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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一二〇話 骨折

前回、未来がしていた一人連想ゲームを秀もやり始めました。

 挿絵(By みてみん)


 出されたお題に「それなら大丈夫だ」と自信を持って答えた秀は、割と序盤で躓いていた。


「能力……魔法、魔女、女、男、人……人間?」


 人と人間ってそこまで大差ないように思うぞ。


 初めてやるというのもあって、未来は一定のリズムでというのは比較的大目に見るようにしているようだ。だけど、さっきから聞いていれば、それありか? みたいに思うのが若干あったりする。


「地球、宇宙、宇宙船、船、海……斎」


 海、斎? ああ、斎の能力が『水』だからか。ちょっとイメージ飛んだ感じがするな。


「科学者、研究者……け、研究員、研究してる人?」

「うーんその二つは同じものかな」


 ここで未来の終了宣言。


「びっくりした。案外難しいね」

「だろ? これ使って、自分のキューブの能力の文字に縛って普段練習してんだ。例えば俺なら、炎、火、火の鳥、みたいに、『赤』とかじゃなくて、『実践で使えそうなもの』だけでゲームしてんの」


 マジでこれが面白くて、昨日やった送り火とかもここから連想してたやつだから、確実に力になってるのがわかる。だから授業中でもやってて、ついつい話を聞き逃したり……は良くないんだけど。


「ところで相沢。この一人連想ゲーム、さっきその隠してるものに向けて言ってなかった? 何持ってんの?」


 ああ、秀がケトの存在に気付いちまった。

 いや、未来も秀に隠してる気はないみたいだけど。

 胸に抱えられたケトは、秀の声に反応してもぞもぞと少し動いていた。


「うん、紹介するね」


 未来がケトを紹介するのに掛けているタオルケットを取ろうとした時、背後から嫌な予感がした。

 知ってる、知ってるぞこの悪寒。

 俺に向けられた鋭い殺意。

 迫り来る恐怖。


 ――これは、やばい。


 反射的に振り向いたその瞬間。


「新しく友達になった」

「おはよー未来ちーっっ」

「ぐほ!?」


 ダイレクト。本日二回目。

 後ろから全力で吹っ飛んできた長谷川の膝蹴りを、モロに横腹に食らう。衝撃で顔から地面に倒れ込んだ俺に、未来が驚いて「ひっ」と珍しい声を出した。

 もちろん、未来が秀に話そうとしていた言葉は俺のせいで途切れてしまう。


「い、た……っ、あぁっ」


 あまりの痛さに腕で腹を押さえた。

 左の肋、折れた気がする。気のせいか?


「土屋君、大丈夫!?」

「ご、ごめんつっちー! まさか振り向くとは思ってなかった。背中なら大丈夫だと思ってかなり本気で蹴り入れちゃったわ」


 だろうな!

 後ろから追いついてきたらしい阿部が、あわあわとしながら俺を起こそうと手を伸ばしてくれるが、生憎その手が取れない。


「土屋、大丈夫? 変な体勢になってるよ」


 だろうな!!

 痛すぎて手すら上げられない縮こまった残念な体勢だからな!!


「大丈夫、じゃないからこのバカを引っ捕えてくれ。丸焼きにしてやる……!」

「やだ! つっちーの丸焼きって言葉は冗談に聞こえないからマジ勘弁!!」

「勘弁はこっちのセリ……! っ、いっ……!」


 え? マジで折れてない?

 叫ぼうとした瞬間に走るこの痛み、覚えがあるぞ。


「ちょ、つっちー見せてみな」

「うわっ、勝手に服(めく)んじゃねぇ……って聞けよ!!」


 長谷川は薬局の娘として普通に心配してくれているのだろう、俺の制服のブラウスを躊躇(ちゅうちょ)せず捲り上げてきた。だけどその瞬間、急に長谷川の動きがピタッと止まった。

 なんだ、さっきまでの勢いはどうした。

 その不審さに長谷川の顔に目を向けると、更にどうしたと言いたくなるような顔をしていた。まあつまり、赤面していた。こっちが恥ずかしいわ。


「人の体勝手に見といて赤くなんな! さっさと服離せ!!」

「あ、ごめんて!! ちゃんと診るからじっとして!」

「見んな!!」

『フフ』


 やりとりが面白かったのか、誰かが笑っ……いや、今の子供みたいなカタコトの声って。


「……ケト?」


 まだ誰にも言っていないにも関わらず、俺は反射的に未来が抱えているケトに声をかけてしまった。未来もそんなこと忘れてしまっているのか、俺を見て大きく頷いた。


「笑ったね」


 ケトに掛けていたタオルケットを取った未来は、自分の片腕に掛け直してオレンジ色の頭をゆっくりと撫でる。

 愛しい我が子を見るような顔で。


「未来ちー、その子は?」

「うん、紹介するね。バスケットボールから生まれたケトです」


 未来が三人の方にケトを見せて、名前を言った。

 人見知りとかするかと思ったんだけど、案外ケトは変わりなく、自己紹介のつもりなのか、頻りに『ケト、ケト』と繰り返す。

 未来がこうなった経緯について軽く説明をした。死人として出会って、仲良くなって、家で一緒に暮らすことになったと。あまり突っ込んで言うとプロジェクトの話を言わなくてはならなくなるからか、めちゃくちゃさらーっとだけ。


 呆気に取られた顔のみんなだったけど、結局それはほんの一瞬だけだった。

 みんなが口を揃えて言ったこと。『未来だから』のニュアンスだけで収められてしまう。


「未来ちゃん。おキクちゃんとは会わせたの?」

「うん。昨日ね。もう仲良くなったみたいだから、学校にいる間はおキクと同じように、キューブの中の空間にいてもらおうかなと思ってるよ」

「ていうか、よく許可下りたね? 二体目の死人なんて。土屋の両親一般人でしょう?」

「あー、まあ未来も俺もいるし、何よりケトが未来に懐いてるからな。最初からおキクと同じような感覚で、普通に接してくれたよ」


 本当、そういう意味ではあの楽観的な性格の親で良かったなと思うよ。

 なんとか痛みを我慢して立ち上がる。

 暫くケトの話をしながら歩くと、学校が少し先に見えてきた。


「じゃあもうそろそろ学校着くから、ごめんねケト。また後でね」


 未来のまた後での言葉に、ケトは少し寂しそうな目をしたが、反抗したりせずに大人しくキューブの中の空間、おキクの元へと小さくなって入っていく。

 完全に中に入ったのを見届けた未来は、さすがにずっと抱えていると少し重かったのか、腕をだらんと下ろした。


「ありがとうみんな。受け入れてくれて」


 未来がほっとしたように礼を言うのを見て、秀はにこっと、長谷川はにんまりと、阿部はきょとんとそれぞれの表情でこくこくと頷いた。

 まあさっきみんなが言ってた通り、おキクの事例もあるから特に変に思うこともなかったのだろう。良かった。


「あ、つっちー。ケトっちに気を取られて忘れちゃってたけど、も一回ちゃんと診せて? 折れてない?」


 ああ、ケトにまであだ名がつけられた。

 それはさておき、さっきと違って本気らしい長谷川に、若干恥ずかしさはあるものの症状を診てもらう。

 学校も近くなってきて生徒の目もあるから、未来達には先に行ってもらって、通学路から一本逸れたところの道に入った。

 長谷川は俺の腹に手を当て、ぐっと押す動作を何度か繰り返した。するとその顔がみるみる青ざめていくもんだから、言われる前に悟ってしまった。マジで折れてるらしい。


「ご、ごめん。マジでアタシやっちゃったわ」

「あー、いってぇなー。誰かさんの膝蹴りのせいだなー」


 ズキズキする横っ腹を押さえながら、俺はここぞとばかりに提案をする。


「時に長谷川さんよ。俺は昨日完治薬をある人に使ってしまって今持っていないのだよ。今回のお詫びとしてお一つ譲ってくれるというのはいかがかな?」

「何その喋り方、気持ちわる」


 グッサァアア!!

 冗談が通じないヤツ……っ!


「ま、まあ冗談はさておき、昨日使ったのは事実だからまた近いうちに買いに行くわ」


 悲しきかな。


「お、毎度ありー。お得意さんには克復軟膏と克復茶の進呈ですー」


「チャリンチャリン」と、精算しましたというような擬音語で返してくる長谷川は、カバンの中から二つの大小の小瓶を俺に渡してきた。

 マジで軟膏と茶だ。くれるのか。


「いいのか、これ? 貰えるならありがたく貰うけど」


 どの商品も優秀な効能だけに、結構金額が高かったりするから嬉しい話だ。一応マダーには国からの補助があって、比較的低価格で買えるようにはなってるけど。


「あげる。折っちゃったお詫び。あと……鍛錬、頑張りすぎて怪我が目立ってたから」


 げ。


「……見た?」

「見た、ヤバい色してた。でかい(あざ)作りすぎよ。あんまり未来ちーに心配かけたくないからって、無理すんのは()めな」


 くそ、油断した。

 口が堅い長谷川だし、未来に言うことは無いだろうけど。


「……ロボ凪さん、強いんだよ。一回殴られたら暫く痣が消えないんだ」

「バカね。殴られないようにしな。今回肋が折れたのだって、多分アタシの膝蹴りが主な理由じゃないでしょ? 顔の怪我だって昨日は無かったし、どうせ鍛錬の時にでもやっちゃったんでしょ」


 恐れ入った。人のことよく見てやがる。

 必死だったから気にしないようにしてたけど、朝のロボ凪さんに殴られて壁に打ち付けられたあの時、すぐに立ち上がれなかったことに嫌な予感はしてた。結局その時は大事には至らなかったけど、そこに長谷川の鋭い膝蹴りが入ったことによって完全に折れてしまったんだと思う。多分だけど。


「わかってて薬くれんのか?」

「アタシだってそこまで悪魔じゃないですー」


 いーっとする長谷川。

 優しさが沁みる。


「ありがとな。恩に着るよ」


 ……あれ?

 そういえばさっきの未来、秀に『せいぜい骨が折れるぐらいでどうにか()()()()はずだよ』って言わなかったか?

 ()()はずだよ、じゃなくて?


 なんとなくそんな気がして、もう一度さっきの会話を頭の中で再生した。うん、間違いない。なってるって言ってた。

 もしかして……痛いの我慢してたの、バレてた?


「……表情筋も鍛えるか」


 痛む左の腹に、更に痛みを感じる強烈な軟膏を塗りながら、他に鍛えるべきところが増えてしまったことに悲しくなる。

お読みいただいてありがとうございます。


ケトの紹介が終わりました。残すは斎と加藤ですが、斎にはいつ言えるやら。暫く出てきてくれていなくて作者が寂しく思う次第です……。


さてさて、凛子さんお強い。隆一郎の肋はポッキリです。

弱すぎやで隆。

とは言いつつも、ロボ凪に殴られた時点で80%ぐらいは折れかけてたイメージなので、無理も無いかもしれません。


《次回 お祓い》

久しぶりのあの子が登場です。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無理は禁物ですね。骨折と痣でその事を知りました。
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