★★★ああ、こういう展開って、あるよね★★★
第一隊騎士団の面々がまるで「舞台装置」みたいな扱いになっていてちょっと俺は引き気味だ。舞台はもちろん試練場、ここである。
まるでこれでは俺が主人公みたいでは無いか、と。冷静になってくれば来るほどに、俺の頭の中では「この世界に慣れて来てしまった」と言った後悔の念がじりじりと迫って来ていた。
(いや、多分俺をこんな目に遭わせている神様の目からしたらそうであるのかもしれないな)
まるで物語の登場人物な気持ちになった俺は「神様って奴は余程の暇人なのかな?」などと思ってしまう。
何せ俺みたいな奴が紡ぐ「お話」を今頃はTVドラマでも眺める様に見て楽しんでいるのかも知れ無いと思うと「物好きだなぁ」などと考えてしまう。
そうして下らぬ、そして俺の力じゃどうしようも無い事に思いを巡らしながらも俺の歩む速度は落ちない。
このまま順調に行けばもう後二階層上がって行けば第一階に戻れた。
しかしこんな時に限ってやはり「物語」にはイベントってのがつき纏う訳で。
そこは俺たちも通った場所。かなりの広さを持つ部屋だった。そこにはご立派な揃いの装いな鎧を着た者たちが五名。
俺は即座に察した。鎧の輝きと豪華さ、そして揃って妙に白を基調としているカラーで。
(これが教会騎士?・・・苦戦はして無さそうだから、コレは手出しせずに見守る所?)
俺が先頭に立って進んでいたので後から来た皆は時間差でその光景を目にしている。
しかしここに入る前から戦闘音、何と言えば良いか?掛け声や金属が叩きつけられる音や、激しい足音?と言った感じの物はこちらに響いて来ていたのでソレで皆は察していたのだろう。
「ああ、嫌な時に出くわした。侯爵様はコレを見越していたのか?」
ジェーウがそんな事を思わずと言った感じで呟いていた。これに戦慄する俺。
誰よりもいち早くこの情報を得た侯爵様が先手を打って俺と第一組騎士団を送り込んだと。
(侯爵様って何処までモノが見えてらっしゃるんですかね?一手に幾つも意味を込め過ぎなんじゃないですかねー?)
教会騎士が幅を利かせて来ている。そんな話は聞いていた。なのでソレをちょっとでも抑え込む為にもこうして国の騎士団を送り込んだ。そう考えるのが妥当だろう。侯爵様コワイ。
俺たちは教会騎士たちの戦闘を見学していた。突撃してくる試練獣を危なげ無く捌いてその隙を攻撃役に攻撃させる盾持ちの手腕はベテランの動きで安心感がある。
素人の俺が見てもその戦い、連携は洗練された物だと理解できる程に動きが滑らかだった。
五名で試練獣十体を相手取るその陣形の柔軟さに素直に俺は「すげぇなぁ」と他人事な感想を漏らしてしまう。
これに横からバリーダが「俺らもアレくらいはできるんだが、できるんだが・・・」と小声でぼやいていた。その顔は優れ無い。
多分俺とこの教会騎士と自分たちの普段の戦い方を比べたのだろう。
そして俺が試練場に入って来てからの戦いぶりを知っているのでバリーダは何とも言えない気分になっている、と。
(そりゃ俺一人で十五もの数の試練獣を相手に即勝ちしちゃったからなぁ、魔法連発で)
この場所で同じように俺たちも戦闘をしていた。けれども俺一人で魔法、ウォーターガンを連射して終わらせている。
ソレを知っているからバリーダはこんなにも自信無さげなのだろう。
彼は試練場に潜る前に「俺が一人で全て片付けてやる」と息巻いていたのだ。しかしいざ蓋を開けてみれば武器を一度もこれまでに振るう場面は無かった。俺のせいで。
なので自信喪失と言っても良い状態にまで落ち込んでいるのである。それを俺は哀れだとは思わない。俺がソレを思う立場に無い、心配してやる程にそこまで仲が良くなった訳でも無い。
そうこうしている内に戦闘は終了していた。あっという間、とまでは言わないが、それはかなりのスムーズさと言える時間。
「おや?貴方たちは嫌われ者の皆さまでは無いですか。ごきげんよう。私たちの戦いから何かを学べましたか?いや、学べても潜る機会を与えられ無い貴方たちには勿体ない事でしたねえ。おや?そう言えばそんな貴方たちがここに居る事自体が珍しい。必死に上に掛け合ってどうにか許可を貰った、と言った所ですかな?それとも無断で?いやはや、つまはじきにされていると辛いでしょうが、無謀はいけませんよ?」
嫌味たっぷりドロドロである。教会には調子こいてる奴らが増大中とは聞いていたが、これ程に尊大になってこちらを煽って来るとは思っていなかった。
もうちょっと抑え気味で、かつ、神様関係の事を交えて説教臭い事を言ってくると思っていたのだが。これはちょっと直接的過ぎるなと思ってしまう。
「心配ご無用ですよ。許可は正式に出ていますから。しかしお気遣い有難く。やはり教会騎士の皆さまの戦いはこちらも見ていて勉強になります。今後も精進していく所存ですので、今後も何かありましたらご教授お願い致します。」
ジェーウが代表してそんな挨拶を返す。別に教会騎士の言葉に対して怒りをぶつける様な事も無く、只タンタンと、しかし笑顔を忘れずにそう言うのを見て、これに俺は凄いなと普通に感心した。
嫌味を言ってきた教会騎士の方はこれに詰まらなさそうな顔をするが、それを即座に切り替えて再び口を開く。
「そちらは今お帰りの道中でしたか?我々はこれから第九階層を攻略する予定でしてね。ああ、すみませんねぇ。十階層に我々が辿り着いてしまったら今潜っていた貴方たちの評判が増々地に落ちますなぁ?コレはすみません。どうしようも無い事なのでね?」
これに俺たちは互いに互いの顔を見合わせた。そして全員で微妙な顔をしてしまう。
ここでジェーウが教会騎士に返答をした。
「ああ、我々はまだ帰還はしないのです。一度一階層に戻ってまた再び潜る予定です。皆さまの活躍を我々は心より祈っておきます。では、これで失礼します。」
喧嘩はしない。ジェーウは無駄な言い合いはしない主義な様子。
まあ今となっては寧ろ教会騎士の言っていた事が物凄く滑稽であったからこそ余計に心の余裕ができたからなのだろうが。
ジェーウのこの反応に舌打ちが一つ響く。これはもちろん教会騎士たちの方から聞こえて来たものだ。
ここで別れる、そう思っていたら向こうが再び口を開いた。
「おお、コレはこれは、そこにいらっしゃるのは侯爵令嬢、マリエンス様ではございませぬか。この様な所にその様な奴らを連れて物見遊山で試練場へ?我々教会としましてはその様な行為は顔を渋くせざるを得ないのですがねぇ?」
マリに狙いを付けて来た。どうやら余程向こうは俺たちに下らないイチャモンを付けてこちらの怒りを引き出したいらしい。
しかしこれに取り合ったりしないマリ。
「物見遊山ではありませんよ、視察です。私も貴族の端くれではありますので。こうして試練場とはどのような場所であるかをこの身を以ってして体感しておかねば、ここを稼ぎにする挑戦者たちとの齟齬が発生していつか問題になった時にソレが元で失敗をしかねないと言う事で、父上、侯爵様から許可を正式に頂いて城への申請も受理されている事です。もしかしてその事に異議が?ならば正式に教会から国へと正式な抗議の書を送ってください。その場合は貴方の名前もしっかりと明記の上で代替え案も付けて提出してくださりませ。その場合の提案は一方的に国の損失や損害を出す、権威を落とす様な案で無い場合でなければ貴方の主張が認められる事は有りませんのであしからず。その決定に不満が出たら正式にその際には裁判所に申請をして公平な議論を交わす事も視野に入れておくのが良いでしょう。教会の主張は理解は出来ますが、そちらの一方的な言い分が認められる世間では無い事をご了承の上で発言は慎重にお願いいたします。そうで無いと無駄にこうして私如きの身があなた方、教会騎士を諫める事を言わざるを得なくなるので今後は注意をしてくださりませ。貴方たちも我が国の国民であるからして自由な発言は許されている立場ではありますが、限度と言うモノが存在する以上は慎んだ言動を心がける様にして頂きたいものです。」
教会所属と言えども国民に変わり無いから偉そうな事を言ってんじゃねーぞ、と言うのを一気にまくし立てたマリ。
教会騎士たちは全員がフルフェイスの兜を被っていたので表情は分からない。
しかし一瞬の間を置いた後に全身をプルプルと震えさせ始めた事で俺はこれに「顔真っ赤だろうな」と残念な物を見る感じで教会騎士を見た。
教会騎士の立場的にマリに対して強く切り返せないのかもしれない。相手は侯爵家の令嬢だ。何かあったら穏便に済まない可能性がある。
マリが言葉で向こうを黙らせている内が限界と言った所か。これ以上に踏み込めば侯爵家を侮辱したとして教会へと抗議が入るだろう。
俺の空っぽな脳みそでもこれ位の簡単な予想は出来たのに、その嫌味を言って来ていた騎士、もう略して「嫌味騎士」で良いだろう。
そいつは止めときゃ良いのに一言付け加えてしまった。それこそボソリ、と本人は誰にも聞こえていない位の小声で言ったかも知れ無いのだが。
俺たち全員はソレが聞こえてしまった。
「この【男女】が・・・」
駄目だ。これはアウトである。俺はそう思った。
そしてソレは同時に起こった。嫌味騎士に俺たち全員の視線が向いた。それは非難の目である。
「はて?どうかされましたかな?私の顔、ああ、兜ですか。何か付いていましたか?」
惚けているのか、本気で分かって無いのかは判断付かなかった。しかしその言葉で真っ先にキレて怒鳴りそうになって口を開こうとしたアリーエ。
ソレを止めるマリ。
「さあ、行こう皆。時間を余り無駄にはしたく無い。では、ごきげんよう。」
マリは綺麗なお辞儀を一つ嫌味騎士にしてからこの広場を出て行く。それに付いて俺たちもこの場を後にした。
暫くはそのままマリが先頭に立って歩き続ける。そんな時に現れる試練獣は俺が即座に攻撃して即安全確保だ。
そうしてかなりの距離を行った後にようやっとマリが止まった。
「ふう、ここら辺で良いかな?さて、皆ありがとう。私の為に怒ってくれたよね。でも、私はあれくらいの事は普段から言われ慣れてるからあしらう事くらいはできるよ。あそこで言い返していた方が後が面倒だった。だから止めたんだよ?アリーエ。」
ちょっと困った顔してそう言うマリ。それでもとアリーエはこれに言い返す。
「慣れているからって心の中では傷ついていない訳じゃ無いでしょう?我慢する場面を間違えているわ!・・・まあそれでも侯爵家としては正解の行動だったかも知れないけど。あのクソ野郎を侮辱罪であの場で斬って捨てても良かったじゃない・・・」
アリーエが寧ろマリよりも悲しそうな顔をする。同じ女として何か感じる所があるのか、それとも別の所に二人だけに分かる事情と言うのがあるのかは俺には分からない。
こういう時に何と言って良いのか分からない俺はどうせならと思ってこう提案してみた。
「あいつらに俺たちがどれくらい深い階層に潜っているのか見せつければ良いんじゃないか?アイツらどうせ九階層の攻略だけなんだろ?だったら俺たちが先行してるってトコを知ったらあいつらよっぽど面白い顔するんじゃないか?あ、兜被ってるから表情分かりづれーな?プライドってのを目の前でズタボロにしてやったらスカッとしない?」




