表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
111/286

第一〇七話 デスゲーム①

タイトルは不穏ですが、平和です。

  挿絵(By みてみん)


 見渡す限りの森の中を一心不乱に駆け抜ける。全力で走る視界は、あまりに速すぎて木がぶれているようにも見えた。

 疾走しながら見据える目の前、木の無いただの道を【花火(はなび)】を使いながら全力で走り抜ける。あいつから距離を取るために。

 前にはいない。右は?

 誰もいない。

 正面、誰もいない。

 左も……いない。

 まだ追いつかれてはいないらしい。

 ホッとして前に視線を移したその瞬間、視界に飛び込んでくる鋭い眼光をした未来の顔。


「いっ!?」


 刹那突き出される木刀の先端に驚いて、ズサッと砂と落ち葉を巻き上げながら体を滑らせる様にして躱した。

 間一髪頭の上を木刀がすり抜けたとき、凄まじい勢いのせいで風の唸る音が辺り一体に広がった。

 崩れた体勢のまま体を無理やり捻り地面に両手をついて、勢いに身をまかせ上空へと跳び上がる。


「【炎神(えんじん)】!!」


 ドオッと鈍い押し出されるような音で俺の右手から放たれた炎の竜は、まだこちらに向き直ってすらいない未来へと渦を巻いて襲いかかる。

 炎神に気づいた様な反応は見せなかったにも関わらず、体を翻すだけで軽々避けられ一言。


「甘い」


 地面近くにいたはずだった未来が急に目の前に現れ、俺の頭めがけて大きく右足を蹴り上げた。


「【接木(つぎき)】か……!」


 手近な木から俺に近い木まですり抜けてきやがった!


 飛んできた足を自分の頭を後ろ側に引いて避けたとき、ピリッと未来の爪先が俺の鼻先を掠った。

 重心が移動したのを利用して空中でバク転しながら距離を取り、着地したあと大量の火を纏う槍を作り出す。


「【(ほのお)(やり)】!」


 畳みかけるように炎を纏った槍を投げるが、全て未来の持つ両手の木刀によって弾かれ、関係ないとばかりにそのまま真っ直ぐこちらへと突進してくる。


「【火炎(かえん)(つるぎ)】」


 ドゥンッ!!


 俺の体目掛けて横殴りに振られた木刀を、炎を纏った剣で受け止める。

 お互い鋭利ではない種類の剣での打ち合いは、キンともカンとも違う鈍いぶつかる音を醸し出し、衝撃で足元にある落ち葉たちが俺たちを中心にして遠く吹き飛んでいく。

 ギリギリと押し合いをする中、不敵に笑う未来は俺に挑発的なセリフで煽り出す。


「現実の体じゃないからって油断してると……えらい目にあうで?」


「く……っ!」


 この小さな体のどこからこんな力が生み出されるんだというほどのパワーで、俺の剣を押し返してくる未来。ジリジリと俺の体さえもその馬鹿力で動かしてきそうな中、チラッと未来の頭の斜め上に出ている『ゲージ』を見た。


 くそ、まだ3分の1も稼げてねぇ。


 ここは最近よく未来と来るようになった、マダー専用の訓練場。本来はキューブの大会が行われるときに使われる会場で、それ以外の時は自由に使っていいことになっている。

 球技大会の次の日ということで、学校が休みだから朝から入り浸っているのだ。


 今未来と俺がやってるのは現実の体とキューブをゲームの中に情報として放り込んで、現実世界以外のところで殺し合いができる『Death game(デスゲーム)』と呼ばれるもの。

 さっき受付のところにあった次の大会の予定を見て初めて知ったんだが、大会の正式名称も同じ『Death game(デスゲーム)』で、この訓練場の名前は『死の訓練場』……ヤベェところ感が半端ない。


「よそ見して余裕やね」


 どうでもいいことを考えていたのがバレたらしい。

 だけど未来が口にする関西弁に、こいつもめちゃくちゃ余裕があるわけではないのだろうと予想がつく。だって普段は俺の前でも関係なく、未だに方言を出さないよう考えながら話しているはずなのだから。


「人のこと言えないんじゃないか? 鍛錬に付き合ってくれんのはありがたいけど、負けてもしらねぇぞ」

「へぇ、私が負けると思うん?」

「当たり前だ。俺もだいぶ強くなったんだ、そろそろ勝ってもおかしくないだろ?」


 気持ちが高ぶるとつい強気な言葉になっちまうな。


 それをわかっているのかニヤリと笑う未来は、ギリギリと押し込んでいた木刀を唐突に自分の方へと引き戻し後ろに飛んで距離を取る。

 こちらから押し込んでいた剣は押し返すものがなくなって勢いよく空を切った瞬間、未来がドッと地面を蹴る音を鳴らして再度こちらに切りかかってきた。


 すんでのところで剣を構え直し受け止めたが


 ビキッ!


 嫌な音が鳴って、自分の右手首に鋭い痛みが走った。


「ぎっ……!」


 痛みと同時に感じる未来からの攻撃の重みに耐えられず、後ろにズザァッと両足が地についたまま後ろへと押し込まれた。

 直接当たったわけでもないのに衝撃だけで俺の手首の骨を折ってきた未来に反撃するべく、左手で炎の玉を作り出して投げつけ、連続でボンボンと爆破させていく。

 爆発自体は避けたらしいが、視界を奪われた未来は爆炎を消し去ろうと木刀を大きく一振りした。力任せに視界をクリアにさせた未来は反撃をしようとするも、その時点で俺の体はそこにはない。


「やられっぱなしだと思うなよ!」


 未来の視界に入らないよう爆破させた瞬間、煙に紛れながら彼女の背中側に飛んでいたのだ。痛む右手は使わず足に炎を巻きつけ、未来の後頭部を蹴りつけようとした瞬間のこと。


(えん)きゃ……」


 ぐるりと振り向いた未来の青い瞳が、一筋線を引いた様に見えた。

 ゾワっと鳥肌が立ち、まずいと瞬間的に悟って逃げようとした刹那。


「手遅れやで」


 一言冷静に口にした未来から生み出された幾多の緑色の蔓が、気付けば俺の左の太ももとふくらはぎに既に巻きついていた。

 かと思いきや、足をもぎとらんばかりの剛力で掴んで上下へ同時に引っ張ってきやがる。


「ぐああっ……!」


 コイツ……足を引きちぎるつもりか!!


 ふたつをつなぐ膝の辺りがみちみちと悲鳴をあげ、俺の頭の斜め上にあるゲージのメーターが減り、もともと青だったメーターの色が、残り少ないことを示す赤色の表示に変わる。

 蔓は未来の手から出されているようで、俺の足に巻きつけたまま未来が腕を大きくブンブン円状に回し、上空へと吹き飛ばされた。そこらかしこにズキズキする痛みを耐えながら体勢を立て直そうと宙で一回転したそのとき。


「【光線(レイ)】」


 ふぁんっと高い音を鳴らして打ち出す、花のオヤマボクチからの光のビームが既に目の前にあった。


 避けるの間に合わねぇ……!!


「【回禄(かいろく)】!!」


 なんとか体にぶち当たる前に球状の盾を張ることに成功し、難を逃れたものの、そう簡単に未来の攻撃が防ぎ切れるわけもなく。回禄はピキピキと力に圧倒されて裂け始め、光線が中まで入ってきそうになる。


「くっそつえぇな! 【炎神(えんじん)】!!」


 盾を押し破ろうとしている光線を押しやるべく、痛む右手は我慢して両手を開いて翳し炎の竜を放つ。

 ドッとぶつかり炎と光で火花が散り、周りの木々が明るさに照らされてオレンジ色に染まっていく。


「技術では劣るけど……!」


 まだまだ全然足りないけど、それでも俺は


(パワー)でなら、勝てる!!」


 押し合いをしている炎神に力を込め、ドゥンッ! と一気に光線を押し返して俺が優勢になったとき、下の方から攻撃している未来はほんの少し驚いた様に目を見開いた。


「【火柱(ひばしら)】!?」


 はっとした未来は光線を出すオヤマボクチだけをその場において、左へ転がる様にして飛びのいた。


 気づかれたか!


 ボッ!! と彼女の足元から高く上がる炎の渦は、未来の足が間一髪触れない位置まで逃げられていて回避されてしまった。

 炎神を放ちながらならと思ったのに……さすがに反応が早い。

 だけど逃がさねぇよ。


「【難燃の紐(ストリング)】」


 燃にくい性質を持つという難燃繊維でできた細い紐を左手の指から生成し投げることで、木々の枝を渡って逃げようとする未来の体を目にも止まらぬ速さで追いかける。

 なんとか未来の右足を絡め取った瞬間、「あっ」と想定外という様な声が聞こえ、的が外れて行き場をなくしていた火柱を未来に向け再度ぶっ放した。


「まだだ」


 それでもあいつはきっとどうにかしてくるだろうから、未来の光線(レイ)をかき消した炎神ですかさず追撃を与える。

 ドオッと炸裂して音が鳴り響いて未来の近くにあった木に火が燃え移り、辺りが火の海と化したそのとき。


「うおっ!?」


 一瞬だけ目に入った小柄な体に、頭で考える前に盾を張った。


 ボシュゥッ!!


 自身の体に5重にした回禄からは凄まじい衝撃と炎が蒸発する音が鳴る。

 反撃に出た未来が自身の周りを【蒸散(じょうさん)】で作り出した水で纏い突撃してきたのだ。


「ちょっと痛かったで、隆」

「はっ! ちょっと、だけかよ」


 煤のついた顔で笑いながら、未来は無理やり間合いに入ろうと切れ味の良い方、つまり『改』の方の木刀にも水を纏わせまっすぐ俺の胸元に向けて差し込んでくる。


「このまま回禄ごとぶっ刺したらゲームオーバーやな」


 確かに、こいつの言う通り。

 ゆっくりと押し込まれているこの木刀が、回禄を突き破ったらそこで終わり。心臓を刺されて一気に体力を削られるだろう。


「そうだな。でも、通さねぇよ」


 防御に全意識を集中させ、回禄を強く張り続ける。


「くっ……! さっきといい馬鹿力が……!」


 未来は苦しそうに眉間に皺をよせ、くの字に押し込んでいた木刀を俺が逆に押し返していく。更に回禄の炎によって未来の水が押し負けて、右肩のあたりに守るものがなくなったそのとき。


 きた。


 未来が軽い火傷を負って顔を歪ませた。

 その瞬間を見逃すな!


「【炎症(えんしょう)】!」


 今この瞬間が、俺が未来に勝てるかどうかの分かれ道。

 コイツの傷がキューブの作用で自然治癒する前に、【カルス】で傷口を覆う前に!


 渾身の力を込め、火傷を負ったその肩の火傷を『炎症』させた。未来の火傷の範囲が急激に広がり深部まで損傷させ、ジュウッと猛烈な痛みを起こさせる。


「ん……!」


 短く反応した未来は声の感じとは正反対の心底辛そうな顔をして回禄から瞬時に離れ、木の枝に飛び移った。

 炎から離れたものの、未来のゲージは一気に全体の半分以下になるまでダメージが入る。


「炎症……何から連想したのかと思えば、『漢字』やね?」

「正解。しかもなかなかいい特徴持ち」

「継続ダメージ、やろ?」

「これまた大正解」


 話している間も未来のゲージからはメーターが少しずつ減っていく。

 俺が一度発動すれば、持続的に相手の怪我を炎症させ最後には大怪我まで持っていくことができる。


 これで、もう少し時間が稼げれば……


「いいじゃん。最高だね」


 痛みに耐えながらふっと笑った未来は


「でも残念」


 ()()()だった。


「充填しちゃったっ」


 可愛らしくテヘッと笑う未来が持っているものは、俺には理解ができなかった。


「ら、ライフル?」


 それは、紛れもないライフルだ。


「これで終わりだよ。【木製銃(もくせいじゅう)】だだだだだ!!」

「ちょ、なんだよそれぇぇぇ!?」


 楽しそうに1秒あたり何発出してるんだというほどの弾を打ち出し、俺の体目掛けて飛んできたのは、ただの弾丸はなく水を纏った炎の弾。


 そうかこいつ、回禄に突っ込んで来たとき蒸散が消えたんじゃなくて、()()()消して俺の回禄を自分の能力として取り込みやがったのか!!


 焦りながら弾を避けようとするが、勢いよく放たれた水の弾はあまりに速く、俺の纏っている回禄をいとも簡単に突き破ってきた。


「あぶねっ……!」


 なんとか体をぐいっと捻り躱して、次に来る弾は【火炎(かえん)(つるぎ)】で切ろうとしたのだが。


「な、切れない……!?」


 あまりの強度に全く手応えがなく、間一髪体を一回転させるようにして切り抜ける。

 どうにもならないのなら避けるしかないと、さらに飛んでくる弾を何度もギリギリで躱していったが、ひとつだけ避け切ることができなかった。


「うあっ!」


 ドッと鈍い音を腹に受け、熱くて痛いと思った瞬間、俺の視界は大きな影に覆われる。

 それは、その水を纏った炎の玉のさらに中から出てきた、未来の食虫植物、【ウツボカズラ】


「ひっ……!」


「ねぇ、隆」


 こちらに向けられた鋭い牙と(よだれ)に恐怖する中、未来は俺を見てニコニコと笑う。


「いただきますって……いい言葉だよね?」


 彼女の口から出たその恐ろしい言葉に、もう……笑うしかなかった。

 そのままゴキリと俺の首が喰われ、ウツボカズラの腹の中に入っていくのを、遠く離れていく意識の中で感じていた。

お読みいただいてありがとうございます。


残念ながら隆一郎はまだ未来には及びませんでした。

まあまた頑張ればええんやで隆さんや。


そして隆は色々と新技を披露してくれました。

【火炎の剣】【難燃の紐】【炎症】もうひとつ、炎きゃ、までしか言えなかった技はまた次の機会に。

未来の新技は【木製銃】でした。こちらは次回能力の説明をします。

【カルス】は《前日④》で未来さんが死人の傷を癒してあげた、人間でいうところの瘡蓋にあたる能力でした。


《次回 デスゲーム②》

カレーです。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ