★★★心の隙間を★★★
ヤバいなぁ、としか思えない。この階層に入って階段があった場所が位置として真ん中としよう。
そしてそこから左の壁に沿って真っすぐに進んで行ってどれほど経ったか?
やっと壁が見えた、と言う感想が出る位の距離なのだそれが。
「迷子にならなさそうなのは、まあ、良い。けど、広過ぎだよ・・・」
多分コレだと右に行っても同じ位に進んだ所に壁が見えるだろう。
じゃあ階段の反対側に着く迄にどれほどに歩かされる?
そう思うと俺はちょっぴりウンザリした。まあ迷路よりかはマシだと思いたかったが。
しかし圧倒的に何も無い空間だ。迷路なんかよりもよっぽどSAN値がピンチになりそうだった。
何処まで行っても変わらぬ風景と言うのは心を殺しに掛かってくるものだ。
「よし、このままここからまた壁を辿って行けば先ず「現在地が何処?」みたいな迷子状態にはならないはず。罠だと思われる物もパッと見で素人の俺で発見は出来て無いからもうそこは切り捨てるとして・・・」
何が起きるか分から無いので本気ダッシュも控えていた。何か見落としがあった場合にソレが原因でずっとここに閉じ込められてしまう可能性も考えてしまうから。
何も無さ過ぎる空間だから何も無い、と決めつけてしまうのはいけない。
もしかしたら何かここで特殊な条件を満たさないと階段が出て来ない、などと言ったギミックもあるかもしれないのだ。
「そう言ったギミックの時が一番面倒なんだよなぁ。これまではそう言った事が無かったから良いとしても、これからも無いとは言い切れ無いんだから。」
こう言った階層で一番効果的な作戦は「人海戦術」だ。
この広い何も無い空間だ。大勢で広範囲を虱潰しに調べ上げるのが一番の近道になるだろう。
けれども今は俺一人。泣ける状況である。
「どこまで続いてるんだ・・・ヤバいぞ?このまま奥まで行って、そこに階段が無ければこの空間の中央を調べる事になりそうなんだが?」
次の階層に下る階段が来た道の反対側、その端っこにあるとは限らない。そんな保証は何処にも無い。
この何も無い広間の中央にソレがあるかもしれないのだ。そうなると懸念せねばならない事が幾つか俺の脳内に走る。
「アレだよ。乗ると強制的に勝手に動く床だよ。有名なアレ。中央にある次に向かう階段に辿り着くまでに迷路みたいに強制的に移動させられる矢印の書かれた床。」
RPGには大体出て来るギミックである。まるでパズルで、途中にある切り替えスイッチとかを起動させたりしないと辿り着けないとかあったらヤバい。
ああいったものは現実的に見ても「上から視点」だからまだ攻略しやすいのであって。
「現実にそんなのをやれって言われたら相当に無茶だぞ・・・」
そんなアトラクションで遊んでいる余裕が俺には無い。
そんな動く床がこの試練場に設置されていたらこの階層の攻略にどれだけの日数掛かるか分かったモノでは無い。
そしてソレを解明できなかったら、俺はここで餓死する事になりそうである。閉じ込められているのだからにっちもさっちもいかない。
ここにあの外に出られる魔法陣が有れば良いのだが、そうは問屋が卸さない。
俺の手元にあの「鍵」はある。多分ジェーウ達から王様に報告はされていると思われるが、この「鍵」を譲ってくれなどと言った事は言われなかったので未だに俺のマジック小袋の中に入っていた。
「頭を使うギミックって苦手なんだよぉ・・・そうじゃない事を祈るしか無いかぁ。」
そうやって歩き続けて俺はとうとう壁が見える位置にまで進む事が出来た。
「・・・ようし、これでまた壁に沿って歩いて行って、階段があれば万歳だ。・・・また歩くのかぁ。」
体に疲れは無い。けれども精神が疲弊している。
幾ら進んでも変わり映え無い景色に俺の心は飽きて来た。
しかしここに閉じ込められてしまうかもしれない事を考えれば早い所そう言った部分は確認しておかねばならない。
「うん、どうにも壁で塞がれてるな。コレはこの階層の何処かにあるスイッチか、或いは条件を満たさないと先に進む事も戻る事も出来ないって事か。」
壁の一部に筋が入っている。それこそ綺麗に。到着した壁に沿って進めば如何にもと言った感じの部分を発見する。
恐らくはこの壁はギミックになっていて一定条件を解放した場合に先に進める様に解放されるんだろうと予想を付ける。
多分ここに来た時に塞がれた階段も同じ条件でまた開くのだろう。
「・・・じゃあこっから真っすぐに中央に向かうとして・・・大丈夫か?」
こう言った広大な空間に仕掛けられているギミックの内で厄介な物がある。移動床もそうだったが、こちらの方が厄介さは上だ。
「無限ループ・・・もしかしてアレだよ、真っすぐに進んでいたはずなのに引き返させられているとか、な?」
想像してぞっとした。ソレに気付かずに歩き続けて膨大な時間を無駄にさせられたりするかもしれないと考えてしまう。
全く変わり映えの無い床、天井、壁。無限ループを気づく事が困難なシチュエーションなのだ。
「傷を付けても多分、修復されるんだろ?・・・ちょっとやってみるか。」
俺は剣を抜いてそれで床を軽く傷付けてみた。するとどうだろうか?ちょっとだけその表面が削れたので「ぉ?」と思ったのだが、ソレは直ぐにスーッと元に戻っていく。
「傷をつけて目印に、とか言った作戦はダメか。容赦無いなぁ。」
トイレ事件の際に放ったファイアウェーブはこの試練場の壁を融解させてはいたが、ソレも時間経過で元に戻っている。
この程度の傷では目印にすら出来ないのは当たり前だった。
何か目印になる物をと思って俺はマジック小袋から椅子を一脚取り出す。ソレを壁際に設置する。
「この椅子が試練場に吸収されて消える・・・って事は流石に無いよな?」
トイレ事件があるので恐らくはソレは無いと確信しての事だったが、ちょっと不安だ。
けれども消えるにしたって椅子一脚である。被害は少ないと言える。
こうして俺はループしていた際の目印となる椅子を置いて中央へ向けてのスタートを切った。
ソレは順調に進む。一応は真っすぐに歩けている、とは自分では思っているのだが。
「ちょっと斜めに進んでた場合とか、ソレを修正する為の基準に出来る様な物が一切無いからなぁ。また途中に椅子でもおいて行くか?」
その考えを却下した。後でもし回収するとなったら面倒臭い。なので少々不安ながらも最初の一回目は普通に歩いてみる事にしてドンドン進む事に。
一応は床、天井に何かしら見つかるかと思ってちょっと慎重に歩いていたのだが。
「・・・めっちゃ怪しい。あの玉に触れるんだろうな。で、ソレが罠なのか、只の塞いでる壁を解除するスイッチなのかは、判らんな。」
恐らくはこの空間の中央と言った感じなのだろう。
俺の腰程の高さまである柱の上に青く光る拳大の玉が設置されていたのだ。
ここまで勝手に移動させられるタイプのギミックなどは無かった。だが油断は出来ない。
もしかしたら今居る玉までの10mの間の距離にそんなタイプのギミック罠が仕掛けられていたりするかもしれないのだ。
「透明な見え無い壁で守られているとかな?その壁が迷路になっていて玉までの道のりを完全手探り、記憶していないと攻略できないとか?・・・それは、エグイな?」
妄想を口にしてみて「ソレはヤバい」と自分で自分に引く。
もしかしたらシンプルにここで落とし穴が?などと言った事も考えてしまって玉への一歩が踏み出せなくなりそうだった。
「見た感じ、罠とかは見えないけど。これで「目に見えない魔法的な」とか、俺なんかじゃ分かる事すら出来ない「センサー式」とかだったら諦めるしか無いしなぁ。」
もうここまでくれば後は野となれ山となれだった。
拳大の玉自体に何かしらの罠が有ったり、玉を動かすと何かしらの罠が発動するとか?
俺はそう言った事も考えたりしたのだが、やってみない事にはどうなるかそもそも分からない。
「ファーストペンギンってホント、怖いね。死にたくはないけど、死ぬような罠だったら苦しまずに一瞬で死を意識しないで死なせてくれる様な物であって欲しいよ。」
死ぬ気は無い。だけども今は何らの情報も無い目の前のシチュエーションだ。これで絶対に死なない保証など何処にも無い。
何が起きるか分からないのだから対処のしようも無い。
だから敢えてここは大胆に勢いで玉を触る。一気に走って近づき「ぅおりゃ!」と手を玉の上に置く。
怖気づいたら何時までも触る事さえしないだろう。だから無心で行動した。
「・・・触るだけなら、何も、起きない?じゃあ・・・玉をこの台から外す?・・・おい、何も起きないぞ?」
もしかしたら玉が何かしらの重要アイテムだったりするかもしれない。そう思って玉を掴んで持ち上げてみたのだが。
けれども何も部屋の中には変化が起きない。痛い程に静寂があるだけ。
「何だ?何をしたら良い?と言うか、階段がここからどうなっているか見え無い程遠いから状況が変わってるのか判断付かねー。」
遠い、滅茶苦茶遠い。階段が見えない程なのだ。恐らくはこの玉がある部分がこの部屋の中央。
しかしここから遠くに視線を向けても階段が見えない程に遠距離。
「どうなってる?戻した方が良いのか?それとも持っていても良いのか?どうなんだ?・・・分からん!」
当たって砕けろ的なRPGが好きなのだ。謎解きが多い物は余り好きじゃ無かった。まあソレはソレで楽しんでいたが。
「ゲームだとこう言ったパターン的には、どんな展開がある?俺のピンク色の脳味噌よ・・・絞り出せ、答えを!」
うーんと唸ってみても何らの良い感じの予想は浮かんですら来ない。
「どうすんだよコレ・・・ここに立ち止まっていても無駄か。玉を持ったままで壁際を一周グルッと回ってみるか?」
もしかしたらあの帰還の魔法陣があった部屋みたいにこの玉をハメる窪みなどが見つかるかもしれない。
俺が通って来たのは片側の壁だから、もう片側の方を辿ったらもしかしたらそう言った何かが見つけられるかもしれない。
「ホント、手探りって面倒だな。ソロで攻略とか確かにキツイわ。」
俺は一旦椅子を置いた方へと引き返した。そこの壁には最初は無かったはずの窪みが。
「おー、コレを嵌め込めば開くのか。何だ、簡単じゃ無いか。」
俺はこの時何も考えずにその穴に持って来た玉を嵌め込んだ。
「・・・あ?」
多分心が不安定だったんだと思う。一人でこんな何も無い白い空間を彷徨っていたのだ。
そりゃ油断も迂闊もするだけの心の隙間が出来ていてもおかしくない。
何時もの俺だったら多少の疑いの目を持ってこの窪みを見ていただろう。
けれども疲れた心はソレを見てホッとしてしまったのだ。
だから安心してその窪みに玉を入れてしまった。安易過ぎると思いもせずに。
何かがこれで起こる、そうすれば先に進める、そんな単純な反射的行動で「罠」などと言った思考に辿り着けなかった。
「だから今こんな事になってんだよなぁ。くっそ、何だよ、リアルな無双ゲーをやらせるつもりかよ。俺じゃ無かったら絶対にここで死ぬだろ、誰だって。」
この部屋を埋め尽くさんばかりの試練獣が、床全面が光ったと思ったら湧き出て来ていた。




