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★★★あまり歓迎されているとは言えない★★★

「色々と聞いておきたい事はあるが、これで私は失礼する。村長、戻ります。」


「うむ、すまんな。ではレーナ、取り敢えず・・・その方を倉庫の方に連れて行ってあげなさい。そこでソレを下ろして貰うとしよう。話は、それからだな。その後は私の家に。」


 青年はサッとこの場を去り、直ぐに遠くへ。その代わりに話し出したのは四十後半から五十台半ばと言った感じのオッサンだった。どうにもこの人が村長らしい。

 茶色い髪を短くしており、その目は少々垂れ目気味といった感じ。見た目だけで判断はしてはいけないものだが、どうにも人は良さそうに見える。


 話よりも先に確かに俺は今このウルフをどうにかしたいのでさっさと倉庫に連れて行って欲しい。

 レーナが村長の言葉に「はい」と言って歩き始めるのでソレに俺は付いて行く。

 そうするとそんなに時間も掛からずに掘っ立て小屋の様な建物に到着。そこでは一人の老婆が休憩を取っていた。そしてレーナを見て。


「おや、レーナや。無事だったかい。良かったねぇ。うん、ソレで・・・どうやら仕事をわんさかと持って来てくれたみたいじゃ無いか。さて、久しぶりに腕がなるねぇ。」


 どうやらこの婆さんが解体をしてくれるらしい。しかし俺と、この持っていたウルフの塊を見てそこまで精神の動揺を見せないこの婆さんはどうにもこれが「肝っ玉」と言うヤツなのだろうか。


 俺は無言でウルフを地面に置いた。レーナはここで婆さんに「では」とだけ言って会釈をしてまた来た道を戻る。これに俺は付いて行く。次は村長の家に行くんだろう。

 婆さんは俺を視界に入れてはいたし、認識もしていた様だが、一言も声を掛けてこなかった。


「ああ、それにしてもあのオッサンもそんなに動揺して無かったなぁ。ここの住民って皆あんななのか?いや、違うか。明らかに俺を見てオッタマゲてる人もいたしな。」


 俺のこの言葉にレーナはチラッとこちらを振り向ていくるだけ。どうやら雑談はする気は無いらしい。

 ゆっくりと落ち着ける場所で話をしよう、そう言った俺の言葉をあくまでも守るつもりだろうか。


 そして到着したのはそこそこ大き目に作られた家。どうやらここがあのオッサンの家なんだろう。

 その家のドアを二度ノックしてレーナは「失礼します」と言って中に入って行く。ソレに連なって俺も家の中へと入らせて貰う。そこに村長が。


「空いている椅子に好きに座ってくれ。・・・さて、レーナ。村での事情を先ずは説明しよう。」


 村長がいきなり話始めてしまった。俺の事など一切無視したかのように。

 俺はこれに「え?俺の事認識できてないの?」と思ってしまったのだが、そうであれば倉庫にウルフを置いて来させろとレーナに言わないだろう。


 で、その村長の話はこの村の付近に流れ者がどうやら纏まった人数やって来たと言う緊急連絡があった事だった。

 それとすれ違いでレーナが森に入って行ってしまったと。

 で、その流れ者たちがどんな奴かと言った部分を詳しく情報を持って来た連絡員に聞いてみたら人攫いの可能性が高いと。


「お前がもしかしたら攫われるかもしれないと村では軽くそれで騒ぎになってな。無事に帰って来て心底ほっとした。・・・それで、レーナ、そちらは、どうなんだ?」


 俺へと視線を向けて村長はレーナに経緯を説明する様に求めた。どうやら俺の事を村長は流れ者の仲間なのではと疑っている模様である。


 そしてレーナから語られた内容はやはり俺が予想した通りの流れだった。

 山菜採りに行く。途中で男たちに遭遇。追いかけ回される。逃げたけどとうとう捕まりそうになる。俺に助けられる。である。


 しかしここまでレーナが説明したのに村長はまだ俺に鋭い視線を送って来ていた。


「え?今の流れで何で俺への疑いが晴れないの?え?ここは「助けていただきありがとうございます」って態度が軟化する所じゃね?」


 ツッコミを入れてみても村長はだんまり。ずっと俺に対して難しい顔を向けてきているまま。


「・・・どうすりゃ良いのよ?次は俺から事情を説明すれば疑いは晴れるの?と言うか、これから俺ってこの空気感でこっちの世界の人にはこれっぽっちも馴染みの無い突拍子も無い話をしなきゃいけないって?」


 お笑い芸人が今この場に現れて笑いで空気をあっためてくれないモノだろうか?

 しかしそんな事を望んだとしてもそんな展開になる可能性はゼロだろう。


「はぁ~。じゃあ、自己紹介からすればいいですかね?俺はタクマって言う。何て言うの?異世界人だよ。言ってもお宅らは説明しないと分からんだろ?こんな単語。一応レーナにも言っておいたけどさ。俺は危害を加えようって気は無いから、この村に。まあ言葉を口にしてみても信用ならないだろうけどさ。」


 半ば投げヤリで俺は自身の紹介をし始めた。


「気付いたら森の中。悲鳴が聞こえた。助けに向かった。人攫いどもは俺がぶっ殺した。レーナ助けた。その後ウルフが来てそれらは全部俺がヤッた。ゆっくりと腰を落ち着けたかったからレーナにその場所に連れて行ってくれと頼んだ。んで今ここ。ざっくりな説明し過ぎたかい?でもなぁ。流れとしてはこれ以上は無いぞ?」


 俺の中での葛藤などは此処では語る必要は一切無い。なので誰かにこの愚痴を聞いて貰いたい、と言った気持ちを我慢だ今は。


 村長はこの俺の話でレーナに視線を向ける。コレを受けてレーナが軽く頷いた。


「・・・本当です。私は助けられました。この方に。危ない所でした。」


「・・・すまないな。ここの様な辺境では警戒はし過ぎても足りない位でね。どうにも今回の様に悪党に狙われればあっと言う間に消え去ってしまう規模の村なんだ。疑ってしまったのは謝罪させてくれ。申し訳無い。」


 頭を下げる村長はようやっとここで俺への警戒心も下げてくれた。そこに俺は質問を飛ばす。


「なあ、異世界転移って知ってる?もしくはこの世界にそう言うのあるって聞いた事は?」


「・・・なんですか、それは?」


「異世界召喚、異世界転生、チート、魔法、勇者、魔王・・・魔術?魔力とかは?」


「はぁ、魔法は、その、私も薪に火をつける位のものは使えますが?それ以外は聞いた事は無いですね。」


「よーし、よしよし!俺ってば魔法を使える可能性大!・・・いや、ヤバいな。迂闊に使えないぞ絶対ソレ。うーん、良し、忘れよう一旦それは!なあ?俺は要するに、この世界の住人じゃ無いんだよ、分かる?だからさ、こっちの世界の常識ってのを知らんのよ。手っ取り早くそこら辺教えてくんね?」


 この俺の求めにまた村長は、と言うか、レーナも訝し気な目に変わった。

 まさに「コイツ何言ってんだ?」な目である。だけども直ぐにレーナの方はその目を引っ込めた。


「あの、あなたは一体今何語で話しているのですか?」


 レーナからの質問だコレは。村長はこれにクエスチョンマークが頭から浮かんでいる様子である。


「日本語だ。俺の元々住んでた世界の一つの国で使われてる言語。そこからいきなりここにパッと原因分からず攫われたのよ。日本語しか喋って無いけど、意味は通じてんだろ?多分コレはチートな訳よ。分かる?チート?俺もそっちの言葉は口の動きだけ見てもサッパリなのに聞こえてくるのは日本語な訳。意思疎通できるの便利だけど、こんなのどう言う理屈なのかは分かるはず無いじゃん?」


「解りません。分かりませんが、わかりました。今重要なのはその事では無いって事ですよね?」


「そうそう、そう言う事よ。うーん?ここって辺境の田舎の村なんだったっけ?なら俺の知りたい知識やら何やらは此処には皆無っぽいね。いや、都市に行ったとしても得られるとは限らねーか。元の世界に戻れる確率がこれで一層下がったな。どうすんべ?」


 お気楽なモノである。こうして困ってはいるが、しかしどうにも本気じゃない。

 俺は未だに夢を見ている気分みたいな感じである。危機感、と言ったモノが足りていないから多分こうなっている。

 人攫いを殺した時、ウルフを始末した時、俺はちっとも自分の命の危険を感じなかった。多分コレが原因だ。


「俺は強いからさ、この村の用心棒として雇ってくれない?ああ、森に入って肉を狩る仕事もしても良いかな?暫くの間、この村で色々と学ばせて欲しいのよ。」


 先ずは生活基盤の安定を目指してみる。気を急いて国の首都に行って調べ物をバンバンするってのは俺の性格に合わない。

 他にもこの世界にラノベあるあるな冒険者ギルドとかがあればソレに加入してみるのも良いかもしれないのだが。


(そうなると絶対にテンプレ連続オレツエエエ物語になるに決まってるじゃんね?この体のスペックならさ)


 既にそう考えたら俺の脳内でプロットが即座に出来上がっていた。

 テンプレに次ぐテンプレで俺が最強、英雄、ハーレムの階段を駆け昇る光景が目に浮かんでくる。アレ?俺またなんかやっちゃいました?である。

 それもソレで悪くは無いと思えるが、自分でソレを想像しておきながらドン引きしたので有り得ない選択肢として封印する。


 ここでこれまで黙っていた村長が口を開いた。


「レーナ、お前の所で面倒を見てやりなさい。」


 しかし出た言葉はたったコレだけ。レーナも「はい・・・」とちょっと暗い感じでの返事であり、これで俺が余りにも歓迎されていない事は良く分る。

 こうして村長宅を出てレーナの後に付いて行く。これから俺はこの村で一から勉強である。


(面倒だけど、それもしょうがないよな。町に行ったり、都市に行ったりした際に「何も分かって無い異世界人」よりかは「もの知らずな田舎者」で通る位にはしておいた方が無難だろうし?)


 この世界の常識が全く通じ無い存在が都市やら町やらでアレもコレもと他人に迷惑を掛けるよりも。

 村での常識程度は知っている、都会に出た事が無い田舎者として扱われると言った流れの方が面倒が少なく済ませられるだろう。

 将来の面倒か、或いは今勉強する面倒か、どちらを選択するかと言えば「今でしょ!」で決まりである。


(ソレにそもそも、どうして俺がドラドラ主人公になってこの世界に異世界転移して来たのかサッパリ理由が分らん内は派手に動かない方が無難だろ)


 絶対に何かしらの思惑が組み込まれていると見て良い。じゃ無けりゃこのキャラクターにする意味は無い。俺が育て上げた状態になっているのもおかしいのだ。あからさまに「カンスト」過ぎる。

 そして俺をこんな目に遭わせたのは要するに人には理解する事などできない「超越存在」の影。雑に言えば「神」とやらの仕業だってくらいは解る。


 そんな事を考えていたら解体の婆さんの居た小屋の前まで来た。そこで。


「おや、話は済んだかい?ならそこのお前さんに手伝って欲しいんだがねぇ?アンタが持ち込んだんだ。自分で解体するのが筋だろう?」


「あー、うん、確かにね。教えて貰って良い?俺、やった事無いからさぁ。もう解体した数匹分は寄付、教育代って事で納めてよ。後の残りは俺が自力でやるけど、その都度に指示出しとかダメ出しとか宜しく、ばあちゃん。」


 結構ないきなり具合だと思うのだが、俺にはありがたい話だったのでコレを受ける。


「レーナや、お前さんも手伝っておくれ。」


 こうして俺とレーナは婆さんの手伝いをする事になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この主人公の言動ならこの村に限らずどこでだって厄介者扱いされると思うんだけどなぁ…
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