★★★こいつのせいで★★★
「こいつは何者だ・・・言うつもりは、無いのか?」
殿下がゆっくりと剣を引きながらそう俺に向けて問う。
「だから言っただろうが。知らない方が良いって事は世の中には幾らでもあるって。殿下、調子に乗り過ぎだろ。自分には知る権利があって求めれば何でも誰もが情報を開示すると思ってたか?ソレにそちらには関係が無いって事も注意したよな?大量に脂汗掻いてる癖にまだそこまで強気で居られるのは寧ろ尊敬できる部分かもしらんけども。でも、これで解かったろ?まだ絡まれなきゃならんか?」
「・・・行け・・・」
「最初っからそう言っておけよな、全く。要らん恐怖を抱え込んだのは俺のせいじゃない。殿下自身の驕りだぜ。もっと謙虚に今後は生きてくださいよ、迷惑だからな。」
「貴様の余計な事を口に出すその態度が気に食わん。さっさと行ってしまえ・・・」
俺はベラにハンドサインを送ってもう殿下に構うなと言った指示をだした。
コレを見てベラは鼻で殿下を笑ってから俺の後に付いてくる。その姿はもう既に殿下を気にしちゃいない。気にも留めない、眼中に無い。
俺はもう何も言う事無くこの十階層ボス部屋を出る。振り向く事も無い。
ジェーウ達にも何ら別れの挨拶もせずに真っすぐ進む。それで余計にこの場に引き止められでもすればまた面倒そうだと思って。
「全く、あの様な者は何時の時代も、どんな場所にも居るものなのだな。ああいった者たちとは無駄に関わらん方が良いのは確かだな。我との格の違いも察せずに斬り掛かってこようとは。呆れてモノが言えんかったぞ?」
ボス部屋を出て暫く進んでからベラがそうぼやいた。
これには俺もツッコミを入れるしかない。
「お前今の自分の姿を棚に上げて何を言ってるんだよ。でもまあ、暴れないでくれて助かった。アレで殿下をお前が殺していたら即座に俺がお前を殺さなきゃいけない場面だったからな。」
「ふん、あの程度は殺す価値も無い。だが舐められても業腹だからな。我を殺す気で剣を振り抜いて来ていたなら一瞬で命を刈り取っておったわ。」
「おい、ベラは今後、殺しは禁止な?」
「おい、あの様な場面が今後もそう何度も起きると思っておるのかお前は?有り得ん有り得ん。我は何処からどう見ても可憐な少女だろう?そんな相手を先の様にすぐさまに剣を抜いて斬り殺そうとする者が何人も居るものか。心配は無用だろう。」
「おい、そう言うのをフラグって言うんだぞ?と言うか、お前自分でその姿を可憐とかぬかしちゃうのはどうかと思うよ?」
そんな下らない会話を続けつつひたすらに進む俺たち。試練場内に長く留まっているつもりは俺には無い。
さっさと外に出てここの試練場からはおさらばしたいのだ。
(他の試練場にも入ってみて検証をしなくちゃいけない事が増えたしなぁ。ベラの事、侯爵様に紹介しなくちゃ、ダメか?隠しておいた方が良いよな絶対に)
でも今俺が世話になっているのは侯爵様の所である。
殿下には「関係無い」とか言っちゃったが、俺がこのまま侯爵様に世話になる気であるならばベラの事をどんな風に説明したら良いか分からない。
コイツは俺に付いて来ると言ってきている。ならばこのまま侯爵邸にまで来るという意味である。
(手土産の一つや二つで受け入れてくれるかね?)
俺は二十階層で得た青色のマントを思い出した。そしてポンスに鑑定をして貰っておけばよかったと今さらになって思い至る。
十階層に今から戻るのはバツが悪いのでこの場は諦める事にする。
(このマントを差し出すにしたって、後で侯爵様がポンスを呼んで鑑定させるだろうしな。俺が一々そこまでしないでも勝手に向こうがやる事か)
そんな事を考えて進んでいると五階層に。そこで例の部屋へとやって来た。そう、あの帰還の魔法陣である。
この試練場の低階層は他の挑戦者たちが居て、俺だけならまだいいけれどもベラが今は居る。
奇異の目で見られて有名になってしまうと後々にどんな絡まれをされるか分からない。
なのでここで一気に地上に戻ってしまおうと思ってここにやって来たのだが。
「・・・あれ?反応しない、だと?」
俺は「鍵」に魔石を嵌めてから例の穴にコレを差し込んだのだが。
「一体何をしておる?ここは一体何の部屋なのだ?何も無いでは無いか?」
「いや、ここは一気に残りの階層を無視して地上に戻れる魔法陣なんだけどなぁ?何で動かないん?」
「ほほう、この壁のが、か?・・・ああ、そう言う事か。我のせいで稼動せなんだわ。」
「は?なんだって?」
ベラが原因を理解している模様で、しかもそれがベラ自身のせいだと言う。
「我の力が干渉しておる様だぞ?それで不具合を起しておるらしい。」
ベラが顎に手を添えてフムフムと勝手に納得している。なので俺はここで追及してみた。
「それは何となく分かった感じなのか?原理とかは?解消するには?使える様にするにはどうしたら良いのかも解かるか?」
「うむ、我がこの部屋から出るだけで稼動はするだろう。この部屋はどうやら特殊な結界が張られている様だしな。妙な力を感じる。だけども動いている最中に再び我が中に入れば恐らくはまた起動不全に陥るだろうな。」
「おい、ダメじゃねーか。」
魔法陣で一気に出る作戦は破綻した。ベラがこの魔法陣をどうにも利用できないと言う根本的な部分で。
「うぬぬぬ・・・絶対にこれフラグが起つし、地雷踏む展開じゃねーかよ。完全に。」
そもそも十階層で殿下にあんな風に絡まれているのだから、低階層で活動する挑戦者たちが同じくベラに目を付けて絡んでくる事は必須、予定調和、回避不可能、必然、運命である。
「くわぁー!面倒クセェ!ベラ!ホント勘弁してくれよな、もう!」
「何を勝手に苦悶しておるか。ソレを全部我のせいにするでないわ!」
「いや、お前のせいだろ!お前が俺に付いて来るからこんな無駄な事に悩まなきゃならねーんだろうが。」
「ソレをお前が納得していてこうして今なのだろう?ならば嘆くなら自分自身に対してやれ。こちらに一方的に責任を擦り付けようとしてくるで無い。お前にも責任の一端はあろうが。」
「あークソ・・・現実逃避してぇ・・・」
言い返されて上手い返しが出来ない。ベラの口にした事は正論だ。
そもそもそこまで心底に面倒な事を厭うならば、俺はあの三十階層で「化け蜘蛛」を容赦無く殺せば良かっただけだ。
ソレをしていない時点で俺は何も言える資格が無いと言う事になる。
ここで俺は魔法陣を使う事を諦める決心をする。しょうがない事である。使えないモノはどうしようも無いのだ。
ここで俺は面倒だと言ってはいるが、そもそもソレは試練場内だけでは無い。ベラを連れていれば今後もずっと、もっと厄介な事になりそうである事など容易に想像が出来る。
本当は連れて行きたくは無いと言うのが本音だが、しかしこいつに自由を与えていた場合に発生する問題や被害を思えば放置は絶対に出来ないだろう。
(俺がこいつを殺していれば悩まなくて済む事だったんだろうけどさー?)
俺にはあの時ベラから得たい情報があったからこそ、あの場で迂闊に殺しは出来なかったのだからしょうがない。
「あー、これ取り出せるのか?・・・お?飛び出て来た・・・」
穴に嵌め込んだ「鍵」が取り出せないかとソレを押し込んでみれば、何故か「かちゃり」と言った感触が指に返って来る。そしてその後に押さえていた指を離せば「鍵」は飛び出して来た。
この穴の中の奥には別にバネの仕掛けが仕込まれている様には見えなかったのだが、ご都合主義万歳である。
「おおう、ピッタリ嵌まってたから取り出せなくなっちゃたかと焦ったぜ。さあ行くか・・・の前に。そうだな、休憩するか。」
この試練場を出るまでにどれだけの数の挑戦者に声を掛けられるかを思うと精神的疲れがドッと俺の肩にのしかかって来た。
俺はこの重い荷物を振り払う為の時間が先に必要だと思って休憩を取る旨をベラに告げた。
水分補給、それと小腹を満たして三十分程の休憩を取った所で部屋を出る。覚悟を決めて四階層だ。
絡まれた際のシミュレーションをしてどの様な対応でそう言った奴らをスルーしていくかを考えておく。
だが悲しいかな。そう言った事前準備は大抵本番では役に立たないモノである。
「おい、待ちなそこのニーチャン。そんなメスガキ連れてこんなトコに来るたぁ、俺たちを馬鹿にしてやガンのか?あぁぁん?」
五人組が俺に絡んで来た。そこは三階層のちょっとした広場になっている場所だった。
四階層では運良く?挑戦者には出会わなかったので「いけるか?」と思っていた所にコレだった。
「バカにはしていない。ソレに連れて来た訳でも無い。そこら辺は簡単に話せ無い事情ってモノがあってな。あんたたちには関係の無い話でもあるから、ここは気にせず通してはくれないか?」
「舐めてやガンのか?事情を話せない?へっへッへ・・・面白そうじゃねーか。その関係無いってのを聞かせてくれるまでは通してやらんぜぇ?」
クソ面倒なクソ馬鹿を引いてしまった。俺はこの時そう心の底から思った。
だけど我慢した。穏便に、なるべく穏便にと。俺がここでキレたらベラが「暴れても良い」と早合点して来るかもしれないと思って。
「得が無いんだ、アンタらには、この話をしても。ソレに俺たちは急いでるんだ。そこを退いてくれ。」
「ははははは!ならそこら辺の退いて欲しいって「お気持ち」を形で見せて貰わんとなぁ?なあ?お前ら。」
このお気持ちって言うのは「通行料を払え」である。言外にそう言ってきているのは明白だ。
(おいおい、自浄作用はどうした?この程度は日常茶飯で見逃されてるとでも言うのか?それともこいつらが糞、なのは決定として)
この五人組が俺の事を「気に食わ無い」と思うのはしょうがないかもしれない。ベラを見て「試練場に子供を連れて来ている」と、確かにそうであるとしか言えないから。
だけどもそこは「やむにやまれぬ事情がある」と俺は伝えたのだ。それを知ったら「厄介事に巻き込まれたくない」とか「面倒事は御免だ」と、そこはスルーする所では無いのだろうか普通は?
それとも見ない顔だからと言って先輩風吹かせて「教育的指導」などと言って意地の悪い事をしてストレス発散してもバレないと思っているのか。
どちらにしろ今この五人組が全員ニヤニヤ顔でベラを見ている事からしてこいつらが心底の屑、とまではこの時点で判断できずとも、最低限クソな性格をしていると言うのは判る。
「試練場の中にそんな規則は無いだろ?形で見せろって?馬鹿にしてるのはそっちじゃ無いか?俺の事、舐めてるよな?良く考えろよ?俺はもっと下の階層からずっとここまで「上がって来た」んだ。ソレがどんな意味なのか、アンタらには分かるはずだよな?」
「ああ?何を言ってやがる?ホラを吹くのも大概にした方が良いぜ?俺たちを笑わせる気ならもっと気の利いた冗談を言えよ?」
そんな事を言いながら一人がベラへと無造作に近づいて行った。
「あ、バカお前ヤメロ!」




