★★★突然の出来事に★★★
あの後は結局宝箱の出現は無かった。増えたのはやはりノーマル確定ドロップと言えるのだろう炎熱完全耐性のマントだけだった。
他にレア素材、或いはアイテム、神具と言われるモノが出て来ても良いと思えるのだが、現実は厳しい。
「と言うか、神様、雑。人間の持つ欲望の使い方がヘタッピ。コレじゃあ希望もへったくれも無いじゃん?」
俺は今一人で二十階層に居る。ボス部屋前で待機中だ。マジック小袋から作りたての料理を出してソレを食べて腹ごしらえしている最中である。
此処まで来るのに結構掛かった。とは言え、迷ったと言うべきか。
試練獣に手古摺る場面など一切無くここまで辿り着いているから。
試練場から出た後は殿下は真っすぐに城に戻った。俺も一度侯爵家の屋敷に帰還していた。
いや、帰還と言ってしまって良いのかは疑問だ。俺はここで客人扱いされていたりするのでこの場合は何と言ったら適切だろうか?日本語は難しい。
そんな問題は直ぐに忘れて俺は屋敷に居た侯爵様に頼み事をしている。
集めた魔石をまた対価に今度は「食事」の方を貰いたいと。
もちろんこれは試練場に潜った時の為の食事であり、ここの屋敷で滞在する間のものの事じゃ無い。
俺の求めに侯爵様は何日分かを聞いて来たので取り合えず一か月分を頼んでみた。
マジック小袋に入れてしまえば時間の経過も無く出来立てを食べられるのだ。
なので作りたてを入れておきたかったのでその点の事も求めてみたら大きな溜息を吐かれた。解せない。
まあこの世界での今までの常識じゃ考えられない状況なのだろう。ソレに溜息を吐いたと言うのであれば分かる話だ。
侯爵様は二日待てと俺に言ってきたのでその間はゆっくりと侯爵家で厄介になる事にした。
そうして期日となり、侯爵家の料理番に作って貰った食事をマジック小袋に入れて今、と言う形である。
下の階層に向かう為の道順は十五階層までは既に攻略は出来ていたが。その後は手探りで試練場を走り回った。
この二十階層のボス部屋前まで辿り着くのに一日掛かっている。
歩き回って呑気に探索などしていればもっと時間が掛かっていただろう。
けれども俺はそれこそ走って、走って、走り回ってコレだ。
雑にではあったが一応正規ルートのメモは作ってあったりする。
途中で引き上げ無ければならなくなった時の為の物であるこれは。それと次にここに入った時の時短用と言える。
何かしら俺の力だけでは解決できない問題が目の前に立ち塞がって一度試練場を出なくてはいけないと言ったイベントと遭遇するかもしれないのだ。
試練場内では何が起こるか分からない未知の世界である。
そもそもがこの世界自体が俺にとってまだ未知であるのに、そんな世界に存在するそれ以上の未知である試練場を行く俺である。
慎重に本来なら進まねばならないのだろうが、俺には今回の探索には食糧一か月と言う縛りがある。
なるべく無駄を省いて進まないと試練場攻略は夢のまた夢と言った事にもなりかねない。
何せ百階層まであると言った話であるはずなのだ。それの攻略に何年も掛ける様な事をする気は無かった。
焦ってもいないし、急がないとならない事でも無いが、やるからにはチンタラしていてもしょうがない。
既にこの試練場には俺は二度も入った下地があるのだ。
ならこの先の下層の変化はどの程度になるのかと言った所は朧げながらも予想はする。
このまま行っても試練獣の脅威は俺の障害になり得ない。ならば何が駄目かと言われたら、この迷路である。それと。
「後は罠がなぁ・・・一々鬱陶しい。ジェーウが居たらもっと楽だったか?」
後は罠である。例え走って通路を進んでいたとしても、注意は怠らなかった。
そして解り易い「スイッチ」が有ったりすればソレを回避する事もしていた。
だけども大抵はそう言った面倒そうなスイッチがある通路が下層へと向かう階段のある道になっていたりする結果が何度も重なると、ウンザリすると同時にパターンも何と無く察する。
コレが本当に鬱陶しかった。一々そう言った通路を見かけたら後回しにしていたのだ。
罠の危険度の事も考えて別の道が有れば先にそちらを探索すると言った形を取って自分に言い訳したりして。
もしかしたら正解のルートは罠のスイッチがある方なんだろうな?とパターン的に思っていても、ゲーマーの性と言ったモノが頭の中にモヤモヤしてしまって「じゃあマップ埋め」とか言い出して別ルートを行ってしまう。
「うん、それこそ時間の無駄だったな。自分が自分で嫌になる・・・まあソレもここまでだ。ここを突破したらもうそんな事はしない。決心した。んじゃ、行くか。」
罠と連動しているスイッチがある通路は本気ダッシュをして一気に駆け抜けたりして自分に被害が出ない様に対処をしていた。
スイッチを起動して罠が発動するまでのタイムラグのその隙間を抜けるのだ。
そもそも俺の意識してする本気ダッシュはそう言った罠すら置き去りにする性能で、まるで瞬間移動である。
俺には罠を解除したりする技能は無い。なのでこう言った部分は力づくで通り抜けるしかないと言うだけなのだが。
さて、入ってみた二十階層のボス部屋に居たのは鹿だった。ただし、大型トラック並みである。
確かこんなアリエネーと叫びたくなる程の巨大な鹿などが太古の昔の地球に存在していたらしいが。
いや、それでもこれよりかはもう二回りくらいは小さいか?
「アリエネー。その鹿に合わせた広さなのかこれ?・・・大草原不可避?」
俺は摩訶不思議体験をしている。ラノベ物にやはりそう言った展開はアルアルだし、そう言った事を想定していなかった訳じゃ無いが。
流石に本当にそんな大草原に俺が来る事になるとは思ってもいなかった。
そう、上を見上げれば青空。しかし太陽は無し。周囲を見渡せば何の視界を塞ぐ物の無い草原、草原、草原。緑一択。
「いや、ここ試練場の中だったはず・・・アルアルパターンだけど、実際にソレをこの身で体験すると、やっぱ唖然とさせられるな。スゲーわ。感動だ。」
地下に潜っていたはずなのに、扉の先は大草原でした、何て事は普通に想像の埒外だろう。
俺にはラノベ知識が有って、そう言った展開も視野に入れてはあったが、やはり実際にコレを目の前にすると唖然とさせられるのは避けられなかった。
で、そんな隙を見逃さないボス鹿。俺との初期距離は50mくらいはあったはずなのだが。
そんな距離も「短い」と思える踏み込みでボス鹿は俺に対して踏み込んで来ていた。
その瞬間速度はまるでコマ落としの様。俺を轢き殺す勢いで。
「ぬおおおわぁ!?」
油断大敵。俺はこのボスフィールドに意識が行ってしまっていてこの突進を躱すのに本当にギリギリになってしまった。
「うえッ!?切り返しも早いよ!」
俺を轢き殺し損ねたボス鹿はそのまま通り過ぎて遠くに走り去るのかと思えば急転身。
百八十度体の向きを変えて再び俺に向かって一歩踏み込んで来る。
「のうわッ!?」
これにまだ心の準備を整えられていなかった俺は避けるしか無かった。
こんなバケモノスペックな体をしている癖に、その中身の精神は一般人レベルに毛が生えた程度だ。
狼狽えてしまってオタオタしている心を即座に切り替えられる様な強靭さは持ち合わせていなかった。
こんな所でこれまでの俺の中で一番デカいピンチである。
ここで二度の突進を躱された事にやっとボス鹿が俺に警戒心を抱いたのか立ち止まった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・疲れて無いのに呼吸を整えるって相当だぞ?ドキドキが止まらないんだが?」
ようやっと一息つける時間を得られて俺は先ずは呼吸を意識して見てそれを足掛かりに状況の整理を試みた。
今この大草原を気にしている場合じゃ無い事。そして。
このボス鹿がそもそも百階層もある試練場のこんな階層で出て来る強さじゃ無いレベルな事を思う。
そして単純に力押しで倒すならどんな魔法を使えば確実に倒せるか?使えそうな脳内検索を始める。
「・・・別にどんな魔法を使おうが倒せるなら関係無いな?今は誰も見てないんだし?あんまり慌てる事も無い・・・?」
気付いた。俺は今しがらみ等を気にする状況に無いのだ。俺一人で試練場に入っているのだから。
しかも試練獣を倒すとその死体がそのまま残るのでは無い。光と消えてしまうのだ。処理が簡単。
ならば単純に試練獣を殺せる威力を当てるだけで良いのだ。俺に何らの手間など掛からない。
「ファイアーレーザー」
指先をボス鹿に向けてから魔法を放つ。相変わらずダサいネーミングに諦めの気持ちを込めて。
すると指先がピカッと光ったら白い筋がボス鹿を貫いている。そして大炎上。
何が?と言われると、その貫かれたボス鹿が。どうやら燃えあがるくらいの熱量がその身体に浸透したらしい。
本来だと魔法を食らった対象は体が燃えあがる程の熱量を受ける前にレーザーが貫通する。
だけどもこのボス鹿の身体は大きかったのでどうにもそこら辺ギリギリレーザーのエネルギーを吸収してしまう事となったんだろう。
そこら辺の事は余り原理やら理屈は細かい所までは分からない。
けれども目の前で光と変わりながらも燃え続けるボス鹿を眺めているとそんな感じなのかなと思う。
「って!死にかけなのにこっち来るなよ!?」
燃え盛る巨体がこちらに迫って来る。死なば諸共とでも言いたのか。
十階層での殿下の時のパターンみたいになっている。
しかし俺はコレを余裕を持って躱す事に成功した。既に落ち着きは取り戻しているのでこれ位は簡単だった。
「・・・これからは使う魔法も相手が反撃を起せない奴を選んで使って行くべきだなぁ。」
選んだ魔法が選択ミスでこうして鼬の最後っ屁みたいな事されてソレを食らってしまう間抜けは今後に起こしたくはない。
その可能性をキッチリと消す為にも使う魔法の事は気にした方が良いと強く思った。
相手が何をしてくるか分かったモノじゃ無いのだ。ここは未知の世界である。俺がソレで殺されてしまうのは勘弁願う。
初見じゃ防ぐのも躱すのも無理!なんて攻撃をされてしまえば俺の命はそこまで、になりかねないのだから。
「驚いてる場合じゃねーんだよなぁ、この大草原不可避に。この世界を舐めてる所は正直あるからなぁ。だって、この身体のスペックよ?」
光と消えてその体を燃やしていた炎も綺麗に消えたボス鹿。
倒したその場の地面に目を向けるとまたしても何やらマントが落ちていた。
真っ青な美しい、そして手触り抜群な温かいマントである。
「鑑定・・・は要らないな。何となくコレ、冷気対策系のマントだろ、どう見ても。」
十階層のボス鼠から得られたマントと比べるとこっちの方が物凄く見栄えも良く、質も高い様に見える。
鑑定持ちのポンスがここには居ないので詳しい事は分からないので、コレを気にせずマジック小袋の中に入れておく。
「ここの鹿から宝箱が出たらどんな物が出て来るのかね?・・・あ、良いや、要らんわ。」
別段今俺はここで欲しい物は何も無い。
一応はこの試練場を自由に階層ワープできる神具とかなら大歓迎なのだが。
そんな物がこんな低階層で出て来るとは思えなかった。
なので食料の「一か月」と言う期間の縛りもあるので俺はここで先に進む事を決めた。
するとソレに反応したのか、どうなのか?目の前に突然扉が現れた。
「おおん?ああ、そう、進む気ならここから、って事なのね。・・・俺の入って来た入り口の方は、あっちか。先に行く気がある時だけソレに反応して出て来るって事か?」
俺がここに入って来た時の扉は開きっぱなしで、どうやらそこから逃げ出す事は自由だった様だ。
「なら行くか。何時までもまたここに居続けるとボスが復活するだろうし。あー、ゆっくりとピクニックするなら最高のシチュエーションなのになぁ。」
俺はそうぼやいてから扉を開けてソレを通った。




