★★★早く終わらせられたならソレで良いじゃない★★★
(いやー、早速使い易そうな魔法が見つかって良かった。何でもっと早くコレを試さなかったのかね?)
ウォーターガンを連発すれば悪魔を狩る男のスタイリッシュ・ハードアクション並みにトリガーハッピーできてしまうのか?と下らない事を考えてしまった。
(そう言えばショットガンに似た効果の攻撃魔法も在ったよなぁ。今度はそっちを使ってみるか?)
ここで俺はその考えを止めた。その効果が想像できないからだ。
威力は?範囲は?それらの事が分から無い。こんな町中で無責任にぶっ放すのはやってはいけないだろう。
実験するなら何も無い荒野で、そして頑丈な巨岩に対して先ずは撃ち込んでその効果を確かめて見るべきである。
うっかりとそんな散弾を使って威力が想像以上だった場合は事故が起きかねない。
俺の覚えているドラドラクエストの魔法の説明文をそのまま鵜呑みにして信じて放つなんて事は絶対にしてはいけない事である。重大事故に繋がるのが既に目に見えている。
(魔法の説明文が過激な表現の言葉を使っていたのは地味なゲーム性やらを少しでも補う為だったのかなぁ・・・?それは無いか)
俺は自分で思った事を即座に否定した。何せ付けた魔法名がクソダサい開発関係者に信用が無いからである。
だからと言って「チュウニビョウゼンカイ」みたいな魔法名で無かっただけマシだと思う事とする。
そうしてついたのは巨大な倉庫。見事に表現的に「小学校の体育館」と言った大きさ。
ここはマキスの説明ではどうやら何かあった時の為の避難場所でもあるらしいのだが。戦争が起きた時は食糧倉庫やら武器庫やら資材倉庫などになるらしいのだが。
今は「赤い流星」が占領してしまっている危険な場所であると言う。
「・・・全員殺してしまっても構わんのだろう?」
この世界でこのボケは通用しない。マキスはこの俺のセリフにドン引きして「・・・あぁ」と答えるだけ。
俺が最初にボロ屋敷でやった光景をフラッシュバックしたんだろう。マキスの顔は蒼褪めていた。
取り合えずこの倉庫は壊しちゃダメらしいので今回も「グラビティプレス」の効果範囲がどれくらい大きくできるのかの実験は持ち越しとなる。
(まあこんだけデカい建物を魔法一つでぺしゃんこに出来ちゃったら俺がもうその時点でその魔法を使うのを封印するけどね)
そんな事を思いながら倉庫の扉を少しだけ開いて中を確認してみた。すると奴らはどうにも宴でも開いていたのかどんちゃん騒ぎをしていた。
「うわ・・・入口に見張りの一つも立てないのかよと思えば中はこれかよ・・・のんき過ぎないか?赤い流星さん?」
俺はここでちょっとカチンと来た。俺はこれまでこの状態になってから、これ程に陽気に、のんきに、楽しい時間を過ごした覚えは無い。
だから、何でこんな奴らが俺の命を狙ってる癖にこんな笑って、騒いで、楽しくやってるんだよ、と怒りを覚える。
そして理解した。暴力組織なのであるからして、いきなり襲撃を食らったとしても反撃で相手を返り討ちにする自信の表れなのだろうと。
「なあ?マキス?この組織の構成員は全員が漏れ無く重犯罪者か?」
「何を今さら。ここに居る者たちは最低でも三人は何の罪も無い者を傷つけ、殺しているぞ?」
「それは調査した上での事実?」
「以前から赤い流星にはずっと警戒をして監視を付けている。それを怠った事は無い。その構成員一人一人の調査も済んでいるし、新しく加入する者に対しての調査も必ず行っていた。これに間違いは無い。全員が刑を与えるならば死罪か、死ぬまで鉱山奴隷だ。しかも奴隷の場合は使い捨ての、苦しみ抜いた挙句の死を与えるやつだ。」
「なら良いか。」
良心の呵責を覚えずに済みそうである。なので俺は暴れる事にした。
どうせならウォーターガン連射で何処までやれるのかを実験はしておきたかったのだ。
暴れるにあたり、広さも相手の人数も申し分無いくらいにある。ならばやってやるのだ。
こいつらが残っていると後で「報復」とでも言って俺を襲ってくる可能性を残す事にもなりかねない。
ならば徹底的に潰すのだ。禍根も遺恨も残さずに綺麗に平らげないと俺の平穏は訪れないのならやるしかないだろう。
(だけどなぁ。魔法名を意思を込めて言わないと発動しない、とかだと嫌だなぁ。試した事無いからなぁ。連呼しないとダメとか?超メンドイんだけど)
あの地下の管理人室での三人の時にはしっかりと魔法名を撃った回数分口に出している。
しかしここには六十名は超える奴らが居るのだ。それだけの数を魔法連呼するのは結構キツイ。
逐一魔法名を口にしないと発動しないとなると咄嗟の時に間に合わない、と言った感じにもなりかねない。
意識一つで発動できる様な、或いは「無詠唱」とでも言えば良いだろうか?実験してきていなかったのでソレを此処で試す良い機会だ。
「できる様になってるのかな、この身体はソレを。まあ、試してみるだけだな。どれ・・・お?やっぱ出ないか・・・じゃあちょっと思いついたパターンは・・・あ、できた。」
やはり無詠唱はできなかったのだが。一度魔法名を口にして発動させた後に脳内で「バン」と意思を込めてみただけで二発目が出た。これは成功したと言えると思えた。
「なら、両手でやるかね?できるかな?そら、ウォーターガン。」
その後は脳内で「バン」を連発。それに合わせて俺の立てた人差し指両方から水の弾丸が連発して飛んでいく。気分は二丁拳銃で連発である。
それを食らってバタバタと倒れていく宴中だった男たち。まだ生きている者たちが何事かと気づいた時にはもう遅い。
そいつらも即座に魔法を食らって屍の仲間入りである。それだけの速度で魔法を連発できてる時点で俺の脳内がハッピーになりかけていた。
「おっと!・・・ふー、ちょっと自制を効かせながらじゃ無いと余計にばら撒いちゃうな。無駄撃ちは御法度ですよ。・・・俺は自分の持つⅯPが減ってる感覚が分らんからなぁ。冷静にならねーと。それとその内にMP切れた時の状態がどうなるのかとかも調べないといけないなぁ。」
気を引き締め直した時にはもうここに居た者たちは物言わぬ死体と成り果てている。
しかし俺はここで油断はしない。死んだふりをしている者が居ないかどうかの確認も怠らない。何せこういった状態ではそんな姑息な方法で生き延びる、などと言ったパターンは幾らでも読み、見て来た。もちろんラノベやら漫画やらで。
「外見に血が無いヤツ、何処にも穴が開いて無い奴に「頭二発、心臓二発」だよね、やっぱ。確実に止めを刺すの、大事。」
そんな事をして倉庫内を歩き回って死体撃ちをして確認していたらやはり居た。死んだふりした奴が。
「・・・ひ、ひ、ひ、ひええええええええ!お助けえええええ!」
引き攣った小声が聞こえたと思って俺がそちらに意識を向けた時にはそいつがビョーン!と勢い良く立ち上がって倉庫の出口に向かって走っていく所だった。
「・・・あ。マキス。」
そいつは俺にでは無くマキスに殺される運命だったらしい。出口にいつの間にか立っていたマキスを見て俺は逃げる男に魔法を放つのを止めた。
出口に控えていたマキスが懐からナイフを自然な動きで取り出していたからだ。
「どどどどど!そこをどけえええええ!」
逃げようとした男は剣も抜かずにマキスに突撃していく。どうやらその勢いのままにマキスを突破して此処から出て行こうとしたらしい。
だけどそんな判断は甘かった様だ。その男がマキスと一瞬の交錯をした後に倒れた。首から盛大に血飛沫を上げながら。
「あー、お見事?」
「・・・こんな光景を作り出せる男の口から見事だって?嫌味かそれは。しかも疑問形をヤメロ。」
「いや、普通に称賛してるんだけど。と言うか、こんな時はそう言っとけば良いのかなって?」
「出した結果と中身が釣り合わ無いチグハグなヤツめ・・・これ程の事が出来る強さを持ちながら何故その名をこれまで耳に入れた事が無かったのか・・・」
「うーん?説明が難しいから、まあ、世界は広い、って事で納得しておいてくれ今は。」
そんな事を言った俺をマキスは呆れた様な、或いは嫌いな奴でも見るかの様な顔で睨んでくる。
「もうここは良いだろう。次に行くぞ。」
この場を直ぐにでも離れたいと言わんばかりに早足で次の目的地へと行ってしまうマキスを慌てて俺は追っていく。
(俺はそこまで機嫌を悪くする様な事を言ってるか?うーん?分らん)
マキスが何故だかドンドンと機嫌を悪くしていっている様に見えた。そこに突っ込むのは空気が読めない奴と思われてしまって余計に機嫌を損ねそうなので何も聞かないでおく事にする。
そうして案内された場所に居た者たちを俺は次、また次とブッコロして行ったら夕方前に全てが片付いた。
連れていかれた残った拠点と言うのは偽装された家だと言う事だったのだが、その四軒はサクッと何事も無く終わらせている。中に入って剣で、ウォーターガンで。
特に特筆するべき事も無くスムーズにつつがなく終了である。これにて一件落着。
「・・・計画では五日間を掛けて奴らを逃がさぬように包囲を狭めつつ殲滅していく予定だったのに?」
マキスはどうやら終わり良ければ全て良し、とは言いたく無いといった心情らしい。でも終わってしまった事はしょうがない。諦めるべきである。
(何だろうか?ボス戦、みたいなのが無かったなぁ。・・・あ、あの女侍らせてたハゲがやっぱりボスだった?)
全部終わってから振り返ってみて分る事もある。じゃあだったらマキスは俺が質問したあの時に教えてくれれば良かったのにな?などと考えてしまうが。
「うーん!今日はゆっくりと眠れそうだな。明日には図書館で調べものして一日を使うとして。さて、帰ろう。腹減ったわー。」
朝食を食べた後はここまでぶっ通しでやった。昼を食っていない。なので俺は今猛烈に、とまでは言わないが結構腹が減っている。
これにマキスから「のんきな事を・・・」と小声で言われたがそれは無視しておいた。
「あ、帰り道分からないし、屋敷まで案内してくれないと迷子になるから俺。ほら?良く言うだろ?遠足は家に帰るまでが遠足です、って。」
「お前は何をふざけた事を・・・ちっ!まあいい。」
「え?舌打ちされるのって酷くない?俺別になんか余計な事言って無いよな?え?俺どっかで何かやっちゃってました?」
これに「何処までもふざけた奴だ」と言われたのが微妙にショックでその後は黙って俺は大人しくマキスの後について行って帰館を果たした。
そこで待ち受けていたのは。
「タクマ!どうだったの!?早速話を聞かせて!付いて行くのを父上に禁止されていたから大人しく待っていたけど。こうして無事にタクマが戻って来てくれて私は非常に嬉しいよ!」
侯爵代理様の満面の笑みだった。