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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一〇九話 デスゲーム③

おばちゃんがカツカレーを作ってくれました。

 挿絵(By みてみん)


「やっぱりそうじゃん。この子で間違いねぇって」

「まじ? 本物?」


 ゲラゲラと笑う男の声にざわつく、食堂と休憩スペースがくっついた場所。

 会計を終えた俺の足はどんどん速くなってそこへと向かう。


「ちょっと、誰か助けてあげなよ」

「無理無理、怖いじゃん」


 周りにいる人たちが心配そうな顔で見ては小声でこそこそと言うのは、さっき俺にぶつかってきた大学生らしき男たち3人組に対してだった。

 楽な方がいいと思って壁際になるソファーの席に座らせたのが仇となって、その大学生に詰め寄るように囲まれてしまっている未来がそこにいた。


「あの子が可哀想だよ」

「でも柄悪そうだしちょっとオレたちじゃさ」

「どうにか助けてやるにしても……って、おい中坊! よせ危ねぇぞ!」


 近寄る俺を止めようと手を伸ばしてくる、見ているだけの大人たち。

 ふざけんな。

「大丈夫です」と避けながら進み、もうすぐ目の前。


「なぁ可愛い嬢ちゃん。こっち向いてくれよ」

「目よく見せ……うっは、マジで青いじゃん!」

「スッゲェ噂は本当だったん」


 ガチャンッ!


 胸糞が悪くなる大学生たちの会話を、俺が持っていたトレーを力任せに置く音で遮る。

 雑炊とカツカレーが乗ったトレーだ。


「何してるんですか」


 気が付けば、トレーを置いた手は既に1人の大学生の肩を後ろから掴んでいた。


「あ?」


 不機嫌そうにこちらを見る大学生たち。派手に染められた奇抜な髪型と、耳たぶに開けられた大きなピアスホールは、耳の後ろにある髪が見えるほどでかい。

 こんな見た目だと、周りの人が怯えてしまっても仕方がないのかもしれないな。


見世物(みせもの)じゃないんですけど」


 会話の内容的に、恐らく未来の目に興味を持っているのだろう。怖がっているわけではないが、いいように見られていないのは確かだ。

 未来自身はといえば体調のせいでいつもほどではないが、堂々として静かに彼らを見ていた。

 だけど俺が来たことに気付いた途端、その毅然とした態度は消え、安心したように顔が緩んでいく。


 少し我慢してたみたいだな。

 何にせよ早くこいつらにはどこかに行ってもらわないと。


「オマエさっきのボウズじゃねぇか。なんだ、嬢ちゃんの彼氏か?」

「いえ、違います」


 俺が否定したことに対して何か思うところがあったのか、彼らは「悲しいなぁ、悲しいなぁ」と笑いをこらえるようにしてこちらを見る。

 いちいち癇に障る奴らだ。


「ククッだったら気にしなくていいじゃねぇか、嬢ちゃんちょっと貸してくれよ。おもしろい目して、気になっちまってよぉ」


 何がおもしろい目だ。失礼な言い方しやがって。


「今から飯食うんで、どいてもらえますか」


 まあこんな奴らにわざわざ構ってやる必要もない。

 必要最低限、未来にちょっかい出されなければそれでいいや。


「いいだろ、ちょっとだけだか」

「大丈夫か未来。おばちゃん雑炊作ってくれたぞ」


 一応断りだけはいれて、強引に大学生たちをぐいっと後ろに引っ張って場所を空けさせ、俺も未来の向かいの席に座る。


「わ、ほんとだ。美味しそう」


 未来も気にしないことにしたらしい。俺と同じように彼らを無視して、自分の前に置かれた美味しそうな玉子とじの雑炊に目をキラキラと輝かせた。


「おい」

「こっちも見てくれ。カツカレー作ってくれた。すんげぇ嬉しいんだけど」


 俺たちに話しかけてくる大学生の声は聞こえないふりをして、未来に何度も嬉しい嬉しいと溢れ出す幸福を伝える。


「おい」

「隆の好きな組み合わせだね。おばちゃんよくわかってる」

「おいって」

「だよなー。さすがずっとここで働いてるだけあるわ」


 スプーンを手に取って、早速熱々のカレーを頂こうとしたとき。


「シカトすんじゃねぇよ!」


 後方から拳が飛んでくる感覚がして、周囲から小さな悲鳴が上がる。

 ああ、めんどくせぇな。


「飯、食うって言ったと思うんですけど」


 俺の後頭部に狙いを定めた拳。それを見もせずに当たる直前手首を後ろ手でガシッと掴んで軽く捻りあげ、文句を垂れる。


「いででっ」

「冷めちゃうんで後にしてもらえませんか?」


 目の前にカツカレーがあるんだよ。


「ふざけんな離せよ! ガキが調子に乗りやがって!」


 どっちがガキだ。


 手を掴まれている人のその横にいるお仲間の大学生が、無理矢理跳ね除けようと俺が座る椅子を力一杯蹴ってきた。

 物に当たっても意味無いだろ。

 そう思ったのも束の間、少し勢いで後ろに下がった俺の椅子はミシミシと不思議な音を立てた直後、バキッと脚が一本折れてしまった。


 マジかよ。


「おい、店に迷惑かけてんじゃねぇよおっさん!」


 椅子がバランスを保てなくなったせいで俺の体も放り出されそうになり、顔がカツカレーに突っ込むギリギリで慌てて立ち上がる。

 俺や未来だけならまだしも、店のもん壊すのはダメだろ。


「隆、さすがにおっさんは失礼だよ」


 ぼけーっと俺を見ていた未来に、やんわりと指摘された。

 確かに、反射的に言っちまったけど考えてみればこの人らがおっさんだと、あと2、3年したら凪さんもおっさん枠に入っちゃうんだもんな。それはまずい気がする。


「お兄さんでオッケーか?」

「そうだね」


 冷静に答える未来は、周りが暴れているのも気にせずパクパクと雑炊を口に運んでいた。その様子が余計に気に障ったのか、大学生の1人がバンッ! と机を叩いた。


「いい加減にしろよガキども!! 舐めた真似しやがって両方まとめてぶっ飛ばしてや」

「うるっさいよ!!」


 バキィッと、厨房の方からまな板を叩き割ったかのような凄まじい音が聞こえた。

 さすがに俺も未来も、大学生たちまでビックリしてそちらを見た。そしたら……マジでまな板が真っ二つに割れていた。おばちゃんの腕力で。


「暴れてんじゃないよ! 喧嘩なら外でやんな!!」

「……ちっ」


 眉間に皺を寄せギロりとこちらを睨む目から、鬼のツノが見えたような錯覚に陥るほどのおばちゃんの激怒が見てとれたせいか、大学生たちは舌打ちをするなりそそくさと食堂から出て行った。

 あまりにもスピード解決だったために周りからはわっと歓声が上がる。


「つえぇ」

「あはは。ここのボスって感じだね」


 笑いながらキューブを展開させて小さなユーカリの木を作り出した未来は、花言葉の『再生』を利用して折られた椅子を修復してくれた。

 まあここのスペース内じゃ間違いなくボスはあのおばちゃんだよな。


「悪い、ありがとな」

「いいえー。それにしても何であんなに怒ってたんだろうね?」

「腹でも減ってたんじゃねぇの。けど、ずいぶん力の強い人だったな」

「だよね。格闘技でもやってたのかな」


 未来も俺と同じことを思ったようで、その話をしながら修復された椅子に座り直す。


「まさかマダーだったりして」

「んーそれなら未来に興味が湧くのは納得がいくけど、さっきあの人たちゴミ投げ捨ててたからさ。違うと思いたいなぁ」


 マダーが死人を生む原因を作るなんて考えたくもない。

 ともあれ、あの人たちは出ていったしこれでようやく食える。マジで腹減った。


「いただきまーす」


 やっとこさスプーンを持つことが許された俺は、米とカレーのルーをめいっぱい盛り、熱々のまま口に入れた。


「んめぇ……」


 適度な辛味ととろみ。何よりおばちゃんが限定というだけあって、そのカレーは本当に美味かった。

 一気に幸せが押し寄せてくる。


「幸せだあ」

「ふふ。ゆっくり食べなよ?」


 美味いものはついつい駆け込んでしまうのがわかっているからか、未来は少し困ったように笑う。

 しょうがないな、もうちょっとゆっくり食べることにしようか。


「ねぇ隆?」


 カツも美味そう。


「んー?」


 ホカホカ揚げたてのトンカツも、いただきま……


「ありがとね」


 不意に言われた未来からのありがとうに、俺は口の中に入ろうとしていたトンカツを食べることができなかった。

 あまりにも優しく和やかに、それでいて少し照れたような未来の笑顔に、見とれてしまっていた。


「……おう」


 やばい。なんか照れくさくてこれぐらいしか返せねぇや。

 だけどパッとその表情から一変、雑炊を口に運びながらおちょくるような顔をして未来は言う。


「でも半分ぐらいはカツカレー食べたかっただけでしょ?」


 ギクリ。


「ずーっと気にしてたもんねぇ?」

「だ、だってさ。こんな美味そうなもん置いて喧嘩するとかわけわかんないだろ! それに熱々のまま食べないと作ってくれたおばちゃんにも失礼だ!」


 言い訳しても仕方ないけど、そのまま理由をどんどん並べていく俺を見て可笑しく思ったのか、未来は最初は小さく笑っていたのに途中から抑えきれなくなったらしく、大笑いを始めた。


 良かった、だいぶ元気になってきたみたいだ。


「あははっ何事も食欲には勝てませんってね?」

「そうそう、お互いにな」


「お前も大概だぞ」といつもの食欲を指摘してやると、「嘘だぁ」と笑う未来には、自分も食欲旺盛である事に自覚は無いらしい。


「さてと。食い終わったらオートモードでさっきの未来との戦闘繰り返して復習するかな」

「便利だよねぇ、データ残してたら後から全く同じようにCPが動いてくれるんだから。ちょっと休憩したら、私も一緒にやるよ」


 おい、大丈夫かよ。


「無理しなくていいぞ? しんどいだろ」

「平気平気。ご飯食べたからね」


 任せろと言わんばかりに胸に握りこぶしを当てる未来を見て、なんだか本当に大丈夫な気がしてきた。


「無理せず途中でリタイアしてもいいんだからな?」

「え、それはやだよ。負けたことになるもん」

「体が優先だっつーの」


 そこだけは譲れないと断固拒否する俺に、未来は少し……結構不服そうだったけど、最後にはしょうがないというような顔で了承した。


「次は勝つからな。覚悟しろよ」


 皿に残った最後のひと口。カレーをぱくっと食べて、行儀悪く口の中に含んだまま勝利することを宣言した。

お読みいただいてありがとうございます。


隆、カツカレーが食べたかっただけやん。

とはいえ、キチンと未来を守ってくれたのは褒めてしんぜよう。

そしておばちゃんは強かったですね。

この恵子おばちゃん、しばらくしたらまた出てくるキャラになっておりますので、可愛がってやってください。


《次回 見知らぬ死者》

少し時間が進みまして、球技大会から1週間。学校へ向かいます。

よろしくお願いいたします。

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こんばんはですぅほくろあぁぁぁん(*^。^*)えへえへ たまらず浸りに来ちゃいましたぁぁ♡♡♡ ↑実は、密かに隆くんたちに会いに行っておりますw♪ 少しずつ大事に噛みしめたい。・゜・・゜・。 デスゲ…
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