★★★さっと終わった、終わらせてしまった★★★
まだ周囲は暗い状態だ。朝日は遠い。
けれども奇襲を早朝に仕掛けると言った急遽の作戦なので俺は仮眠だけを取って夕食後は起きた状態で居た。
一応は野盗たちに気取られない為にも静かに、そして少数で動いて集合場所に現地で落ち合うと言った形になっている。
「で、何で俺の案内がマリなんだ?おい、侯爵令嬢様よ?睡眠不足はお肌の敵ぞ?それと、アカルは?」
「腕に自信はあるし、野盗如きに遅れは取らないよ。こうした捕り物には何度かこれまで参加しているしね。アカルは別行動だよ。他の兵たちと動きを合わせる訓練も兼ねてる。」
「いや、お前ホント何処目指してんの?あくまでも百歩譲ってだよ?指揮官の立場、くらいじゃねーのか?なんでマリ、完全武装なのよ?」
言ってみれば軽装騎士の恰好と言えば良いのだろうか?しかも前線でガンガン人斬ります、と言った気合が入っているのが丸分かりなマリの様子は心配するなと言うのが無理な話である。
アカルの方はどうにもまだまだ未熟と言う事で俺たちとは別でのブートキャンプ的な感じらしい。
「侯爵様も何考えてんのかな?俺が居るから大丈夫だと思ってる?・・・と言うか、はぁ~。何でお前まで付いて来てんの?」
「我を置いてこんな面白そうな事をするなど許さん。暇つぶしには良い見世物だ。」
「うん、わかったよ、分かった。分かりたく無いけど、分かった。ホレ、魔石やるからベラはマリの護衛な?マリが危ない場面になったら庇ってやってくれ。」
俺はベラへと魔石をニ十個渡す。ベラがこれに機嫌を良くして「うむ、任せておけ」などと胸を張っている。
これで俺の懸念は大体無くなったと言えるか。今回の奇襲で一番遭って欲しく無い展開は「マリが死ぬ」である。
何が起きるか分からないこんなイベントにマリが来るとは思っていなかった。思考の死角である。
侯爵様の「大丈夫だ、問題無い」の発言で俺は「妙なフラグが起った」と感じていたのだ。
ソレが思い過ごしで、何事も無く野盗が全滅となれば良いのだが。
(何処からどんな横槍が入って来るか分からんよなぁ。こういう時って絶対に「ヨソウガイデス」ってな人物が乱入とかアルアルじゃん?)
別の部分の心配が未だに残る。こうなると何故だか野盗討伐がすんなりと出来るかが不安になってくる。
そんな考え事をして駆け足で集合場所へと到着。そこには音を立てない様にする為だろうか?皮鎧姿の兵士たちが百名は集まっていた。
金属鎧では暗闇で姿が見えずともガチャガチャと金属同士の擦れぶつかる音がして相手にその存在をばらしてしまう。
だから統一した皮鎧であり、動き易さを重視しての装備と言った所なのだろう。
(門を出て街道を暫く言った先の森の中に拠点が?まだここからじゃ遠いんだろうけど)
このままこの数が散開して徐々にその包囲を狭めていく方法なのだろう。
野盗たちを逃さずバレない様に周囲を固めて袋叩き、と言った感じか。
ここでどうやらこの集団の指揮を執る隊長らしい男が静かに声を上げる。
「第一班は事前説明通りに直ぐに動け。第二班もそれに続く様に。第三、第四は向こうだ。第五、第六は反対側、遅れるなよ。」
この指示で僅かな音しか出さずにスムーズに兵たちは動き出す。これには凄く訓練されているのが素人の俺でも解かる。
「で、俺たちはどうするんだ?」
俺もマリにも指示が来ない。これにどうしたものかと思っていれば先程の指示を出していた隊長が俺たちに話しかけて来る。
「お二人は私と一緒に行動して貰います。・・・ん?何だ?その子供は?何故こんな所に?」
当然の疑問である。しかもどうやらこの隊長、ベラの事が見えている。
ベラが今恐らくは自らを周囲に認識されない為の「何か」を発動しているにも関わらず。
「ほう?中々お前はやる様だ。我が本気では無いとはいえ、気配を薄めていたのに気づくとはな。」
ベラ、めっちゃ偉そうな態度で上から目線発言を隊長さんに飛ばしている。
ここですかさずフォローに入ったのはマリだった。
「この子は私の護衛なんです。大丈夫、貴方は貴方の仕事をしてくださって結構。」
マリのこの言葉で隊長さんはベラに対しての数多あるだろう疑問質問を呑み込んで自身の役割を果たす為の行動を始める。プロである。
「ではこちらです。付いて来てください。」
どうやら俺たちはこのままこの隊長の後に続いて野盗たちの拠点へと向かう事になる流れであるらしい。
俺は作戦の内容などは詳しくは聞いてもいないし、聞かされても居ない。
俺の役目は野盗たちを一人残らず始末する事である。
(生きて捕縛するのは俺には難しいからなぁ)
ホンの軽く殴っただけで人を殺しかねない俺のこの身体スペックである。しっかりと力加減を意識して動かねばならないのは神経を使うので疲れる。
気にせずに今回動いて、それで気が付いた時には生存している野盗が一人も居ないとか、そんな結末は俺としてはちょっと嫌である。
一応は野盗を数名でも捕縛して情報を吐かせる分は必要だろう。今後にこうした暴力集団が出て来た際への対応策を作っておく為のマニュアル作成をする為にも。
(だからベラの邪眼を使えばそう言った調整も簡単にできるんだけどなぁ)
今回はマリの護衛としてベラを使う。侯爵様もベラに協力して貰うというのは遠慮していたし。
「と言うか、ベラがここに来ちゃった事自体が、侯爵様にとっては計算外だと思うけどな。」
小声で俺はそんな事を漏らす。もう今は既に結構森の中を進んでいる状況だった。
どこら辺まで進めばその野盗たちの拠点に着くとか言った説明は受けていないので余り大声も出せない。
どんな事で野盗たちが俺たちに気付くか分からないから。
だけどもどうやらこちらの電撃奇襲作戦よりも、奴らの警戒心の方が勝ったらしい。
静かでまだまだ暗い森の中で「ピー」と言う甲高い笛の音が響いてしまった。
どうやら広い範囲に相手は見張りを立てていた様であった。神経質なのにも程がある。
「流石に上手くは行かないんだなぁ。パパッと何事も無く終わったら良かったのに。」
ぼやきつつも俺は走り出す。案内の隊長さんが走り出したその後ろに付いて。
これにマリも負けじと付いて来る。結構な速さで木々を躱して突っ走る隊長さんはかなりの体術を使うのだろう。
そのキビキビとした動きは素人の俺の目で見ていても「凄い」と感想が漏れる程の体捌きだ。
で、マリの守り役のベラも一緒にこれに付いて来るけれども。
「お前はサルか?何で木々の枝をぴょんぴょん飛んで付いて来てんだよ?お前蜘蛛だろうが?」
「何を言いたいのかサッパリ分からんぞ?我の移動方法の何が気に食わんのだ?」
「もういいよ・・・」
まるでフィクションな忍者アクション、パルクールである。
ベラだけが異次元な動きで森を進んでいるのだ。あいつだけおかしい。
でも最初から人の枠でベラを測っても無駄である事を思い出して俺は隊長さんの背中を追う。
そして視界が開けたと思えばそこはかなり開けた場所。
そこにテントが幾つも張られ、そして火が焚かれ、竈も作られてと。
急遽拵えでの「拠点」が広がっていた。
「わーお、思っていたよりも人数多め?コレじゃあ数人は紛れて逃走されても分からんぞ?」
見張りに森の中に出ていた者たちの員数もコレだと正確には分からない。
けれどもここに居る奴らだけでざっと四十名近いと見ても良かった。
森に見張りで出ていた者たちを含めると相当な数になると言える。
(で、ここで時間稼ぎか?それともこのまま隊長さん、特攻しちゃう感じですかね?)
ここに奴らを釘付けにして包囲を狭めている兵たちの来る時間を稼ぐのか。
或いはこのまま俺たちだけでこいつらの相手をしてこの場の奴らだけでも先に片づけてしまうつもりなのか?
隊長さんの判断はどうなるのかを俺はジッと待ってみたのだが。
「お前たちには数々の犯罪の嫌疑が掛かっている。抵抗せずに大人しく捕縛を受け入れろ。弁明があるのなら連行された後の事情聴取の際に聞いてやる。この場で逃げようとする者、こちらに剣を向けて来る者は即刻罪人として判断し、斬り捨てる!」
先ずは言葉で説明。分かる。こんな所で集まっている集団がこうして公権からの奇襲で逃げようとしたり、こちらを襲ってくる様な事があればソレすなわち「後ろめたい事してます」の証明だ。
まあ多分素直に捕まったとしても拷問を受けて情報を吐かせられる可能性が否定できない以上は選択肢は無いと言えるのだが。
「お前たちは完全に包囲されている。この場で死にたい者は掛かってこい。」
まだ散開させた兵たちはこの場に集まれていない。ハッタリであるコレは。
けれどもそれを察していても迂闊には相手も動けない状況ではある。
むやみやたらと逃げ出しても、もし運が悪ければその兵たちに発見されて個別で撃破される可能性もある。
ここで一番賢い選択は「全員で一丸となって同じ方向に逃げ出す」だろう。
もしくは一斉に蜘蛛の子を散らすかの様に一気にバラバラに逃げ出す事だろうか。
全員が纏まって逃げ出せば数と言う形で戦力的にも生き残る可能性がかなり高い。突破力と言うべきか。包囲を抜ける事が出来る率が一番高いだろう。
バラバラの場合はそれこそ「二兎を追う者は一兎をも得ず」的な効果で自らに追手が掛からない可能性が出来る。
ただしそこには運が盛大に絡んでくるだろうからどちらを選んでも痛し痒しか。
だけどやはりだ。こいつらの選んだ選択肢はその二つのどちらか、などでは無かった。
「いや、まあうん。分かるけどさぁ。」
俺たちに向けて一斉に剣を抜いて向けて来たのだ。
この結果になると言うのは目に見えていた事だ。だけど落胆が俺の中で酷い。
「あの、隊長さん?コレ、どうにかする案あります?」
コチラは四人。いや、ベラは人じゃないので三人か。しかも今ベラは多分気配も認識も消してこの野盗たちの目に自らが映らない様にしている模様。
こんなの相手に「こっちの水は甘いぞ」と誘っている様な物である。
「隊長さん?おい、お前何も考えずにここまで来たのかよ?え?馬鹿なの?」
「バカとはなんだ!?侯爵様にはその様に動けと言った指示を受けていた!ええい!腹を括るぞ!マリエンス様だけは何とか生きて帰さねば!お前も剣を抜け!その腰の物は飾りか!」
「えー・・・」
余りにもドッタンバッタン、行き当たりばったりな展開にちょっと所では無い呆れた声を俺は上げてしまった。
侯爵様もどんな意図でこんな展開をと考えてしまう。隊長さんに何と説明したのだか。
そんなこちらの事なんて関係無いと言った感じで、コレが合図になってこちらに野盗が七名程向かってくる。
向こうはこの程度の数で充分だと思ったんだろう。
「うざぁ・・・スラッシュ。」
この時点でいっその事に面倒になった俺はついつい剣技発動してしまった。
そして「あ」と思った時にはもう遅い。スラッシュの効果はそのままこちらに向かって来た七名を胴から真っ二つにして貫通し、その背後に居た者たちまでをも巻き込んで斬り飛ばしていた。
「・・・あー、うん。誰かー?誰か生きている方は居ませんかー?」
全員が纏まっていたので運悪く、一人の漏れも無く攻撃範囲に巻き込んでいた。惨劇な光景である。辛い。
「うん、終わってしまった。何てこったい・・・」
この光景を信じられ無いモノでも見たと言った感じでアングリと大口を開けて固まる隊長さん。
マリはマリで「凄いねタクマ!」と俺を持ち上げて来るし。
ベラはベラで「もったいないな。玩具にして充分遊べただろうにこの数なら」などと怖い事を口にしている。
一応はこの件を徹底的に潰してケリをつけるつもりで俺は同行してるからこの結末は別にダメとは言わないのだが。
「侯爵家、国としては最低でも二人は生かして捕縛しておきたい感じだろきっと?あー、うん、森の中に警戒に出ていた奴らの仲間が捕まるとイイね?」
そんな言葉が薄い期待と共に俺の口から洩れた。




