★★★拒否・拒絶されています★★★
早いモノであれから九十日が経過した。この世界では「月」と言うのが無く、季節で分けると言う。
暖かい陽気が続く期間、暑いが雨も多く振る期間、風が乾き始め気温が下がる期間、寒さが厳しく冷え込む期間、である。
「で、春夏秋冬って訳だ。それが一巡して一年ね。ふーん、まあ地域毎にそこ等辺の日数のズレとか増加や減少はあるってか。南と北かな?まあそこら辺は別に良いか。俺がレーナを助けたのは暖かい陽気、春って事ね。んで今は夏って事かぁ。」
ジリジリと照り付ける日差しの強い事、強い事。だけどもソレは日が当たる場所の事。
日陰に入ればかなり涼しい。日本の夏に比べたらこれ位はどうって事無い。寧ろ余裕と言える。
これまでの間はレーナに世話になって俺も村での仕事を色々と熟して信用を得ようと頑張っていた。
畑仕事の手伝い、薪割りの手伝い、開墾している所があれば力仕事要因として参加し、荷物を運ぶ際にも俺が運んで手早く片付けると言った感じだ。
俺の怪力はもう既にこの村に俺がウルフの塊を担いで持って来てるので村民には知られている。
だからソレを早速利用して男手の必要な仕事を率先して受けてこの村に即座に馴染める様にと良く働いた。
「で、何でレーナの兄貴はまだ俺の事をそんな目で見てくんの?否定したじゃん?別にレーナをどうこうしようって気は無いって。ハッキリと宣言した、明言したよね?」
「兄がスイマセン。私もいつも言ってるけれど、どうしても、その、タクマの人外な力に警戒が取れないらしいの。それと、私への心配も。」
「同居してるし、ずっと俺の見張りみたいにくっ付いて回ってくるのにまだ心配なの?居候だしあんまり俺も文句をつけるのはしたく無いんだけどさーあ?過剰だよね、オニイサン。」
レーナの兄とは村長と話す前に居たあの金髪碧眼細マッチョである。名はレーグ。
兄妹で暮らしていて俺はそこにお邪魔する形となっている。レーグはレーナと顔は結構似ている。イケメン爆発しろと言いたい。
村長からの話は既にレーグにも通っていて一緒に住む事は受け入れたらしいのだが。まあ妹の命の恩人を預かると言った形であるから拒否はできないだろう。
しかしコレにどうにもレーナが心配で、そして俺への警戒心が取れずに四六時中と言って良い時間、俺の監視をしていたりするレーグ。
一応は俺への見張りを村長からそれとなくレーグは伝えられているそうであるが。
「俺はレーナと夫婦になる事は無いんだけどなぁ。」
「そうですね。私もそう兄には断言しているのですけど。」
レーグの心配はそこにもあるらしく、執拗に俺とレーナが二人きりになる様な場面が無い様に目を光らせていた。
そして徹底的に俺との雑談もしようとしない。必要最低限と言った具合にしか話した事が無い。
俺が仕事をしている時には一緒になって手伝ってくれているのだが、それは仕方が無くと言った表情でやっている。
俺が仕事をしている時に監視の役目だからと言って俺をずっと見続けてそれ以外何もしない、などと言うのは世間体も悪くなるだろうし、評判なども落ちるだろう。それの回避の為に止むなくと言った感じで手伝って来る。
一応は村人にはレーグは俺の世話人として認識されているので違和感を覚えられたりと言うのは、まだギリギリしていない様であるが。
「レーナ、そいつと馴れ馴れしくするなこれ以上は。余計な感情を抱え込む事になる。そいつはこの村をその内に出て行くと言ったんだ。それまで俺たちはこいつの面倒を最低限見ればいいだけだ。仲良くする必要は無い。」
これまでの日数でレーナからは俺への警戒心は無くなっていた。性格の方はそこまで「外れて」はいない事を理解して普通に接してくれるようになっていた。
「そんな事は解っているわ兄さん。あくまでも知り合い、ってくらいには抑えてるから。心配はいらないのに。」
「本人目の前にしてぶっちゃける事か?遠慮は?余りにも酷く無い?冷徹過ぎやしませんか?ねえ、その身に温かい血は流れておらんのですか?」
ツッコミを俺は入れるがレーナはこれに何も口にしない。只眉根を顰めて首を軽く傾げて肩をちょっと上げるだけ。
そんな仕草をこっちの住民もするんかい、とこれには俺は心の中だけでツッコミを入れておいた。
ついでにそんな仕草をやったレーナは随分と様になっていて文句をつける事は出来なかった。
レーグはドライな考えを俺に対して持っている。いずれこの村を出て行く奴には余計に踏み込んで仲良くする必要など無いと。たとえそれが恩人相手でも、である。その考えはずっと変わっていない。頑固である。
レーナはある程度は俺と言う存在に慣れた。時折仕事を頼んできたりしてしっかりと俺に「仕事」を教えてくれる。
俺はこの世界の常識を教えて欲しいと頼んだ。それをレーナは理解してくれている。
あれも、これも、それも、と言った感じで毎日何かしらの仕事を俺に振ってくれているので正直助かっている。
村のあちこちの住民たちから受ける仕事だけでなく、こうして家の仕事、と言えるモノを熟していけば俺も「何も知らない異世界人」から「田舎者の青年」にクラスチェンジと言う訳だ。
(まあテレビで偶にやってる「田舎特集」とか言った感じだな。しかも電気ガス水道が無い感じ、って結構な無理ポ感あったけど、やればどうにかなるもんだ)
早寝早起きは基本だ。電気が無いから直ぐに夕方からは暗くなる。なのでその分だけ活動時間と言うモノが大幅に地球の日本の現代社会とはズレている、懸け離れている。
ガスは無いから当然風呂に入る事は無く、濡らした布で身体を擦って清潔を保つ。最初の頃は耐えられない、などと思っていたのだが、四日五日と続けていれば「オワタ・・・」と諦め悟る。
調理は竈で薪に火を付ける、といった形を取るのでそもそもガスコンロなど有り得ない。火加減調整が難しい。
水道は無いので川か、村の中心にある井戸から水を汲んで家の中に置いてある水がめに移し替えると言う手段を取る。かなりの重労働だコレは。
この家、井戸まで結構距離がある。そしてこの距離より少々短い位の位置に川が流れていたりする。
どちらから汲んで来るかは微妙な所で、川は森の浅い所まで行かねばならないので足元が悪い。
だからと言って井戸の方を利用すると、川よりも距離があってその道程の分だけ時間が掛かるのだ。本当に微妙なのであるこの差が。
「・・・おい、食事は終わったか?なら余計な時間を掛けるつもりは無い。狩りに行くぞ。」
レーグはそう言って壁に立て掛けてあった弓矢を手に取る。動物性たんぱく質をゲットだぜ!である。
俺の持ち込んだあの時のウルフは可食部もあったが、それを村の住民たちに分けたのでもう既に無い。随分な量あったが、おすそ分けなどしていたら直ぐにどんどん無くなっていった。
まあその分だけ俺がこの村に受け入れて貰い易い状況に持って行けたので勿体無い訳でも無い。
剥いだ皮の方は婆さんに処理をお願いしてある。一応は俺も加工の仕方は習ったのだが、それだけに集中している訳にもいかないので婆さんに頼む事になった。量も量だったので。
これらの「革」をこの村に時折やって来る商人に売った時の金の中から幾らかを婆さんに支払うと言った形で契約をして仕事をして貰っている。
「チートが・・・チートが欲しい!主にスローライフが楽々チンチンになるやつが!」
「行ってらっしゃい兄さん。無事に帰ってきてね。まあタクマが居るから大丈夫でしょうけど。」
俺の「力が欲しい」の叫びは無視された。レーナはレーグに対して気を付ける様にと言って見送りをしているが、その後は俺が居れば大丈夫と付け加える。
確かにこれまでも俺は狩りに出かけていた。その度にしっかりと獲物を持ち帰っている。
ウサギにウルフにイノシシにシカにトリにヘビにと様々だ。
だけどもコレは俺には「そう見えた」だけなのであって俺の知る動物では無いと言うのは忘れてはならない。
その動物たちの動きや体骨格、特徴が似てはいるものの、ここは異世界、地球じゃない。全く別存在であるからして。
「どうにもここって剣と魔法のファンタジーだろ?そうなると樹木人とか、或いは蜥蜴人とか?竜人とか、鬼とか?獣人とかも居たりするのかねぇ。エルフにドワーフ?この世界が国家間で醜い戦争をし続ける「ニンゲン」だけの世界とかは止めて欲しいな。そんなのだったら夢が無ぇ。殺伐過ぎるわ、そんなん。」
俺の方も準備を終えてレーグに付いて狩りに行く。もちろん「サイキョウソウビシリーズ」である。
これさえ身に着けていれば先ずそう易々とこの世界でも負ける事は無いだろうと思っている。
しかしこれまでに魔法はまだ一度も使ってはいない。危なさ過ぎて。と言うか、ゲームで遊んでいた時でさえ、「パワー」を上げて物理で殴る、と言った攻撃方法ばかりしていたので魔法など滅多にゲームでも使っていなかった。
それでも森の中では使えない。もっとだだっ広い平原か、或いは荒野などの人気が全く無い、被害が出ない様な場所で無ければ魔法は試さないと決めている。
迂闊に使って事故を起こし、何ら罪の無い人死にが出たら目も当てられない。そんな事になったら俺は自殺すると思う。もちろん咄嗟の責任逃れの為に、である。
無辜の民を殺しても堂々として何とも思わない様な外道に俺はどう考えてもなれない。多分ストレスでパンクして衝動的自殺となるだろう。
将来に戦争に参加、とか言ったイベントが起きたらきっと俺は逃げ出す。なりふり構わずに。
力を持つ物の義務だの、責任だのと言った言葉に耳を貸すつもりは無い。俺は小心者なのだ。
理由を付けて人を殺すのは悪党に対してだけでお腹一杯である。
戦争だからとか、相手を殺さないと自分の大切な人が死ぬとか、自分が殺されるくらいなら相手を殺すとか、そう言った理由は戦争なんて特殊な状況では互いに相手も同じで。
そんな理由を押し付け合って殺し合う戦争などはそれこそ真っ平御免である。
国に徴兵されて「戦わなかったら罪」と言った形で半ば無理矢理戦わされるのが一般兵とか言った立場だろうから、そこには理由もへったくれも無いのだろうし、逃げ出す事もできやしないのだろうが。
そこに俺は巻き込まれたくは無いのだ。そうやって個人が全く通用しない集団の中に混ぜ込まれて自由意志を失わされる様な状況にならない様に立ち回る必要がある。
ソレを為すにはそれこそ何を置いても逃げる、と言う覚悟が必要だ。その覚悟を作り出す上でシガラミは尤も邪魔なものとなる。
なのでそう言った自分が動けなくなる、雁字搦めにされてしまう要素はなるべくなら作らない様にと注意はしている。
けれども俺は所詮は人だ。今この村で過ごしている経験で多少のシガラミはできてしまっている、俺の中に。
もし俺がここを離れて遠くに居た時に、戦争でこの村が狙われ襲撃される事を知れば、俺はレーナは大丈夫だろうかと考えてしまうはずだ。
その思考はきっと俺を戦争へと駆り出してしまう切っ掛けとなるだろうその時は。
俺はそんな時に「ふーん、あっそ」で済ませてしまえる様な冷血で冷酷な人間じゃ無い。
「おい、早く行くぞ。何をぼさっとしている。」
レーグの声で思考に沈んでいた俺は意識を再稼働する。
「すまん、今行く。」
こうして本日の狩りへと出発をした。