★★★難しい説明★★★
もちろんそれは侯爵様の御屋敷だ。俺は門番に以前に侯爵様から貰った証明証を見せてこう言う。
「侯爵様に取り次いで貰って良いですか?ちょっとね、重大な話があるんですよ。」
俺たちの事を訝し気に見て来る門番だったが、しかし俺の見せた証明証が本物だと理解して連絡役を屋敷へと走らせる。
そこで戻って来たのは案内人の執事やメイドでは無かった。マリだ。
「タクマ、おかえり!かなり長い期間試練場に入っていたよね?その話を私も聞かせて貰って良い?父上に話すのはその試練場での報告なんでしょ?それと、その三人も紹介して欲しいかな?」
嬉しそうに、楽しそうに、爽やかに、そう言って出迎えにきたマリのその表情は心底笑顔だ。
ここで俺は内心で安心をする。マリは俺に対しての恋愛感情など無いと。
この笑顔が単なる興味を引かれたからに因るものだと察する事が出来たから。
ベラにも少女二名にも嫉妬を見せている訳じゃ無い事で「ハーレムルート」に入る事も無いだろうと。
(そんなのになろうモノなら、マリが中心になるだろうからな。大丈夫だ、可能性は低い)
赤髪の方も神官の方も、両方「ヒロイン」って感じはしない。
まあコレは俺の個人的な感想と言った曖昧で根拠の無いモノだが。
こうして俺たちはマリの先導で侯爵様の所に案内される事に。
因みに俺はこの侯爵邸の門前に到着後の直ぐのタイミングでベラに「余計な事を言うな」と言ってある。黙っていてくれ、と。
紹介する際には俺が何とか穏便に済む様にと説明をすると約束をしているのだ。
もしうっかりとベラが高慢な態度で言葉を吐き出せば、ソレが誤解となって連鎖して取り返しの付かない所まで転がっていきかねないと伝えてある。
その時には覚悟しろ、と。国がベラの正体を知ってもし討伐軍を出そうものなら俺は国の方に付くと。
ここではマリにもしっかりと伝えておいた。俺が連れて来たこの三人の事は後で説明と紹介をするからマリからこいつらの事を追及をして来るな、と。
そもそもベラは別として、この二人は今、物凄く緊張してカチンコチンである。
なので「お話にならない」と言った事はマリもこの時には察してくれたのでコレを直ぐに了承してくれていた。
なので後は俺が差し当たって侯爵様に説明する際にズッコケないだけで良い。
そう思うと今の所でこの選んだルートは順調と俺は判断する。
少々の賭けだったが、俺はこの展開に「勝ったな」と独り言ちる。もちろん心の中だけで。
「父上、私です。タクマが帰ってきました。何やら重大な報告があるそうです。入っても宜しいですか?」
執務室だろう部屋のドア前でそう言ってマリが入室の許可を得ようと声を掛けている。
ソレに対しての返しが「入れ」と言った一言だった。
しかしこの一言には物凄く疲れが込められている様に俺には聞こえている。
今はそんな事は関係無いので許可も下りた事だし俺もマリもその部屋へと入る。
これに続いてベラも入って来たのだが、残りの二人の少女が入って来ない。
入り口前で硬直したままで一歩を踏み込んで来ようとしてない。
「・・・そこの二人、中へと入りなさい。別に君たちの態度がどの様なモノになろうとも機嫌を損ねたりなどはしない。こんな状況ではな・・・」
俺を見ながら侯爵様はそんな事を言う。しかもその顔からは「今度は何だ」と言外に伝えて来ている。
だから俺はあらかじめここで言っておかねばならない。
「試練場の事で非常に重大な事が判明したので。俺だけが抱え込んでいられない、結構な厄ネタだから報告しようかと。・・・聞く気はありません?」
「いや、すまない。聞く。その三名もその話に関わっているんだな?」
「あー、こっちの小っちゃい少女の方がその本命で、向こうの二名はオマケなんですけど、ちょっと見逃せない案件だと思いまして。俺の都合も兼ねてこっちに匿って欲しいなって。スイマセンネ、勝手にこんな事。」
俺の返しに侯爵様は増々その顔に苦いモノを浮かべたが、マリがここで口を挟んで来た。
「タクマの御願いなら私が聞こう。そっちの二人の事は安心すると良いよ。父上で無く私が請け負うからさ。良いでしょう父上?」
マリが明らかに下心込みの笑顔を父親の侯爵様に向けている。
だから俺はここでツッコまねばならない。
「で、そのココロは?」
「うん!こんな機会滅多に無いからね!私のお友達になって貰おうかと思って!」
元気一杯に、子供の様なはしゃぎようで、はっきりと答えるマリ。
侯爵様がこれに大きな溜息をついて「好きにしなさい」と告げるだけ。
当の挑戦者少女二名の意思はそこに組み込まれていない。
これにはギョッとした目でマリの方を見ている少女二人は何事が起きたのか完全に呑み込めずに余計に体を硬直させている。
「早い所話を進めんか?このままぼーっと突っ立たせる気かおぬしらは。」
ここでベラが口を挟んで来た。用事を終わらせんかい、と。
「じゃあ、ハイハイハイ。二人とも、中にいい加減入って、そこに座って。ハイハイハイ。」
俺は入り口前に立ったままの二人の背中に回り込んでソレを押し、無理やりに中へと入らせる。
そしてソファーへ誘導、そのまま着席させた。二人は困惑したままだったが、ソレは無視である。
どうせ落ち着かせるのに時間が掛かるならそのまま困惑したままでも、説明をするのが俺であるからして邪魔にはならないだろう。
ベラもそのままソファーに座るが、ソレは神官少女の隣である。
(おい、分かっていてコイツそこに座りやがったな?)
俺のそんな内心のツッコミなど口に出さねば伝わらないが。今はソレを言わずとも良いだろう。
侯爵様への話を先にしてしまった方が事が早く済みそうだ。
しかしベラに隣に座られたその神官少女は息をするのも困難と言わんばかりな状態になっていた。
俺はこれには「呼吸困難で倒れる」と判断してベラを担ぎ上げてその席から外す。
そのタイミングでマリが赤髪少女の隣に座った。こちらもまた赤髪が緊張でカチンコチンになってしまって呼吸が難しそうになっている。
なのでここでも俺は助け船を出してやる。二人に酸欠で倒れられたら話がそれこそ進まない。
この二名に後で証言をさせるのだから倒れられたら困るのである。
「こっちに座れ」と言うジェスチャーをするとマリが隣の赤髪の方を向いてから何かを察して俺の隣に座りに来た。
取り合えずベラはそのマリの隣に座らせてやっと話が始められる態勢になる。
「えー、少々時間は掛かりましたが、侯爵様、良いですかね?」
この一連の流れを眺めていた侯爵様は呆れた顔であり、その手は眉間の皺を揉み解す動きを取っていた。
「先ずは一気に結論から述べて貰っても良いか?私はこう見えても忙しい身でな?その話の内容が私では無くマリにでも解決が可能なら全てをそちらに任せるつもりだ。」
「あー、そうですか。じゃあハッキリ言っちゃいましょうか。俺の潜っていた試練場、三十階層までしか無かったです。それと、その階層に居た主はここに座っている、あー、その、正式名称は長いので略させて頂きますが、俺の命名で取り合えず「ベラ」と名付けた少女が、それです。」
「・・・は?」
このリアクションはこの場に居た全員が同じであった。
まあ信じられ無い事を俺が言っているのは理解できる。
俺だって信じられ無い事を、この世界の住人が知って困惑しない、混乱しない訳が無いと思うし。
この世界のこれまでの常識ってのを真正面から、あらゆる方向からぶち壊す報告をしている自覚はある。
「けど、これって現実なのよねぇ。」
俺のそんなふざけたボヤキだけが静かになった執務室に響いている。
此処には侯爵様の仕事を手伝う為のメイドやら執事も部屋の隅に待機していた。
だから今の話をその者たちも聞いてしまっているのだ。そんな召使たちは表情には辛うじて出していないが、その内心は同じく「は?」だっただろう事は察するに余りある。
ここでその沈黙を破ったのは流石の侯爵様、では無く、マリだった。
「タクマ、それってどう言う事なの?冗談では・・・無いよね、うん、そうだよ。タクマの目的を考えると嘘をつく理由が何も無いしね。そっかあ、本当なんだね・・・」
俺の方を向いてしみじみと頷くマリはもしかして侯爵様よりも人間性がでっかいのだろうか?人としての器が深いのだろうか?
理解が早くて助かるが、しかしここでマリだけが納得しても相談にはならない。
俺がここで欲しているのは侯爵様の「お力」ってやつだ。それを使って色々と穏便にこの事を広めて欲しいと言う所があるのだ。
ベラの事は一旦ここでは保留である。俺が何かを求めればその時その時でベラはソレの対価に魔石を要求してくる程度であるから対処はし易い方だ。
だから対処をお願いしたいのはこの「三十階層しか無かった」と言う部分である。
「やっぱ俺ってここにお世話になっているし?こうした報告って大事だし、必要ですよね。隠し立てする理由も無くて、黙っている気にもなれなかったんで。相談できる相手も侯爵様しか居ないんでしょうがない部分が大きいじゃ無いですか。だからそんなめっちゃ渋いモノ口に入れた様な顔されても俺には何とも言えんですよ。」
「・・・君の言った事は、確かめねばならんだろう。だが、それは、正直に言って貰いたいのだが。君の目で見て騎士団の力量で最下層の、その、三十階層まで潜るのは可能な事だと言えるかね?」
「疑わないんですか?俺の言った事?」
「君の持って来たこの情報を疑って見逃しても利益は何も無い。それくらいなら騎士団総出でその件を確かめる為に試練場に突入させた方が良いな。今の停滞した状況を変える切っ掛けにもなる。・・・いや、潜ったと言える証拠になるだろう物を示せるかね?そもそもが、そこな少女が三十階層の主と説明されても、誰もソレを信じる事は無いだろう。そっちの方の証明も出来るのか?」
しょうがない事だ。証拠を出せと言われる事は想定内だった。
だから先ず一つ目を出す。ソレはあのニ十階層で得た青いマントである。
俺はマジック小袋からソレをひょいと取り出して侯爵様に渡す。
「スイマセン、それ途中でポンスさんに会ったんですけど鑑定して貰うのすっかりと忘れちゃってて。どんな効果があるとか調べられて無いんですよ。あ、もしかして只の何の効果も無いマントとかだったりする可能性もあるのか。別に試練場から出た代物だからって言っても、全部が全部「特殊効果付き」じゃあ無いかもしれないですよねぇ。」
今更ながらに気付いた部分を口にする。それに続けて「あ、それ良かったら差し上げます」と言っておいた。
これからも俺はこの侯爵邸でお世話になるつもりだったので、その代金変わりとしてこのマントを渡す事に決めていた。
侯爵様がコレに疲れた様子で「コレは?」と聞いて来たので素直に返す。ニ十階層の主を倒した時に出て来た物だ、と。
ここまでずっと俺と侯爵様とのやり取りを聞いていた挑戦者二人の少女は何時の間にかその顔が「宇宙猫」になってしまっていて話に付いて来れていない様子だった。




