★★★後の事は任せました★★★
子供たちは全員が体を綺麗にされて、服も新たな物を用意されてソレを着ている。
しかし全てが同じデザインの非常にシンプルでお揃いのモノである。質素と言ってしまうのが正解なのだろう。
そうして子供たちもシーラルも、それとついでにアカルも広い客間に集められている。
全員が座れる椅子を用意できはしないので子供たちは恐る恐ると言った感じで床に敷かれたモッフモフの絨毯の上に体育座りで待つ。
下手な座布団よりも座り心地は断然良いだろうが、その心境はそんな事を言っていられない精神状態だろう。
借りて来た猫の様に子供たちは大人しい。恐らくは連れて来られたここが貴族の住む家だと認識しているのだ。
粗相をしてしまえばどうなるか分からない。そう言った緊張でヒソヒソ話なども起きていない。
床に何て座らせずに子供たちを立たせておく事も出来ただろうが、小さい子も居るのでそんな事をさせるのはちょっとだけ酷だ。
シーラルもアカルもこの子供たちの、孤児院の代表としてソファーに座って待機しているので子供たちを立たせたままと言うのもちょっと感じが悪くなってしまう。
そう言う事で子供たちは絨毯の上に座って待っているが、しかしその目にする物は色々と珍しい物ばかりなのでキョロキョロと部屋の中を視線があっちこっちに飛んでいた。
さて、ここに集められているのは他でも無い。侯爵家当主様が直々に今の状況とこれからの事を纏めて説明するからだ。
ここでドアがガチャリと開いて入って来たのは侯爵様だ。それと一緒にマリ。
俺はこの客間に孤児たちと一緒に居てソファーに座って待っていた。
ソレはシーラルとアカルの緊張を少しでも和らげておくため。
侯爵様が来る前に俺はこんな事を二人に言っておいてある。子供たちにも聞こえる様に。
『俺みたいな無礼な奴が許されてるんだから、二人や子供たちが無礼討ちにされる事なんてあり得ねーから。寧ろそうなりたかったら今の俺の態度よりもかなり横柄でふざけた態度をしないと無理だぞ?それ、できるか?』
無茶ぶりである。そんな態度をこの二人が侯爵様にできるはずも無い。子供たちだってそうだ。
子供たちは年齢相応に無邪気、と言った事も無く、どうにも冷静で世の中の事を良く解っていそうなのだ。大人びていると言っても良いか。
そんな子供たちがその俺の言葉を聞いて安堵したかは分からないが、多少は緊張感を取り除けている様に俺には見えた。
「さて、この度は災難だった様だな。ここには君たちを傷つけ様とする者は居ない。安心すると良い。さて、腹は空いているか?食事はまだこの時間だと早いので出さないが、菓子と茶を出すからゆっくりとそれらを食すと良い。」
子供たちに向けて優しい声で侯爵様がそう言っている。これに俺はおいおいと思って聞いてしまう。
「侯爵様太っ腹ですね。どういった思惑で?」
俺はそんな事を不躾に問う。これにギョッとした顔になるのはシーラルとアカルである。
その表情は「侯爵様に何言ってんだコイツ!?」と言った事を隠す気も無い程の解り易い顔だ。
その間にもメイドさんたちが茶と菓子の用意を始めてしまう。菓子の甘く漂って来る匂いに子供たちはそちらに集中し始めた。
食べて良いと言われたのだからそっちに注意が行くのは流石に子供だった。
大人ならばこれに警戒が先に立って菓子に真っ先に手を出す、などと言った事にはならないだろう。
失礼の無い様にと様子を見て菓子と茶を一口ずつ、と言った感じでゆっくりと時間を掛けて手を出す程度か。
しかし子供たちはそう言った部分が無い。良くも悪くも純粋だ。既に菓子に目が釘付け。
けれどもここでメイドさんたちが準備を終える直前に冷静になった子供がいる。
シーラルの事を「シーねえちゃん」と呼んだその少女だ。
「こ、こうしゃくさま、アリガトウございます、いただきます。」
怯えつつも、しかし、しっかりと、そんな礼の言葉を述べてから頭をぺこりと侯爵様へと下げた。
これに物凄くほっこりニッコリで侯爵様が「うむ、遠慮は要らんぞ」と告げる。どうやら子供好きの様子である。侯爵様の意外な一面を見た感じだ。
お菓子に意識を奪われていた他の子たちも慌てた様子でこれに「ありがとうございます」と頭を下げ始めた。
コレが一通り落ち着いた後に侯爵様は話始める。
「さて、ざっくりとこちらは話をしてしまっておこうか。細かい所は後々で少しづつ説明をして行けば良いだろう。私は城に務めがあるのでな。そこら辺の事はマリに詳しい説明はしてある。私がここに居ない時はマリを頼ると良い。では、先ずは私の口から直接に君たちの保護をしっかりと約束しておこう。これで安心したかね?」
侯爵様がそうやって「約束する」と口にした事にシーラルが心底に安堵したからか、その目から大粒の涙が滝の様に流れたのだった。
アカルが「良かった」と言ってシーラルの肩を優しく抱く。
「落ち着いたかね?ならば続きだ。何、難しい事では無い。君たちには証言をして貰うだけだ。孤児院のこれまでの経営状況、それと、支援金の打ち切りに関しての経緯をな。その後に試練場で襲われた話も聞き取りをする。シーラルとアカル、ソレが終われば二人の身は我が侯爵家預かりになる。」
「よろしくお願いします。」
シーラルは深々と侯爵様に頭を下げる。アカルも一緒にだ。
ソレに「うむ」と頷いて侯爵様は続きを話す。
「そしてその証言を元にして作られた報告書と手続き書類が出来上がり次第それを国に提出する。その内容が認められれば子供らも我が侯爵家で一時的に預かりとなる。その際には子供たちと面接をする。将来の仕事の事だ。どんな仕事に就きたいかを聞き取りしてソレを元に各孤児院に分散して割り振る事となるだろう。この事はシーラル、君が子供たちに説明をしておきたまえ。色々とやる事が多いだろうが、一つずつ熟して行けば良い。」
侯爵様はざっくりとした今後の話をし終える。これにアカルが質問をした。
「あの、子供たちの処遇は分かりました。けど、私たちはどうなるんでしょうか?」
かなり緊張気味にそう言ってアカルが侯爵様の顔色を窺う。するとこの答えが。
「アカル、君は挑戦者だったな?ソレを辞める気は無いか?」
「・・・へ?・・・あ、へぁ?」
全く理解が不能で追い付いていない、そんな間抜け面になったアカルが元に戻る前に侯爵様が続ける。
「マリの付き人にどうかね?そうだな、護衛兼、メイド、だな。いや、もしくは専用の護衛騎士でも良い。その代わりに鍛えて使い物になるくらいの腕前になって貰わねばならんので厳しい訓練を積んで貰う事になるだろうが。」
「えー?父上、ソレは止めてください。アカルは普通に私のお友達になって貰うんです。」
マリがここで口を出して来た。その内容もアカルにとってぶっ飛んだ内容である。
侯爵様からの説明も、マリが言った内容も、アカルからしていればどっちも普通じゃ無い、破壊力抜群の爆弾みたいなものだ。
取扱注意。今後の人生がどちらの選択肢を採ってもどうなるか先が見え無い、予測できないだろうから。
因みにこの二つはどっちも断る事は可能だろうが、アカルにその勇気があるとは見えない。悲しい事に。
しかもマリの方の「要求」を断った所でしつこくマリが言い寄る光景が目に浮かぶ。
侯爵様の方の提案も断ったらソレもソレで貴族に睨まれ無いかと不安に思ってアカルは拒否する言葉を言え無いだろう。
「シーラルも一緒に友人になって貰う予定だったんです。父上、まさかシーラルにも同じ様な提案をする気だったんですか?」
マリがここでシーラルの事も友人発言した。これにはシーラルも驚いている。油断していたんだろうその顔は一気にギョッとした表情に変わっている。
(考え方がおかしいんだよなぁマリって。いや、貴族って言うのはデフォルトでこんなぶっ飛んだ考え方するものなの?マジで?)
俺には信じられ無い思考をしているマリである。しかしコレがマリだけの事なのか、貴族令嬢と言うのがこういったぶっ飛んだ思考をするのが普通なのかは、俺には分からない。
ここで俺はツッコミを入れてこの話をぶった切る。
「おい、そこら辺にしておいた方が良いぞ?アカルが今にも泡吹いて気絶しそうだ。」
余りにも目の前で勝手に話される自身への処遇に理解が追いつかずにどうにもアカルは脳味噌がぶっ飛び寸前である。
こんな展開が自らの人生にやって来るとは夢にも思っていなかった事だろうからしょうがない。
庶民と言った立場の者がこうしてお屋敷に上がって貴族とこんな近くでやり取りする事を想像もしないだろうから。
俺は心の中で二人に「お気の毒様、仲間だね」と独り言ちた。
マリのこの強引?な対応は最初に俺も受けている。その洗礼を今アカルもシーラルも受けているのだ。その心情は察して余りある。
こうしてアカルが落ち着きを取り戻すまでは会話を止めて茶を飲んで時間を潰す事となった。
これ以上に勝手に何かと話が進むとアカルがプレッシャーで壊れてしまう。
シーラルもマリの「お友達」発言で固まってしまっているのでソレが治るまでは少々の時間が掛かりそうだった。
「しーねえちゃん、おしっこ。」
ここでこの空気を変えたのはあの少女だ。茶と菓子を頂いてどうやらトイレに行きたくなったらしい。
「よし、では今日の話はここで終わりとしよう。いきなり追い出したりはしない。良く考えて答えを出してくれ。断られたからと言って怒る事は無いからな。将来の事を良く考えてみてくれ。時間はある。納得のいくまで悩むと良い。」
侯爵様はそう言って出て行く。ここでシーラルが正気に戻ってソファーから立ち上がり、深く頭を下げてコレを見送る。
今日と言う日はこの後何事も無く時間は過ぎた。
子供たちへはシーラルが丁寧に今後の事を説明。
アカルはうーんうーんと頭を抱えて悩み続け。
マリはどうやら今日の残りの自身の仕事を片づける為に別行動。
そして俺はと言うと。
「うん、やる事無い。寝ちまうかなぁ。」
因みに、ベラは俺が魔石をニ十個ほど与えて放置しておいた。孤児院の事も、シーラルとアカル、それと子供たちの処遇の事も、別にベラは「どうでも良い」と言っていたから。
なので俺の目の届かない所で何かと問題を起さない様にと思って魔石を渡しておいたのだ。きっとどこかで魔石を飴の様に食して大人しくしているだろう。
「何かしらやらかしてたら即刻処分だな、うん。はぁ~、それじゃあ何だかもう疲れたし、寝ちまおう。」
久しぶりにベッドで寝る。一応はこれで一通りの問題は侯爵家に与って貰えた形になった。
もう俺が何かとこれ以上に積極的に動く必要は無いハズだ。そう、無いハズ。
取り合えず暫くはこの屋敷に引き籠っていればいいだろう。
試練場でベラに気絶させた奴らが俺の顔を覚えていたりして、下手に屋敷外に出た際にもしもそいつらと遭遇する様な事があれば面倒だ。
この屋敷から動く時はそれらの事が片付いてからになると思う。それまではゆっくりとここで気楽に世話になっていればいい。
こうして俺はその後、三日間をこの侯爵邸でゴロゴロして過ごすのだった。




