★★★我慢が出来ずに★★★
ここで嫌味騎士が言い返してくる前に追撃を入れたジェーウ。
「ああ、九階層を突破した功績と、私たちの作成した地図の功績と、どちらが高い評価を受けるでしょうか?いや、こんな事は気にする程の事では無いですな!当然九階層突破の方が称賛を得られようモノです。私たちのやった事など五・六・七の階層の詳細な地図を作っただけ。試練場内を歩き回っただけに過ぎませんから。我々は一度また一階層に戻ります一気に。一階層で挑戦者を見かけたらしっかりと私たちが何時、どんな時にどの様な状態だったかの証言を取る為に公式な書類を作ってそちらに署名をして貰っておきましょう。後でまたそちらに言い掛かりをつけられても面倒ですから。証拠を作っておきますよ。それでは、皆さん、お怪我の無い様に気を付けて攻略を続けてください。我々が近くに居ると気が散ってしまうでしょうからここでコチラは退散いたします。」
サッとジェーウが踵を返して来た道を引き返す。しかもゆっくりと余裕がありそうな歩き方なのにドンドンと嫌味騎士との距離が離れていく。
俺たちもジェーウについていってその場を後に。嫌味騎士はどうやら言われっぱなしで相手に先に居なくなられるとは思ってい無かった様で兜の隙間から見える目は見開いて驚いている様だった。
こうしてノンストップで止まる事無く七回層に戻って来た俺たち。ここでジェーウが口を開く。
「色々と予定がぐちゃぐちゃになってしまっているが、どうする?このままもう開き直って行き当たりばったりでやっていくか?」
ジェーウの口調はちょっと疲れ気味。慣れない嫌味合戦でどうやら精神力を削ったらしい。
そこで俺はもう流れに沿ってやって行ってみようと言っておく。
「もうさっき言った通りで一階層から四階層までしっかりとした詳細な地図を作っちゃおうか。あの魔法陣の、もしかしたら起動できる何かを見つけられるかもしれないじゃん?五・六・七は発見とか無かったし、もしかしたら低階層に在ったりする可能性ってのも考えちゃうし。これまで挑戦者たちが発見とかしてなかっただけとか、気にも止めなかったとかあるかもしれないじゃん?」
可能性の話をしてしまうとキリが無いのだが、それでもソレを必死に探そうと言う提案では無い。
どうせなら八割九割埋まっていると言う低階層の地図を、もっと事細かな詳細の載っている地図にしながら探してみるのが良いだろう。
そこで時間を掛けていれば嫌味騎士の方も流石に九階層に入っているか、もしくは九階層と突破して次に向かっているだろうと。
「ソレに侯爵様に魔石を渡しちゃったから、一から魔石稼ぎもしておきたいんだよね。」
「おい、もう既に充分以上にその袋の中に入ってるだろうが・・・」
バリーダにツッコミを入れられた。魔石に関しては地図作りの際に遭遇した試練獣を片っ端から倒していて、その得た魔石はこのマジック小袋へとポイッと放り込んでいる。
そして俺はそれがどれくらいの量が溜まったかの認識がイマイチだった。
しかしバリーダのツッコミに俺以外が全員ウンウンと頷いている。
「あれ?みんなして俺の事を虐めてる?俺何も悪い事してないよな?俺だけ除け者感パナいよ?」
俺は別に変な事は言っていないつもりだった。しかしここで少々の沈黙の後に冷静になる。
「あー、ずっと試練場に入った時から「普通」ってのを忘れっぱなしだったなぁ・・・」
俺はずっと「無双は無し」「俺ツエエも無し」などと思っていたはずなのに、試練場に入ってからはずっとソレをやりっぱなしだった事に今更思い至った。
なにせ魔法・ウォーターガンの使い勝手が良過ぎて脳死して撃ちっぱなしだったのだから。
一応は試練場を攻略した数で「神」に会えると言う眉唾を信じて覚悟をして試練場に挑んでいたので別に今の状況はそこまで俺の考えていた大まかな予定とはズレて来ていると言う事は無いのだが。
それでも俺はこれまでの「目立たない様に」と言う指標はどうした?と頭を悩ませる。
そして深く考えるのを放棄した。こんなのどうしたって目立つに決まってる。幾ら控えようとした所で誰かがヤバくなった時には咄嗟に「俺、何かやっちゃいました?」を炸裂させてしまうはずだ。
そうなればこれまで幾ら力を控えて、抑えて活動していた所で、そんな場面になったら一発で「オジャン」である。
ここでそう難しく考える程の事でも無いと悟る。流されて過ごすのが楽チンである。それに今はその他大勢に見られていると言う訳でも、知られたと言う訳でも無い。
「うん、それじゃあ一階層まで戻ろう。さあさあさあさあさあ。」
俺は開き直って歩き始める。これにつられて皆が俺の後を着いて歩き始めた。
さて、ここでこの試練場内での「トイレ事情」と言うモノをご説明しようと思う。
ぶっちゃけ単純に言ってしまえば「簡易トイレ」である。皆も知ってる、災害時でのアレ。
どうにもこの世界、錬金術と言われる技術で大も小も便を吸収、消臭、分解する猫のトイレの砂みたいな物が作られていたりする。
そしてこれまた段ボールみたいな軽い素材で作られた組み立て、解体が簡単なトイレの中にソレが仕込まれていてそこにするのだ。
女性が同じパーティに居るのでもちろん衝立を持ち込んでいるし、ソレで間仕切りし、周囲から見えない様にしてもいる。
これがあれば試練場内だけでは無く、街道を行く旅でも安心して用を足せると言う超便利な品である。
そんな便利品が一応は俺の世話になっていた村にもあった。初めてソレを知った時に驚きで一分ほど硬直したのは今でも鮮明に思い出せる。
ソレは今は良いのだ。そんな事が今問題なのでは無い。
しかし、しかしだ。中にはそんな便利な物があるのに使わない者たちが存在する。そしてこの試練場内でもだ。
そんな使わない奴らは何処で用を足すのかと言うと。
「ここ、行き止まりだな。そして臭い・・・試練場内で出したモノは試練獣倒した時みたいに光と消えないんだな。」
そう、行き止まりの部分が自然と「トイレ」に。そしてそこが「小」だけならまだマシだったのかもしれない。
いや、だけであったとしても嫌な物は嫌なのだが。そこは「大」も目に入ってくる訳で。
「・・・燃やそうと思う。放っておきたく無いくらいに限界に臭い。」
俺のその時の表情は落っこちていたと思う。真顔になって冷たい声でそんな言葉が口から洩れていたと思う。
「マテ、待て待て待て!早まるな!お前ちょっと目がヤベエぞ!?燃やすって何だよ!燃やすって!?」
バリーダが俺を止めに掛かる。そもそもこの四階層から地図を作っていって、次は三、次は二と言った感じで上に行くと言う話だったのだ。
そこでバリーダが催したと言う事で簡易トイレを、となっていたのだが。
これにバリーダが「すぐそこでやって来る」などと言いだしてこの行き止まりである。俺は「すぐそこ」などと言うからちょっとした興味で一緒に来てみたらこれである。
以前にもこのメンバーでここの試練場に潜った時にもバリーダはこの行き止まりで用を足したと言うのだ。
他のメンバーもどうやら試練場内でこの様な場所が存在する事は「普通」だと言った認識であったようでバリーダのこの行動に何も言わなかった。
「・・・これは放っておいちゃいけないレベル。ダメ、絶対!」
俺はこの臭気に耐えられ無かった。頭を思い切り殴られたかの様な臭さに怒りが急激に込み上げて来て止まれなかった。
「・・・ファイアウェーブ」
【極高温の炎が波となって襲い掛かり、目の前の全てを灰と消し去る】
炎系の全体魔法だ。説明の通りである。広範囲魔法であるからして、俺が魔法を唱えた次には赤、オレンジ、白、青と、何故か色とりどりの炎の波が出現し、それらが混ざり合いながら、うねりながら目の前を蹂躙する。
「うおおおおおああああああ!?」
バリーダは逃げ出していた。俺も即座に走って逃げる。目の前が炎で覆い尽くされた光景に一瞬で冷静になれたからだ。
もしかしたらこの炎が試練場内の酸素を一気に消費してしまい、窒息する可能性を考えてしまったから。
そうじゃ無くても俺の使う魔法は俺自身にも影響が出るのは水の魔法を使って分かっている。
なのでこの高温に長時間晒されてはならないと、直ぐに俺はダッシュでファイアウェーブに背を向けて逃げたのだ。
そんな場面から無事に脱出した俺とバリーダ。そう、連れションと言うヤツで。
他の皆はこの行き止まりよりもかなり離れた所で待って貰っていたのだ。
「で、何で二人はそんなに慌てて戻って来たの?何があったの?」
マリがそう言って不思議そうな目で俺たちを見る。しかしここでバリーダが。
「簡易のアレ、出してくれねーか?俺はもう試練場内で緊急時以外はちゃんとソレ使うからさ・・・」
げっそりとした顔のバリーダはそんな言葉と共にポンスに簡易トイレの用意を頼んでいた。
そこで俺は事情を説明する。只今切羽詰まっている状態のバリーダは余裕が無いので俺が話すしかない。
「カクカクシカジカ、とまあ、そう言う訳で。反省はする、けど、後悔はしていない。」
「あー・・・ソレは確かにちょっと。どっちもどっちだねぇ・・・」
マリが微妙な顔でそんな言葉を絞り出す。マリは試練場に入った事が無い。今回が初である。
なので俺のこの気持ちが分かったんだろう。だけどもそうであろうといきなり「全部燃やす」などと言って魔法をぶっ放すのはおかしいとも言っているのだ。
「うん、後それと、そこの行き止まりって、もしかすると省略されてるんじゃ無いか?寧ろ挑戦者たちの間だとそこは「用事場」として認識されてて誰も気にした事も無いとかじゃない?」
俺はそこで後付けではあるが、あの「開放型トイレ」を挑戦者たちは気にも留めていないのでは?と聞いてみた。
これにジェーウが俺の言いたい事を理解してくれた。
「そうだな。私たちもその点は気にもしていなかった。行き止まりで恐らくは「何も無し」と判断されたからあの様な状態になってしまって行ったのだろうが。今なら少しだけ理解している。ああいった場所には何が仕込まれているか分からないのだな。擬態虫を倒した部屋の何も無い壁にいきなりあんな魔法陣が浮かんで来たんだ。もしかしたらその行き止まりにも何かあるのかも?と思えば調べて見なくてはならないだろう。」
「うん、だけどあんな状態じゃ一歩だって近づきたくも無い。だから全部消えてなくならねーかな?って。そしたら全部燃やしちまえ!ってなってな。いや、何だろうか?突如使命感的な物が怒りと共に湧き上がって来て勢いで?」
「いや、そんなのはどうでも良いわよ。と言うか、どんな魔法使ったの?・・・何だか向こうの通路から熱気が流れて来てるのよ?そんなの、ドンダケなの?と言うか、炎熱完全耐性のマントあったでしょう?羽織って、無いからしょうがないわね・・・」
アリーエはそう言ってその方向の通路に視線を向けた。けれども別にそちらから俺の放った魔法の炎があふれて来ていたりはしない。
俺は一度ここで使った魔法の説明文を思い出してみた。そして「目の前の全て」と言った所が気になった。
「あー、もしかして俺が魔法を撃った時の視界に移ってる範囲だけって事なのか?そうすると熱は伝わって来ても炎が逆流してくるって事は無いのかな?・・・でもあんまり信用しない方が良いか。」
「ねえ?どう言う事?私の知ってる炎の最大魔法と貴方が放った炎の魔法とが、どうにも威力が一致しないんだけど?嚙み合わないんだけど?ここから現場はかなり離れてるわよ?相当離れてるわよ?そうよね?なのに、この熱、何なの?有り得ないでしょ?何をどうするとこんな風に?」
炎熱完全耐性のマントはソレで覆っている範囲しか守れない。なので足元から来る熱は防げないのである。
俺の魔法で熱を帯びた試練場内は相当に高熱となっており、今居る近くの床までかなりの熱量になっていた。それはそのまま進もうとすれば履いている革靴が焼け焦げる程とかドンダケやねんである。
得体のしれない物を見るかの様な目でアリーエは俺を見て来る。しかし俺にはその様な目で見られて嬉しくなる性癖を持っていない。だからここで言っておいた。
「そんな目で見て来ても教えてやれないよ?」
この一言で余計にアリーエは顔を顰めた。




