★★★突き放す★★★
殿下、頑張ってます。そう、今倒したので丁度三十体目である。いやー、割と根性ある方だな、と俺はソレを眺めていた。
何せ殿下は既に自分の弱さを受け入れたから。骨折の後で食事と睡眠を取った殿下は次からの挑戦に対して命令を出していたのだ。
自らがボス鼠に一撃を入れて致命傷を与えても必ず反撃が来るから防御に割り込んで来い、と。
盾持ちのバルツだけでは無く、ジェーウとバリーダもその役目を順番に熟して交代する様にと命じたのだ。
お前らが守って当然だ、みたいな態度で、では無く、ちゃんと「よろしく頼む」と言葉にちゃんと出して、である。
ここでアリーエとポンスは待機命令である。魔法に関してはボス鼠に撃ち込むだけ無駄。ポンスは治療要員であるので戦闘はさせない。
殿下の一撃で、まあ、幾らその後に反撃を繰り出されるとは言えだ。光と変える、倒す事が出来ているのだから魔法は必要無いのである。
万が一の時の為にも魔力は温存と言った面も若干はあるのだろうが。
「さて殿下。ここでいっちょおさらいしましょうか?俺がこのボス鼠を倒し続けた数は覚えてます?その理由は宝箱がきっと出現するだろうって言った何となくな希望ってだけで倒し続けてました。」
「何が言いたい?」
「簡単な話ですよ。先ず、このまま倒し続けてもその宝箱が出て来ない可能性があります。そこは吞み込めてます?」
「・・・ちっ!今ここで再確認する事か?こちらの気勢を削ぐ事を言うな。」
「いえ、大事なのは宝箱が出て来ても中に入っている物がこの小袋じゃ無い可能性もあるって事ですよ。」
ここで沈黙が訪れた。そもそもこの試練場での出て来る「宝箱」に法則が有るのか無いのかすら解明されていないのだ。
次に倒した時点で宝箱がもし出て来たとしても、その中身が殿下の御求めのこの「マジック小袋」では無い事も考えられるのだ。
俺がコレを得る事が出来たのは本当に偶然で、そして運が良い。いや、もしかしたら神様ってのが事前に仕込んでいた可能性も否定できない所があるので怖いが。
「さて、それじゃあ殿下、まだ続けます?調子良いみたいだし?このまま限界まで飛ばしますか?」
「・・・休憩を取る。行くぞ。」
殿下は安全地帯の階段へと歩いて行く。これに俺たちも付いて行った。
そこで殿下は何とも珍しくジェーウ達に意見を聞いた。今後はどうするべきか?と。
何の捻りも、覇気も無くそう問う殿下の姿に相当な疲れが蓄積している事が窺える。
「中断をする事を提案する。」
「最適な人員を揃えて再び挑むのが良いかと。」
「今回の件は陛下からの密命みたいなものだしなぁ・・・ここで一度引き下がると後の事に何か影響が出たりとかはしないか?ソレがちょっと怖けど。このままってのもどうかと思いますね。」
「第一の我々だけでの殿下の護衛は正直不安しかありませんでしたからなぁ。そしてその不安は既に現実になりましたから。これ以上続けるのは・・・ソレに準備不足過ぎると判断しますねぇ。」
バルツ、アリーエは再編成しての再挑戦を意見する。バリーダとポンスもこれに同意しつつ自身の不安を口にした。
ここでジェーウは口を開かなかった。何を言っても殿下の気持ち一つで継続か撤退かが決まる。どうせ二分の一。それが解っていて何も言わないのだろう。
この場で殿下は別に「多数決」をしようとして意見を聞いた訳じゃ無い。
自分の判断、気持ちを整理する為に他者の言葉を耳に入れたかっただけで。
「今現在で十階層の主を屠る事は出来ている。これまでに問題は幾つもあったが、今では安定をみせた。ここで引くにしても「標準」を作っておく事は必要だ。ソレを元にして再編成した部隊で挑戦すると言った流れにすれば無駄も大きく省けるだろう。まあその場合は父上ともう一度話し合いをせねばなるまいな。此度の神具の情報も漏れる危険性が増す事も考えねばならなくなりそうだ。・・・それと、武具の方も予備をもっと持ち込むべきだった。判断が甘過ぎたな。剣に微妙な歪みが出てしまっている。使えなくも無いが、換えが無い。」
殿下の判断は継続の様だ。しかし次からはマニュアルを作成しながらと言った感じにする様だ。
確かにソレがあるのと無いのとでは各段の差が出来る事だろう。事前知識を持ち、訓練を重ねてあれば、初見でボス鼠と対峙した時に有利に戦う事もできる。
剣の使用限界を感じる一歩手前、ソレを撤退の目安にすると殿下は言った後に大休憩を入れる指示を出した。
マジック小袋を持っている事で食事も休息も取り易くなっているのでもっと頻繁に休憩を取っても良いと思うのだが。
そこは殿下の匙加減一つ。プライドと言うのが有ってそう何度も何度も細かく休憩を取る事を何と無く拒否しているんだろう。
自分はまだやれる、そう言った気持ちを抱えて戦闘をするのは非常に危険であり、あの危なかった場面をもう一度引き出してしまいかねない要因の一つにもなる。
(まあ俺は何も言わないけどね。さてと、この後はどうなんのかね?)
出るか出ないか分から無い。かなり精神的な部分を問われる所だ。
早めの撤退か、或いは粘り続けて限界を超えて無理をするか。
あともう一回やれば出るのでは?なんて言った心理が出てきたらそこでもう引き下がり難くなるものだ、人の心って言うのは。
散々俺はそんな心理を「物欲センサー」で味わっている。殿下もこれにハマったら最後、かなりの無茶をしかねない。
「まだまだこれに入ってる食糧はたんまりと残ってるけど。今からしっかりと決めておこうよ。後何戦するまでに出なかったら撤退する?」
俺はちゃんとここで縛りを入れておくべきだと考えてそう言ってみた。
殿下はこれに物凄い舌打ちをして俺を睨んでくる。そんなに殿下は俺が憎いか?と言ってやりたくなるほどの見事な「ちっ!」だった。
「後二十は最低でも挑戦する。その際に体力の残り具合を見て・・・」
「ダメだな。後二十もやらない。あと十五くらいだろ行っても限界は。そうしたら即撤退、再編成、休息、再挑戦だな。」
自身の憔悴具合を殿下は理解できていなかった模様である。
ジェーウ達も殿下のその顔色がドンドン悪くなって行っているのをずっとチラチラと細かく確認している事を分かってもいなかった様子だ。
殿下は毎回ボス鼠に対して全力で攻撃している。ソレがちゃんと毎度クリーンヒットしてはいるが、だからと言ってソレで体力が減らない訳じゃ無い。寧ろゴソッと持って行かれている始末である。
そんな事を連続でしていたら、幾ら途中で休憩を挟んでいるとはいえ、完全に万全な体調に戻せる訳でも無く。
「・・・貴様、我の決定にケチをつけるのか?」
悔しそうに言う殿下の表情は言葉とは裏腹に俺の言っていた事を認めている。
既に殿下は無理を押している事を分かっていて二十と言う回数を提示した様だ。
「ケチじゃ無い。ソレが現実だよ。俺から見ても、ジェーウ達から見ても、殿下、体力もう残り僅かでしょ?十五回って言ったのもそこら辺の殿下の強がりを考慮しての回数だってのを分かって欲しいですけどね。」
もっと戦闘回数を減らすべきなのだ。それこそあと五回くらいやって余力を残した状態で試練場を脱出するべきで。
ここは十階層。戻るにしても来た道をまた辿る事になるのであり、その途中には試練獣が待ち受けているのは確定な状況なのだ。
戻る事も考慮に入れなければいけない所なのに、殿下はその点を無視してギリギリまで宝箱狙いで戦い続けると言っているのである。
それは無茶と言うモノであり、後の事を考えていない発言だ。まだまだ未熟と言わざるを得ない。
「目の前の事に熱くなってその後の事を考えられ無いってのは王の器ってヤツですか?」
俺がそう言って殿下を馬鹿にする。これに「キレるかな?」と思って殿下を観察したのだが。
ずっと静かに俺を睨むだけで殿下は一言も言い返そうとしてこない。
「多少は成長できました?どれだけ自らを甘やかして来ていたのか御自覚なさいましたか?それじゃあ次にボス鼠倒したら帰ろうか。倒した回数が中途半端になっちゃうけど、切りの良い所なんて目標にしたら「あとちょっと」とか言い出しかねないしね、殿下が。無理やり誰かが止める事を強要しないとそう言う奴って止め所を失うもんだよ。うん、経験者は語る。」
ここに来るまでの道中の試練獣は俺が全部片づけての事である。
ボス鼠を殿下に倒させる予定だったので、その途中で余計な体力を使わせないためだった。
だから帰りも同じだ。俺が出て来る試練獣を片っ端から処理して殿下やジェーウ達の体力温存をしていくつもりである。
安全第一、ヨシ!である。
ワープの魔法陣を使用すると言うのであればあと一回、と言わずに五回、或いは六回くらいはこの後にやらせても良かった。
けれども殿下は前回の時には「使用しない」との事をしっかりと主張したので今回もその意見は覆さないだろう。
「俺もう同じ事を繰り返し続けてるの見るの、飽きて来ちゃて。早々にこの件を終わらせたいんだよね。俺の目的って試練場の攻略だし?別に急いでるって訳でも無いんだけどさ。だからって言って無駄にこんな所で足踏みしていたい訳じゃ無いから。」
殿下の努力を俺は「無駄」とバッサリ言ってしまう。
じゃあお前がやれよ、と言われてしまえば返す言葉は無いが。
別に俺が二つ目を欲しくて連戦してる訳じゃ無く、殿下の我儘に対してその心をポッキリと折る為にこうして俺は同行している様なものだ。
今後にしつこく殿下が俺に絡んでこない様にと今ここで面倒を掛けてでも殿下の根性を叩き潰しておくべきだと思ってここに居るのだ。
だけども他人の「物欲センサー」に付き合うのはかったるいモノだ。
ソレが自分が「よろしくない」と思っている相手に付き合うというのだ。
早々につまらなくなってしまうのはしょうがない事だと、自分の中に言い訳をしておく。
(レアアイテムが出なくて敵を倒し続けて何時の間にか深夜を過ぎて早朝になりかける、みたいな事って幾らでもあったからな)
こう言った事は何となく、と言った形にしておいてはいけない。
ハッキリと「回数」で終わりを決めてソレに必ず従う精神を持たねばならない。
そうする事で自分の精神と健康を保つ事が出来るのだ。無理はいけない、禁物というやつである。
そんな事を言える資格なんて俺には本来だったら無いのかもしれないが。
俺が殿下に対してそんな事を気にする必要なんて何処にも無い。
ここに同行している目的はあくまでも「殿下の心を折る事」である。
まあ次の一回で宝箱が出てきてしまえばソレも達成できないかもしれないが。
しかしそこからも「ガチャ」である。
俺のは偶々この「マジック小袋」だったが、次に出て来た宝箱の中身が同じ物とは限らない。
殿下の目的がそこで達成でき無かったらまた一から始める事になる訳で。
その時こそ殿下の心が盛大に折れる時なのかもしれない。
もしかしたらマジック小袋と同等の価値がある様な「神具」が出て来る可能性も否定できないので、そこは出て来る物次第だろうが。
だから俺がこれに付きあうのは「ここまで」にしたいのだ。後は国の主導、或いは国王の肝入り案件としてそちらで勝手に頑張って欲しい所である。
俺は試練場の攻略の方に本腰を入れたいのだ。ここで脇道に逸れている場合じゃ無い。
「次で出て来なければ一度引く。」
殿下は苦々しい表情でそう決定を口にしたが。
「あ、俺はもう同行しないから。自分のやりたい事の方に移らせて貰う。あとは、まあ、頑張れ。」
俺のこの最後の一言にその場の全員が「え?」と言った顔になった。
どうやらマジック小袋が出て来るまで俺が付き合ってくれるとみんな思っていた様で。
「俺はちゃんと報酬を受け取ったよな?干渉されたくないって。もう俺はこの件に協力しないぞ?自分の目的の方が疎かになりそうだしなこのままじゃ。俺の力に頼らずに、殿下、次からは自身の力で頑張って?」




