★★★やはりコレは運命なの?★★★
様子がおかしい、嫌味騎士がそんな顔をしたのは俺が魔法を撃ち込み終わってちょっと間を置いてからだ。
「何故足音が聞こえなくなったのです?・・・早く私の命令に従って奴らを殺さないか!どうした!?下等な獣が!この私の命令が聞けないのか!?何故ここに来ない!?」
チリンチリン、もう一度ベルを鳴らす嫌味騎士はそれでもやって来ない試練獣にイラつきを募らせる。
そして今度はより激しく強くベルを振る。そしてそれでも試練獣がやって来る気配が無い事で今度は俺を睨んで来た。
「どう言う事だコレは!?き、貴様が何か仕掛けたのか!?な、何をしたこの下郎めがぁ!」
とうとう怒り爆発。挑戦者だと見下している教会騎士はよっぽどの事が無ければこちらを無視すると聞いていたのだが。
「あー、皆もう良いよマントは。熱の方はこっちにまで影響は出てないっぽい。うーん、ウェーブだったらヤバかったな。選択間違えないで良かった。」
やはり魔法の性能は把握しておいた方が良い。俺はドラドラクエストの全ての魔法の説明文を覚えちゃいないが、しかし使ってみればその内に記憶の中から引き出せるだろうと言った楽観をしているが。
実際に使ってみてから思い出して「最悪」な結末になってしまったら?後悔先に立たず、などと恐怖も感じてはいる。
だけども思い出せ無かったらソレはソレでしょうがない事と割り切らねばこの世界じゃ俺はやって行けそうにも無い。
と言ってもソレが俺の背負える範囲じゃない、背負える重さじゃない、消化できない失敗、などなら俺はソレが元になって精神的に憔悴してそれから抜け出せなくなり自死をしてしまうかもしれない。
今回はそうならなかったのは運が良かっただけ、などとも言える状況ではあると思うのだが。
レーザーの方は以前に一度使っていてその攻撃範囲と効果はざっくりとだが分かっていた。これを選んだのは偶然などでは無い。そこら辺は俺も多少は今回考えている。
あの「トイレ事件」をもう二度と繰り返すのは勘弁だ。
「それで、どうすんのこれ?試練場内での揉め事、って範疇を超えてるんだけど?」
こんな展開になるとは思っていなかった。いや、ソレは俺だけじゃ無くこの場に居る全員がそう思っているはずだ。
こっちの話だけじゃ無く、向こうの教会騎士もそうだろう。本当だったら多分殿下は九階層で死んでたんじゃなかろうか?そうなるのが向こう本来の筋書きだったのだと思う。
あのベルで操った試練獣を殿下に差し向けて事故を装い殺す。だって俺が前に出ろと殿下に言われた後に直ぐ二十以上の試練獣が迫って来たのだ。
きっとあのベルの効果には制限はあるのかもしれないが、アレだけの試練獣を操れるのは脅威だろう。
俺が居なければ殿下もソレに付き従う騎士たちも死んでいた可能性が大きいのである。試練獣の数に押しつぶされて。
さて、俺のこの問いかけに頭を回し始めた殿下は嫌味騎士を問いただそうとして口を開きかける。
それよりも早く殿下に近づいて来る背後の教会騎士。もちろん作戦の失敗を悟って即座に自らの剣で殿下を亡き者にしようと動いたのだ。
でもそんなのは通用しない。だって俺が居る。いや、俺がやらなくても殿下が連れて来ている騎士がその一撃を防いでいた。腕に付けたスモールシールドだ。形は丸盾である。
良い感じに教会騎士の攻撃をはじき返して隙を作り出している。しかしその隙へと反撃を入れると言った事はせずにその騎士は様子見に徹した。追撃をしなかった事で空気が「仕切り直し」と言った感じになっている。
向こうが殿下の暗殺を目論見てこの試練場に一々誘き寄せたのは分かった。だが、その理由とソレを企んだ背後の人物の事が重要だ。
ソレをここで相手に吐き出させる流れにするにも、いきなり殺しをてしまうともう後には引けなくなる。戦闘はそのまま継続になり、乱戦は必須。
そして向こうはどさくさに紛れて殿下さえ殺せれば良いみたいな空気が僅かに漏れている。
そう、今さっきの不意打ち狙いで真っ先に殿下を狙っているのがその証拠だった。まあそれは稚拙な行動で、あっさりと防がれている所が向こうの焦りとして現れている。
ここで取り巻きの騎士たちを狙って無力化しようと狙っていたのなら覚悟の決まった、教会騎士たちが命の掛け所として襲撃を掛けていたに違いない。
全員を殺す、その覚悟を以ってして教会騎士がこちらを襲ってくるはずだそうなれば。
だけどそれをしないのなら逃げ出せる算段を持っている可能性が高い。
試練場内で、しかもここは十階層。今ここに居る者たち以外で部外者、第三者の目撃者は居ない。
この場を切り抜ければどうとでも誤魔化せる、そんな浅い思惑が嫌味騎士の顔には透けて見えていたのだ。
「イヤーム教会騎士殿、何もかもを一切話す気は無いと、そう言う事ですか?」
ジェーウがそう言って嫌味騎士へと問い質す。と言うか、名前がイヤームとか聞いてそこでブフッと俺は吹き出してしまってシリアスな空気を壊してしまう。
「口を開けば出るのは嫌味がデフォルトのイヤーム!ちょ、響きがおもろい。名前は体を表す、だっけ?ブッフ!ブッフ!ブッフ・・・!」
俺は笑いを堪えようとして堪えられずに短く、そして連続で吹き出す。面白くもなんともないこんな場面で笑っている俺は自分で自分が信じられ無い。笑いのツボが妙な所に入った事を自覚した。マリの事をとやかく言える資格は俺には無かったこれでは。
やってはならない事だコレは人として。名前を笑うなどと言った行為は相手への最大の侮辱として受け止められても仕方が無い。
そしてそのイヤームは俺に対して怒り心頭の顔で怒鳴りつけて来た。
「き、貴様ぁぁぁ・・・!この私の手でぶち殺してやる!」
剣を抜いたイヤーム。それは合図となって他の教会騎士が俺たちを囲う。
(お前一体何なの?沸点低いし、怒るの早くね?と言うか、ここで予定が狂い過ぎて感情のコントロールが出来なくなってんのか?)
マリとのやり取り、ジェーウとのやり取りでこれまでイヤームは我慢をしてきている。そんな奴なのにここで俺に対してはこの場でこれ程に早く感情を爆発させるのには違和感があるのだが。
そこは向こうが俺の事を挑戦者だと勘違いをしていて見下していると言った事も絡んでいるかもしれないから何とも言えない。
ここで、数としてはこちらの方が有利だが、相手から情報を抜き出す為にも数名は生かしておかねばならない。
殺すにしてもそこら辺は誰を残すのかと言った問題も抱えてしまうだろう。それはこちらの全力、実力が出せない、出し難くなる事に繋がる。
そうなれば数の有利が途端に小さくなる。まあこの程度の人数だと一人の圧倒的強者と言うモノが居るとそこは関係無くなってしまうのだが。それは横に今は置いておいて。
ここで教会騎士はその俺たちの数などは脅威と感じていない様子だった。
恐らくは自らの力に自信があるのだろう。もしくはこちらを非常に舐めて掛かって来ているかの二択。
いや、ソレは良く考えれば同じだった。自分の力に自信があるから相手は俺たちを舐めて掛かるのだ。
「俺はこういう場合に試練場内ではどう言ったルールが使われてるのか知らないんだけど?説明誰かしてくれないか?」
「こう言った殺し合いの場合は・・・単純に生き残った方の証言が重きを置かれるよ。証拠になる物も、証言をする人物も、どちらも確保は難しいってさ。だから生きて戻って来た者の言葉一つで終了なんだって。」
マリがそう言ってざっくりと解説してくれた。
「って言うか、良く知ってるな?あ、いや、短い間に調べた?」
一応は視察と言った御名目でマリはここに居るんだったか?ならば一夜漬けでそう言った試練場内のルールを頭に入れて来たのかもしれない。
「あれ?そうなると悪行三昧する奴らが多く輩出されるんじゃ無いか?この試練場内ではやりたい放題って言って。弱い物いじめや、カツアゲ、人殺しを楽しむクソ野郎が増加しない?」
「そこは自浄作用に全て任せているそうだよ。これまでに大きな事件の報告はされていないと言った事らしいけど。それでも裏で何か隠していたりする部分もあったりするかもね。」
「詐欺も横行してそうだな。何だかんだ言って騙されて被害を受けてる奴も居るんじゃ無いか?被害が申請されてないだけで。」
「まあそう言うのはどんな職業や場所でも発生していると思うよ?其処は完全に騙して来る輩が悪いけど。しかし騙されてしまった者たちがそう言った奴らを訴えても「時すでに遅し」ってなっている事が大半で対処は政府としても大がかりな被害などが出なければ動く事は難しいのではないかな。」
「世知辛いなぁ。やっぱドコモかしこもそんなもんかぁ。泣き寝入りツラァ・・・」
俺とマリのこのやり取りの緊張感の無さに教会騎士たちは動きを止める。
余りにもこちらの呑気さを「非常識」と捉えての警戒である様だ。
殿下もその護衛もどうにも俺たちのこの気楽さに何か言いたげな様子。
不用意、こんな命の掛かっている場面で余りにも目の前の危険に対して無防備。
思う所はそんな感じだろう。俺の事など知らない相手なら。
「あーあ、やっぱり「俺強」とか「無双」とかする事になるんじゃん。でも一応は口止めしてあるから展開的にはまだギリまし?」
そんな事をぼやいてから俺は一歩踏み込んだ。未だにまだ完全にコントロール出来ているとは言えない代物であるが「縮地」で相手の裏を取る。
まあコレは意識して俺が踏み込むとどうにも勝手に相手の裏側に自動で回り込むシステムみたいな感じなのだが。
先ずはこちらを一番ニヤニヤ顔で見て来ていた教会騎士の背後に出る。
「手加減が出来ていますように!」
俺は手刀で「首トン」と言った怖い事は出来ない。アレは確か原理的に見て「首に集中している神経に瞬間的、かつ強い衝撃を与えて意識を刈り取る」と言った技術だったはずだ。
だけどもコレ、普通に言って、危険だ。それこそこれが出来る様な者は寧ろ逆にファンタジーな存在と言ってしまえる程に。
人の意識と言うのは複雑な物なのだ。それを力づくで、しかも人体急所を狙って意識だけが飛ぶように一撃入れるなど尋常の沙汰では無い。
下手すりゃその一撃で神経がやられて首から下が全身麻痺、もしくはそのまま意識が戻らず植物人間。そんな恐ろしい物なのである「首トン」と言うのは。
だから俺は肩パンで収める。俺じゃ無きゃ見逃してるね、とかやってられないのである。
しかしこの一見「その程度じゃ死なんだろ?」みたいな一撃でも俺は神経を使わねばならないのだ。
俺は力加減などがどうにもし難い身体となっている。このドラドラクエスト主人公の身体スペックが異常なだけなのか?はたまた神様がやらかしちゃった「仕様」であるのかは定かじゃない。
けれども俺はこの肩パンで人を殺しかねないのだ簡単に。
そして俺はこれまでに悪党を殺した経験はあるので別にこの教会騎士を今さら何人か殺した所できっと心は痛まないと思う。
既に向こうが殺意満々でとっくにこちらを殺そうと動いていたのだから。だからその点に関して言うと、力加減と言うモノが上手くできる可能性が低くなる要因なのだそれは。
で、俺はやらかした。ちょっとふざけて友達同士でじゃれ合った、くらいの感じで放った俺のグーパンはその教会騎士を吹き飛ばしてしまった。7mくらいは飛んだ。高さも充分。2mは行く。
「・・・相変わらず加減が分らん。どうしてこうなる?」
俺自身では力など入れて殴った覚えも無いのでこんな飛ぶのが理不尽に感じるのだが、現実は非常だ。目の前の結果が全てなのだから。
人が簡単にぽーん、と飛ぶ光景。
「わあ、凄いねやっぱりタクマは!」
そんなマリの称賛の声だけが今は俺を慰めてくれるのだった。




