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★★★殿下の腕前★★★

「さて、そんな訳で何事も無く、ホント、何事も無く十階層のボス部屋前まで来ましたが、殿下、準備はヨロシ?」


「ちっ!貴様に言われるまでも無い。早く説明をしろ!」


「じゃあ教えますけどね。やり遂げて貰いますよ?ちゃんとご自身の力だけで取得を目指して貰います。ああ、危なくなる前に介入をジェーウ達はしても良いから、ボスへの攻撃は控えてくれ?殿下だけの攻撃だけでキッチリと仕留めて貰う為にな。」


 殿下の守護に第一隊騎士団が選ばれている。持ちのロン、コレは王命だ。しかも書類に残ら無い系である。

 公けにせずにヒッソリとマジック小袋ゲットだぜ!をする為である。

 傍から見れば殿下の我儘でジェーウ達が引っ張り出されてこうして試練場に潜っていると言う形になっている。

 昨日も殿下が試練場に入っているのでそこら辺の憶測やら推測は他の貴族やら教会には勝手にさせておく。

 殿下の命を狙っていた者たちはこれにどの様な反応や行動を取るかを王様の抱える諜報部員が調べると言った形も取っているので只では転ばない。泣き寝入りしない。

 行動あるのみ、様子見せずに相手を誘き出したり無駄に煽る事で暗殺を企てた奴らを大人しくさせずに半ば無理やりにでも動かす、そんな思惑である。

 旨くいかないでも良い。今こうして試練場のこの十階層に潜った本当の用事が何なのかを知られたりする事が無ければソレで良いと言った面も含んでいる。


「そう言う点では王様も結構腹黒だよな。まあ殿下付きの騎士たちはゆっくりとお休みを貰ってるだろうからきっと心の底から喜んでるだろうけどな。」


 此処には昨日に殿下に付き添っていた騎士たちはいない。これからどれだけの日数掛かって殿下がマジック小袋をゲットできるかは運次第である。それで彼らの連休が決まる。

 そうで無ければずっとソレを得られずに殿下がギブアップをした時だろうか?殿下の根性が問われる所である。そして判断力も。


「さっさと教えろ。しかし、ここまで来たのならば既に我には察しがついたが。どうせこの階層の主から落とす神具なのだろう?ならばさっさと我の手でソレを倒して見せてくれる。行くぞ!」


 殿下が勝手にボス部屋に入って行ってしまう。なので俺たちもその後に続いて中へと入った。

 そこにはやはり変わらずに居た。巨大鼠である。こちらに振り向いて「じゅう?」と小さく鳴いた。


「あの程度の試練獣如きに遅れを取る我では無いわぁ!」


 いきなり斬りかかる殿下。様子見も無し、全力での斬り下ろし。

 だけどもコレを簡単に横っ飛びで躱すボス鼠である。力量の差は一目瞭然。


「あ、コレあかんな?倒せるか?」


 俺はジェーウに先程の殿下の一撃を見ての感想を聞いた。で、ここで最悪の返しが来る。


「無理に近い。今の踏み込みは悪く無かった。と言うか、かなり速い。それで避けられているから、まあ、倒せるとしてもかなり工夫が要る。・・・何だ?」


 ここでやはりと言うべきだ。何処からとも無く小型の鼠が十五体も出てきた。

 とは言え、コレも小型と言ってはいけないレベルの大きさなのだが。ジェーウがドンドン出て来たそいつらに引いている。

 ガンプラの「MG」をちょっと超えるレベルである。いや、大きさ的に見たらマルマル太ったそんなレベルなのでもしかすると「PG」くらいはいく鼠が四方八方から殿下へと向かって体当たり、或いは噛みつきを狙って飛び掛かる。


「むぅううう!?この邪魔者どもめがぁ!」


 それらを捌く殿下は別段危ない場面と言った所も見せずにそれらを処理していくのだが。

 そうなればボス鼠への攻撃は出来なくなってしまう訳で。


「あーあ、やっぱ予想通りだったでしょ?速攻でぶっ倒す選択肢が正解なんだよ、こいつ。」


「そんな事言ってる場合じゃ無いでしょうが!殿下が危ういでしょ!?」


 冷静にツッコミを入れて来るのはアリーエだ。しかしもう既に助けに走っている者は居る。

 バルツだ。ボス鼠が小物を相手にする殿下に隙を突いてその巨体での体当たりをかまそうとしていた間に入り込んでコレを止めていた。


 そこに駆けつけているのはバリーダ。殿下のフォローに入る為に小物の方に攻撃を仕掛けて一体一体を確実に屠っている。


 ジェーウはと言うとバルツが止めたボス鼠に斬り掛かっていたのだが、コレを躱されている。

 これでボス鼠は距離をまた再び取ってこちらへの観察を続けて来る。


 小物を倒す殿下とバリーダはそれらを全て片付けた事でジェーウとバルツの方に合流して簡単な陣形を取った。


 そこにアリーエの魔法が飛ぶ。ボス鼠にだ。炎の玉である。しかしこれの速度は殿下が最初に見せた斬り掛かりよりも若干速度が遅い。

 ソレを余裕で躱したボス鼠の背後の壁に炎の玉は当たって大きく爆発をする。

 けれどもソレに怯みもしないボス鼠の回避行動終わり際を殿下が狙って斬り掛かりに行く。


「うおおおおあぁ!」


 ソレはボス鼠の表皮を切り裂いただけだった。イマイチ踏み込みが足りなかった模様である。

 しかしこれに「倒せる」と手応えを得たのだろう殿下がにやりと笑った。


「ふん!我の一撃がマトモに当たれば終わりだ。何時まで躱し続けられるかな?」


 などと偉そうに口にするのだが。ここで再びまた小物な鼠がわらわらと何処からともなく現れる。その数は二十だ。

 これに殿下は頬を引き攣らせた。多分援軍は一回だけだと思い込んでいたんだろう。


「こういう奴のパターンてボスが倒されなければ延々と雑魚を沸かせ続けるもんだよなぁ。しかも体力が減れば減る程に出してくる数と頻度が上がるって、結構定番じゃ無いか?あれ?そうなるとこの十階層で出て来る強さじゃ無くねコイツ?」


 俺はその結果に思考が行きついて援護をする事に決める。もちろんウォーターガンで小物だけを狙って数を減らして行くだけなのだが。そこら辺が妥協点である。

 今回の目的は殿下だけの力でこのボス鼠を討伐させる事なのである。しかしこのままでは余計に時間が掛かり過ぎる。最悪集中力が途切れれば殿下が致命傷を受けかねない。

 慎重に、などと言ってこのまま行けば一回倒すだけでどれだけの時間が掛かると言うのか?なので急遽俺参戦である。


「あー、ジェーウ、力を貸してやってくれ。追い込みはしても直接攻撃は殿下がやって。その様子じゃ殿下だけじゃ幾ら時間かけたって一体すらも自力で倒せそうも無いみたいだ。」


 俺はパスパスと無限湧きしてくる小物の方を消していく。指先を向けて標準を合わせたら連続でウォーターガンを撃ちまくる砲台と化す俺。

 ジェーウは俺の言葉に従って相手にしなくても良くなった小物を無視してボス鼠に斬り掛かる。

 しかしこれは只の牽制だ。本命は殿下の一撃に、そんな流れを作る為の布石である。


 バルツがここでボス鼠の斬り掛かりを避ける方角を予測してその前に立ち塞がっていた。いぶし銀な活躍である。

 邪魔になるバルツの盾に対して気づいたボス鼠がその短い、と言うか、巨大なので短くてもリーチのある前足の爪で切り掛かっている。

 その隙を突いてここで殿下が踏み込んだ。ボス鼠の背後に。


 その一撃は気合を込めた物であっても気勢は上げ無かった。声を上げれば相手に攻撃タイミングを悟られる、それくらいの事はしっかりと殿下は理解しての攻撃だった。


 背中を大きく斬り裂かれたボス鼠は大きく仰け反った。恐らくは致命の一撃。しかし成功した、と油断するのはまだ早い。

 ボス鼠、まだ光と消えていないのだ。だから殿下、「やったか!?」と言ってはいけないのである。


「そりゃフラグだ。・・・あー、吹き飛ばされちゃった・・・」


 殿下は振り向きざまのボス鼠の振り払いの腕を食らってしまった。しかし剣をそこに叩きつけていたので反射神経は良かった。

 だけども威力負けして床に転がる殿下。この先が思いやられる場面だ。


 だがそこで運良く、と言って良いのだろう。ボス鼠は光と変わって消えていった。

 後に残されたのはもう散々ゲットしている例のマント、炎熱完全耐性のマントだった。


 ポンスがここですかさず殿下に近づいて回復魔法を掛けている。どうやら無事ではある様子。しかし。


「クソっ!あの一撃で素直に消えていれば良かったものを!・・・余計な攻撃を食らってしまうとは、我としたことが!」


 手応えのあった一撃で沈め切れなかった事に悔しそうにそう唸る殿下はどうやら自身の未熟を許せないらしい。

 だけども一応はこれで殿下にはこのマジック小袋をゲットできる「資格」だけはある事を証明して見せた。後は数を熟して苦労して貰うだけである。


 ここでアリーエがマントを手に取って殿下に渡す。これに殿下は「何だ?」と不思議な目でソレを受け取った。


「何だこの色の地味で古ぼけた印象のマントは?コレを我に着けろと言うのか?我を愚弄しておるのか?」


 アリーエを睨んだ殿下は未だに腹の虫が治まっていないままで不機嫌そうにアリーエへと視線を向けた。

 ここでポンスがこのマントの解説を殿下に聞かせる。これに殿下は「は?」と驚いている。


「嘘を申すな。コレが、か?馬鹿を言え。お前たちは私を騙そうとしておるのか?こやつの持つ何でも入る袋はどうなっている!?ソレを我は取りに来たのだぞ!?いや、このマントの効果も凄まじい物ではあるが!信じられると思っているのか!?」


 殿下はポンスが鑑定できる事を知っている模様。そして出まかせを言っていない事も理解した様だ。

 そして本来の目的の物が得られずじまいな事に憤りを隠せていない。

 ここでジェーウが殿下に冷静になる様に言う。


「殿下、この十階層の主を全てタクマは自身の手だけで七十回近く倒しております。しかもほとんど休憩も入れずに連続でずっとです。私たちの手助けする場面などあり得るはずも無い程に、主復活と同時の機に一瞬で、です。殿下、コレがどう言う意味であるか、理解できますか?」


 最初は何を言っているのかサッパリと言った顔でいた殿下は次第に眉を顰めていく。ジェーウもソレに合わせて追加で結論を述べた。


「タクマはその最後の最後にあの小袋を得たのです。彼一人の力で全ては成されました。殿下は出来ますか?タクマと同じような事を。今の戦いを振り返ってみてどうですか?しかも、ソレが出て来るかどうかすら、確定してはいないのです。どれだけ倒せば確実に出てくる、などと言った代物では無いのですよ。あの袋は。コレがどう言う意味であるか、殿下には早めに理解して頂きたく。」


「・・・み、み、み、みみみみ!」


「み?」


「認めて堪るかあああああ!」


 殿下の叫びはボス部屋にこだました。しかし、それは虚しい。認めても、認めなくても、現実は厳しいのだ。

 欲しければコレを繰り返し続けて出て来るまで続けなければならない。


「それじゃあ殿下。頑張ってくださいね?ああ、一応は俺も手助けしますから。けど、何時まで持ちますかね?あ、もうそろそろ復活してくるかな?じゃあちゃんとここは殿下にしっかりと対応して貰うとしましょう。俺たちの誰も初撃を放ちません。先ずは殿下が最初に動き出してください。どの様に対応し、工夫していくかは全て殿下で考えて。それじゃあ、最後にこの言葉を。もし殿下が途中で諦めたら・・・そこで試合終了ですよ?」


 俺の最後の言葉に殿下はムッとした顔で勢い良く立ち上がった。

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