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★★★ガンガン下りようぜ!★★★

 説明はポンスの口からされた。この小袋は内部に大量の物を入れる事ができる代物だと。


「そう!しかも重さも無い!入れた物の総重量が幾らであってもこの小袋は重くならない!この機能、大事!」


「お前また興奮し始めてるぞ?いきなり声を大きくして一人で叫んでんじゃねーよ・・・」


 俺が追加説明した事に対してバリーダがツッコミを入れて来る。

 これには「バリーダはいい加減スルースキルを磨いた方が良いのでは?」と俺の頭の片隅に浮かんできていた。

 しかし今はソレを言う場面じゃない。俺はポンスに携帯食料、まあ言うなれば干し肉を一つ出して欲しいとお願いした。


「タクマ、何をする気なんだい?干し肉を何かの実験に?」


 ポンスが荷物から取り出した干し肉一つを俺は受け取って、質問してきたマリへとニヤリと笑って見せる。


「よーし、まだ実験だ。ガンガン行きたいね!これ以上は時間を掛けたく無いし。それじゃアリーエ、コレを凍らせて貰え無いか?なーに、それをこの袋に入れて氷が溶けないかどうかを確認するだけだ。そうそう、魔法で氷のみを作り出してこの中に入れるって言う実験は無し。一応は時間経過無効とか、状態維持とかそう言った所を確認したいんでね。」


 氷だけを入れると言うのも別にこれらを確かめられるだろう。けれどもその氷に別要素、干し肉が加わったりした変化なども見ておきたいのでこうしたお願いをアリーエにしたのだ。


「・・・変な事を確かめるのね。まあ良いけど。」


 そう言ってアリーエが何やら●二病的な呪文を唱えるとパッキパキに凍って行く干し肉。それを俺は小袋に直接ポイッと入れる。


「さて、まだまだ!ポンスさんの荷物、それ、この中に入れちゃいましょう!」


「・・・ソレはまだ早計だと思われるんですがねぇ?」


「ポンスさんは既にもうその「鑑定」で調べたでしょうし、詳細を理解できているでしょう?それでも早計と思うんですか?」


 これにポンスは黙ってしまった。どうやら理解は出来ているが心の方が整っていないと言う事なんだろう。この小袋の性能に対して動揺が収まっていないと言う事だろうか。


「タクマ、落ち着いて。彼の仕事を思い出して。幾ら何でも今ここで自分の役割を全てそのポッと出の小袋に任せてしまう何て事は出来ないよ。彼にも責務と言うモノがある。自らの仕事を放棄してしまいかねない事をそう易々と口に出せる訳も無い。」


 マリにそう言われて俺は納得した。ポンスは荷物持ちとして自分の持つ荷物に責任を負っているのだ。

 食糧や水、その他にも救命用の薬などもその背負う荷の中に入っている。これらをいきなり俺が要求したからと言って即座にその全てを差し出せる訳が無いのだ。

 実験だと言ってその荷物を俺が要求している事がそもそもおかしい事だった。


「じゃあその魔石の袋をこれに入れるのは大丈夫ですか?」


「そこはこれ以上の実験を後回しにしようといった事にはならないんだねぇ・・・」


 そう言ってポンスはパンパンに膨らんでいる魔石の入った袋二つを俺に渡してくれる。

 俺はソレを小袋へと近づけた。するとコレもやはりスーッと中へと吸い込まれる様にして消えていく。


「じゃあ今の所は実験はここまでにしておいて。それで、これからどうする?」


 俺のこの言葉に全員が沈黙。これに俺は「はて?何か悪い都合でもあったかな?」と一瞬考えてしまった。

 そこにジェーウが一言。


「なあ?魔法陣を見つけるはずじゃなかったのか?ああ、別に良いんだ。不慮の事故を想定してこの人数で三日は動けるだろう分を持ってきてる。だからここに留まって階層主を・・・うん、これだけの数を倒した事に関しては何も言う気は無い。最初っから私たちの動きはタクマに合わせると言った話はしていたしな。」


 荷物を持ってきているのはポンスだけでは無い。各人の背負う鞄の中に食糧や水は分散させて持ち込んでいる。

 一応はその他の物や多めの食糧と水をポンスが大荷物を背中にまとめて背負う形は取っているが。

 既に一日は使っている。このボス部屋で粘った事で。なので使える時間はあと一日半くらいか。

 帰還の魔法陣が見つけられなかったら来た道を引き返して試練場から出なくちゃいけない事を考えるとそれくらいの時間と考えた方がいい。


「じゃあこのまま進んで行ける限界まで行こう。こうしてたっぷり容量の袋が手に入ったし。ジャンジャン魔石を稼いじゃおう!」


 俺は今妙なテンションである事を自覚していた。多分だが、試練場のこんなゲームみたいな仕様にちょっとワクワクしてしまっているのだ。

 自分が主人公になってダンジョン攻略する、何て変な考えに思考が侵食されている。


(それに一度出たらこの騎士団は再びいつ試練場に入れるか分からないってんだろ?なら、今は思う存分にギリギリまで攻めて行かないと!)


 関わりたくは無いと言っていたクセに、次に試練場に潜れるのが何時になるか分から無いと言う騎士団の事も考えてしまって、ソレも俺の思考を狂わせていた。

 だがこれだけでは無いのだ。調子のおかしくなっている一番の要因はこの小袋がゲットできた事であろう。

 これで俺は気が大きくなってしまっている。何が出て来てもこの小袋に入れれば荷物が増えない。

 まあ苦労してゲットできた事でもかなりのテンションを上げる要素になっている。


 人は心配の一つが解消されると、そのできた余白に楽観的観測を膨らませてしまうものだ。

 今の俺がそうである。何をゲットしようがこれさえあればどんな物でも持ち帰れる、その点に俺は今惑わされている。


 そんな事を自覚していても俺の足は止まらない。もう乱獲したと言える程に狩り続けた大鼠。ここに留まっている必要も意味も最早もう無い。もう無いのだ。

 ここに戻って来る前に居た十五階層までの道はまだ覚えている。さっさとそれ以降の下の階層を俺は目指す心算である。

 目の前に出て来る試練獣は即殺。魔石を拾う仕事はやはり皆に任せて歩みを止めない俺。

 そうしている内に戻ってきました十五階層。

 ここでジェーウが皆の意識を高める為に演説する。


「さてと、ここからはまた道が分からないし、地道に行こう。とは言ってもやる事は変わらない。けれども何か異常や変化、もしくは妙な事に気がついたらソレがいかにちっぽけな事でも教えてくれ直ぐに。それが帰還の魔法陣を発見できる事に繋がっているかもしれない。何が何処に関係しているか判らない以上は細かく色々と注意して進んで行こう。」


 ここで俺の役割は別に変化しない。魔法、ウォーターガンで「やられる前にやる」をモットーに進むのみである。

 なので取り合えず真っすぐに進もうとした所で待ったが掛かった。ジェーウだ。

 彼は確か罠がある所を見抜けるサングラスを掛けていた。


「その床は踏んではいけない、少々そこだけ色が他と違う。」


 その声と同時にバルツに俺は服を掴まれて止められている。彼は無口なんだなと思っていたのだが、どうやらソレは俺の思い違いらしい。

 彼は重要な部分以外は話す事を必要と感じていない人物である様だ。

 試練場ではなおさらなのだろうその傾向は。要するに、命が掛かっている場面では余計な無駄口を叩かない主義なのだろう。

 そしてその分を他の面への思考や集中力に向けていると言った所か。見ている視点が俺の様な能天気とは完全に違う。


「・・・今、注意され無かったら踏んでたわー。それとバルツ、ありがとう止めてくれて。それが無かったら勢いで踏んでた・・・なあ?こう言った、もしかしたら罠が仕掛けられてるかもしれない床を踏むと・・・やっぱ落とし穴?」


 俺はちょっと背中に冷たい物が走ったが、ジェーウの声で思い止まってその一歩を踏み出さずにいられたので、その色の違う怪しい床を踏まずに済んだ。バルツのおかげもあるが。

 そして質問をしてみた。やはりこういった場面で床罠と言えば定番のそれなのか?と。

 これに応えてくれたのはバリーダだった。


「まあそこは落とし穴だけじゃねーな。槍が横壁から飛び出してくるとかな。もしくは天井が落ちて来るやら正面から矢が、或いは背後とか?要するに、何が飛び出してくるか踏んでみなけりゃ判らんって事だ。一番最悪なのは毒煙がヤバいな。アレは咄嗟に避けたり防いだりが一番し難い厄介なもんだぜ。」


「それを聞いてちょっと、いや、かなり嫌らしい事を思いついたんだけど、聞く?あ、いや、やっぱこれは話さない方が良いや。忘れてくれ。」


 俺はふと思いついてしまった事が口から洩れそうになったがそれを思い止まった。

 だけどもこれにマリが食いついてきた。


「ダメだよタクマ、気になった点や違和感があったら周知徹底だよ?ちゃんと今言わないとダメじゃないか。さあ、吐くんだ。何を隠しているんだい?」


 ここで突っ込んでこないでも良いのになぁ、そんな風にしか思えない俺には、このマリの追求は。

 だからここで一応俺は「コレを聞いたら元には戻れない」と前置きして後悔が無い様にしっかりと言っておいた。聞きたく無ければ耳を塞いでおけとも。


 しかし全員がこれに俺が何を思いついたのかを聞く姿勢を取ったので覚悟を決めてその可能性を口にする。


「あのな?宝箱や隠し部屋を見つけるのに、もしかしたらこういった罠を発動させないと見つけられない様に連動している可能性を考えちまったんだよ。・・・ほら、嫌な顔した。だから忘れてくれって言ったんだぞ?例えば、だな?隠し部屋なら、その罠を起動させる事で鍵が開くとかな。宝箱ならそれが出現、或いはソレが設置されてる部屋の発見には一定の罠を解除しないといけないとか。ここの床がもし踏むと罠が発動するとかなったら、その後に壁の部分が開いて隠し部屋とか出て来たりしねーかな?って。」


 この後は沈黙だ。誰もが口を開かない。俺はこれに「だから言ったのに」と追撃を入れておいた。この沈黙は俺のせいじゃ無いと。

 ついでに追加でもうちょっと突っ込んだ事を言っておく。もうここまで来たら言っておいて良いだろう。


「帰還の魔法陣、ってのがこれまでに数は少なくても見つかってるんだよな?じゃあソレが見つかった時の挑戦者の辿って来た、何て言うの?記録とかはあるか?もし当時のそいつらが何か知らの条件をいつの間にか満たしていて魔法陣が発見できたとしよう。じゃあそれに倣ってみて動いてみたら、もしかするとこの試練場でも魔法陣を見つける事ができるかもしれないんじゃないか?」


「・・・そもそも罠を起動させるなんてのは無茶な話だ。しかもそれこそ、私の隊には罠を解除できる者が居ない。私のコレは発見は出来ても解除の仕方まで見える訳では無いんだ。これらの件に関しては確かに、まあ、その、調べる価値はあるのかも知れ無いが。その為に危険と分かっている物を無理やり発動させるとなると、そう簡単に許可は出せないぞ?」


 確かにジェーウの言う通りである。何が起きるか分から無いそんな代物だ。安全の確保なんて幾ら準備をしてもし足り無い。

 発動させてみなければ何が起きるか分からない代物に全て対処できる方法などありはしないのだから。開けてビックリ玉手箱ならぬ、洒落にならない即死罠である。


「じゃあ俺がやる。だから全員階段の所で待っていてくれ。あそこは安全地帯なんだろ?ならそこに居れば罠がどの様な物であってもその脅威が迫る危険が一番少ないって事だよな?」

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