★★★やっとの事で話をしてくれる様になった★★★
あれから三十分程経過している。その間をずっと俺は蜘蛛の脚を斬り飛ばし続けていた。
そこら中にその蜘蛛の脚が大量に散らばっている。
「なあ?いい加減に認めてくれねーか?」
「舐めるで無いわぁ!」
そう叫んで蜘蛛は口から炎を吐き出す。俺を燃やし殺そうと言う魂胆であるのだが。
「それ何回目よ?既に通じ無いって解ってるんじゃないの?」
俺はダッシュで距離を取って炎に巻かれない様にする。
すると蜘蛛はその間に斬られて無くなっている脚を再生する時間を取ろうとするのだが。
そこに間髪入れずに俺が全力で踏み込んでソレを再生したそばから斬り飛ばすのだ。
「うがああああああ!」
痛みで叫びを上げるのもこれで何度目か?この蜘蛛女、諦めが悪過ぎた。
説得を試みようと何度も「降参して?」とお願いしていたのだが、一向に聞いちゃくれない。
「・・・なあ?俺とお前とさ?格の違いが分からない程にお前、弱っちいの?強さの違いも、ここまで差があるのにソレも理解できない程に頭悪いの?何なの?矜持?もしそうなら心底意地汚くて見苦しいもんだな?」
「うるさいいいいいいいいい!この我が!至高なる我がぁぁぁぁ!貴様の様な矮小な存在に負けるはずが無いのだああああああ!」
「・・・もうそう言う思考しか出来ない位に狂っちゃってるのね。はぁ~、何処までやれば死なない?ギリギリ死なない程度に追い詰めて冷静にさせないとダメか?」
恐らくはこのまま脚を斬り飛ばし続けても再生でエネルギーを無駄に消費して衰弱はしても、蜘蛛は俺の事をずっと認めないままだろう。
話をしたいと言っているのだから、それさえしてくれたなら俺はもう攻撃する意思は無いのに。
現実は非情だ。この蜘蛛はこれだけその身に痛みで分からせようとしてもこちらの要求を拒絶している。
「ならもうちょっと踏み込まないとダメかぁ。って言うか、他に何処をぶっ飛ばせばいいんだ?おっと。」
俺がどうしようか迷って立ち止まった瞬間を狙ってこの蜘蛛はまた炎を吐き出して来る。
脚が再生出来ていないから立ち上がる事も出来ずにその腹が床に付いてしまっているので体の向きを自由に動かせないのだ。
首を動かしてその口をこちらに向ける事くらいしかできていない。他の攻撃方法を持っていたとしてもソレを実行できていないのである。
コチラとしてはこの蜘蛛が再生能力持ちだと言うのはウンザリする程に良く解ったのだが。
脚以外に何処をどの位までダメージを与えて良いのかが解からずにちょっと他の部位への攻撃を躊躇ってしまっている、そんな感じだ。
「真正面からスラッシュで目を攻撃?でもなぁ?多分頭真っ二つにしちまうだろ?あ、胴体までその時には斬っちゃうよな余計に。ウォーターガンで狙うか?・・・威力があり過ぎて貫通する?」
目を潰してみようかと思ったのだが、どうにも丁度いい感じの威力の方法が思いつかない。
攻撃の威力を間違うとこの蜘蛛を殺してしまいかねないのだ。
急所が何処か分からないし、下手に手を出してサクッと殺してしまってはこれまでの苦労が台無しだ。
「・・・何だか憐れに思えて来た。お前、このまま死ぬ気なの?ソレは俺への精神への攻撃?」
「何処までもふざけおって!もうこうなれば!使いたくは無かったが・・・死ねぇ!」
「・・・なに?」
「・・・は?キサマ!何故死なない!?」
「いや、だって何もされてないし?何でそんなんで死ぬの?」
「・・・そ、そんな馬鹿な・・・くそ!もう一度!・・・効かぬのか・・・」
俺に向かって死ねと叫ぶ蜘蛛。しかし何もしてこないから俺は首を傾げたのだが。
ソレに蜘蛛が驚いている様子を見せてくるので増々俺も何が何だか分からない。
しかも勝手に何やら蜘蛛は絶望している感じになっている。もう一度とか言って追加で同じ事をして来たみたいだけど、やっぱり何も起きないので余計に「なんのこっちゃ?」になる俺。
だけどコレは好機だった。先程までの蜘蛛の様子がこれで一変したから。
「何をしたのかは分からんけど。まあ、ドンマイ?で、俺は話し合いを求めてるんだけど、どう?俺の事ちゃんと「上」として認めてくれる?もうこれ以上に抵抗してくるとなると、もっとその体を切り刻んで拷問みたいな事をして諦めてくれるまで痛めつけようと考えたんだけど。」
ここでよく見たら蜘蛛、再生が止まっていた。さっきの「死ね」で再生に使う為のエネルギーを使い果たしたのだろうか?
そこらへんはどうしてなのかは分からなかったが、このチャンスを逃すまいと俺は言葉を続ける。
「うーん?俺はそもそもさ、ちゃんと交流が出来るのなら、殺す気は無いのよ。お前さん、この巣に引き籠ってるんだよな?ここから出て周囲に被害を齎す、って気は無いんだろ?だったらお前を殺す理由が俺には無いんだよ。どうだろうか?ここは一つ、お互いに利益のある情報交換をしないか?どうして俺がここまで来たのかの疑問を解消できるぞ?その代わりに俺の疑問にも色々と答えてくれないか?どうだ?」
「もう、好き勝手にするが良かろう。我を生かすも殺すも貴様の掌の上なのだろう?我の命を削って使う奥の手が通じ無かったのならば、この命も諦めるしか無いではないか。」
「いや、だから、俺は別に知りたい事を知れたらそれで良いって言ってるよね?これ以上もう俺を狙わないならこっちも理由も無く攻撃したりはしないぞ?」
ここで多少の沈黙の後にぼそりと蜘蛛が「良かろう」と言って人型にその身を変えていく。
俺はソレを見てやっとホッと一息ついた。しかし次にはバタリと床に倒れ伏した金髪貞子を見て驚き「おい!」と声を掛ける。
脚を斬り飛ばされた状態で再生していなかったからなのか、その金髪貞子の背中に今、蜘蛛の脚は無かった。
「大丈夫か?おい、生きてるなら返事をしてくれ。・・・返事が無い、只の屍の様だ。」
「勝手に殺すでない。まだ生きておるわ。反動で暫く動けぬだけだ。口を開くのも怠いのだ。」
「あー、何だ。ソレは良かった。せっかくこれだけ労力掛けたのに、一切の情報を得られ無いとか、骨折り損の草臥れ儲けだからな、そうなりゃ。」
俺がそう言って肩を下ろす姿に寝転がっている金髪貞子は「良くは無い」とツッコミを入れて来た。
「我の邪眼の使用は相当に命の力を削る。二度も連続で使ってしまったからな。下手をすればそのまま死んでいてもおかしくは無かったぞ?」
「え?何その中二病・・・と言うか、蜘蛛のモンスターには結構高い率で備わってる感あるよな、そう言うの。」
俺のそんな言葉を聞いて金髪貞子が怪訝な声で「何を言うておるのだ?」と不機嫌そうに呟いた。
と言うか、俺の中で今後は勝手にこいつを金髪貞子(笑)と名付けて呼ぶ事とする。
さて、不機嫌になりたいのは逆に俺の方だ。これまでに得たこの試練場の情報の信用性が無くなっているのだから。
邪眼とやらが俺に通用しなかった原理は全くサッパリ分からんので放置で良い。
どうせレベル差があると効かないとか言った単純な理由なんだろうと勝手に思っておく事にする。
「なあ?どれくらい時間を置けば落ち着くんだ?それまで待つから準備が出来たら言ってくれ。」
この金髪貞子は口を開くのも今は億劫だと言った。ならばスムーズに会話をする為にも相手の回復を待った方が良いと思ったのだ。
なので休憩時間を与えて心身ともに落ち着きが得られるまではと思って俺もここで休憩を入れる事にした。
それから一時間後。こいつは今、魔石をポリポリと食べていた。
コレはもちろん俺が提供している。この試練場で得た魔石である。
この金髪貞子は邪眼を使うのに命を削る、とか何とか言っていたし、こういうパターン的に食事を与えれば回復の見込みがあると考えた。
じゃあ何を食わせれば良いかな?と考えて、俺が持っている中で大量に在って、かつ「このパターンもあるよな」と思った魔石を出してみたのだ。
すると思った通りに食いついてきたのだ。しかもかなり強めに。
「・・・なあ?それ美味いのか?」
「うむ、大幅に減った生命力が元に戻っておる。これ程の純度の高い力の塊をこんなにも大量に持っておるお主は一体何者なのだ?もっと食わせてくれ。」
「ああ、だからそこら辺も含めて話をしよう、って最初っから言ってたんだけどなぁ。でも、何から話せば良いか。まあ良いや。と言うか、もうそれ以上はやらん。」
小さい小石程度の大きさである魔石であるが、ソレを百個は既にこの金髪貞子は食っている。まるでナッツでも口に放り込む様に。
「さて、じゃあ情報交換しよう。先ずは自己紹介から始めようか。俺はタクマって言うんだ。よろしくな。お前は?」
「ふん、本当なら愚かなる種であるお前の様な矮小なる者に名乗ってやる事など有り得んのだがな。特別に教えてやろう。我はアレゴラレズ・ベラロデーナルガ・バリエンテルドレ・・・」
「うおおおおい!訳分らん上に長過ぎるわ!略せ!」
「ぬうん!お主!我の偉大なる名を訳が分からんだと!?」
「知るか!お前呼ぶ時に「寿限無」になっちゃうだろうが!と言うか!覚えられんわ単純に!」
「何を訳の分からん事を言うておる!ジュゲムとは何の事じゃ!覚えられんだと?キサマの記憶力が無いだけだろう!」
「そう言う問題じゃ無いってーの!」
下らない漫才が出来る程度に回復をしたようなので俺はここで本題に入った。
取り合えずこの金髪貞子の名前などドウでも良いし、後回しで良いだろう。
「先ずは何処から説明すれば良いか。そうだな。ここは、三十階層だ。」
「・・・何を言っているのかサッパリ読めんが、まあ話は最後まで聞いてやろう。」
「何でずっと偉そうに上から目線何だよ。まあ、いいや、ソレで、えーっと・・・じゃあ先に俺が勝手にお前の名前を付ける。長ったらしい、と言うか超長い名前なんぞ覚えられねーし。・・・ベラで良いだろ。」
勝手につけた名前「ベラ」に対して金髪貞子は「まあ今はソレで良い」とやはりまだまだ尊大な態度でそう言う。
金髪貞子改め「ベラ」と名前を付けたのだが、俺の脳内では「妖怪人間」のアレが思い浮かんでいる事を説明しても通じ無いだろう。
こうして俺は知っている情報を順を追って話した。
ここが神様が作った試練の場であり、そこを攻略する為に人が潜っている事。
ここはどうやら異空間になっている様でその原理も作用も法則もどうなっているのかサッパリだとも。
俺はこの試練場に入って一階層からずっと下りて来て終着がここだったというのを説明し終わる。
「・・・全くキサマの言った事は信じられん。だが、ここで嘘を言う理由も無かろう。真実であるのだな?」
「ああ、そうだ。そんでもって、俺が知り得た情報がもっと色々あるんだけどよ。そこら辺がどうにもお前の言ってた事を照らし合わせると何だか噛み合わないって感じてな。そこら辺をどうしても詳しく聞いておきたいんだよ。それが終われば別に俺はここにはもう用は無いんで帰っても良いんだが。」
「はぁ~、ならば我の事を教えてやろうか。」
ベラが大きく溜息を吐き出してからぽつりぽつりと喋り始めた。




