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★★★祝う心と、マイナス感情と、出力調整と★★★

 とある日の出来事。俺、レーナ、レーグ三人がまったりとお茶の時間を取っていた時である。

 レーナが覚悟を決めた様子で視線をレーグに向ける。


 レーナがコソコソと何やら動いていたのを俺は知っていた。レーグが俺への警戒に夢中になっている間にどうやら全て事を済ませていたんだろう。

 俺を囮にしてレーナは自分のやる事をやっていたのだ。それはきっと恐らくは俺が居なかったらレーグに邪魔されていたんだろうと思う。


「と言う訳で、兄さん、私、結婚するから。」


 何が「と言う訳」なのか?俺にはその訳が何処に掛かるのかは分からないが、このレーナの発言にレーグから「ビシリ」と罅が入る音が聞こえてきたような気がする。


「私が何時までも結婚できなかったのは兄さんが原因って分かってるでしょ?私、ラーゾと前々から付き合っていたの。タクマが来てくれた事で兄さんはそっちに気が向いていて隙ができていたから助かったわ。相手両親との話し合いをするのにそれが役立ったの。有難うタクマ。助けて貰った身でこんな風に言うのは変だけど、アナタが居なければこうも上手く結婚まではいかなかった。利用してしまった形になるけど、長年彼とは愛し合って来たんだけど兄さんが障害でね。悪いとは思ったんだけどタクマが同居してくれて本当に助かったわ。」


「おー、オメデトサン。どうせレーグが「お前に相応しい男は俺が決める」とか言って何時までもレーナに見合いすらもさせなかったんだろ?シスコン阿呆だな。拗らせ過ぎだ、気持ち悪いわ。」


「あら?ズバリそれだわ。何で分かったの?」


「当てずっぽうだったけど、マジなのかよ・・・マジでレーグ、キモいな。」


 レーグ、固まったままで解凍されていない。レーナのサプライズは相当なショックをレーグに与えてしまった様だ。


「ほっといて良いわ。兄さんの次に口を開いて出て来る言葉なんて分り切ってるもの。」


「オニイチャンは認めない!とか叫ぶんだろ?どうせ。んでもってそいつを一発殴らせろとか?」


「あー、言いそうね、それ。ラーゾの安全の為に今の内に縛っておきましょ。」


 余程だったのか、放心状態で未だに元に戻らないレーグ。ここで恐ろしいのはレーナのその行動力と実行力の高さだ。

 何処から持って来たのか分からないロープをいつの間にかその手にしていて素早くレーグを縛り上げたのだから恐ろしい。

 女とはこれ程に強かなモノなのかと戦慄させられる。と言うか、レーナのこの手早さは異常と言えなくも無いのではないだろうか?俺と言う恩人を利用して自分の利を生み出そうとする腹黒さもどうかと思うが。

 まあ別にコレを俺は不愉快には思わないけれども。

 そんな事をツッコミ入れられる訳も無く、俺はその光景を見ている。

 レーナがギュッと念入りに実の兄を縛り上げる光景だ。もはや「何処のコント?」である。シュール過ぎるのである。


 レーグにとってはレーナの結婚する発言は「裏切られた」とでも感じる事だったのだろうか?

 何時までも妹は兄の庇護下に居て当然だ、とか思っていたとでも言うのか。

 もしかしたらこそこそと兄に隠れて交際をしていた妹に対して「いつの間に!?」と、自分の記憶を引っ張り出して妙な場面が無かったかを深く考え過ぎて脳がフリーズでもしたか。

 そのレーグの表情はまるで氷で固めたかの様に唖然とした顔がずっと続いていて目の焦点が合っていない。


「なあ、これって気絶して無いか?」


 俺はちょっと今レーグの状態が危険域に達しているのではと予想する。しかしレーナの言葉は冷たい。


「これまでの兄の私への執着にはこれ位で丁度良いと思う。本当に、もう、本当に。」


 レーナは別に兄の事は嫌いでは無いんだろう。だけどもこの点だけに関しては言いたい事は幾らでも腹の中にパンパンに詰まっている様だ。冷たい怒りの炎がレーナの背後で燃えているのを俺は幻視する。

 そこら辺を深堀する気が俺には無かったのでそれをスルーしてレーナは今後をどうするのかと聞いてみた。


「そうですね。今は寒期ですけど、このまま今日に向こうの家に入ります。結婚式もお祝いの宴会も催しません。地味に行きます。ある程度のものは既にあちらに運んで持って行ってありますから、このままこの身一つで行けますし。」


 そうなのだ。夏のあの時期、あれからまたもう結構な日数が経過していた。俺も今ではもう「田舎者の青年」としてこの世界で生きていけるレベルにはなった。最低限の常識は得たと言っても良い。


「なら俺は温かい季節になったらこの村を出てあっちこっちを旅して回ろうかな。取り合えず神様関連の事を調べて歩くのが目的になりそうかな?」


「寂しくなりそうですね。タクマにはこの村にずっと住んで貰えたらと思っていますけど。こればかりはしょうが無いですもんね。」


 これまでの間にコレと言ったテンプレ、または問題などは起きていない。森から魔物が束になって村を襲いに来るとか、妙な人物が村に入ってくるとかも無い。全く平和である。

 俺は知識チートなども解放はしていないので村がブレイクスルーで異常発展、などと言った事も無い。


 レーナが何故俺の事を惜しむのかと言えば、狩りで俺が獲物を結構獲って来ていたので、それらがこの村での貢献になっていたからである。

 長く一緒に住んで来てレーナは俺に対して遠慮も何も無くなっていた。レーグはこれまでずっと俺を嫌ったままの態度で変わらなかったのだが。


「取り敢えず夕食は既に終わってるし、片付けも俺が終わらせておくから、レーグが気が付いてギャアギャア喚く前に行っちゃえば?」


「じゃあ、お言葉に甘えて。どうせ同じ村で生活するんだし顔を見になんていつでもできるしね。それじゃあ。」


 こうしてレーナは外の寒さ対策として首に布を巻いて颯爽と家を出た。

 その後に俺は使った食器の片づけだ。寒い中を冷たい水に手を漬けて皿洗いである。

 未だに俺は魔法の実験をしていない。そもそもがだ、このドラドラクエスト主人公の覚える魔法は全部戦闘向けであり、日常に仕えるであろう魔法などは一切覚える事なんて無い。

 ソレは当たり前だ。RPGゲームで主人公と言えば戦闘に対して使える魔法を覚えずして何を覚えると言うのか?

 RPGゲームなんて大抵は強大な敵を倒しに行くストーリになるのに、そんな中で今の俺に丁度良い生活の中で使える魔法などをゲーム開発スタッフが作ったり設定していたりするはずが無い。


(そんでもってきっと威力ヤバいんだろうな。力の抑制や制御とかは一切できないと考えても良いだろ。一回しか使って無いけどスラッシュがそうだったしな)


 軽く剣を振ったつもりであの威力である。自分では只技名を叫んで剣をそれなりに力を入れて素振りした感じだった。

 だけどもあの結果である。多分ゲーム内での再現をこの世界ですると「ああなる」んだろう。

 そう考えると魔法も同じだと見ても良い。そして一度魔法名を叫べばきっと「杓子定規な決められた」威力が出てきっと災害の様な被害を出すに違いなかった。


(魔法の威力の説明文がドラドラは全部ヤベーんだよ、マジで。こんな村に居る状態で使える魔法なんて一つも無いよ)


 スラッシュの事を考えると魔法の威力はもっと酷い被害を出すに違いなかった。

 それとスラッシュで伐採してしまった木々は放っておかずにその日の翌日には回収しに行っている。

 あのまま森に放置で腐らせるのは勿体無かったから。この木々を使って俺自身で使う食器なども後に製作していたりするし、薪にもしているので無駄にはしていない。


 皿洗いが済んで俺は冷たくなっている手を温める様に擦る。はー、と息を吹きかけて早く元の体温に手が戻る様にと繰り返す。


(一体俺は何処に向かってるんだろうなぁ?俺をこんな目に遭わせてる神様よぉ?俺をどうするつもりだぁ?)


 恨みと嫌味と憎しみを込めた心のつぶやきに自分自身でウンザリする。そんなマイナス感情に心が支配されるのは疲れるのだ。

 だからと言って今の自分の環境にも状況にも不満が募る。それもこれも俺をこの世界にこの姿とスペックで連れて来た「超常存在」のせいである。神様ってのは人の思考では理解できない存在なんだろう。今回の俺の身に起きている事の意味などさっぱり解らない。


 だからやはり恨まずには、憎まずにはいられない。吉◯三の「オラこんな世界嫌だ」である。テレビもラジオも以ての外、当然インターネットも無く、スマフォも無い。

 食事は素朴な味漬けでバリエーションが無く、塩も薄い。食が豊かな日本に戻りたい。

 オラこんな世界嫌だ、日本に、帰るだ。還ったならば溜まったアニメを見ながらコンビニ飯とスイーツを食うだ。


 帰れる物なら還りたい。帰還したい、現代日本に。異世界転移して喜ぶなんてのは精神に異常がある奴だけだと、心底今の自分を参考にして思う。

 これ程の強大な不安を抱えて生きていくのは多大なストレスだ。ハッキリ言って今でも夢を見ているんだ、と現実逃避をしている。

 しかし時折こうして冷たい水に手を浸して「夢、幻では無い」と毎度の事に皮膚感覚が突きつけて来るので平常心を保てている様なモノだ。


 こんな世界に来て帰る気が起きない奴はそもそもが元の世界にそれだけ帰りたくない理由を抱えている奴だろう。そうとしか思えない。

 それこそ現実逃避の最高峰としてこうした「異世界転移」があるとすら思える。

 向こうのしがらみや責任などを一切考えずに居られる場所、そして大抵チート。

 そんなのはフィクション、物語の中だけで良いのだ。俺自身でソレを体験なんてしなくて良かった。

 それなのに今の俺である。この村で過ごしていくうちにそう言った気持ちに蓋をして半ば無理矢理この生活に慣れて行こうとしたが、やはり時折ふとした拍子にこうして表面上に出て来る。

 そう言った時が危険だ。思わず魔法を使って周囲を全て平たくしてやりたくなる。咄嗟に。危険だ、これは。


 帰れるその時まではこの世界で生きる事を学ぶしかないのだ。そうじゃ無いと直ぐに軟弱な俺は自然に負けて死ねる。サバイバルなんて俺にはできそうも無い。だから協力者が必要だった。

 そこに来てテンプレで襲われている存在を助ける。そこで養って貰う。完璧な御都合主義だ。万歳である。


「ハメられている様にも感じる・・・手の平の上で踊らされている様な・・・考えるだけでイラっとする。止めだ止め。」


 床に未だ転がっているレーグはまだ目を覚ましそうにも無い。しかし縛ってあるロープを外す気にもならない。

 暴走したらレーナの夫となるラーゾなる者を襲おうとするかもしれないのである。

 ソレが一発殴るだけならいいのだが、こうして気絶しているレーグを見ているとどうしても危険だと感じる。まさか殺人を犯しはしないかと。


 結婚報告のショックだけでこれ程に長く気絶してしまうくらいに妹への執着が強い人物である。そう考えたらそんな人物が気が付いた時にどの様な行動を取ろうとするのか想像だにできない。それは狂気と言える。


「・・・気が進まないけど、万が一の時には俺がレーグを殺してでも止めないといけなくなるのだろうか?何だかんだ言っても世話になった相手だからなぁ。」


 このドラドラ主人公のスペックは恐らくは俺がゲームで育てたステータスを元にしてある。

 これまでの日常生活ではしかしてその「カンスト」した力が発揮されたのは狩りの時だけで、あの世界一有名な「サイヤ」な人種のキャラが「スーパー」な状態で生活していた時の様な事は起きていなかった。そこの点も御都合主義全開である。


「その時は殺さない様に素手で止めるとして、出力調整、手加減・・・」


 俺はその光景を思い描いて只々不安になるばかりだった。

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