★★★価値★★★
「あ。」
そこには何故かあの俺が一瞬で撃ち殺した巨大鼠が復活していた。そして俺の目の前に。
思わず俺はこれにびっくりして剣を抜き「スラッシュ」を放ってしまう。
「え?何で?帰る時はコレ、復活してるボスを倒していかなきゃいけないって事なの?マジで仕様酷くね?」
「ああ、タクマには説明をしていなかったな。失念していた。すまん、もうちょっと早く教えてやれれば良かったんだが・・・いや、その、一撃かぁ・・・」
ジェーウがそう言って俺の後になって十階層のボス部屋に入って来てそう説明をしてきた。しかしもう遅い。
ボス鼠は哀れ上と下で真っ二つに切り離されて光と変わっている途中である。
俺はソレをもうちょっと早く、具体的に言うとここに入る前に教えて欲しかったと言った視線をジェーウに飛ばす。
「いや、そんな目で見ないでくれないか?こちらとしてもこの情報は頭の隅に追いやっていたんだ。ここの試練場は九階層の記録までで、私たちも活動は控えさせられていたんだよ。だからずっとこの情報は今は関係無いと言った感じで直ぐに思い出せなかったんだ。」
「・・・なんでそんな事になってるの?」
国はどうしてここの攻略を先へと進ませていないのか?どうして騎士団を作っているのにも関わらずその活動を抑制する様な命令を出していたのか?
「あー、コレは言いにくいのだが、まあ情報統制がされていた訳でも無いから教えるが、他所には漏らさないでくれ。私たちは貴族たちに睨まれていてね。」
「それ以上は聞きたく無いので黙れくださいお願いしますもう聞きたくありません。」
「・・・まあそういう反応が普通だよね。汚い裏の話なんてのは厄介なだけだ。知らない方が身の為だしね。」
ジェーウがそんな風に言ってこれ以上の事を言うのを思い止まってくれた。けれどもそこにウンウンと頷く、これをいつの間にか聞いていたマリ。
「ああ、なるほど。だから父上はこの騎士団との同行じゃ無いと私を試練場に入らせないと条件を付けたんだね。納得だ。」
「おいマリ、お前なに裏事情を読み取って勝手に納得してんだよ・・・怖いんだよ、それ。俺に聞かせるなよ?フリじゃねーぞ?・・・もう一度言うぞ?本気で、フリじゃねーからな?」
「ああ、やっかみを食らっているんだよ彼らは。この騎士団は何処の貴族の息も掛かっていないんだ。」
「おい、聞かせんなっつってるだろ!」
「いやー、タクマには協力して欲しいねぜひとも!」
「俺の事を無理やり巻き込むつもりじゃ無いですかヤダー!」
俺は頭を抱えて叫ばせて貰った。しかしこの叫びは虚しい。誰にも届く事は無い。
俺とマリのこのやり取りを中断させる声が入り込む。
「あのー、そこに落ちてるマントは、その、二枚目、ですねぇ?」
それはポンスだった。巨大鼠が消えた床に落ちているソレを見て何とも言えない感じの疲れた表情を浮かべていた。
そして言葉の通りである。二枚目ゲットだぜ!であった。レアなのか、はたまた通常ドロップなのかは分からないが、それでも今現状では貴重な物である。
「おい、コレどうすんだよ?二枚もこんなの出ちまって、二つとも国に納めた方が良いよな?」
バリーダが控えめな声でジェーウにそんな事を問うている。そこにアリーエが要求を口にした。
「このマント、一つ私に貰え無いかしら?炎の魔法を放った際に私自身をその熱から守るのに物凄く便利なのよね。どうかしら?これがあれば私は炎系の魔法をこれからはバンバン使っていけるのだけれど?」
これにジェーウが返す。物凄く眉根を顰めて悩みながら。
「基本は試練場で得た物は私たち騎士団の強化に使用しても良いと言うのがある。一々そこで国からの許可を得る必要も無いとも。しかしそれをすると貴族たちがうるさいんだ。まあ今でも鬱陶しい事この上無しなんだがなぁ。」
どうやら余程の物が出て来ない限りは国への献上はしないでも良いらしい。
けれどもそんな事をするとソレを良く思わない貴族が口を出してくるのだろう。
ここで一度相談する時間を取った結果、マントの一つはアリーエが使う事に全員で決めた様である。
(どうやらロクでも無い貴族ってやつの数がこの国は多いんだろうな)
こんな短いやり取りでもそんな裏側が垣間見えている事に俺はここで内心で「勘弁してくれ」と言いたくなっていた。
(侯爵様はもう俺の事を本格的に取り込もうとしてきてやがる!しかも半ば無理やりかよ!)
取り合えず今はそこら辺の事を深く考えない様にして皆にこのボス部屋に何か妙な所が無いかを探って貰う事にした。
「えー、何かしら隠されていたりする様な所ってどっか見つけられたりしませんか?其処にもしかしたら、宝箱か、もしくは隠し部屋、或いは帰還の魔法陣とかあれば良いんですけど。」
こう言ったら積極的に動き出したのはバリーダだった。早速壁をその武器でカンカン、チクチクとぶつけて何かしらの異変が無いかどうかを探り始める。
これにポンスもバルツも動き始めた。アリーエは天井を見上げて何処かに妙な部分でも無いかをその目で確かめている。
マリは十一階層に下りる階段付近の壁を触って不審な点が無いかを見ていた。
ジェーウは床をじっと見つめている。何かおかしな所があれば発見次第にソレを言ってくれるだろう。
そんな時間が大体五分くらい過ぎた。しかしヒントのヒの字も見つけられない。
「ねえタクマ?何で目を付けたのがこの階層主の部屋なんだい?恐らくはこのままだとまた主が復活して出て来ちゃうんじゃないか?」
「色々と俺のこれから言う事を信じるか信じないかは別で、まあ、説明しようか。」
俺はこれ以上に皆に捜索をさせるなら少しくらいは説明をしておいた方が良いかと思った。
しかしそれは俺のラノベ知識からざっくりとしたものにしておく。
「何かとキリが良いだろ?十階層事に主を倒した後に帰還できる様になっていたりしたら便利じゃん。それと試練場に入る際にも攻略済みの部分は飛ばして前回の続きから始められる魔法陣とかも、こうやってキリの良い所から始められたら良くない?それと、やっぱ宝箱が出るならこうしたボス部屋から出るのが浪漫でしょ!隠し部屋とかあればそれにワクワクしない男子はいないってもんだ!」
ここで一瞬の静寂が訪れた。俺の事をマリ以外の全員が呆れた目で見て来たからだ。
「タクマは考え方が面白いよね!確かにそう言った事が本当にあるのならば試練場を攻略しやすくなるね!だけど今の所は見つけられていないけど。」
俺の言った事を理解して賛同してくれたが、ちょっと最後は苦笑いのマリ。しかしここでジェーウも納得する。
「確かにそれらが本当にここにあるのならば、これ以降の階層も攻略に希望が持てるな。これまでの試練場の到達最下層記録は相当な大規模の人数で挑戦してのものだったからな。今の国の騎士団ではそんな大人数での攻略は不可能だ。教会騎士団がその全力を以ってして当たってのその記録は未だに破られていないのが現状だ。それを私たちは超える事を本当は望まれていたんだが・・・」
本来の目的は今や霧散状態。国が作った試練場攻略の為の騎士団は今や私利私欲を求める者たちに歪められてしまったと言う事なのだろう。
そしてその件に今俺は侯爵様に利用されそうになっていると言う現状である。
(侯爵様は狐か、狸か。そんな可愛いもんじゃ無いな。化かされた、って感じじゃねーもん)
今俺は侯爵様の思惑によって国の問題に無理やり首を突っ込まさせられている様な状況だ。
何も知らない俺を、知った後では引けぬ所まで引き込もうとしている悪辣なやり口だ。
だけどもソレが貴族と言うモノであるのだろう。侯爵様が俺を巻き込もうとしたのは「使える物ならソレが何であろうと徹底的に使う」と言う覚悟での「国の為」であるからだ。
そこに俺への悪意や害意などは無く、只々自らの私欲の為に俺を利用しようとしてない所がまた厄介だ。
国の抱える問題を何とか解決したい、その為には手段は問わないと言う非情をしているだけなので文句が言い難いのである。その事を責めた所で俺に意味は無いのだ。
そして俺がそもそも試練場に入りたいと言う部分をついでに利用しての事であるので、そこに一方的に俺のデメリットが無い所がより一層やり返し辛い。
(図書館の利用も、屋敷への客人扱いの滞在も、初めて入る試練場に場慣れした騎士団を同行させてくれているって形も、どれも俺は恩恵受けてるって形になってるから余計にやりづれーよ)
そんな所まで考えてから俺は次に階段部分を調べてみようと提案した。
階層を繋ぐその部分にも何かしらの隠されたものが無いかどうかを探ってみるべきだと。
こうして俺たちはボス部屋に今は見切りをつけて階段部分に全員で移動する。
そこでも皆で上下左右をしっかりと壁に触れながらギミックなどが無いかどうかを探ってみたのだが。
「無いな。」
「無いわねー。」
「これ以上は無駄じゃねーのか?」
「時間を掛ける価値がありますかねぇこれ以上は?」
バルツは腕組をして深く溜息を吐いた。アリーエは肩を落として少し残念そうにする。
バリーダはお手上げと言った感じで。ポンスは顎に手を添えながら疑問を呈する。
「これまでに各試練場で簡単に見つかっていないからこそ、ここで私たちが発見できればソレが大きな功績となる。どうせ今回ここを出てしまうと次に私たちが試練場に潜れるのは何時になるか分からない。これ以上は無駄と思ってしまっても、一度地上に出てしまえば次に試練場に潜れるかどうかも怪しい状態だ。価値がどうのと言っていられる場合でも無い。今回の貴重な機会をくださったのは侯爵様だ。それを恩に思いつつ、最大限に今を利用して私たちのこの不利な状況を脱しなければならないぞ?そんな諦めた事をお前たちは何時から言える様になったんだ?」
ジェーウのこの言葉に騎士団メンバー四人はバツの悪そうな顔になる。
ここでアリーエが一言これに言い返した。
「ねえ?この試練場の到達階層更新と、ついでにこのマントの一つを国に納めれば私たちも前よりかは試練場に入り易くなるんじゃないのかしら?」
確かにと思えたそんな案もジェーウは難しいと否定した。
「もっと大きな功績が要る。それこそ莫大な、って言える金が動く程のソレを王家に献上でもしない限り、だな。それ以外では私たちを邪魔だと思っている貴族や文官たち、或いは武官たちやら他の騎士たちに下らない理由と文句を大量に付けられて有耶無耶にされてしまうだけだ。寧ろ警戒度が上がって以前よりも締め付けと監視が酷くなる恐れも考えられる。」
これにポンスが口を開く。後悔先に立たずと言った感じで。
「ならば水も食糧ももっと多めに持ってくるべきでしたなぁ。どうせならこの試練場を最下層まで攻略するくらいの量を持ち込めば良かったですねぇ。タクマさんの実力はもう充分に理解できましたし。次は、と思えども、確かに一度出てしまうと我々はソレでお終い。与えられている許可は「試練場を出てくるまで」でしたから。潜っている間はずっとやりたい放題ですからねぇ。そう思うとせっせと魔石を拾い集めていたのが馬鹿馬鹿しく思えちゃいますなぁ。そんな事に時間を割くよりも下層に潜り続ける事をこそ、優先するべきでした。」
これにバリーダが納得した様で首をガクッとさせて項垂れる。
しかしここでマリがうーんと唸ってから一つの疑問を口にした。
「ねえ、この試練場は今までに攻略最下層が九階層までで、挑戦者はじゃあ今どこら辺を中心に活動しているの?」