★★★やっぱりダンジョンはこうなるのか★★★
そして到着したのは首都から少々離れた土地にあるその試練場入り口。大地に開いた大きな洞窟と言った感じの場所だった。
しかしこの場所は大いに賑わっていた。何せここから出土?意味はあっているのかどうかは今は考えないが、この試練場から齎される物を目当てに商人が集まっているからだ。
挑戦者と言われる試練場に潜っている者たちが帰還したら、直ぐに交渉を持ちかける為だ。
まあそう言った商売人は小者ばかりと言って良いのだろう。相手にする挑戦者はそこまで多く見られなかった。
まあ中にはどうやら大きな取引を成立させている様に見えた者もチラホラ見受けられたが。
まあそこは良い物を他所よりも即座に手に入れてソレを売り捌き、より一層の金を得る為である。ここにちょっとした店舗まで構えている商人もいるそうで。
基本はそちらに挑戦者たちは自分たちの得た金目の物を持ち込んで売り捌くのであろう。
もちろんここにそんなのが集まれば他にも商売をする者たちが自然と集合してしまう訳で。
飯屋はもとより、宿泊施設、服やら武具などを扱う店、その他にも試練場に潜るのに必要な雑貨を扱った店も。
挑戦者たちは殆どが男で構成されている様で、そんな者たちの中にはやはり性欲が旺盛な者たちも居る訳で。そう言った者をターゲットにした娼館もここにはある。
挑戦者たちは一々首都に戻らずともここで減った腹を満たし、直ぐに宿で疲れた体を癒し、ボロボロになった装備を買い替え、試練場から取って来た金目の物を売って生活を安定させる。
たまに三大欲求の一つを解消しに女を買う為に娼館へと向かい、そこで心のケアもする。
そう、此処には一つの小さな、とは言えない規模の町が出来上がっている。
「まあそう言ったのはラノベ読んでるとかなりそんな設定多いし、驚かないけどね。」
あるあるパターンには驚かない。この様な展開は普通に現実にも存在するからだ。
有名なのは「ゴールドラッシュ」だろうか?金鉱山である。
「この世界でも「ミスリル」やら「アダマンタイト」やら「オリハルコン」があるならワクワクはするけどね。」
独り言が漏れてしまう。俺は既にもう試練場に入っていてかれこれ五階層の突破目前であった。
一応はこの試練場は到達階層の一番深い所で九階層が最高らしいのだが。
ソレを俺は購入した簡易地図での最短コースでここまでの最速到達記録を更新している。
もちろん俺一人の力で、である。ここまでに三十分と掛かっていない。
「まあ出て来た試練獣ってのを出会い頭にずっと「ながら作業」で処理しつつ歩き続けていたらそうなるんだろうけどな。」
俺は倒した試練獣から得られるドロップを騎士団たちに回収を任せている全部。丸投げも丸投げだ。
それらを俺は一切拾う気は無かった。俺のここでの目的は金では無いから。
「まるでゲームみたいに倒した試練獣が光と消えてそこにアイテムが落ちてるんだもんな。まるで夢か幻でも見てるみたいだったよ。」
流石神様が作っていると言える場所である。出て来る試練獣は様々であるが、それらはドレを倒しても一つの漏れも無く倒せば光った後に消える。
その場に残るのは何故か意味不明な小石のみ。恐らくはこれは例のアレ「魔石」とか言った物なんだろうと言った予想はするが。
「恐らくはノーマルドロップなんだろうな。手強い敵からはもうちょっと大きなサイズが手に入るんだろうか?後はレアで珍しいアイテムか、もしくは素材?」
神様と言うよりかはゲーム制作者って感じだ。まるで試練場は大きな大きなリアルゲームの中である。
俺はそんな中をチートを使って最速ダッシュを決めている迷惑なチーターと、その製作者にそんな風に認識されていてもおかしくない。
だけども今の所、俺を排除するための「特殊個体」みたいなメタ張った試練獣が出てくるような気配も無い。
そんな事をつらつらと考えながら歩いていれば後ろから声が掛かった。マリから。
「タクマ!ちょっと待って!休憩をさせて!分かったから!分かったから!」
「ん?まあ良いけど?取り合えず挟み撃ちを貰うのは嫌だからどっか落ち着けそうな所にまで行ったらにしても?」
「うん、そうして欲しいな・・・有難う。」
何だかいつも元気溌剌なマリが少々お疲れに見える。どうしてなのかは俺のこの進行速度のせいなのだろう。
この試練場は通路が結構な高さ広さである。レンガで整えられており、戦闘をするのには狭いとも言わないが、お世辞にも広いとも言い難い微妙なものだ。何故だか明かりも無いのに視界良好な摩訶不思議親切設計。流石神様の試練場。暗闇怖いからありがたいです。
そんな所を俺は鼻歌交じりで魔法を「サーチアンドデストロイ」しながら歩き続けていた。もちろん使う魔法はウォーターガンである。
ずっとその調子で出て来る試練獣をパンパンと撃ち殺していく光景はドン引きものだ。
ここに至るまでに分かれ道にこれまで何度も遭遇してきたが、地図を頼りに進んで迷う事無くこの五階層まで来ている。休憩無しで。
そんな通路で今、曲がり角にて角待ちして奇襲を仕掛けようとしてきた試練獣「粘液体」は炎で燃やした。もちろん魔法の炎だ。
この試練場の中でも俺の魔法は発動できる様でその効果も抑制されていたりもしていないっぽい。散々ソレをずっと確かめていた。
最初にここに入った際に目の前に突進して来た巨大な猪みたいな試練獣をウォーターガン一発で仕留められた事で確信はしていたが。
「ファイアショット」
コレは食らった相手を「火だるまにして燃えあがらせ灰にする」と言う魔法である。えげつない。この試練場内でもその「ゲームの説明文」同様の効果が出る。
所謂「粘液体」はスライムだ。咄嗟に俺が放ったソレは命中。スライムを燃えあがらせて灰も残さずに消滅させた。
いや、蒸発?違う、コレは試練獣が「死」の判定を迎えると光となって消えるので死体は最初から残らないのだ。
スライムの消えた後にはやはり小石がコロンと落っこちていた。
この試練場でこれまでに遭遇した試練獣は俺の知っている生物を模した姿形が多く出て来ていた。
動物園に居るだろう種類はざっと存在するのでは?と言うくらいには種類が豊富。
その見た目は何処かしら俺の知っている物とは大小様々な差異があってやはり「ファンタジー」と言う現実を突きつけて来る見た目である。
「ここで良いか?と言うか、次の階に下る為の階段だな。」
「ああ、ここでなら安全だろう。階層間を通すこの階段には試練獣は何故か入って来ない。」
ここでホッとした声でジェーウは息を盛大に吐き出した。
他のメンバーも疲れたと言った様子でぐったりと階段の段差に腰を下ろして息を吐き出していた。
そんな中で紅一点、魔法使いであるのだろうアリーエが俺に質問をしてきた。やっと聞けると言った感じで。
「貴方の使う魔法はドレもコレも私の知ら無いものばかりだわ?これでも騎士団の中でも私、一・二を争う魔法の使い手なんだけど。その私が貴方の魔法を見抜け無いのよ。もし差し支えなければ教えてくれない?どんな術理、方法であればそんなバカげた威力の魔法を使えるの?」
俺はここで赤い流星の時とはシチュエーションが違うし、教えても良いかと思ったのだが。
「いや、それは秘密で。悪い男には秘密が付き物なんで。気にしない様にお願いしますよ。」
「何よその悪い男って・・・詐欺師か何かって事なの?貴方、一体何者?」
ここで全員が俺に対して視線を向けてきた。マリもだ。これに俺は「さあ?何者でしょうね?」と俺自身も本気で心の底からの言葉が漏れた。
これにどうやら「誤魔化されている」と判断したのかバリーダが俺を睨んで言う。
「おい、お前みたいな不審者と一緒にこれ以上潜れるかよ。正体を言わねーならここで俺が無理やりにでも吐かせてやるぞオラァ!どうなんだ?あぁ!?」
イラついている様でバリーダは俺に対して槍の穂先を向けてきやがった。これに俺は無理も無いと思ったとは言え、コレはやり過ぎだと判断して反撃して見せてやろうかと思ったその時。
「止めろ。」
バルツが物凄く渋く、低く、重い声でバリーダの行動を諫める。
これに直ぐに槍を下げたバリーダ。先程の俺へと向けていた怒りは即座に沈静している。
ここでポンスが口を開いた。
「バリーダ君は見ていただろう?あの動きを捉えて目で追えた者だけが彼への挑戦権を持つのだよ。しかし君は全然反応できていなかったよねぇ?私はソレをちゃんと横目で見ていたよ。自分の今の実力を誇るのも良いけれど、まだまだ上には上が居る事を自覚して嫉妬する前に自身を鍛える事をするべきだねぇ。この頃は訓練、サボっていただろう君?」
これに物凄い顰め面で顔を逸らすバリーダ。どうやらポンスには頭も上がらず、言い返せもしない様だ。どうやらこの騎士団の中ではバリーダはポンスの下に居ると言うのがこのやり取りで分る。
「さて、お前たち、休憩もここらで良いだろう。タクマ、また君のペースで進んで構わない。再開しよう。」
ジェーウがそんな事を言ったので騎士団メンバーは全員が立ち上がる。
どうやら俺への追求とバリーダへの注意はここまでの様だ。切り替えが早い。
しかしこうした気持ちの切り替えが早い事も集団と言うモノには重要で、そして大事な事だ。
何時までも切り替えが出来ずにおろおろとしている時間が長くなればなる程に命の危険が増大するなんて場面もあったりするだろう。
命を懸けた試練場での事なのだ。油断大敵もそうだが、全員の意思が一つの方向を向けない場面の方が寧ろ命とりになるなんて事もあるはずだ。
時間との戦い、或いはいつまでもマイナスな気持ちを引きずって、などと言う場面では断ち切る、決断する事も戦いであるはずだ。
(俺にはそんな命を懸けた戦い何て経験無いからなぁ・・・緊張感、緊張感ねぇ?精々対戦ゲームを遊んだ事くらいだ)
ゲームなどはプロスポーツ化されて「プロゲーマー」などと言うモノが存在していた。
彼らは常に対戦で緊張感と技術力と戦略と空間把握能力と判断力と決断力と瞬間把握能力と瞬発力と情報収集能力と反射神経とエトセトラエトセトラ・・・を求められていた。
(いや、コレ考えたら物凄い事だな?そりゃ大金が動くよな。こんなの普通に求められて「ハイ、結果」って言って好成績納められるモノじゃ無いしな)
ゲームなのだし気楽に遊んでいられる一般人の方が寧ろ幸せなのでは?と思える位の要求量を求められているプロに対して気の毒さを少々覚えるが。
しかしそんなのはどんな競技であろうが求められるモノは何処も一緒なのだろうからプロゲーマーだけの話では無い事に行きついてこれ以上の事を考えるのをやめた。
寧ろプロゲーマーで大金稼いで人生と言う苦行を「一抜け」出来たら一発逆転、などと甘い考えが浮かんできて「バカな話だ」と俺には到底無理だと言う自覚で一つ溜息を吐いてコレを完全に頭の中から追い出す。
結局は今の状況に命の危険も緊張感も俺には感じられない。何せこの身体はチート仕様である。どんな敵が出て来ても負けるイメージが湧かなかった。
いや、俺がゲームを遊んでいた際には別にチートなどでは無く、そのルール内での追及した「最高値」であるだけで。
そしてそこに辿り着くまでに費やした莫大な時間がある。別にズルをしている訳では無かった。
(だからって言ってその「行きつく所まで行きついた」をこの世界で再現したら、そりゃチートですから、ね?神様?)
六階層に降りて直ぐに目の前から走って来る大型の鹿・・・鹿?それにしては目が真っ赤で口から剥き出しの牙がギラリと光っておっかない試練獣を剣で正面から真っ二つに切り裂いて俺は六階層攻略の足を進めた。