって授業が始まっていたらしく、顔を上げると、こちらを見下ろす木岡先生の顔があった。その横には俺の黒い携帯が握られていて、やっとこさ返ってきた未来からの『うん』と言う文字がそこに書かれていた。


「減点。あと没収。校則だ、異論はないな?」

「……はい。さーせん」


 画面を見られはしなかったから、多分未来も携帯を触っていたことはバレてはいないだろう。

 やってしまったと頭を抱えた俺は、結局斎からの『うん』が確認できないまま、その通信手段を手放すことになってしまった。

お読みいただいてありがとうございます。


球技大会の時に隆一郎のチームメイトだった、明るくおバカな杉本君でした。お久しぶり。

お気に入りにしすぎて下の名前を考えてあげようかと悩み中です。例えば、弦楽とか、幻奏とか……冗談です。


斎君の姿が暫く見えません。研究室にこもって一人頑張っています。休むことも大事やで、飴ちゃんいるか?


《次回 クールなマッシュルーム》

世良ちゃん出てきます。わいわいとお昼ご飯です。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 携帯没収……どうなるのか心配になりました……
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