★★★決定、潜ります★★★
食事をしながらマリから試練場の話を聞いておく。この試練場の攻略が俺の望みを叶えてくれるかもしれないからだ。
情報は大事だ。そしてここでは俺のイメージしている迷宮とか、ダンジョンとか言われる良くあるファンタジー物の設定と近い物なのか、遠い物なのか、そこら辺の確認もある。
「各国に最低一つはあるよ。自然の中に隠れた秘されている見つかっていない試練場なども存在するかもしれない。そして発見され、管理されている試練場では、まだ一つも最下層に到達したと言う報告は無いね。教会騎士は最下層を目指す、って言う名目で作られてはいるし、最初の頃はちゃんとその目的に向かって活動をしていたらしいけど。今では教会の資金を獲得する為の集団になっているね。それでも長年の活動で実力も教会としての権力もあって一部では横暴をしている隊もあると聞くよ。」
「ふーん、腐ったか、或いは時間が変えちまった、って感じか?今もまだ本気で最下層を目指している教会騎士団は居るのか?」
「そうだねー、確か第二と第五がそうだったんじゃないかな?でも伸び悩んでもう十年は経っているね、聞くところによれば。」
「試練場は何階層まであるんだ?ざっと言って攻略されている階層の一番深いのは幾つで、浅いのは幾つだ?」
「平均を聞きたいのかい?うーん?到達階層とは言っても一番試練の優しい所で深くて三十が今の限界だね。試練の厳しい難度の高い所で未だ十二階が一番浅いかな?そもそも一つ一つの試練場の深さが全てそれぞれ百階層あると言われているからね。ずっと攻略が進んでいないと言えるよ、ここ百年以上は。」
「全くダメじゃん。それってやっぱり出て来る敵が手強いからか?それとも試練場内部が意地の悪い構造になってるとか?って言うか、攻略し易いかそうで無いかを難度って言い方で表現してるのか。」
「そうだね。試練場の中に出て来る行く手を阻む敵は「試練獣」と言われるね。それらを突破して次階層に繋がる場所を目指すのが基本。もちろん難度の高い試練場は出て来る「試練獣」も強力だよ。キリの良い数の階層にはその主が居て、これがまた一筋縄ではいかない曲者でね。突破は困難を極めるからなかなか先に進めずに立ち往生、通せんぼされていると聞くよ。」
「ほほーう、大体の事は分ったな。それで、階層間を転送できる魔法陣とかは?」
「魔法陣?何だいそれは?・・・ああ、聞いた事はあるなぁ。確か、隠された部屋にどうやら地上と試練場を繋ぐ特別なモノがあると言う事だったかな?床が光るといつの間にか試練場の側の地上に移動していると言った事だったはずだ。今発見されている試練場の全ての中でこれまでで三つ確認されているね。地上から試練場の中に移動すると言った物は一つだけだったかな確か。それも五階層の入り口にまでしか移動できないと聞いた覚えがあるよ。試練場入り口近くの神殿の様な建築物の中にソレが有るって話だったかな?」
「一般人が試練場に入れるようになるにはどんな方法がある?」
「うーん、試練場は国が管理しているんだ。そして試練場専門で潜って稼ぐ者たちを束ね管理する挑戦者ギルドと言うのがあってね。傭兵組合とはその中身が似ている様で結構違うんだよねぇ。」
「俺はそれに加入しないでも試練場には入れるって事で良いのか?」
「その証明証を持っていれば大丈夫だよ。ただそれを父上が返却するように言ってきたらちゃんとタクマ、返してね?そうなったら私が個人で別の証明証を出してあげるよ。そうすれば挑戦者ギルドに加入しないでも大丈夫になるから。」
「借りを作る気は無いから安心しろ。そんときゃ挑戦者ギルドってのにちゃんと入って許可を得られるようにするさ。」
「えー?友達だろう?私に頼ってくれても良いんだよ?」
「裏が二つも三つもありそうでヤダ。」
「そんなの無いのにー、もう。」
俺のこの否定に膨れっ面をするマリは別にそこまで機嫌が悪くなっている訳じゃ無い。寧ろ俺とこれ程に会話を続けた事に上機嫌である。
何でこれ程に俺はマリに好かれているのか本当に分からない。理解に苦しむレベルだ。
食事が終わって再び図書館へ。そこで今度調べるのは試練場の事である。
一般的な情報も、ちょっと眉唾な情報も、取り合えずどんな事でも良いから試練場の知識をこれでもかと俺の頭の中に入れていく。
文字を読む練習にもなるので俺はそこで集中力を「ここだ!」と言わんばかりに高める。
何せファンタジーで、ダンジョンだ。これに興味を抱かないラノベ好きは居ないだろう。
そのおかげでスイスイと文字は覚える事に成功したし、目的の為に試練場に潜らねばならないと言う事も分かった。
「よしよし、ここに書かれてる「伝説」が本当なら俺の目指すのは試練場をどれでも良いから十個完全攻略って事だよな?ならイケるか?」
「完全攻略だなんてタクマ、それは困難中の困難じゃ無いか。できるとは思えないよ?だって・・・」
そう、俺が手にして読み始めた本によると、どうにも完全攻略とはゲーム的に言うなれば「マップ100%埋め」「宝箱全取得」「隠し部屋全開放」と言うやり込み要素であるからして。
「いや、でもそれをやらないと意味無いっぽい事が書かれてるしなー。・・・あ、いや、でも言ってたよな?試練場最下層に到達した奴いないって。は?じゃあこれに書かれてる事って全部デタラメか?・・・真面目に調べようとし過ぎて失念してた!これまでの時間を返せ!」
全く信用ならない本を一生懸命読みふけっていた俺は無駄な労力を掛けさせられた事に怒りで叫ぶが、コレをぶつけられる相手が居ない。
しかも文字が読める様になっているだけに全部が全部無駄では無い事で俺は「うーん!この!」と唸るしか無かった。
そもそも問題は生身で試練場を攻略だ。ゲームを遊んでいるのでは無い。試練場にずっと潜り続けて生活していく覚悟が必要になる。水に食糧に排泄に武器の手入れや衛生面も考えるべき問題であり、それらが山積みであるからして。精神面にも影響が出て来そうだ。
それこそゲームのRPGであろうとも「完全攻略!」などと言ったら結構な時間を要する事となるのは目に見えている事で。大作ものだとその中身のボリュームが膨大だったりして「百時間以上」とかあり得るのだ。
ソレをこうして現実で、生身でやろうとすればゲームを遊ぶのとは訳が違う訳で。只の無謀だ。無茶であり、困難を極めに極める事だろう。
それこそどれだけ試練場の一つの階層が広いか知らないが、それを攻略するのに完全などと付ければ数年は余裕で掛かる計算になりそうである。下手をすれば十年を超えるのではないだろうか?
それこそ今到達している最下層が30?それ以上の進展がずっと無いと教わったのだ。それを完全攻略などと言えば頭がおかしいと言われてもおかしくない事である。
と言うか、それを十個?それは流石に頭おかしい。どう考えても俺が神様と会う事ができる様になるのはヨボヨボな老人になった頃になってしまう。それまで俺が御長寿であればの話であるこれも。
それこそ「安心して!ファミツーの攻略本だよ!」などと言うモノがあっても攻略速度は上がるかどうかも分からない。
「・・・あー、そっか。だからめちゃ糞チートなアイテムが試練場から出て来るのか。長寿薬やら霊薬も万能薬も、試練場を攻略するための物であって、うっぱらって金にする物じゃ無いんだな本来だったら。」
腑に落ちる事があった。試練場から得られる全ての物は、試練場を攻略するための物であるのだと。
教会はそう言ったゲットしたアイテムや武具や道具を売って運営資金に充てているとか言うが、それは攻略を真面目に考えたら悪手な訳だ。そりゃ攻略も行き詰ると言うモノである。
そしてここで俺の事も振り返る。真っすぐに試練場の最下層を目指すだけであればこの過剰スペックの身体なら簡単にできそうだ、と。
「よし、先ずは実際に試練場に入って見てからだな。俺一人で何処までイケるかサクッとお試しと行こうか。・・・で、マリ、ここで一番近い試練場って、何処?」
「ふふふ、それを教えるには条件があるなぁ。私もそれに同行させて欲しい。良いだろう?」
「え?それ普通にダメじゃね?当然拒否するけど、そもそも当主様が許さんでしょ、ソレ。」
侯爵令嬢が試練場に入るとかバカ言ってんじゃねーって感じだろうか?
危険な場所と承知で娘をそんな場所に向かわせる親は居ないだろう。
「うん、これが親の心、子知らず、と言うモノか。それにお前に教えて貰え無くても情報は他の誰かに聞けば良いだけだしな。」
「父上の説得はちゃんとするから!私も一緒に連れて行ってよタクマ!」
「お前に何かあったら俺が責任取れる訳が無いんだよ。付いて来たお宅の娘さんに一生モノの傷が付きました。勝手について来てるだけで俺には関係ありません、責任持てません、じゃあ話にならんだろうが。そんな事になったら侯爵家の名誉にも関わるだろ。アホ言うなって。何を言っても当主様がこれに許可出すはず無いだろ?お荷物背負う気は俺には無いぞ?俺、只の一般人ぞ?おぬし、貴族ぞ?俺が貴族の子守するとか、それは違うだろ。」
俺の言葉にどうやら認める所があるのかマリは「むぅぅぅ~!」と顔をゆがめて少々唸る。
だけどもここで俺に何を言ってもダメだと切り替えたのか直ぐに表情は元に戻る。
こうして図書館での調べ物は用が済んだと言える収穫はあった。俺が「神様」ってやつに会って話を聞こうとするならば「試練場」をクリアして、クリアして、クリアしまくらねばならないと。
まあこれで本当に会えるかどうかは分からないのだが、やって達成してみなければ結果は分からないのだ。
であるならば他に別案も見つからなさそうなのでコレを先ずはやってみれば良い。
ソレでダメならその時にまた新しい方法を探せば良いのである。
で、屋敷に戻って来てみればそこには当主様もどうやら戻って来ていて。そこにすぐさまマリは訴えに行く。
「父上、試練場にタクマと共に潜りたく。許可を頂けませんか?」
俺はこれに当主様は当然このマリの求めを切って捨てるものだと思っていた。いたのに。
「うむ、許可する。」
「は?」
俺はこの時に内心で「何言ってんだこのオッサン!」と盛大に叫んでいた。
「有難うございます父上。」
マリはこれに喜んでいるのだろうけれども、それを抑え込んでいるのかその表面上は冷静を保っている。
「だが条件がある。これを守れなければ許可は出さん。」
当主様がここで追加発表だ。これにはマリが緊張する。何を言われるのかを予測できない様だ。
「って言うか勝手に決めんな!俺は一人で試練場に入ろうと思ってるのに!」
「国の騎士団と共に行動せよ。これが条件だ。騎士の命に従い動け。」
「あんたら親子揃って人の話聞かねぇな!オイ!」