★★★行ったり来たりは申し訳ないね★★★
却下された。俺が罠をワザと踏むのは。俺の実力なら恐らくは踏んでも回避は可能だと思ったからこその発言だったが。
「いや、危険過ぎるな。タクマの実力はまあ、知っている。知ってはいるが、予想を超える効果を持つ罠であった場合の事も想定しておくべきだ。毒煙は回避できないだろう流石に?微かにでも吸ってはいけない物であったりしたら、そこで終わりだ。皮膚に直接効果を齎す物であっても、ダメだ。効果が長く持続して、かつ透明であった場合、私たちがそれに気づけずにソレを受けてしまう想定をしておかねばならない。悪辣な罠なんてこれまでも大量に報告はある。考えれば考える程に危険だ。罠をワザと発動させるなんて。」
ジェーウはそう言ってここでの危険は俺だけに留まらないと言う。
確かに俺もそこら辺までは考えられなかった。確かに毒ガスはヤバい物ばかりだ。俺の狭い知識の中にある物でも。
ここでポンスが付け加えて来る。
「タクマさんの言葉で視野が広がったからこそ思いつきましたが、そもそもその罠が広範囲に最初から影響を及ぼす物であった場合、階段の所であっても危険ではありませんか?それこそ階段の場が安全だと思っているのは私たちの勝手な思い込みでは?試練獣が入り込まなかっただけで、罠は?本当にそこまで影響を及ぼさない様に出来ているのでしょうか?そもそも試練場の事を私たちは最初から、今まで、そして今も、知らない事だらけで恐ろしく感じて来ましたよ私は。」
罠の事だけでは無く、この試練場そのものに対しての疑問がポンスは浮かんできた様子。
知らない、って事はそれ自体が恐怖である。そんなモノによく自分たちは今まで何も考えずに入る事ができていたなと言いたいらしい。
まあだからこそ試練場に潜って金を稼ぐ者たちを挑戦者などと言う呼び方をするのだろうが。
「うーん?じゃあ引き返すか?九階層からここまでの道順は記録してあるんだよな?ソレで今回の成果として国の報告にするかい?」
俺はここで全員の冷静さ、と言うかドン引きしている光景に引きずられてやっと正気に戻り始めた。
妙なテンション具合にここまで突っ走って来てしまったが、罠によって背中に冷たい汗が流れた事でようやっと心が落ち着けた。
なので引き返す事を提案したのだが、これに少々の待ったが掛かる。アリーエからだ。
「もうここまで来たら粘れるだけ粘りたい所なのだけど私の心情としては。だって、ねぇ?」
アリーエがそう言ってからバリーダにチラリと視線を向けた。これにバリーダが。
「ああ、そうだな。俺も同じだ。どうせならもっとデカい事を成し遂げてから凱旋してやりたいぜ!・・・まあ、その、なんだ、タクマがやり過ぎてる件は換算しないで、って事で、俺たちの力でやり遂げたい部分はあるんだが、あるんだが・・・」
眉根を顰めて俯きながらバリーダはそう言う。これに俺はやり過ぎてると言われた部分に一言物申したい所ではあったが我慢した。
ここでマリが少々の思案顔をしてる事に俺は気が付いた。そこで俺の視線が向いている事に気付いたマリが一つの案をしてくる。
「ねぇ、ちょっと良いかい?私の考えている事を皆に聞いて欲しい。そして意見を出して貰え無いだろうか?」
何やら妙案を思いついたと言うマリに俺含め全員が注目する。そこで説明された内容に俺たちは何でこんな単純な事を考え付かなかったのかと思わされた。
これさえあればどうとでもなる、そんな事を話していたのだから思いついて当然の内容だったのだが。
「それを私たちだけで実現しようとは考えていなかったわ。タクマが居るなら、それは現実的な話に変わってしまうわね・・・寧ろ私たちの存在はそうするとオマケ程度の事に落ちるけど。」
アリーエがそんな風に感心したかと思ったら落ち込んだように最後に自分たちはオマケだと付け加える。
「俺たちは一体なんで今ここに居るんだったかなぁ・・・」
バリーダはそう言ってマリに対してジト目を向けているが、そこには反対をしていると言った意思は込められていない。
「今から早速実行に移すにしても、色々と向こうで問題が起きるのでは無いですかな?」
地上に出た際にその後も問題が発生するとポンスは訴えるが、別段マリの提案に反対とは言葉にしない。
「侯爵様が恐らくはその点は隠蔽してくれるだろう。」
ポンスの気がかりをそう言って否定するのはバルツだ。彼も反対だとは口に出さない。
「タクマだけに負担が集中し過ぎでは無いのか?それにマリエンス嬢に及ぶ危険が大きくなる可能性が高くなる。それは避けたいが?」
ジェーウは今回の自分たちの仕事が侯爵令嬢の護衛だと言うのを此処で主張する。侯爵様もこの試練場の攻略階層がまだ危険度は低いと見ての事であるだろうから、こうして自分の娘の我儘を聞いて護衛も付けてと安全確保して送り出したと見る事ができる。
その点を出して遠回りにジェーウは反対だと言いたいのだろう。だけどもマリがこれに対して今更だと突き放す。
「私の身の安全を考えて言ってくれているのは分るよ?けれども、それを口にするなら階層主の居る部屋へ入る前に言っておくべき事だったね。階層主はこの試練場ではまだ未知の物であったし、準備なども充実していなかったんだ。それをタクマの実力を見て可能だと思ったのかもしれないけれど、だからと言って自らの請け負った仕事の事を横に置いてそのまま突撃してしまっているんだ。これはもう何も言い訳できないよ?ましてや十五階層までその勢いでやって来てしまっているんだ。どんな言葉も説得力が無いね?」
ジェーウはこの反撃に言い返せる言葉は無い。ジェーウの立場的には反対も賛成もできない挟み撃ちと言う感じだ。逃げ出しは不可能である。
どちらかを選ばなくてはいけない場面。覚悟を傾けるのならジェーウがどちらにするのか注目である。
「分かった。ならば一度、一階層まで浮上しよう。そこで私たちはマリエンス嬢の護衛を続けつつ試練場内で待機。タクマが例の袋に大量の食糧を入れて帰って来たら最下層を目指す。で、タクマ、侯爵様の元に行く事になるが、その時にはどうやって説得する気なんだ?」
ジェーウがそんな事を言って俺に今後の展開をちゃんと考えてあるかを質問して来た。
でも俺はそんな事なんて思いついちゃいない。
「うーん?その時にはまあその場のノリで?もし俺が手持ちの食糧が無くなるまで戻って来なかったら諦めて試練場から出てくれ。それくらいしか言えんな。」
これに返事をするのはマリだった。
「その時にはしょうがないよ。でもタクマなら父上を説得できると思うんだよね!それに袋に入っている中身を使って交渉すれば案外父上もすんなりと準備の協力をしてくれるんじゃないかと思うよ?だって魔石の数が数なだけに、それだけで結構な食糧も道具も揃えられるだけの量だしね。それに例のマントもあるからソレを譲るって言えば二つ返事で寧ろ進んで手伝ってくれると思えるんだよねぇ。あ、でも父上が忙しくて城に入りっぱなしだったりすると二日くらいは屋敷に戻ってこない事もしばしばあるから、そこは運かなぁ?」
俺がこのマジック小袋を使って運び屋をする。マリの提案はコレだった。
騎士団とマリは試練場内で待ち、俺だけが侯爵家へと戻って当主様に協力を願い出る。
そして大量の食糧を小袋に入れて俺が持ち込んでそのまま試練場を騎士団とマリと共に攻略を続けると言った感じだ。
騎士団は試練場から一度でも出て来なければそのまま潜り続けていられるのだ。屁理屈ではあるが。
「騎士団が戻ってこないって言って捜索隊が組まれて試練場内に入ってきた場合はどうする?」
俺がここでその様な場合になった時の対応をどうするかを聞いてみた。俺たちにそいつらが追い付いて来た時には言い訳を思いついているか?と。
幾ら何でもこの第一組騎士団が見張られていない訳が無い。事前準備で持ち込んでいる食糧の方も警戒されて何日分であるかの方も計算されている事だろう。
ついでにマリの護衛として潜っていると言う点も踏まえているだろうから、侯爵家へとその場合は問い合わせとして探りを入れて来るに違いない。
ジェーウ率いるこの騎士団は貴族たちに目を付けられてその行動を抑えつけられていると聞いた。ならばそいつらが動くはずだ今回の件は。
そうしたら侯爵家に迷惑を掛けないだろうか?とは言え、そこら辺は何だか上手くやりそうな気がするあの侯爵様だと。
そんな事を思っていたら返事がマリからあった。
「この試練場は九階層までの攻略しかされていないからね。それ以降の階層に踏み込んでくるのに地図も攻略法も無く他の捜索隊がそこまでの速度で進めるとは思えないね。だって今居るこの十五階層はタクマあっての事だよ?他の騎士団にタクマ以上の実力を持った者たちが居る何て聞いたことが無いし、いたらもうとっくにこの試練場は最下層まで攻略されているね、きっと居たなら。」
「試練場内には俺たちを追跡していた様な奴らはいなかった。タクマの実力何て知らなかっただろうからこんな階層にまで来れている何て想像もしてないんじゃないか?と言うか、同行した俺たちがそうだったんだ。他の奴らがそんな想像できるハズ無いんだよなぁ・・・直ぐに地上に戻ってくると奴らは思ってるだろうさ。それとタクマの事を警戒もして無いだろうからな。監視は緩いんじゃ無いか?」
バリーダが遠い目をしながらそんな事を追加で俺に言ってくる。どうやら今回の事は第一組騎士団を警戒している奴らにとっては「どうでも良い事」とみられている可能性が高いと言う事なのだろう。そこまで神経質になる事は無いと。
「うーん?じゃあ取り合えず失敗しても良いと思って実行してみるか。それじゃあ面倒だけれども、また戻るとする?」
俺は納得して全員に意見を募る。行ったり来たりは申し訳無いが、これ以上深く階層を下に潜ってからでは余計に帰り道が長くなるだけだ。
これに全員が「疲れていない」と口を揃えて言うので俺がまた先頭に立って来た道を再び戻る。
もう二往復目だ。既に慣れてきた道だし、試練獣の出て来る種類も把握していた。
なのでちょっと早足程度の速度で進みに進む。十階層のボス部屋ではまた復活していた大鼠をサクッと倒してまたマントの追加を一つゲットしたらそのままの勢いで九階層の戻り道を一気に進む。
そんな距離を猛スピードで戻っているが、別に全員疲れている様子を見せない。しっかりと普段から鍛えている証拠と言えるのだろうソレは。
そんな事を俺が口にしてみれば返って来た言葉がコレだった。
「いや、タクマが出て来る試練獣を止まらずに、かつ速攻で即殺するからこっちは疲れる要素なんて一つも無いからだろうがよ・・・」
バリーダがそんな事を俺にまたしても遠い目をしながら口にしたのだった。