ホタル
夏の夜の匂いが好きです。
湿気った匂いでむせた
セミたちの眠りをさまたげないで
花火がやぶるのは静けさと
青くて くすんだ夜の闇だけでいい
迷い子たちよ ついておいでと
街灯のひとつもないこの街に
儚い光はまだ 見えますか?
帰らぬ夏の夜へと導いてくれるかな
湿った空気でむれた
スズムシの眠りはまだ深くて
季節の変わりめ 虫の音が
教えて くれるけどまだ知らんぷりした
迷い子たちよ はぐれないでと
道標ひとつもないこの街で
拙い光はまだ かすれずに
忘れぬ夏の夜へと連れてってくれたなら
線香みたいな、湿った火薬の香りがする夜。