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第十六話

 新しい住まいというのはそれだけでワクワクする。

 建物の構造、部屋の間取りなど見て回って楽しむのだが、必然的に自分以外の者が皆一様に何らかの作業に従事している姿が目に入る。

 自分だけ何もせずうろうろしている現状が、なんとなく後ろめたさを感じてしまう。

 無論、この屋敷に仕事として来ている彼彼女らと、この屋敷の主人である竜馬では立場が違う。それは頭で理解出来ていても、心苦しく感じてしまうのは小市民のさがなのかもしれない。

 結局、ある程度見て回った後は自室にした二階の一室に籠り、寛ぐのだった。


「リョーマ様、夕食の準備が整いました」


 夕暮れ。ドア越しにアンナミラの声がする。

 食堂に向かえば、テーブルにはこの屋敷で初めてとなる食事が並べられていた。


「リョーマ様、こちらへお掛けください」


 と、フォニの案内に従い席に付く。

 目の前に並べられた食事は実にいい匂いを漂わせている。味にも期待が持て、では早速頂こうとナイフとフォークを握るのだが、そこで手が止まってしまう。

 竜馬の両脇で控えるメイド二人。

 それが彼女達の仕事なのだろう。だが、監視されているようで食べにくい。


「えっと……」


「あら、お口に合いませんでしたか?」


 と、的外れな疑問を呈したのはアンナミラ。


「いや、まだ一口も食べてないよ……」


「では何かお気に召さない食材が目に付いた、とか?」


「好き嫌いはあんまりないから多分大丈夫だと思うけど。そうじゃなくて、二人にそう見詰められてると気になって食べにくくて」


「あら、そうですか。では少し離れましょう」


 と、二人は数歩分距離を取るのだが、気配から解放されることはなく根本的解決には至らなかった。

 彼女達に落ち度があったわけでもないのに、あっちへ行けと別室へ追いやるのも気が引ける。かといって人の気配はあるのに一人で黙々と食べるのも寂しい気がした。


「二人はもう食べたの?」


 と、その問いに答えたのはフォニ。


「いえ、リョーマ様のお食事の後、頂く予定です」


「だったらさ、次からでいいんだけど、食事は皆で一緒に食べない?」


「とんでもない! 我々使用人がご主人様とご一緒など恐れ多いことでございます」


「いや、俺のことどう訊かされてるか知らないけど、もともと偉い人間じゃないんだ。だから突然ご主人様なんて扱われてもどう対応したらいいのか……」


「いえ、リョーマ様がどのような方であっても関係ありません。リョーマ様はご主人様であり、我々は使用人。そして使用人は分を弁えるもの――、うぐ」


 と、異を唱えようとするフォニの口を、後ろから両手で塞いだのはアンナミラだ。


「いいじゃない。リョーマ様が望まれているのですよ? 堅苦しいのは好まれないようですし、ご主人様の希望に沿うのもメイドの勤め」


「そうして貰えると凄く助かる。んで、ご飯食べながら、俺の知らないこの街のことを色々教えて欲しいんだ」


 暫し黙り込んでいたフォニだが、自分の中で折り合いをつけたのだろう。

 自分の口を塞いでいた手を疎まし気に押し退け、畏まって答える。


「リョーマ様がそう望まれるのであれば。先程皆で一緒とおっしゃられましたがその席にはイリクも、という解釈でよろしいでしょうか?」


「そうだね。イリクさんが一番年長だし、色々訊きたいことが多いと思う。だから食事時は四人でテーブルにつき、一緒のものを食べるのがこの屋敷のルールに出来ないかな?」


 こちらの生活に合わせようと意気込んだものの、半日持たずに断念。やはりごく平凡な家庭に育った竜馬にとって、突然の生活スタイルの変更は息苦しいことこの上なかった。

 出来れば上下関係は希薄にして、もっとフランクに接して欲しいと切に願う。

 しかし、いきなりというのも逆に彼女らがやり難い可能性がある。時間をかけて歩み寄り、お互いを理解しながらストレスのない人間関係を構築していくしかないだろう。

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