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★★★バランスは大事だよね★★★

「と言う訳で、侯爵様、貴方の娘さんが侮辱されましたよ?」


 あの後は俺だけが試練場を出て侯爵家の屋敷に。そして丁度居た侯爵様にご報告である。


「普段からあの格好だからな。それに武芸も魔法も習ってそれなりの腕前だ。その様な揶揄を受けてもしょうがない所ではあったが・・・許せんな。」


「女らしく、ってのを勉強させなかったんですか?父親として心配はしてもそこら辺は好きな事をさせてやりたかったって言う親心ですか?」


「その様に私の心の内を読むのが君のしたい事だったのか?まあそこは良い。食料の補給の件はこちらで手配するので少々待て。」


「あ、ちょっと待ってください。うん~?よし!これ、イケるな!それじゃあ準備して欲しいのはこちらで指示したいのでお願いしても?」


「今君は何を確かめた?いや、今は多くを聞くまい。後で説明はしてくれるのだな?」


「そう言う話が早い所は凄いですよね。器がデカいと言うか。まあ食料だけじゃ無く色んな物を持ち込みたいんでよろしくお願いしますよ。その代わりと言っては何ですが、こちらを納めさせて貰いますのでどうぞ。」


 俺はマジック小袋から次々にテーブルに魔石の入った袋を置いていく。ついでにマントもメンバー分の数を残して全て出す。

 全部出し終えた所でマントを納める事とそれの効果の説明、追加で魔石も一緒に代金として納めると述べておく。


「君はあの試練場で何をやって来たのかね?・・・本当に戻って来た時に説明はしてくれるのか?」


 俺はこのマジック小袋の事を詳しく説明していない。侯爵様は目の前に出されたこれらに顔を随分と顰めている。


「そこら辺は多分戻って来たマリが嬉々として報告すると思いますよ?どうせ侯爵様も聞き出す心算でしょう?俺はソレを止めるつもり無いし、マリに対して口止めもしないつもりですから戻ってきたら満足いくまで娘さんの話を聞いてやってくださいよ。あ、かなり暫く潜りっぱなしになる予定ですので心配でしょうけど諦めてください。途中でマリに帰れって言ってもきっと聞かないでしょうし?」


 思い切り苦い顔をして俺を見つめて来る侯爵様。どうやら俺がやらかした事が気になるのと同時に自分の愛娘を略して呼んだ部分が気に入らない様子である。それと長く試練場に潜り続けると言った事もどうやら気になるらしい。


 しかしここで侯爵様が二度手を叩くとメイドさんが部屋に入って来て「こちらへ」と言ってきた。

 どうやら業者の準備が完了している模様。早過ぎる。


(御用聞きが侯爵家にずっと待機してるのか?店に直ぐに知らせを届けて即行受付、短期納期?うっわ、ヤバい)


 多分チャン商店である。この首都マルレード支店の店長さんであろう人物が既に庭の方に待機中で要件を聞く準備が出来ていると言う。

 何時の間に呼び出しなどしていたのか?俺はこの屋敷に戻って来て直ぐに侯爵様との話し合いに入っていてそんな隙や暇、時間は無かったはずだ。

 それなのにもう来ているのだ。電光石火などと言う表現では収まらない。まるで妖術とか言った言葉が俺の脳内に一瞬だけ過ぎるが。


 まあちょっと考えれば別にそんな大層な事では無い。執事がこの部屋に控えていて俺と侯爵様の話を一緒に聞いていたのだ。

 この執事が話が終わる前に使いを出して直ぐにチャン商店との繋ぎをしていたのならこの早さも納得である。


(とは言っても侯爵様が許可を出す事をその場で確信していなければしない動きなんだけど?・・・え、何この阿吽の呼吸?ちょっとでもそれらしい合図って侯爵様出していたか?)


 その事に気付いてちょっと所じゃ無く背筋が冷たくさせられる。しかしそんな事は今は無視して目の前の人物に要求を伝える事をしなくてはいけない。

 俺はもう庭に出てきていてその人物と対面していたのだから。


「私はチャン商店マルレード支店、副店長のワレーナです。どうぞよろしく。で、何を御入用で?」


「ああ、どうも。タクマです。侯爵様にはお世話になっております。あー、でー、食糧と水と調理器具と熱源道具ですね。薪でも良いんですけど。」


「はて?どれくらいの量が必要でしょうか?どうやら遠征をする為とお察ししますが。訓練か何かですか?それとも長期の旅に?お一人分で宜しいので?ソレを何日分ご用意しましょう?」


 副店長は女性だ。しかも眼鏡でキリッとした顔のいかにも「キャリアウーマン」と言った雰囲気だ。

 背も高く170はある。スリム体形で、やはりスーツ姿。そして察するのが早い。


(何でチャン商店はスーツ?これがこの世界の基本?それともこの商店だけ?)


 この世界の常識が全く見えてこない不安に少々駆られたが、それを俺はグッと呑み込んだ。

 そして要求量を伝える。七人分を約一か月と。これに二度ほど聞き返された。

 しかしそれを俺は「本気です」と返すだけにしておいた。嘘でも揶揄いでも冷やかしでも無い。

 マジで揃えて欲しい、しかもできれば今日、そうじゃ無ければ明日朝早くまでにと。


 これだけの要求をしては量が膨大になる。揃えるのも大変だし、時間も掛かるだろう。それが当たり前だ。

 しかしワレーナはこれにどうやら「試されている」とでも勘違いしたのか物凄く緊張した声で「分かりました」と返事をくれた。


(侯爵家からのテストだと判断されちゃったかもなぁコレは?・・・あ、でもあの侯爵様の事だし、ソレの意味も含めてある?うわー、やだなぁ・・・)


 即座に動き出したワレーナ。連れて来ていた部下に直ぐ指示を出して特急で用意するようにと言っている。

 走って行ったその従業員は今から店に行って今回の件を最優先だとでも連絡をして準備に取り掛かるのだろう。


「あのー、迷惑かけちゃったみたいですみません・・・」


 俺は思わず謝ってしまったのだが、これにワレーナは「いえ、構いませんとも」と言い切ってきた。

 その言葉は今ここに居ない侯爵様に向けられて言った言葉なのだろう。そこには俺などワレーナの目には入っていない様に見えた。


 そうして約二時間後、チャン商店の倉庫にソレは全てキッチリと揃えられていた。

 連れてこられた俺はソレを見て「ぱねぇ・・・」と思わず呟かざるを得なかった。

 仕事が早いにも程がある。けれどもこれでチャン商店は超優秀だと言う事が証明された訳だ。


「既に侯爵様から代金は受け取っておりますが・・・こちらをどの様に運ぶので?我が商店は運搬も承っておりますので追加料金をお支払いになって頂ければ指定の場所へとお持ち致しますが?」


「いえ、この倉庫から全員出ていて貰えますか?ええ、少しの時間です。作業が終わり次第出て行きますのでソレまでは誰も入って来ないでください。」


「・・・は?いや、その、そうして欲しいとおっしゃるのであればその通りに致しますが・・・」


 妙な事を言ってきた俺に対してワレーナはちょっと納得いかなさそうな表情でそのまま倉庫から出て行く。

 そして扉を閉めた。俺もここでマジック小袋を披露する気は無かったので扉の内側から鍵を掛ける。とは言っても閂を掛けるだけなのだが。


「絶対にコレの存在が明るみに出れば奪おうとしてくる奴らが発生するだろ・・・なるべくバレない様にしたいんだけどなぁ。」


 いつかきっとコレの事は世間に知れるだろう。そうなったらコレを何処で手に入れたのかとか、それを売れとか、よこせとか、献上しろとか、あっちこっちから煩く言ってくる者が現れるに違いないのだ。

 言葉で要求してくるだけの奴らならまだマシだ。これが実力行使となって「殺してでも奪う」とか、冤罪を被せて取り上げようとしてくる輩など絶対に出て来るに決まっている。

 俺の脳内ラノベ知識からしてみたらこんなのテンプレイベントに遭遇すると言っている様なものだ。

 だけどもソレを差し引きしてもこのマジック小袋は俺の物にするだけの価値がある。

 ラノベファンタジー物と言ったらこれが無くては始まらないといっても過言では無い!


「だからその他大勢に知られるってのは避けたいんだよね、っと。」


 俺はドンドンと荷物を小袋に収納する作業をしていく。大きい物は袋の口を開いた状態でその目的の物に近づけるとシューっと吸い込まれて収納されるから便利だ。取り出す時には注意をせねばならないかもしれないが。


「凍らせた干し肉に全く溶けた様な変化が無かったからな。時間経過無効かあるいは最低でも遅延ってのは判明した。なら保存食だけってのは無しだ。鮮度を保てるのであれば生モノいけるしな!」


 食のバリエーション、栄養バランスなどを考慮できる。これで長期間の試練場潜りが可能になるはずである。食のストレスって言うのは案外馬鹿にならないものだ。毎度の事に食事が同じもので味気ないなら気が滅入る事、間違いなしである。

 それで戦闘のモチベーションがさがって試練獣にボコボコにされるとかなったら目も当てられ無い。


 幾ら七十回近くあの大鼠を倒し続けてやっと手に入れたとはいえ、この様な収納専用の道具が十階層のボスからドロップするのはバランス的にどんなものであるかは俺には分からない。

 けれども試練場を作った神様ってのはそこら辺の事をちゃんと考えていたのだと思えた。


 深層への挑戦に対して大人数で試練場内に補給路を作って地道に攻略していく、と言った光景は何だか妙な感じに俺には思えたし。

 そもそも攻略に対してソレ程に大掛かりに取り組まないと最下層までの攻略が出来ないとなったらその予算は如何ほどにまで額が膨れ上がるだろうか?

 その作業に掛かる人件費、食費、整備費、だけじゃ無い。想像も付かない程の人数がコレ、試練場に関わるとなったらもっと大きな大きな、一般人には想像も付かない程の金額が動く事となるだろう。


 そうなったら国が少数精鋭で限界何処まで行けるかを先ず試すと思うのだ。

 しかしそんな事になれば戦力的にも、持ち込む物資的にも少量までしか持ち込めずに深層攻略は難儀して行き詰るのが目に見えている。

 人は生きているだけで腹が減り、食べて行かねば飢えて死ぬ。幾ら少数精鋭が下層へとドンドンと潜って言った所で基本的な生命活動を支える食事が摂れねば話にならないのだ。


「その問題を解決するのがこのマジック袋だよな。こんなに小さいのに大容量!重さも幾ら入れても軽いまま!とか、うん、これ自体がチートと言えるわー。何このTV通販みたいな謳い文句?」


 俺は作業を終えて閂を外して倉庫から出る。そして一言ご挨拶。


「本日はどうも有難うございました。おかげさまで直ぐに試練場に戻れます。では、また機会があったらお願いします。」


「・・・はあ、ええ、分かりました。こちらこそこれ程の商談です。かなりの売り上げとなりましたのでありがたい事です。ええと、それで、倉庫の方の荷の運搬はいかがなされますか?」


「はい、もうそれは終わりましたので。では、俺はこれで。」


 俺はここで深くこれ以上追究される前にこの場を去った。そして一度侯爵様の所へと戻ると挨拶をしてから試練場へと舞い戻った。

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