★★★どうやら狙われていた様で★★★
「き、貴様一体何者だ?」
「あーウルセ。これで良いだろ?文句は無いな?ならもう止めだ、止め。さて、俺は要求する。この事は全員黙ってろ。口止めな?これから十階層にまで一気に行くから、ソレで俺の事は見なかった事にしろ。ソレで良いな?ソレが嫌だって言うならもう俺は帰る。マリも、ジェーウもソレで良いか?王子様が要らん事言ったら俺は正直言って、本気で首都から逃げ出すからな?巻き込まれるのも利用されるのも真っ平だ。良い様に言いくるめられるのもムカつく。」
「タクマがそう言うのなら従うよ。私も父上に色々と話はしなければならないけど。その時には首都からタクマがすんなりと出ていけれる様に父上に頼んで手配をして貰うね。その代わりに連絡手段の相談もしたいな?そのままその後にずっと会えなくなってしまうのは嫌だもの。」
マリがそう言って俺の擁護をして来てくれた。これに殿下は驚いた顔に変わる。
友人だとマリの口から俺を紹介されているのにそこまで優遇しているのが信じられ無いんだろう。
殿下は増々俺が何者なのかを問いたいと言った事がありありと見える苦い表情へと変わっている。
「王子様たちは教会騎士に追い付ければ良いんだろ?ならこのまま俺たちが居ない状態でこの先まで進む事が出来そうか?できるって言うなら俺たちはその時点で戻らせて貰う。あんたの我儘やら権力やら言い分やら御高説に関わり合う気は俺には無い。だけど助けて欲しいって言うならそこは義理だ。ここまで流されて、とあっても、もうここまで来ちゃったからな。頼まれたら中途半端にはしない。どうする?」
ジェーウたちはそもそも俺に同行する方を優先してくれている。なので今のこの場は俺が殿下よりも優位な立場だ。
俺たちは九階層の通路でこの会話をしている。このまま突っ立ったままで居ればまたその内にこの場に試練獣がやって来る事だろう。
そうしたらもう俺は力を隠しておく事はしない。もう見られちゃってるから。
そんな事を思っていれば三体追加で通路の奥からこちらに突っ込んでくる試練獣が。
俺はソレに向かって魔法、ウォーターガンを連発して試練獣を光と変える。しかもその距離はかなり遠い。接近にまでかなりの余裕がある状態でだ。
今俺たちは一直線の通路に居た。なのでこの程度なら簡単に済む。
しかしこれを見た殿下も、その護衛だろう騎士たちも目を見開いてまだ驚いていた。
俺が先程に二十体以上もの数の試練獣を屠った所をその目で見ているのにまだ信じられ無いと言いたい様子。
「よし、どうやら答えてくれないらしいからもう帰るか。んじゃ、もう二度と会わない事を願って・・・」
俺は踵を返そうとして止められた。殿下にだ。
「ま、待て!分かった。金は払おう。そのまま我の護衛として雇おうでは無いか。」
俺は足を止めないでその場を去る。殿下の言葉に振り向きもしない。
だって俺の言った言葉を全く理解していない言葉が聞こえて来ているのだ。無視するのが当然だ。
口止め、俺はソレを求めたのだ。試練場内で今見た事、それとこれからその目にする光景を誰にも言わず黙っていれば十階層に連れて行ってやる、と。
幾ら出す?と言った話を俺はしていないのだ。根本的にズレている。何が「分かった」のか?殿下の頭の中はどう言った思考でその解答に辿り着いたのだろうか不思議である。
さて、教会騎士とは今の所は遭遇していない。ならばもしかしたら十階層に到達しているかもしれない。
もしくは別の道に行っている可能性もある。寧ろ殿下がこの階層でやった戦闘の疲労の様子を参考に考えれば、既に教会騎士たちはかなりの疲弊をして試練獣に押し切られて全滅、などと言った調子になっている事も考えられる。
別に教会騎士たちを追いかけてはいる状況だが、向こうの事を無理して探して危なくなっていたら助ける、何て事が目的では無い。
俺たちはそもそもが殿下と目的を異にしている。ならばこれ以上の付き合いは無用である。向こうから頼まれなければ。
「まて!待てと言っている!何故止まらん!マリエンスも何故そ奴に付いて行く!?分かった!分かった!誰にも言わん!言わん!止まれ!止まれと言っている!」
慌ててそう言い直した殿下は頭の切り替えが早い。誰にも言わないと言うその言葉で俺はやっと足を止めて振り向いた。そこで付け加える。
「口約束だけじゃ信用ならないから、もう一声欲しいね。そうだな、王家の名に懸けて黙っていると、ここで誓って貰おう。証人はこの場の全員だな。」
流石にそこまでの事をしてまで約束するのはどうかと思ったんだろう。殿下は一瞬だけ顰め面をして俺を睨んだのだが、ちゃんと現実は見えている様だった。
「分かった。我の名において秘密は漏らさん。今見た事、これから目にする事に関して一切の口外をせぬ事を誓う。・・・これで良いか?なら、頼む。」
王族としての教育は優秀だったのだろう。そしてその場その場でしっかりと状況を分析して自身の器に吞み込める殿下は王としての資質は充分と言った感じか。
「はいはいはい、じゃあご案内致しましょうかね。偉そうな事をペラペラと口にしちゃってスイマセンネー。」
「・・・貴様、全然そうは思っておらんだろ?もう何者かなどを聞いたりもせん。その代わりしっかりと十階層にまで我らを案内して貰うぞ?」
ちょっと怒っている殿下はそう言って何も言わなくなった。俺はソレに気分を変えてさっさと十階層への道を進み始める。
出て来る試練獣は視認したら即座に魔法で屠る。出て来る魔石はマジック小袋の中へポイ。
そうやって繰り返している内に九階層突破。十階層に御到着である。
その速さはこれまでに殿下たちがやって来た戦闘は一体何だったのか?と言える位の早さである。
これには殿下は悔しさで「くッ・・・」と短く呻いていた。
そして十階層に入ってすぐの広場には教会騎士たちが待ち受けていた。ソレも堂々と。
「おやおや、コレはコレは殿下、この様な危険な場所に我らを求めてノコノコとやって来て、そのお命は軽いのですかな?要らぬと言うのであれば我らがソレを頂いても宜しいでしょうな?ソレに、マリエンス嬢もこんな階層にまでやって来るなどと、殿下と心中ですかな?ならば共に我らが介錯をして差し上げましょう。」
「・・・ナニコレ?もしかして殿下を誘き出して暗殺するって作戦だったのそっち?え?試練場内で起きた殺人事件は証拠も残りにくいって判断?それって穴があり過ぎじゃね?」
嫌味騎士の言葉を聞いてすぐに察した俺は呆れてしまった。ザル過ぎると。
グダグダのスカスカ。どう考えてもちょっとソレは無いと言える。
でも相手は本気みたいだった。そしてそれの根拠もこちらに見せて来た。
「コレは何だと思いますか?」
嫌味騎士の手にあるソレを見れば、別に何らのおかしい所も無いハンドベルだった。アレだ、クリスマスに見た事ある様なやつ。
「実際に散々体感して貰っていますが。ここでダメ押しと行きましょうか。そちらの騎士団と共に殿下がやって来たのは少々の予想外ではありましたが。そんなのは気にする事も無い。こちらの準備はもう整っているのですよ。」
もう俺はこれで何となく察してしまった。しかし俺以外は何の事やらと言った感じで状況を吞み込めていない様子。
だからそのベルの効果が表れる前に俺はソレを言ってやった。
「それってもしかしなくても、試練獣を操る事が出来る神具ってやつだろ?九階層でこっちに試練獣をバンバンと嗾けていたんじゃないのかソレで。」
多くの戦闘をさせて殿下を疲弊させる。或いはソレで死んでくれればソレはソレでオッケー。余りにも雑な暗殺計画だ。
恐らくは殿下が五体満足で十階層に辿り着いても、その疲弊に追加でベルで操る試練獣で再び押して隙を作り出して嫌味騎士は殿下を殺すつもりだったはず。
この指摘にようやっと俺に視線を向けて来た嫌味騎士。俺を睨み殺さんばかりの鋭いガン飛ばしである。
嫌味騎士にとっては俺の様な輩にそんなツッコミをされたのは心底許せない事だったんだろう。ずっと頬の辺りが我慢できずにぴくぴくと痙攣している。それ程の怒りなんだろう。
「はは、全ては今ここで消えるのですから下等な輩の汚い息など気にする事も無いですな。さあ、皆さんには死んで頂きましょう。その後は御心配無く。我々がその死に祈りを捧げて差し上げますので不安無く殺されてください。」
この広場には先へと続く通路が六つある。そこの全ての通路から試練獣が大量にこの場に迫って来る足音が段々と聞こえて来た。
俺の解説と大量に迫る試練獣の足音で殿下は即座に剣を抜く。
「皆の者!防御陣形!」
「いや、戦おうとしないで直ぐに逃げるべき場面だろ。九階層に逃げ込めば良くね?」
俺はそう提案した。この場で戦わないでも直ぐに階段に戻れば良いだけの話だ。あそこには試練獣は入って来ないと言う話だったし。
だがソレは叶わなかった。教会騎士がその道をいつの間にか塞いでいたから。
「ああ、なるほど。この場で向こうは俺たちを仕留めようとしていたんだから退路を断つのは作戦に入ってるよな当然。しかも剣も構えずに塞いでるって事は、嫌味騎士だけじゃ無く試練獣はあいつらも襲わないって事だな?・・・はぁ~。何だよこのお膳立ては?俺ツエエとか、無双とか、俺なんかやっちゃいましたか?をさせる気だよな?コレ、神様さんよ?」
そう言う話が好きなのかな神様って?そんな下らない疑問が俺の脳内に過る。
状況はドンドンと迫って来ている。ニヤニヤ顔を止めない嫌味騎士。慌てている殿下とその護衛騎士たち。
でもマリとジェーウ達は防御姿勢は取っているが、別段緊張している、危機感で体を硬直させていると言った様子は無い。
「タクマが何とかしてくれるでしょう?とは言え、どうにもコレは私たちも必死に戦わないと突破できそうにないみたいだけど。」
マリは自身が戦闘に参加する覚悟を決めていた。だけども俺が「何とかしてくれる」と言った信頼の言葉も口にしている。
「・・・はぁ~。炎熱完全耐性のマントを全員羽織っていてくれ。ほらほらほら。それじゃあ殿下たちもソレで覆って、一緒に。ほらほらほら。あーあ。それじゃあ、やるかぁ。」
教会騎士たちは動き出す俺に何らの警戒もしない。俺のような「一介の挑戦者」に何ができると言うのかと言いたげだ。
マントの方は既に全員に渡してあって俺のマジック小袋から取り出すと言った事はしていない。
俺があの「トイレ事件」にてファイアウェーブを使ったのがあったので一応は全員がその身に着けていた方が良いだろうとの事で。
咄嗟にまた俺が炎系の魔法を使ったらどんな被害が今度は出るのか判ったモノでは無いから。
ここで俺のこれからやろうとしている事に対して教会騎士たちは妨害をしてこない。寧ろ何をしようとも無駄だと言いたげにニヤニヤしている。
まあ妨害をして来たら生死関係無く排除するつもりだったが俺は。
「通路はそれぞれ一直線で何処までも続いてるんだよなぁ。うん、入り組んだり曲がったりしていなくて良かった。・・・ファイアレーザー。」
ウェーブじゃ無くレーザーにしておいた。それを六つの通路の入り口に近づいて丁寧に全てに一度ずつ放つ。これで恐らくは試練獣は全滅した事だろう。
俺の指先が僅かに光った所ぐらいしか教会騎士たちは見えていないと思う。立ち位置的に。
だからまだ、たった今状況がひっくり返った事を悟っていないんだろう。
間抜けにもまだニヤニヤ顔を続けているのが俺には滑稽に見えて仕方が無かった。




