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付いてくる

作者: 寝取り男爵

俺の後ろ30メートルくらいの位置に「それ」は居る。

走って逃げようとすると、同じように走って追いかけてくる。

右に曲がれば右に、左に曲がれば左に。

ずっと同じぐらいの距離を維持して付いてくる。

ただ、「それ」に向かって歩いた時だけはそのまま近づいてきた。

しまった。

そう思ってすぐに向きを変えるが、今のでお互いに2歩ずつ近づいてしまった。

あれは一体なんだ。



その日は年度始めということもあり、仕事が忙しく遅くまで残業をしていた。

最終電車にはぎりぎり間に合ったものの、最寄り駅で降りた時には既に日付も変わっており、完全に街は寝静まっていた。

早く帰ろう。

そう思って歩き出したのだが、何か後ろから気配を感じる。視線だ。

直感でそう思った。

先程駅を出た時は自分以外誰も居なかったはず。

大丈夫、ただ近所の人が歩いているだけ……自分にそう言い聞かせながらゆっくりと振り返った。


身体中から汗が吹き出し、心臓は割れんばかりに脈動している。

見てはいけなかった。

俺には霊感なんてものはないと思っていたが、間違いだった。

霊感はあるなしじゃない。出会ってしまったら誰でも感じるのだ、霊だと。

「それ」は一見普通の女のように見えるが、絶対に普通の人じゃない。

今は4月も始まったばかりな上に今年は特に気温が低く、まだコートを着ている人もいる。

自分もスーツのジャケットを着ているが、この時間だと肌寒く感じるというのに女は薄手のノースリーブブラウスだ。


服装がまず目についたが、おかしいのはそれだけではなかった。

顔は真上を向いていて見る事は出来ないが、腕が異常に長く立っているのに地面に届きそうな程長い。

その異常に長い両腕を交互にガクガクと揺らしながら立っている姿に、恐怖心を掻き立てられる。

明らかに人間ではない。

逃げなければ。

「それ」が止まっている今しかないと思い、刺激しないようゆっくりと歩き出す。

俺が歩き出した途端「それ」も歩き出した。

歩く、走る、曲がる。何をしても「それ」は一定の距離で追ってくる。

恐怖で錯乱しつつも、気づけば自宅の前までたどり着いていた。

アパートの階段を3階まで駆け上がり、急いで家のドアを開く。

ドアを閉める前に下を見てみると、「それ」は階段の手前5メートル程の場所に止まっていた。

残業で深夜を回っていたことや、走って帰宅したこと、そして「それ」への恐怖心からか、家に着いた途端俺は倒れるように眠ってしまった。



朝。

俺は昨日の出来事を思い出し、震える手でドアを開く。


「それ」は居た。

昨日と同じように異常に長い腕をガクガクさせながら立っている。

だが昨日と違い、俺は「それ」を上から見てしまった。

「それ」の顔にあるのは目だけだった。

顔中に隙間なく大量の目がついていて、ぎょろぎょろと動いている。

俺は恐怖に耐えきれず扉を閉めた。


絶望。ただただ絶望するしかなかった。

「それ」の不気味さにではない。

気づいてしまったのだ。

降りる階段は一つしかなく、この部屋から階段を降りて外に出るには「それ」に向かって5メートル以上は絶対に動かなければ出られないということに。

この部屋で餓死するか、自ら「それ」に捕まりに行くしかない自分の未来に……。

夏なのでホラーな話を考えていたら、ちょうど公式企画があったので乗っかってみました。


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