第二十二話
新しい武装が出来たとて、魔法の習得を怠ることはない。
ティニアの研究に駆り出されながら、ワイボー老師のもとで修練に励む日々。
そんなある日、竜馬はロイから命令が下った連絡を受ける。
「災獣が出た。その討伐に向かってくれ」
「りょ、了解っす!」
遂に来た。と、初めての任務に得も知れぬ緊張が走ったのは、先日のティニアの言葉「魔導師の責務」が頭に残っていたからか。
「なんだ、ビビってんのか?」
「ビビッてなんかないっすよ! ただ、初任務で失敗は許されないなと思っただけで」
「ウィスタが出動する事態に安心しろってのもおかしな話だが、今回の討伐対象は天災級じゃない。しかも、もう一人魔導師が同行する」
「あ、俺一人じゃないんすか?」
「そうだ。というか、そっちが主力でリョーマがオマケだな。いきなりの実戦で悪戯妖精が故障でもしたら目も当てられん。リョーマの独り立ちは暫く実用試験を重ねてからの方がいいだろうからな」
「ってことは、今回俺が一緒に行くのは悪戯妖精の運用試験が目的っすか?」
「そう思ってくれ。実戦での威力や命中精度も知りたいし、急造品の悪戯妖精の耐久性はまだ未知数。しかもまだ一丁しかなく、すぐ換えの利くモノでもないからな。魔導師の最優先事項が災獣の討伐である以上、武器が壊れたからといって撤退するわけにもいかん」
「じゃあ剣はまだ使わない感じっすか」
「知ってると思うがウィスタは元々近接戦など想定されてない。確かに踏み付ける者の時は問題なかったが、ティニアの解析結果がはっきりするまで積極的に仕掛けるのは避けるべきだろうという話になってな。まあ、腰にぶら下げておくぐらいなら邪魔にはならないだろう。ただ抜くのはどうにもならない時の最終手段と考えてくれ」
悪戯妖精はこれまで岩などの動かない標的で射撃テストを行っていた。動くモノ、それも素早い獲物にどれだけ当てられるか。これは悪戯妖精の精度のみならず、竜馬の射撃の力量を絡めての評価しておく必要があるのは尤もだ。
近接戦においても踏み付ける者という鈍重な災獣だから通用しただけで、これから反撃、被弾の恐れのある敵を相手取る可能性を考慮すれば、慎重になるのも当然のことかもしれない。
「了解っす」
と、竜馬はファーニバルに乗り込むため格納施設に向かうと、野性味たっぷりの笑みを浮かべた一人の男に出迎えられた。
「おお! 来たなっ、英雄!」
施設内に耳を塞ぎたくなる野太い声が響く。
その声の主は見上げる程の大柄で、武人と見紛うがっしりとした体躯の持ち主だが、驚くことにミスカと同じ貫頭衣を纏っていた。
どうやらこの繊細さの欠片もない彼も魔導師らしく、竜馬の魔導師に対する知的なイメージ像を根底からぶち壊してくれた。
謎の大男の登場に竜馬が困惑していると、ロイが気付いたように口を開く。
「ん? そういや、リョーマと顔を合わせるのは初めてか?」
この街の魔導師であれば踏み付ける者戦から帰還した際、大体会った記憶はある。とはいえ、慌ただしい中で軽い挨拶を交わした程度で、再会しても顔と名前を一致させる自信がないのが正直なところだ。
だが、これだけ個性の強過ぎる人物だったら忘れようがない。
何故だろうと竜馬が返答を詰まらせていると、大男はその理由を教えてくれる。
「踏み付ける者戦の後、ヤツが引き返してくるかもしれないと念のため、現場に暫く残っていたからな。それから何かとすれ違いが続き、直接会うのは今日にまでずれ込んだというわけだ」
そう言って大男は大きくゴツい右手を差し出す。握手を求めているのだろう。
竜馬は恐る恐る手を重ねた。
「天羽竜馬っす。竜馬と呼んでもらえれば」
「魔導師ヴァルカンドだ。今回の討伐任務、リョーマの戦いぶりを楽しみにしているぞ」
加減を知らないのか握られた腕をブンブンと振られ、肩と視界がガクガクと揺れる。漸く解放された右手には赤く手の跡が付く始末だ。
「こう見えてヴァルカンドは我が街の筆頭魔導師であり、ウィスタ隊の長になる」
「いや、ロイよ。実力的に筆頭の座はミスカに譲る頃合いだろう」
と、豪快に笑い飛ばすヴァルカンドは、肩書や序列などあまり拘らない大らかなタイプなのかもしれない。
「確かに純粋な魔法の素質は彼女のが上かもしれない。だが、戦いの経験値や判断力はまだまだヴァルカンドには及ばんよ。リョーマ、ウィスタでの作戦行動は今後、彼の指揮下に入ることも多いから覚えておいてくれ」
「了解っす!」
「互いの挨拶も終えたところで任務について説明させて貰う。今回の討伐目標は悪食。先日、南の森付近の街道で商隊がヤツに襲われた」
悪食と訊き、竜馬はこの世界に来て初めて顔を合わせた災獣を思い出す。
「またアイツっすか」
「そうだ。この辺りでの生息数で言ったら一番多い災獣だからな。群れることを知らないから一件当たりの被害規模は左程大きくないものの、どこにでも現れるからこそ都度対応するしかない。ホント、面倒臭いヤツらだよ」
どこにでも現れる嫌われ者。要するにゴキブリのような存在らしい。
ただ彼の蜥蜴モドキにとっては単なる捕食活動でも、こちらにとっては生活圏を脅かされる死活問題。被害が小さいと言えど、それは災獣間の対比であり、その名の如く災害に相当するのだ。その厄介さは、ロイの渋面が見事に物語っていた。
だが、このロザリアムの街には抗う術、ウィスタがある。
その操り手たる魔導師の街一番は、獰猛な笑みを浮かべ、こう言葉にするのだった。
「悪食如き、全部狩ってやる。狩って狩って狩り尽くし、俺が根絶やしにしてくれようではないか」
「実に心強い言葉、と言いたいところだが、ここ数十年の被害は減っていない。過去の魔導師達が手心加えていたわけでもあるまいし、ヴァルカンド一人の頑張りでどうこう出来るとは思えんのだが?」
「だろうな」
ロイの冷静な指摘にヴァルカンドはさも当然のように肯定し、再び豪快に笑い飛ばす。
「まあ、その心意気だけは買っておこう。根拠が迷子とはいえ、やらずして無理だ無理だと頭を抱えるよりはマシだからな。さて、輜重隊の準備も出来ている。二人はウィスタに乗り込んでくれ」
「了解っす!」
ロイの指揮のもと、竜馬はファーニバルに乗り込み、ヴァルカンドも彼の愛機に搭乗すると被害現場へ向かうべく南門を潜った。




