★★★はーい、皆ちゅうもーく★★★
「しんどい・・・」
さて、何故俺は今こんな弱音を吐いているのかと言えば。
別にマリに教わっている剣術が厳しいからでは無い。
模擬戦の結果が俺にこんな言葉を吐き出させているのだ。
「シンドイ・・・目が、子供たちのキラキラとした目が・・・俺に対してのあこがれを見るかの様な目が・・・」
「何も考えていなかったからだろう?お前自身が。今更そんな言葉を垂れ流そうが過去を改変できる訳が無い。」
俺とマリが模擬戦をすると言う話を何処から聞いたのか?
その日となった時にはベラがいつの間にか見学と称して庭に来ていたのだ。
散歩はどうしたとその時に俺が聞いてみたら返って来た返事が「飽きた」だった。
もう既にこの町の隅々まで散歩は完了したらしい。行っていないのは王城内であるそうで。
「シンドイ・・・慰めの言葉の一つも言えないのかよベラはよー。役に立たないベラ様よー?魔石を俺にタカるくらいしかできないベラ様よー?」
「我だって自力でソレを得られるのであるならばあの試練場とやらの中に引き籠っていたかったぞ?」
「はいはい、悪かったよ。今回は俺が迂闊だった。くっそ。」
マリとの模擬戦の事を此処で思い出して俺は溜息を吐きながら素振りを続ける。
今俺は型稽古をしている。子供たちに混ざって。
ここでは一緒にマリも同じ様にして剣を振るっている。指導の為にだ。
ベラだけが呑気に日向ぼっこをしながら俺たちのこの光景を眺めていた。
げんなりとしつつも剣を振りながら俺は今より三十分前の事を思い出す。
=== === ===
「うーん!今日も良い天気だね!稽古日和だ!ねえタクマ!」
「おいマリ、元気過ぎるだろお前。子供たちドン引きしてるぞ?もうちょっと気にしてやってあげて?」
侯爵令嬢が今日は一緒に剣の稽古をすると言う事で子供たちは緊張に包まれていた。
俺はソレを見てマリに「はっちゃけ過ぎだ」と注意をしたのだが、これに。
「えー?だってマルドムの指導を受けるのが久しぶりで嬉しくって。」
マルドムとは子供たちに剣を教えていた人物だ。どうやらマリが言うには昔にそのマルドムから剣の手解きを受けていた事もあったらしい。
「お嬢、真面目にやってくださいよ。子供たちの手本になる様に。そうで無いなら向こうへ出て行ってください。」
どうやら真面目な性格をしているらしいマルドム。マリ相手に怯む様子は無い。しかも「お嬢」呼びである。
このマルドム、そんな性格をしているっぽいが、無精髭のぼさぼさ頭でおっさんだ。髪の毛は茶色である。
「さて、本日はタクマ殿とお嬢の模擬戦を子供たちに先ず見て貰うと言う事ですが。・・・怪我だけはしない様にしてくださいよ?危ないと思ったら遠慮無く私が間に入りますけど。余り熱くなり過ぎ無い様に。お嬢、良いですね?」
どうにもこのマルドムは俺の事を知っている様子だ。しかも殿付けで呼んで来る。誰に何と説明されているのか?
さて、マリに対してここで釘を刺してきたマルドム。しかしマリはこれにけらけらと笑い言う。
「大丈夫だよ。だってタクマだもの!」
「おい、何処にも大丈夫な所が無いぞその発言。意味不明だぞ?」
ナンデ俺ダト大丈夫ニナルノ?マリのこの発言に俺の脳内では疑問符ばかりが浮かんで来るのだが。
「やってみれば分かるよ!それじゃあ合図をよろしくね!」
マリは俺と距離を3m程取って対峙した。何がどう大丈夫なのかを説明する気は無いと言う事だ。
そしてマルドムもコレを止め無い。寧ろ早く事を終わらせようと思っているのか、直ぐに開始の合図を口にする。
「始め」
その瞬間にマリが俺に斬り掛かって来た。もちろん木剣で。
だけど幾ら真剣では無くても木で殴られれば痛いし、下手すれば頭など当たり所が悪けりゃ死ぬのである。
そんな物をホイホイと当たってやれる訳が無い。
踏み込んだ勢いを付けた上段からの斬り下ろし。
(威力は高いかもしれんけど、モーションが大きくて解り易いし、避け易いよな)
決してマリの一撃が鈍い訳では無い。寧ろ鋭かった。
しかし俺はソレを余裕をもって躱す事が出来ている。
(連携してそのまま避けた相手を追う様に横薙ぎね。スタンダードな流れだよなぁ)
避けられる事も想定しての二連、三連の連続斬りである。しかしソレだって俺には届かない。
(この身体スペックだと余裕しか無いなぁ。うん、大丈夫だわ。確かに大丈夫だわー)
俺が怪我をする事は無いだろうこの分だと。まあ俺の意識外の一撃を放たれたら食らってしまうかもしれないので油断は禁物なのだろうが。
(逆に俺がマリに対して寸止め?で斬り掛かるくらいにしておかないと模擬戦って言えないだろうなぁ)
俺がそんな思考している間にもマリは連続して俺に攻撃を仕掛けて来ている。
しかしソレは全て俺に躱されて空振っていた。
(剣を打ち合わせるよりも避けるのがまず基本だよなぁ。当たらなければどうという事は無いってやつ?)
それでもこのままでは派手さも見せ場も無いと判断した俺は軽くマリの一撃に対して自身の持つ木剣を当ててみる。
俺が避け続けるだけの模擬戦など子供たちは飽きてしまうだろうと考えたのだが。
これに「かーん」と木がぶつかり合う乾いた澄んだ音が響いた。
これにマリの持っていた木剣は宙を舞っていた。
「うお?スマン!力加減が下手糞だったのを忘れてた!手は大丈夫か!?手首折れてたりとかは!?手首って折れると結構ヤバいって聞くぞ?あーもう!俺油断し過ぎ!」
俺のこの心配をキョトンとした顔でマリが見つめて来ていた。
そもそも侯爵令嬢などと言う立場の存在と今何で俺は模擬戦などをしているのか?そこから考え直さねばならない。
そんな相手に怪我をさせたとなれば色々とマズイ事が多過ぎる。
だから俺は慌ててしまったのだが、マリは別段何事も無かったらしい。それにホッとした俺の顔を見てマリは。
「アハハハハ!大丈夫だよ!もう一回やろう!」
飛ばされた木剣を直ぐに拾ってマリがまた構えを取る。
そして今度は合図を待たずに俺に再び踏み込んで来た。その表情は笑顔である。コワイ。
先程の失敗をしない様にと思ってソレを俺は正面から受け止める。
俺のとマリの木剣とがぶつかり合って今度は何故かガキンと言った重い音を鳴らしていた。
これに「何かがおかしく無いか?」と思った俺は一旦マリの木剣を押しやって後ろに下がり距離を取った。
すると俺の持つ木剣の真ん中に罅が入っている事でギョッとした。
「うーん、今ので押し切れるか、或いは少しでもタクマの体勢を崩せると思ったんだけどなぁ。」
「物騒だぞ?おま、何したんコレ?」
直ぐに折れる様な木剣では無い。結構硬い材質の木を使っているのが俺にも分かる木剣だ。
だけどもソレが先程のマリからの一撃で罅が入るとか、何かしらの種があるに違いない。ソレを聞いてみれば。
「大丈夫。只ちょっと魔力を込めただけ。今の一瞬、それで、一度だけしか私にも今の力量では使えないから。」
「おい、そんな奇襲を狙うとか俺に対しての信頼が重いんだが?下手すりゃ死んでるんじゃないのかよ、それは。」
「でもタクマ、大丈夫だったでしょ?」
「そう言う問題じゃねえよ!?」
それからは俺はマリの攻撃を避けに避けまくった。
そしてこちらから攻撃する時はその避けられた事で体勢を崩しているマリの木剣にこちらの木剣を当てると言う方法にした。
コレをすると空ぶった勢いの所に当てられた威力も合わさって余計にマリは体勢をよろめかせるので、そのできた隙に俺の木剣をマリへと当てるのだ。そっと添える様に。
本気で当てたりしたら大怪我だ。そんな事にならない様にと真剣に、慎重に俺は剣を振っていた事で精神がかなり疲弊した。
気を遣うって言うのはかなりの労力を使うモノだ。ましてや相手は女性で、しかも侯爵家の大事な娘さんである。
これで万が一にもマリを傷物にしてしまおうものなら、俺は侯爵様に命を狙われる、何て事になりかねない。
そうして十回以上の回数を模擬戦をし続けてやっと「そこまで」の声が掛かった。マルドムである。
因みにマリから俺は一度もまともな一撃を食らってはいない。
「タクマ殿、それ程までに強いのに、君の名を私は一度も聞いたことが無い。今まで良くその腕前が噂にならなかったモノだ。どんな生活をして来ていたんだい?」
マルドムが俺にそんな質問を感心しながら飛ばして来た。
これに俺は何と答えて良いか分からなかったので適当に誤魔化しておくことに。しかしこれがいけなかった。
「うーん、我流とも呼べ無いんだよねぇ。只単に棒切れを振っている感じ?一応剣だから刃は立てて、とか言った気は使って振ってるんだけどね。」
「・・・何だって?ならば君も一緒に子供たちと剣を振ってみないか?ここでマイドリュー剣術を修めれば今以上に君は強く成れるぞ?寧ろ私が君に指導して今よりももっと強くなった君を見てみたい!」
「・・・何かヤベエな、この人。大丈夫なのマリ?」
「うちの剣術指南役を務めてるからマトモであるけどね。だけど、まあ、こうして才能がある者を見るとなりふり構わずにこうして教えたくなっちゃうらしいんだ。指南役としては適した性格しているんだけど、コレがちょっとアレなんだよね。それで、マルドム、私はどうだった?」
マリがそんな事を聞いたのでマルドムは俺から意識を逸らしてその質問を答え始めた。
その間に俺はハッとなった。今先程の模擬戦を観戦している者たちを思い出して。
(ダメだった・・・ナンデ、何でそんな目で俺を見て来ているんだい君たち?)
子供たちから向けられるその視線には熱い物が含まれていたから俺は引いた。
やってしまったのだ俺は。ここでマリの攻撃を全て何とも無しに捌き切った俺に対して、まるで特撮ヒーローでも見るかの様な眼差しである。
ここで一人、この中で一番年齢が高そうな少年が「俺も、あんなふうになりてぇ!」と、ラノベの熱血主人公なセリフを吐いて拳を強く握っていた。
(どうか俺に纏わりついて来ないでくれよ?)
ここでラノベのパターン的に言ってしまうとこう言った子供が俺の事を付け回してくるなんて流れもあったりする。
他にも挙げるならコレもまたお決まり的な、お約束的なパターンがある。
強さの秘密を教えてくれ、とか。自分とも模擬戦をしてくれ、とか。
憧れたから一緒に居させて欲しい、とか。その活躍を傍で見ていきたい、とか。
「そうだ!タクマには私が指導をしよう!そうしよう!あ、一緒に子供たちにも教えてあげる!マルドムだけじゃ無くて私も指導に加わればもっとしっかりと君たちの事を強くさせてあげられるね!効率が良いよこっちの方が。」
マリがここで変な事を言い出した事で俺はビックリだ。
子供たちに纏わり付かれる事の心配をしている場合では無かった。
(いや、だけどコレは良い機会・・・なのか?俺が正式な剣術ってのを習えばこの先に起きるかもしれない展開を回避できる要素になる?)
この世界に俺よりも強い奴が居ないとも限らないのである。
柔よく剛を制すみたいな、技術力Maxみたいな、そんな人物が出て来て俺と戦う展開になったりしないとも限らない。
そこでそんな場面で相手から「力だけだな。テクニック、駆け引きが、経験が足りない」とか言われる展開がこの先にあるかもしれないのだ。
「まあしっかりと習ってみるのも良いかと思ったりもしたんだから、コレは良い方向に流されてるって事で良いのかねぇ?」
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そうしたらキラキラした目で子供たちに見られながらの型稽古になってしまったのである。
(何で指導してくれているマリやマルドムをその目で見ればいいのに、そうじゃ無く俺なの?)
そんな疑問は子供たちに直接聞いてみない事には理由は分からない。
けれどもそれを聞くのが恐ろしかったので俺はその質問を口には出さないで黙々と剣を振り続けた。




