★★★これからも侯爵様、お世話になります★★★
順を追って経緯を話すのは大切な事だ。俺がソレをしていない、侯爵様が先に結論を求めた事で色々な部分をスッ飛ばしてしまっているからこんな状況なのである。
なのでここで少しづつ俺は今回の流れを説明する事にした。しょうがないと思いながら。
十五階層から順調にニ十階層へ。そこでニ十階層のボス鹿との戦闘、勝利、一本道の大玉が転がって来る流れ。
広大な何も無い空間の罠とモンスターハウス。規則性はあるが、色々と通路が組み替えられるギミックでコチラの行く手を阻んでくる迷路。
そこからの三十階層で出会った相手がこの「ベラ」だった事まで話し終えてから俺はここで一旦区切りを付けた。
「ここまでで何か聞きたい事、御質問等御座いましたらお伺いします。どうです?」
「・・・何から聞いて良いやら分からんよ。心労が増えるばかりだ・・・私だけで解決できそうな問題では無いな。うん。国王陛下に話を持って行かねばならん案件だと判断する。これは、参った・・・」
「あ、俺はソレに同行する気は無いんで今疑問に思った事は全部聞いておいてください。呼び出されるとか、一緒に謁見しに行くとかあり得ないんで。面倒臭い。こうして説明してるのもギリギリ侯爵様だからってなもんで。こうして世話になってるし、教えておかないと不義理かな?って感じだからですので。一宿一飯の恩、だけじゃ無く、結構お世話になっちゃてるし?みたいな?」
「有難い、事だな・・・うむ、そう思ってみてもやっていられ無いな・・・」
どうやら相当なショックを受けている侯爵様だったが、俺はその背景を全く知らないのでどうしようも無い。
慰めるなり、励ますなりと言葉を掛けてやれればいいのかも知れ無いが、気の利いたセリフは思いつけない。
侯爵様が何に対して「やっていられ無い」のか?それは本人のみぞ知る。
そこで何も知らないのに無責任に「頑張れ」とか「大丈夫だ」などとは声を掛けれる訳も無い。そんな事を口にしたら流石の侯爵様もキレるのでは?と俺は愚考した。
で、ここで空気読まない系のマリが言及してくる。こいつは誰ぞ?と。
もちろんその対象は「ベラ」である。
「この子はそもそも一体じゃあどんな存在なんだい?」
ここで俺は誤魔化す気が一切無かった。既にもう三十階層に居たのがベラだと説明しているのだから。
後々でベラの正体が世に知れ渡った時に、俺以外が何も知らなかったなどと言った状況だと責任を負うのが俺しか居なくなってしまう。
何で何も言わなかったのか?と周囲から責められるだろうその時は。
なのでここで責任分散の為にも侯爵様やマリに「聞かせちゃえ!」と言う事で俺は爆弾をぶち込む。
やり方が汚いと後で責められようとも。
「誰が見ても只のチッコイ少女にしか見えないだろうこいつは実際には「蜘蛛の化物」だ。この今居る部屋なんかよりも全長も全高も大きいな。」
「え?」
今回の二度目の沈黙である。いや、既に一名気絶寸前な人物が居る。神官少女である。
この場にてこの娘だけがベラに対してその見た目に騙されていなかった。
何がしかを察知してずっと警戒をしていたのだろうと思う。
ソレはベラが邪眼を使用した時なのか、或いは一目その姿を見た瞬間からだったのか。
けれどもここに来て我慢も限界だったのだろう。色々な重圧に押し込まれて意識を手放しかけている様子であった。
俺がベラのその正体が「化け蜘蛛」であると暴露した事もその一つの要因となっているみたいである。
赤髪の方はと言うと既に逃避の彼方へと旅立っていた。
自分には関係無い、そう暗示を掛けているのか「ははは、夢だ、幻だ」などと小声で呟きつつ焦点が合っていない目で虚空を見つめていた。
コレはベラの正体の件だけでなく、試練場が三十階層しか無いと言った事実も含んでいると思われる。
それと侯爵様の執務室、そのソファーに座っている緊張感もあり、恐らく現実を受け入れられていない模様。
自分たちを襲って来ていた悪党どもが目の前で突然死している事も相当にストレスだったのだと思う。ソレを今思い出しているんだろう。「あ、私も死ぬのかな?」そんな事を遠い目をして呟いていた。
「ハハハハ。まさかタクマからそんな冗談が聞けるとは思っても見なかったよ。そう、冗談なんだよね?だってこんなに可愛らしいんだよ?有り得ないよー。・・・ねぇ、冗談だって、言って欲しいな?」
マリがここで俺に「冗談だと言ってよ」と縋ってきた。
俺がこんな事でふざけたりはしないとしっかりとマリは分かっているんだろう。
「悲しいけど、コレ、現実なのよね。」
そう、俺だって余り信じたくは無い。けれども世の中って言うのはこっちの都合など御構い無しに残酷な現実って言うモノを押し付けて来る。
ここで「ファンタジーなんて何でも有り」と思っている俺はまだ心に受けるダメージは少ない方だろう。この世界の人たちから比べたら。
だから侯爵様がここで必死になって絞り出す。
「証拠は?」
そう、人と言うのは自分のその目で見たモノしか信じない。言葉だけでは信じ切れない。
百聞は一見に如かずは真理である。
だけども俺はここでしっかりと、はっきりと告げなくてはいけない。
「ベラの本当の姿見たいんですか?止めといた方が良いです。おすすめは絶対にしません。後悔します。心に傷を負いますよ?それでも?」
俺は心の底から、真剣に侯爵様にそう忠告をした。
しかし立場上は確かめねばならないのが悲しい。侯爵様は一瞬俺のその言葉にビビりながらも「うむ」と頷いた。
「侯爵様、俺の話をホラ話として切って捨てるなら今の内ですけど。・・・そうですか。じゃあちょっとベラと相談しますね。」
俺は侯爵様がトラウマを抱えない様にと気を遣う事にする。
責任問題を分散させようと思って確かにこんな話を振ったのだ。相手を「傷付けよう」と思って話した訳じゃ無い。
ましてや敵対したいとか、ベラに対しての討伐隊を国に編成させようとしてこの話をした訳じゃ無い。
「一応言っておきますと、ベラがもし暴れて被害を出す様な事があれば俺がその時にはちゃんと始末を付けますんで。こいつは観光するつもりでこうして出て来たんで暴れるって事はそもそもしないと思いますけど。俺もちゃんとこいつには注意をしろと言ってありますので。安心は出来ないかもしれないですけど、安心してください。」
矛盾を俺は口にしてから侯爵様に別室に移動して貰う様にする。そこで俺とベラも一緒に移動した。
マリも、ましてや赤髪、神官と、女性陣には刺激が強過ぎるベラの正体は見せられない。
あくまでもベラの正体に対して「証拠」と追及して来た侯爵様だけにこの場は見て貰う事とする。
そして侯爵様に見せるのは「化け蜘蛛」状態では無い。そんなのを解放させたらこの屋敷が壊れる。
なので見せるのは背中に「蜘蛛の脚」が生えた状態のベラである。
そして別室にて俺の監督の元でベラのその姿を見てしまった侯爵様の顔は思い切り蒼褪めていた。
そうして元の部屋に戻って来た侯爵様の顔色を見てマリが「本当なのね」と呟いた。
「さて、ここでちょっとコレ見て貰って良いですか?何かにこれって使えます?」
俺がここで出したのはベラの「脚」である。そう、あの三十階層の玉座の間で散々俺がベラから斬り飛ばしたあの「脚」である。
それを全て俺はこのマジック小袋に余さず回収してあるのだ。何かに使えないかな?と思っての勿体無い精神である。
「・・・我が侯爵家で買い取ろう。こんな物をホイホイと世の中に放出されるのは勘弁だからな。」
俺の出したこの「脚」が元はベラのモノだった事を侯爵様は察している。先程にコレを見たばかりだからだ。
だけども俺はここで注意事項を説明する。
「あの、大量にあるんですけど。それらを全部買取、ってのは恐らくは無理かと思うんで。」
侯爵様に盛大な溜息を吐かれた。「どんな経緯で大量になどと・・・」その口から洩れている。
しかし深い所は聞かない事にした様で侯爵様が俺に問う。
「で、何が望みかね?」
侯爵様は敢えて何も具体的な説明はしない。たった一言だけ。
大量にあるこの「脚」を全て金銭では買い取れ無いだろうと言う事で、その他の事で支払いに相当する望みがあるなら言えと侯爵様は俺に言いたいのである。
「えーまあ、今後もお世話して貰っても良いですか?あ、先ずは取り合えず最初は三本ほど出しておきますね。全部出してもこちらで保管保存は難しいでしょうし?この袋の中に入れておけばそこら辺の解決はできるんで必要になったら言ってくれれば直ぐに出します。あ、それと、こっちの二名の保護もお願いに入れて貰っても?」
「・・・良いだろう。で、その二人は一体?いや、オマケだと言っていたな?ソレは何だと言うのか、説明はしてくれるのだな?」
交渉成立だ。俺はこうしてこの二人との出会いを説明する事に。
まあ説明と言っても簡単にざっくりと、簡潔に先ずは言ってしまう。
「試練場内で犯罪者集団に襲われていた所を助けました。その時の奴らの半分?はやっちゃったので良いんですけど、残りの半分が生きてるんで、そいつらから匿ってやってください。」
これにマリと侯爵様が呆れた顔になった。そう、コレは挑戦者組合に持ち込むべき案件だと。
だけども俺が次に告げた数でちょっとだけ侯爵様の表情が曇る。
「そいつら数が十五名以上だったんですよ。だから、そいつらの仲間ってもっと多いかもしれないんです。そうすると、組合の方で対処できるのかな?って思う所がありましたので。しかも婦女暴行に誘拐、殺人、なんでも御座れ、みたいな感じだったので多分ヤバい集団だと判断しました。組織的な犯行?って言うか。何て言うんですかね?慣れてましたよ、そいつら。」
「報復から守ってやれ、そう言う事かね?」
「うーん?殺したのは俺みたいなものだし、別にそう言った事では無く、何て言えば良いんですかね?こう言った場合?まあこの件がきっちり片付くまではこの二人は外に出歩かない方が良いでしょうから、この屋敷で世話してやって欲しいって感じですね単純に。奴らが報復だなんて言ってくれば俺が対処しますよ。そいつら殺したのはまあ、ベラなんですけど。」
「うむ、その時はまた我に任せれば良い。報酬は魔石で良いぞ?」
ベラがここで口を挟んで来た。まあ試練場内で奴らを殺す際にベラの邪眼に頼ったので今後もそう言った事があったらベラに頼むのが簡単だ。
「あんまり調子に乗るなよベラ?お前もう散々食ってるんだから控えろよ。お前の力を使うのは確かに便利だし簡単だけどさー?試練場内で見てる奴らが他に居なかったから良かったのであってだな?こうして外で、誰の目があるかも分からん所でお前がそれ使うと、もしかしたら、ほら、そっちの神官?のお嬢さんみたいな奴が見ていないとも限らんだろ?そうなったら教会が黙ってないかもしれないじゃん?鬱陶しくなるぞ?その展開は?」
「ふむ、何とも面倒だな。全く、これでは窮屈でしかないでは無いか。もっと自由に動き回るつもりが。屑どもを蹴散らして魔石食べ放題だと思っていたのだが。」
「お前、油断も隙もあったもんじゃ無いな。そんな事考えてたのかよ。」
俺より過激な思考をベラがしているのは別段おかしい事じゃ無い。
言葉が通じるとは言っても、意思の疎通が可能だと言ってもだ。こいつは所詮人では無い。化物である。
その思考の根底がソモソモ全く違う存在であるからして。
「・・・ねえタクマ?その問題の二人が、その、ね?何故か気絶してるんだけど・・・」
マリのこの一言でそちらに意識を向けてみたら赤髪少女も神官少女もその意識を手放してぐったりとしていた。




