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悪役令嬢役は辞めました。5

着替え終わったソフィアとミツセは学院を後にした。

ソフィアは動き易い少しゆったりめの綿のシャツとパンツに皮の胸当てと足元はショートブーツというスタイル。

ミツセは相変わらずメイド服。ただし、クリーニング済みのメイド服に着替えていた。

僅かな休息の後、それぞれ馬を走らせる。その2人に続く衛士が3人。

ヴェルヌが付けた者である。


「ソフィア嬢は王都の屋敷には立ち寄らず、直接自らの領地へ向かうようです。衛兵が3人同行するので、公領内は大丈夫でしょう。」

「そうか。事なきを得たようだな。」

フィリップの報告を聞き、アイザックは安堵の言葉を漏らした。

が、すぐに

「エンデ伯母様を早く王都の屋敷から出す為に時間を繰り上げて知らせたのに、未だ謁見に来る気配が無い。」

とぼやいた。

それを耳にしたシェリーは、

「エンデ様が姿を見せないのは不気味ですが、それだけ2人で抗議に来る事に重きを置いているという事でしょう。そう言った意味でも殿下の采配は見事でしたね。学院内でエンデ様の襲撃があると読んで遊撃隊を配置して置くなんて。さすがです。」

「まあ、彼らなら自由に運用できるからな。」

「顔見知りなら気心も知れているでしょうし。」

アイザックは渋い表情でシェリーを睨んだ。

アトラス学院の貴賓室。

豪奢ではあるが、過美にならないよう配慮された内装、調度品で飾られた室内にアイザック、ジョージ、フィリップ、シェリーの4人がいた。

大振りの1人掛けの椅子にアイザック、右のソファにシェリー、左のソファにジョージ、そして報告を終えたフィリップがその隣に腰掛ける。

椅子の背もたれに体を預け、大きく伸びをしたアイザックは解放感一杯に叫ぶ。

「一先ず作戦終了。皆、お疲れ。」

それを合図に皆口々に、

「おっつ一!」

「お疲れ。」

「お疲れ様です。」

と声を掛け合う。

「ホント兄様の作戦通りに事が運んだよね。ソフィアってあまり頭良くないんじゃない。聖女って結婚出来ないんでしょ。なのに嫉妬して焦って、シェリーにあんな事して。何度殴ってやろうと思ったか。」

ジョージはテーブルの菓子鉢からクッキーを1枚摘むと口に放り込む。

「結婚出来ないのじゃなくって、しないだけ。聖女は皆んなの聖女だから。でも、お付き合いは出来るわよ。まあ、王子様とは遠慮させてもらうけど。」

シェリーはサラッと言う。

「それ、何気に傷付くんだが。」

アイザックは笑って応える。

「まあ、俺もシェリーを聖女としか認識してないから、特に意識した事なんて無いな。」

「それなら余計に滑稽だよね。ソフィア。」

2人のやり取りを聞いて更にソフィアに対する辛辣な言葉を追従させるジョージ。

「ジョージ。お前ソフィアに恨みでもあるのか。」

「そうですよ。ジョージ。優秀な彼女に対し失礼ですよ。」

その言葉にジョージの言葉の攻勢が更に激しさを増す。

「優秀?何処が?兄上の婚約者がろくに魔術が使えないなんて。」

「その辺りは人それぞれ得手不得手があるだろう。」

「兄上はお優しいですね。でも、彼女のそれは不得手などと言う生易しものじゃ無いですよ。落ちこぼれ。無能。いや、人間失格ですね。」

「ソフィアはその辺りを弁えていたのだろう。毎日王宮に来て婚約者の俺と会っている時間より衛兵達と訓練している時間の方が長いくらい戦闘訓練に励んでいた。聞くところだと相当な腕前だそうだ。」

と言った後、

「あいつは子供の頃の夢、冒険者になる夢に進んでいるのだな。」

と小さく独り言を漏らした。

「確かに実技は眼を覆いたくなるような成績ですが、学術面に於いては古代魔術など一目を置かれていましたわ。」

「魔術は使えてナンボの物だよ。机上の空論、ましてやカビの生えた古代魔術なんて。」

「ジョージ、それは言い過ぎ。」

というアイザックの制止も間に合わず、ジョージの背後をフィリップが陣取って頭上から言葉を浴びせる。

「ジョージさま。本気でそんな事をお思いですか?学術論者や先達の功績を蔑ろにする様な事を。」

頭上からの圧迫にいつも考え無しに発言するけど、今回は度が過ぎたと分かったが、「あ、あ、あ、あ。」と反応するしか出来なかった。

そんな状況にも関わらず、いやそんな状況だからこそシェリーが割って入る。

「ソフィアさんはアイザックの思惑が分かって動かれる程聡明な方だわ。その証拠に今回の作戦に不可欠な存在の私をずっと守ってくれていた隠密が一人いるの。エンデ様の隠密の襲撃から。」

「は?襲撃されたなんて聞いてないぞ。それに君の身辺警護は俺の隠密に任せていたはずだろ。」

「それよりもソフィアさんが付けてくれた隠密の方が優秀だったって事かしら。」

さらりとアイザックの隠密、更にはアイザック自身にダメ出しするシェリーである。

「あいつらにはもっと厳しくしないとな。」

「ほどほどにね。」

他の2人はアイザックとシェリーのやり取りを聞きながらお茶とお菓子を楽しんでいた。

「シェリー。二つ程質問があるのだが。」

アイザックの声のトーンが変わった。


アイザックが付けた護衛。ソフィアがすんなり受け入れた訳ではなかった。

「ソフィア嬢。この3名を護衛として同行させて頂きたい。」

出立間際、ヴェルヌからいきなり申し出があった。

「そんな、大丈夫です。ヴェルヌ隊長にこれ以上甘える訳にはいきません。」

ソフィアは断る。

が、

「いえ、これは上からの命令ですので。」

との返答が。

「上?誰?」

「申し訳ありません。お話し致しかねます。」

「良いじゃないですか。お名前が駄目なら地位とかだけでも。」

「申し訳ありません。」

すかさず反応したソフィアの問い対し、頑なに話さない態度に、疑問を膨らませていた。

(多分、さっきの連絡でしょう。頑なに拒否するなんて訳ありって感じでしょう。)

ソフィアは今一度念を押してみる。

「命令に逆らう事は出来ないの?」

「命令に叛くなど絶対に有り得ません。」

(物言いで察せよって感じね。ヴェルヌ隊長にここまで言わせる絶対的存在。

ふと、ある人物の顔が浮かんだ。

(まさかね。)

ソフィアはそれをすぐさま否定し、

「分かりました。では、お願いします。」

答えた。


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