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★★★死にかける★★★

 殿下がボス鼠の三体目を倒した。ここで一度目の休憩を入れる為に安全地帯として使用できる十一階層へと続く階段に入り込んだ俺たち。


「くッ!我の一撃が入れば確実に倒す事は出来ている!なのに!何故反撃をされるのだ!?」


 二体目が出て来た時は殿下はボス鼠のサイドから斬り掛かっている。そしてソレは成功してボス鼠に致命傷を与えているのだ。

 しかしそこからボス鼠が根性?を見せて殿下へと死に際の反撃をするのである。一体目と同じだった。

 だが流石に二度目となれば殿下はそれに油断せず躱す事に成功。問題は三体目だった。


 三体目への攻撃はボス鼠の背後へ奇襲である。リスポーンして復活し、ボス鼠の意識がこちらに全く向いていない初期状態、殿下はソレを狙った立ち位置で待ち強襲を掛ける。コレは見事にハマり失敗はしなかった。その背中をざっくりと斬り裂いている。

 だけどもこれでもやはりボス鼠はこの致命の一撃で即座に光と変わらず、ここでもまた殿下へと反撃をして来ていた。

 振り向きながら殿下へとその腕を叩きつけようと動くボス鼠。その一撃にバルツが割り込んで盾で殿下を助けていた。

 殿下はこの時「今度こそは!」などと言って動かないでいたのだ。油断はしていなかったみたいだが、しかし自信が過剰である。

 それで躱そうと動くのが遅くなり、バルツにフォローされた事で自尊心が傷ついた模様である。


「性格も根性も微妙に歪んでる所が何ともお坊ちゃんに育ったんだなぁ、って思わせるな。甘えが溢れ出てるじゃん。そんなに自分は御大層なモノじゃ無い、ってこれで分かっただろ?さあ、コレを出るまでやるか?やらないか?それとも諦めて自分の力じゃ無くて「国」の力を使って強引にでも取得を目指すか?それこそ、そんな手を使うのであればもうこの先、偉そうな態度を俺に対してして来るんじゃねーぞ?何せそうなったら殿下は「負け」ですよ?次いでにこの情報が他所に漏れたら世の中が混乱、混沌になるからね?良く考えようか?」


 満面の怒りと悔しさに歪んだ顔を俺に向けて来る殿下。しかし反論はしてこない。

 ここで口で何を言っても無駄である事を承知しているらしい。

 この俺の煽りに対して出来る事はこのままマジック小袋が出て来るまでボス鼠を倒し続ける事だから。


「我がこの程度で根を上げるとでも思っているのか?我には運がある、神が付いている!もう何度かやれば簡単に出て来るはずだ!そうに決まっている!」


「現実逃避なセリフを吐くの早過ぎないか?まあ元気な事は良い事だよな?じゃあガンバレ。」


 それこそ何日でも鼠狩りをし続けられる様に俺の持つマジック小袋の中には食事やら道具やらを沢山詰めて来てある。

 なのでこのまま何かしらの成果、或いは結果が出るまではぶっ通しでここに滞在する予定である。

 試練場内での長期滞在の実験だ。それこそ試練場は話が本当ならドレもコレも百階層あると言う。

 ならばそれを攻略するのにかなりの日数掛かるはず。コレは慣れておかねばかなり辛い。環境とは一種の「敵」とも呼べる代物だ。

 コレを攻略できなければ早々に精神を病んでリタイアだろう。


 その後は四体目のリスポーン待機。ボス鼠が復活したタイミングを狙って殿下が鋭い一撃で仕留める様になったのだが。しかしやはり反撃をされてソレの対応に四苦八苦している。


 そうして十体目。ここで殿下はとうとう死に際のボス鼠の一撃を食らってしまった。

 裏拳の様に繰り出されたその攻撃をもろに腕に受けた殿下はかなりの距離を吹っ飛んで床に転がる。


 バルツがコレを防いでいても良い様な場面だったのだが、この十回目だけは殿下が命令を出してジェーウ達にフォローに入る事を禁じていたのだ。

 これに「じゃあ一度くらいなら」と言った感じでこの命令を守ったジェーウ達である。殿下のプライドを慮っての事だったのだろうが。

 しかしその一度がいけない。表面上は気を張って殿下はその見た目から疲れを見せ無い様にしていたのだ。それが原因で回避が遅れている。

 そしてジェーウ達も油断していた。この十回目まで殿下はボス鼠の攻撃を躱したり受け流したり、バルツに守られたりとしていたので「まあ大丈夫だろう」と言った気持ちが出来上がってしまっていたのだ。

 バルツは以前に護衛とは何たるかを語っていたはずなのに、人とは油断も迂闊もするモノだと改めて思う所である。


「あーあ、言わんこっちゃない。そんなのしない方が良いぞって言っておいたんだけどな。」


 俺だけはコレに諫言をしていたのだが、結果はコレだ。多分吹き飛ばされただけで死んではいないだろうが、それでもコレは起こるべくして起きた事故である。

 打ち所が悪くて死んでしまっている可能性も微レ存である。


「・・・ぐっ!ううううう、ぐはぁ~・・・」


「おい、向いちゃいけない方向に腕が行っちゃってるじゃんよ・・・」


 殿下、腕を骨折。まあ予想は出来た。ボス鼠の一撃は重いのである。

 バルツがボス鼠の一撃を受け止めた際の響く音が重低音だったのだ。受け止めた本人も苦い顔になっていたのでその一撃がかなりの衝撃を伴っていると一目で分かっていた。

 そんな攻撃を受けて腕が折れただけで済んだと言うのが正直幸運だと思う。


 これにすかさずポンスが殿下に近づく。バリーダが殿下を起し、ジェーウが折れた腕を一気に元の位置に戻す。即座に応急処置の連携を取っている。

 ここで殿下、かなりの叫びを上げる。まあ激痛だろうからしょうがない。折れて明後日の方向に曲がっている腕を今この時に素早く元に戻しておかねば後でその患部の腫れが凄まじい事になってしまうだろうから、そうなれば痛みや腫れも尋常では無くなるはずだ。


 しかしその叫びも短い時間だ。ポンスの回復魔法がその折れた腕を繋ぎ合わせた様で殿下は直ぐに静かになっていく。

 しかし殿下のその顔に浮かべる脂汗がちゃんと先ほどまで腕を骨折していた事を示している。


「回復魔法スゲー。これって骨、しっかりとくっついたのか?」


「このまま一時間程はずっと魔法をかけ続けていれば完治しますねぇ。でも、その間は続ける事は出来ません。」


 ポンスが小さく溜息を吐いてから殿下を階段の方に歩かせる。安全地帯で殿下を休ませる為だ。今のままではボス鼠狩りを続けさせる事はできない。キッチリと腕を治してからでなくては続けさせられ無いだろう。


 こうして二回目の休憩は最低でも一時間と言った中途半端な長さになった。コレを利用して軽い腹ごしらえと仮眠を取る事に。

 ここで活躍するのは俺のマジック小袋である。ポイポイと必要な物を手早く取り出したら後は各自で分担して軽食の用意だ。


「・・・くッ!」


 殿下はどうやら悔しさのあまりに言葉が出ない模様。俺はこれに「うるさくなくて良い感じ」くらいにしか思わなかったのでコレを放置。煽りもしないし、揶揄いもしない。

 このまま処置しないでいると何時までも鬱陶しそうな人物である。なら手間でも今ここで殿下の心を折っておく必要があるだろう。

 そうじゃ無いと今後に俺に対してウザい絡み方をされかねない。そんなのは御免である。その未来を此処で止めるのだ。


(とは言っても、もうパターンは理解できてるみたいだし?後は運だけって事かな?)


 既にボス鼠の背後へと復活直後に斬り掛かると言ったパターンで攻略を固めた様子な殿下だ。

 ならば後はコレを諦めずに繰り返し続けるだけ。そこからは「運」である。出て来るか、出て来ないか分からない「シュレンティンガーの猫」だったか?である。


 しかし運だと言えどもだ。簡単に出て来て貰っては困るし、出ないとなっても、最低でも俺が倒した数に近いくらいの討伐数は稼いで貰いたい所である。俺の苦労をその身に染みて理解して貰う為に。

 まあこの調子だと相当な時間、日数を使う事になるだろうが。

 それでも出るか出ないか分から無いモノへと挑戦し続ける事はかなりの精神的負担だ。殿下がこれにどれだけ耐えられるかの問題でもある。


(まあこの程度で殿下の性格の修正ができていれば、こんな所に今俺はいなかったんだがなぁ?)


 根性を叩き直す、と言った言葉があるが、人が早々にその性格を直せていたらもっと世界は平和なはずだ。

 今回の事で多少は殿下にも変化は起きるだろうと予想できはするが、その程度なのだ。期待など無いのである。


 こうして一時間のポンスの回復魔法で腕を完治させた殿下はゆっくりとボス部屋へと足を向けて歩き出す。


「はいはい殿下、ちょと止まれ。おい、止まれ。何そんな急いでるんだよ。」


 治療中の殿下はずっと無言だった。そして治ったらこれである。


「焦ってんじゃねーよ。殿下の強さってのはその程度って事を認めてからだぞ?再挑戦するのは。それと、運良く命があって良かったな。下手すりゃ死んでたんだ。先ずはそこをしっかりと認識して貰いたいね?それに、治療を受けても礼の言葉の一つもポンスに言わないのか?俗物以下か?」


「貴様に何が解かる・・・」


「んなモン分かる訳無いだろ?今の殿下が他から見たらどう見えるかを教えてやってんだよ。他人からの評価なんて知らんってか?おいおい、今の殿下の事を何て呼ぶか知ってるか?無様って言うんだよ。そんなんで国民が付いて来ると思ってる?」


 俺の煽りにコチラに振り向いて殿下が睨んでくるが、ソレをジェーウが止める。


「殿下、食事と睡眠を取ってください。一度冷静になるべきでしょう。私たちも自分たちの責任を果たせずに肝を冷やしました。殿下がこれで殺されていたら私たち全員の首は国によって離れ離れになっている所です。私たちは殿下の護衛であったにも関わらず例え命令されたとはいえ危険な目に殿下を合わせてしまいました。もう同じ過ちは二度と致しません。次からは全力で取り組みます。ですので、どうか。」


 ジェーウの顔は真剣だ。そりゃ護衛対象を死なせかけたのだ。たとえそれにどんな経緯があったとしても。目が覚めるとはこの事だろう。

 完全にこの件は殿下の自業自得であるはずだが、それでも、そうは言え無いのが大人の事情と言うヤツだ。


 ここで憤懣と言った感情が詰まった顔で殿下は食事を摂った。そして食べ終わったら拗ねた子供の様に階段に横に寝転がって目を瞑ってしまう。


(この調子だと何時この試練場を出る事になるかねぇ?三十か、四十くらいで出て来なかったら一度お城に戻る方向で考えといた方が良いかな?いや、もうちょっと少なくても良いか?)


 この分だと殿下の限界は結構早めに来るだろうと予想して撤退のタイミングを想定しておく。

 殿下のこの様子であると恐らくは無理を押し通そうとしてくるに違いない。

 その時にはジェーウ達に殿下を止めて貰って説得も頼む事とする。俺が説得なんてしても殿下は耳を貸しそうも無いから。

 俺の言葉を殿下が拾う時は先程の様に煽りに煽った文句を口にした時だけだろう。しかしそうなったら説得なんて話では無く、御怒りMaxになるのは目に見えている。


「あー、面倒クセェなぁ。」


 俺はそうぼやいてからこの先どうなるかを思案して大きく溜息を吐いた。

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