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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一〇二話 協力者

眠りにつきながらも何かに泣いて胸の内を漏らした未来。変わらない決意をしている隆一郎は、ある人に電話をかける。

 挿絵(By みてみん)


 深夜零時を過ぎた頃、筋トレもイメトレも終わって携帯を手に取り、ある人に電話をかける。


 思ったよりも遅くなっちまったし、起きてっかな。


『もっしー』


 俺の心配をよそに明るくおどけた声で応答するのは、長谷川。その電話の向こう側では、少し……いや、かなり荒々しい風の音が聞こえる。


「悪い、かけ直すわ。今日当番だったか?」


 シフトを見て当たっていないことを確かめてから電話をしたはずなのだが、聞こえる音は死人と戦っているために起きているものだろう。


『や、違ったんだけどね。今日の当番の一人が熱出して来られないんだってさ。そんで代わりに行ってくれってさっき本部から連絡来たわけよー』


 なるほどな。


「自己管理徹底しないとな」

『だよねー。ちょっと待ってて、これだけ片付けたら一声かけてくるから。【風神(ふうじん)(まい)】!』


 一際大きな風の音が聞こえる。


 久しぶりに聞いたな、この力強い音。


 あの赤い強風で、そこらにいる死人を一気に討伐する長谷川の姿が見えたような気がした。



『おまたせー』

「おう。大丈夫か?」

『もっちー。アタシがそう簡単にやられるわけないでしょー』


 いや、だからそれはよくわからんて。


 電話のためにわざわざゴミ箱から離れたところまで移動してくれたらしく、元気な長谷川の声だけが電話越しに聞こえる。


『けど、なんか死人が多いよ。まだ一時にもなってないのに丸一日分倒したぐらいの体感』

「ああ、未来も昨日言ってた。連日でそんなに多いとなると嫌な感じがするな」

『昨日も? 弥重先輩たちが遠征に出てからじゃん』

「……そう、だな」


 言われてみればそうだ。

 球技大会の日の前々日に遠征に出たのだから、その後からということ。


「関係あんのかな」

『さあ……強大な力のいない今を狙って自分の意思で増えるとか、あんまり考えられないけどね。ところでさあ』


 静かに否定をする長谷川は、打って変わって明るい声で、というかおちょくるような調子で話題を切り替える。


『つっちーから連絡なんて珍しいじゃん。しかもさっきまで一緒にいたのにさ。なになに? 愛の告白ですか?』

「アホか。あるわけねぇだろ」


 ニヤニヤした顔で言ってんだろなコイツ。

 ちげぇよ。


『ジョーダンが通じない奴ねぇ』

「長谷川に告白する予定はありません」

『ちょっと、何も言ってないのに勝手に振らないでよ』


 はーぁと大きくため息をつく長谷川は放っておいて、俺は本題に入る。


「今日ありがとな。未来のこと」

『あぁ、そのこと? 別にいーよ。アタシがしたくてしてるんだし、たまたまアタシが気付いたってだけだからね」


 そう言う長谷川にありがとうともう一度お礼を述べてから、何があったのか、情報交換をしてもらった。

 長谷川が見聞きしたもの。俺が見聞きしたもの。ふたりともが見聞きしたもの。


『今回のこと、未来ちーには言わないでよ。アタシがしたことも含めてね』


「……気づいてんじゃねーかな。お前が自分のためにしてくれてるんだってこと。言わないけど、あいつもそこまでバカじゃねぇよ」


 バカなのは勉強方面だけだから。

 何があったかはわからない分、百パーセント気付くことはできないだろうけど。


『どうして未来ちーばっかりこんな目に遭うんだろう。できることなら代わってあげたいよ……』


 どうして、か。


 長谷川の疑問で俺の頭によぎるものがある。


 未来の目が青くなる前までは、みんなと変わらず過ごしていたはずだということ。

 ごく一般的な、普通の家庭。

 普通に幼稚園に行って、遊んで、お遊戯会なんかもしたと思う。


 だけど……急に、本当に急に、青くなったんだ。

 ぶつけたわけでも、ましてや死人に襲われたわけでもなく、ただ、未来と花壇に植えられた花で花屋さんごっこをしていたときだった。

 本当に何の前触れもなく、目が離せないほど急激に青くなっていったあの光景だけは、俺はずっと忘れられずにいた。


『何か知ってそうだね?』


 何も言わない俺から察したのか、長谷川は遠回しに聞いたりせずに真っ直ぐ聞いてくる。


 少し考えた。長谷川に、言っていいものかと。

 人に知れてはいけないこの内容を、俺は言うべきだろうか?


 ……いや、答えなんてひとつだな。


 少しの沈黙が流れ、俺の答えを待つ彼女に小さく問いかける。


「長谷川。『呪い』って知ってるか」


 そう切り出した俺の話を、彼女は黙って聞いていた。


 一番最初に生まれた死人が分裂した一個体に呪いを持つ者がいて、それを未来にかけているんじゃないかということ。


 その呪いは愛に似たもので、その人を大事だ、愛してると思えば思うほど強くなるという、凪さんが見つけた有力な情報。


『呪いかぁ』

「凪さんには無闇に情報流すなって言われてるんだけどな」

『お? 信用してくれてんの? ありがとー』

「長谷川が信用できなきゃ誰も信じれねぇよ」


 全力で未来を守ろうとしてくれてるお前を信じなくて、他に誰を信じるって話だ。


『照れますねぇ』

「照れなくてよろしいです」


 間髪入れずに否定する俺にあははと笑って、一つ大きな深呼吸の音を聞く。


『つっちーもしかしてさ、その呪いの人物に心当たりがあるんじゃないの』


 携帯を持つ自分の手が、無意識にぴくりと動いた。


 長谷川も結構勘が鋭いらしい。


『誰とまでは言えないか』

「……ごめん」

『いーよ。未来ちーの知ってる人?』

「あぁ」


 よく、知ってる人。

 さっき泣いてた未来が寝言で漏らした言葉が、候補にした理由だ。

『人』という括りにしていいのかどうかは、悩むところだけどな。


『つっちーが未来ちーに想いを伝えないのも、その呪いと関係があんの?』


 そこまで結び付けられんのかよ。

 発する全ての質問が的を得ていて、その度驚かされる。


「……嫉妬って、怖いと思わねぇか?」

『うん?』

「愛してると思ってる相手を他の誰かに取られたりしたら、とんでもねぇ感情が湧くと思わねぇか」


 俺だったら、そんなの耐えられない。


「もしも、嫉妬っていうそんな曖昧なものまで『愛』だと変換されてしまうとしたら? 俺が未来に好きだと伝えて、結果はどうあれその気持ちを持っていることをその呪いの張本人が認識してしまったら」


 愛してると思うほど呪いが強くなるって仮説が正しいのであれば、それを受けた未来がどうなるかわからない。

 今までと同じように、周りから非難の声が上がるのか、それとも、死人が増えたり周りの人間が死ぬ確率が上がるのか。もしくは……未来本人が何らかの方法で殺されるかもしれない。


「何が起きるのかがわからない以上、引き金になるようなことはしたくない。俺の感情が未来を傷つける元になるなんて、そんなこと絶対したくないんだ」


 今言える思っていることの全てを吐き出した。

 長谷川は、何も言わなかった。

 相槌を打つことも、否定も肯定もせず、ただ黙って俺が落ち着くのを待ってくれた。


『つっちーらしいね』


 言葉を交わさずに少し時間が流れ、もう大丈夫と思ったのか、長谷川は優しく声をかけてくれる。


『守りたいよね』

「……あぁ。だから俺も心に決めてる。あいつの命だけは、絶対守るって」

『つっちーイケメンだー』

「うっせぇよ」

『褒めてんのに。……でも、アタシも同じ気持ちだよ』


 重要な話をしたにもかかわらず、すぐからかってくるのが長谷川らしくて少し安心した。

 話を共有することで新たな情報を掴む糸口となるのではないかという、小さな希望を持ちながら。

お読みいただいてありがとうございます。


かなり久しぶりだったので能力の補足を。

凛子さんの割り当てられた文字は『風』。『風神の舞』は隆一郎が言う通り赤い強風で殺傷力が強く、引き裂けるぐらいの風です。《第九話 長谷川凛子②》


さて、凛子の話で球技大会前に何があったのかも改めて隆一郎は知ることとなりました。


そして凛子は未来の『呪い』について聞かされます。こちらは《第二十二話 呪いと決心》で凪が語ってくれていますが、あれから一年弱経っても未だ進展が無いままということですね。

ただ、その人物に心当たりがある隆一郎。それだけは凛子には語りませんでした。


《次回 遠征-3日目-①》

凪さんフィーバーです。そしてお久しぶりの、グロ注意警報発令です。

よろしくお願いいたします。

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