★★★うん、わかる。こういう反応になるよね普通に★★★
多分結構寝たと思う。と言うのも、俺の隣ではあられも無い姿と寝相でベラもグッスリお休み中だったから。
鼻提灯まで膨らませている姿がこの今の俺の状況を「コメディ」と誤認させようとしてくる。
「あー、俺は、今、試練場に居る。うん、最下層では蜘蛛の化物と出会って、今目の前の無警戒でアホ面になって寝てるのがソレで・・・はいはい、分かった。俺は正常だ。」
自分の今の状況と立場を独り言と共に整理する。そして今後の事も一緒に考える。
このベラの処遇を考えておかねばならないのだ。
コイツを世間様の中に連れて行っても良い物か?今になってその点を考えてしまった。
「こいつこのままここに置いて行こうかな?寝ている間に。・・・あー、何だったか?世界眼とやらで俺の居場所を見つけられるとか言っていたか。そうなると一か八かになっちまうなぁ。」
余り賭けと言うのは好きじゃ無い。もしかしたらここでワンチャン、ベラから逃走が可能かもと思ったのだが。
「止め止め。俺は知ってるんだ。ここでこいつを置いて行ってもその内にいつの間にか見つかって面倒な事になるんだよな。それなら最初から俺がフォローできる様にこいつを連れて歩いた方がまだマシってもんだ。」
だけどそこで考える。この手の輩は手が掛かる所じゃ無いのだ、大抵のパターンは。
トラブルメーカー、そんな言葉が脳内に過る。
(とうとう俺はどこぞの何某な物語の主人公にでもなっちまったのかなぁ・・・)
こう言ったパターンの「御都合主義」は心底勘弁して欲しかった。
「こいつが切っ掛けでハーレム物に路線変更?冗談じゃないんだが?」
ベラは基本蜘蛛の化物である、中身が。なので俺みたいな「人」の思考やら精神とはその根底からして相容れないモノであるはずだろう。
そうするとこのベラが俺に惚れるとか言った流れにはならないと思いたいのだが。
見た目が超絶美少女なだけに妙な錯覚を起しそうになるので気を引き締めなければならない。
俺の方が逆にベラに対して情を移すといった事にもなるかもしれない。
「人外系娘を前面に押し出したハーレム物もあった事だしなぁ。一抹の不安は残るよな。」
ベラがそんなキャラじゃ無い事はここまで来る間に判明していたが、それでも何が起きるか分から無い世界だ此処は。
「無理に元の世界に戻ろうと行動しないで、あの村でスローライフしていた方が良かったのか?」
寝起きで何やらまだ頭の中がボーっとしているのが原因なのか?どうか?
俺は妙な妄想を連鎖させて「もしも」を想像しようとしてしまう。
「下ら無い事を考えちゃったなぁ。うーん・・・しょっと!オラ、起きろ。行くぞ。」
俺は背伸びをして体のコリを一旦ほぐしてから立ち上がる。そしてベラの方に視線を向けるが。
ポンポコリンだったベラの腹は何時の間にやら引っ込んでいるのだ。その横腹を俺は軽くつま先でつつく。
「・・・ほがッ?おおう、良く寝た。うむ、消化も順調だったな。しっかりと漲っておる。ふむ、しかしまだもう少しと言った所だな。魔石を食わせろ。もう一度同じだけの量を吸収すればお前に対抗できるくらいの力を蓄えられそうだ。」
「ほほう?コレが欲しいのか?ホレホレ、俺からこの袋を奪えたら中身を取り出し放題だぞ?好きなだけ魔石を食えるぞ?」
俺は揶揄う様にベラの前にマジック小袋を見せつける。
ここで俺の予想としてはベラがこれに手を伸ばしてくると思っていたのだが。
「まあお前に挑むのは今の外の世界を堪能してからでも良いだろう。我が生きていた時代から相当に長い年月が過ぎておるはずだからな。どれほどにあの下等生物が変わったかを見てやるとしよう。ソレの一興を楽しんだ後だ、お前に再挑戦するのはな。」
「お前には魔石を今後与えない方が良いのかね?アレだけ食ったんだ、暫くは要らないよな。お前どうやら食い溜めできるっぽいみたいだし?食いたかったら自前で採れば?」
「意地の悪いヤツだな。そんなに我に殺されるのが怖いか?いや、痛めつけてやるつもりであった。殺しはせん。安心しろ。」
「その発言の何処に安心できる要素があるんだよ?今直ぐに真っ二つにされたいか?おおん?」
俺はベラのこの容姿に今は騙される事は無い。その内に慣れてきたら分からないのだが。
幾ら見た目が北欧系美少女な見た目でもこいつの本性は巨大な化け蜘蛛なのだ。
ソレを俺はこの目で嫌と言う程に目にしている。あの気持ちの悪い姿を。あれを思い出せばベラをぶった切るのに躊躇は無い。
なので今更コイツをぶっ殺すのに別に抵抗は無い。もちろんベラが俺に襲い掛かって来た場合は、である。
こうして会話をしているだけでは実際に殺そうと動いたりはしない。
そんなサイコパスみたいな中身じゃ無い俺は。
けれどもイラっとさせられる発言にはしっかりとこちらは脅しの言葉で返す。
そうで無いとこいつは何時までも調子に乗るから。
「まあでもしっかりと早めに上下関係は刻んでおかないと、何時までもクソ面倒な対応をしてかないとならないって事だもんな。なるべくなら早めに本気出してお前と力比べを試しておくべきだろうな。でもお前、アレだけのを消化するのにどれだけ時間掛かってたんだよ?ソレが問題だな。」
「ふむ?やる気になったか?うむ、そうだな。大体六時間と言った所だ。さて、魔石を食わせてくれ。」
「・・・よし、進むぞ。」
「うーぬ!先の流れは魔石を出す所であろうが!」
「嫌だ。こんな場所にまたそんな長時間残り続ける気は無い。ポッコリお腹だとお前歩くの遅いじゃん。待ってられない。」
「ちッ!今はお前の言う通りに従ってやる。しかし見ていろよ?いつか必ずお前を超えるからな!」
「はいはい、分かった分かった。そん時は全力で俺も殺す気でやってやるから。」
そんな会話をしつつも帰還の道を行く。
そうして戻って来たのは二十一回層。あの巨大なゴロゴロ転がって来た試練獣が居た一本道。
この試練獣、二十階層からこの階層に入って来た時だけ反応するのか、どうなのか?
二十二階層から入って来た俺の目の前にその「大玉」が道を塞いでいた。
だけどもここで俺たちに対してその「大玉」は何らの反応も見せない。
「で、帰りはこいつがそもそもいきなりいる状態、と?」
「何だこれは?行き止まりか?お前は道を間違えて来たのか?」
ベラがそんなセリフで俺を非難して来た。コレを俺は行動で否定した。
邪魔ならば退かせば良いのだ。
「せー・・・のッ!」
俺はかなりの力を込めて目の前を塞ぐ試練獣を突き飛ばす。この一撃を受けて物凄い勢いで「大玉」がぶっ飛んで行く。
「あ、もしかしてタイミング悪くこの階層に入って来ちゃった挑戦者が居るかも・・・いや、有り得ねーか。」
この試練場は九階層が確か到達記録だったはず。そこからいきなりここまで来れる挑戦者は居ないだろう。
その突き飛ばした大玉はずっと通路の奥へと転がる勢いが止まらずに進んでいく。
「あ、魔法で消滅させれば良かったじゃん。」
ベラから言われた言葉に対して思わず咄嗟に動いた結果である。反省するべき案件だ。
一呼吸して間を開けて良く考えれば良かっただけの話である。
今後にこの様にして咄嗟に動いた事で状況が悪化、などと言った場面が無いとも限らない。反省をしておくべきである。
けれどもそんな反省をしている間にも「大玉」はそのまま進み続けて道の奥の奥へ消えていった。
この通路は相当に長い。なので今もう「大玉」は既に見えなくなっている。
「うーん、確かに結構な力を入れて勢い良く吹っ飛ばしたけど。あんな奥まで転がって行く程のエネルギーはあのインパクトで入ったか?」
転がっていく「大玉」に違和感を覚える。もしそれが相当な威力となっていたとしてもだ。
転がり続けている内にそのエネルギーは減衰して止まると思うのだ。床や壁に擦れて大幅に抵抗が出て即座に止まっても良いハズ。
だけども転がり方が異常な回転数になっていたし、その勢いも止まると言った様子も無く奥まで行ったので不思議である。寧ろ怪しい。
「ま、良いか。」
一度倒せているのだから心配は要らなかった。これで何かもしあるのであればまた倒せば良いだけである。
「ここは分かれ道が無いのか?楽で良いな。」
ベラが呑気な事を言っている。俺が初めてこの階層に入った時のあの焦りなど知りもしないのだからしょうがない。
そうして進んで行けば終わりが見えた。「大玉」は止まっている。
二十階層へと戻る扉にぶつかって止まったんだろう。
「何やらこの玉、頑丈そうだな?ふむ、ちょっと我の軽い運動に付き合うが良い。光栄に思えよ?」
ベラが俺の前に出てどうにもヤル気である。
目の前の「大玉」に対して腕をぐるぐると回し始めた。ソレを何ら力を込めた様な感じも無く「大玉」に叩きつける。
すると「ズドン」という音と共に「大玉」が扉をぶち破りその先へとすっ飛んだ。
「うむ、力の入り具合は以前と変わってはおらんな。邪眼を使った反動はもう無い。・・・ぬおお?」
扉が開いたので先へと進んで二十階層に入る。そこで予想外と言いたげな驚きの声をベラが上げた。
「な、なんだここは?もう地上に出たと言うのか?ここはまだ二十階層と言う所だろう?我が居たあの場所が三十階層だとお前がそう言っておったでは無いか。何故ここはこの様な・・・むぅ?」
ベラもこの階層には混乱したらしい。確かにこんなのいきなり初めて見たら意味分からんはずだ。
と言うか、俺だって訳が分からないので説明など出来ない。こんなもんだ、と受け入れるのが早かったのはアルアルなラノベ知識があったからこそ。
だけどもここでベラが気づいた。この階層のボスに。
「アレだけの巨大な獲物を見たのは長く生きていた我とて一度も無かったぞ?ふむ、どれどれ、我が食らってくれようぞ?アレだけ巨大なのだ。食い応えはありそうだ。お前を殺す為の準備運動にも丁度良いだろうよ。」
「いや、倒さなくても逃げれるし、無理にやらんでも良いぞ?と言うかやりたいなら勝手にやっても良いけどさ。俺を殺す為の前提で準備運動する相手をコレにするのってどうなの?」
この階層、ボス部屋から逃げ出せるのである。先に進む場合のみ、このボスを倒さねばならない仕様だ。
俺は遠くに見えるこの大草原不可避な空間にぽっかりと穴が開いているかのごとくに見えるこのボス部屋への入り口を視界に入れる。
「俺は先に行くから。」
ヤル気になっているベラを置いて俺は試練場を出る事を優先する。
(どうせベラは世界眼とやらで俺の事を追って来れるんだろ?なら放っておいても良いよな)
もしかするとベラのその「世界眼」とやらは俺が何処に居るのかは分かっても、この試練場の「迷路」の正解の道順は見えずに彷徨う事になるかもしれない。
だがそんなのは知ったこっちゃないのだ俺には。
その「世界眼」とやらが、どう言った効果や使い方をするのかは知らないが、勝手にベラが俺に付いて来ると言っていただけだ。
この場に残ってこのボスとやり合うつもりなら俺はソレを無理に止めない。止めたりしない。
あわよくば、ベラがボスにやられて今後二度と俺と会う事も無くなってくれたら助かるなぁ、などと思いながら俺は十九階層へと向けて進んだ。




