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第七話

 休みを取ったといえ、今日一日何をして過ごせばよいか。

 自室に籠っていても、やる事がなければ余計な事を考えてしまう。

 ロザリアムに来て日の浅い竜馬は、この街の娯楽施設をまだ知らない。街の外に出るのは論外として、時間を潰せそうな場所は思い付かなかった。

 ではこの世界で興味あるものといえばウィスタが一番に思い浮かぶ。

 結局、竜馬は格納施設内をぶらぶらしていた。

 全高十五メートル弱の雄姿は何度目にしても、自然と笑みが零れる。

 眺めているだけで、沈んだ心が幾分癒された気がした。


「なんだ? リョーマらしくない。落ち込んでるのか?」


 その背後からの声には聞き覚えがある。竜馬をこの街に連れてきてくれた貫頭衣の少女ミスカだ。


「分かるか?」


「一目瞭然」


「そっか。まあちょっとあってな」


「んで、大好きなウィスタでも眺めて元気になろうと?」


「……まあ、そんなとこ」


 と、力なく笑う竜馬にミスカは優しげな笑みを向ける。


「魔法が上手く覚えられないみたいだね」


「知ってたんだ」


「ロイさんにね、リョーマの調子はどう? って聞いたら返事を濁されたからね」


 なるほど。具体的なことは漏らさなくても、なんとなく空気で察したらしい。


「それがさ、呪文が上手く唱えれないんだ」


「呪文が唱えられないか……。よろしい、ではこのミスカさんが特別講師になって教えて進ぜよう」


「ホントか?」


 ミスカの願ってもない提案に竜馬は喜色ばむ。

 講師役が代わったからとして何か大きく変わるとは思えない。

 しかし、老師と異なり、気心知れたミスカになら些細なことでも気兼ねなく聞ける。

 何よりその気持ちが嬉しかった。だからこそ訊いておきたかったことがある。


「なあ」


「何?」


「なんでミスカは俺なんかに親切にしてくれるんだ?」


 災獣ディザストから助けて貰ったのは成り行きだろう。だが、このロザリアムに連れてくる義理まではなかった。今もまた見返りのない優しさをぶつけてくる。

 問われたミスカは屈託のない笑みで答えるのだった。


「実はね。あたし、難民だったんだ」


「難民?」


「そう、難民。小さい頃、ここじゃない街で暮らしてたんだけど、そこが災獣ディザストに襲われて壊滅してね。で、この街に流れ着いて助けて貰った。だから、身寄りもなく行く当てもない人の不安な気持ちが凄く分かるんだ」


 己の体験を他人とダブらせ、救いの手を差し伸べる。

 心情は理解できてもなかなか実行に移せるモノではない。根っから優しい性格なのだろう。

 尚のこと、彼女の親切には何かしらの形で返したいと思う。

 その後ミスカ指導の下、呪文の発音を習うのだが、そこで二人は何故駄目なのかを理解する。


「違う、ヴィ、よ。ヴィ」


「え? ビ、で合ってるだろ?」


「そうじゃなくて、ヴィ。あたしの口の動きをよく見て」


「……すまん、違いが分からん」


「えー、全然違うんだけど……」


「でも、俺の何が問題かが分かってきたな」


 そう、竜馬の慣れ親しんできた日本語では使わない発音があるためだった。

 例えば、文字で書けば同じ「る」でも、唇の形であったり、舌の巻き加減であったりと複数あり、日本語慣れした耳では聞き分けることが難しい。

 更に、聞き分けられたとしても、それ以上に困難なのが己の口で再現する詠唱だ。

 口回りの筋肉の動かし方が日本語とは明らかに異なる。果たして発音の問題が竜馬個人のものなのか、異世界人特有のものなのかは今のところ判別つかないが、どちらにせよすぐにクリア出来るものではなさそうだった。

 竜馬は途方に暮れた。聞けばこれで第一歩。魔法を使うには第二、第三のステップが控えているという。

 だが、絶望感は薄れた。原因が判明したという成果は非常に大きい。


「ありがとう、ミスカ。とりあえず練習あるのみだな」


 折角ここまで協力してくれるのだがら、簡単に諦めるわけにはいかない。

 竜馬は決心を新たに、魔法習得に意気込む。

 そんな折、格納施設内が俄かにざわつき始める。

 何事かと見渡すと、深刻な顔をしたロイが足早にやってくるではないか。

 何故か、心が泡立つ。

 この時竜馬は、何かが起きる前触れのような得も知れぬ不安が拭えなかった。

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