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★★★毎度に違う結果が出るのと、過剰なる杓子定規はどちらがマシか?★★★

「いや、ホントにマジで来るなよ。ホイホイと釣られやがって。ホント、狂犬か?即フラグ回収とか、お前ら優秀だな。」


 俺は餌だ。このだだっ広い侯爵家別邸の庭のど真ん中で座って待っていた。

 刺客、暗殺者が送られてくるのであれば屋敷の中に居ずともこうして庭で迎撃すれば良い話である。

 なので俺はこうして庭でいつ来るかも知れない「赤い流星」を待ち伏せていたのだが。


「俺を標的にしてるの確定だな。十五人もの黒づくめの招かれざる客が居っらっしゃったわー。」


 警備に一か所穴をあけて他を厳重にして不法侵入者を誘導。まんまと俺の正面にやって来る様に調整してある。

 そして掛かった獲物は俺を視界に入れるや否や散開して直ぐに俺を包囲して来た。屋敷の中へと侵入をしようと動こうとする気配が一切感じられない。

 狙われているのは確実に俺の命だけである。


「昼間の件をやったのは貴様だな?・・・殺す!貴様はズタボロにして殺してやる!」


 殺意満々なこの言葉を俺にぶつけて来たのはどうやらこの刺客どものリーダーであろう。一人だけ武器をその手にせずにじっと俺を睨みつけて来ていた。拳は強く握りしめられている。

 他の奴らは既にその手にそれぞれ得意なのであろう武器を手にしていた。

 覆面で顔を隠してその目だけが俺に集中してきていている。そのどれもが鋭くこちらを射抜く視線である。

 こちらの一挙手一投足を絶対に見逃さないと言った感じだ。まあそれが普通だろう。何せ俺を囲っている刺客の数は昼間の街道を通せんぼしていた「赤い流星」の数の半分しかいない。

 情報をしっかりと仕入れていたのならば、俺一人で三十はいた奴らが殺された事は既に知っているはずだ。油断できるハズが無い。


「組織の構成員の数が一気にこれで減った。貴様は生かしては置けん。・・・排除する。」


 リーダー男の最後の一言の声音は物凄く冷静であった。それと同時に俺へと仕掛けられるオールレンジ攻撃。

 短剣での刺突、ロングソードでの斬りかかり、持ち手の長いハンマーでの横薙ぎ、槍での突き。

 俺を囲っていた刺客たちが一斉にこちらに向けての同時攻撃である。


「ウインドボム。」


 俺の唱えた魔法の名前、相変わらずダサい。だが威力はヤベぇの一言に尽きる。敵は吹き飛んだ。前後左右斜めと全員がである。

 俺はてっきりこの魔法の効果は前方に飛んでいく風の塊が何かにぶつかると物凄い威力の風の破裂が起きるのだと思っていた。

 だけども俺を中心にして魔法の効果が発動した様で全方位から襲い掛かって来ていた刺客たちが全員5m以上吹き飛んだのだ。予想外です。


 ゲームの設定で言うと【風の爆発で吹き飛ばす】が、この魔法の説明文である。


「いや、やめろよ、俺のイメージから全く違う効果になるの・・・驚くだろ?」


 この魔法で吹き飛んだのは六名。どうやら食らった奴らの意識は無い模様。立ち上がってくる気配が無い。


「ダメージも結構イってる?まあ、確かに人がアレだけの距離吹き飛ぶ威力の瞬間的な風の圧力って凄まじいよなぁ・・・それに受け身、取れて無い様な感じに見えたしな。運が悪いと死んでるかもしれん。」


 下手すると鼓膜なども破れていたりするかもしれない。気圧的な物が急激に、かつ、瞬間的に一気に叩きつけられた様なモノだろうから。すると生きていても耳をやられて聞こえなくなってしまっている可能性大である。

 多分吹き飛んだ奴らも予想外と言うか、俺の反撃がこの様なモノになるとは想定すらしていないと思う。と言うか、想像すらできていないはずだ。魔法を放った俺自身がコレなのだ。他人が思い描ける想像を超えていると思う。


「あ?・・・な、なんだ貴様!今のは一体何をした!?」


「教えるはず無いじゃん自分の手の内を。うーん?でも教えても別に問題無いか?とは言え長々とソレを今の状況で説明するってのも間抜けじゃ無いか?さて、時間は大丈夫か?俺を殺すのに余り時間を掛けていると逃げ出す機会を失うぞ?なんたってここは侯爵様のお住まいだからな。のんびりとやっていて良いのか?それとも今すぐに無様に逃げ出すか?俺を殺すのを諦める?」


 リーダー大慌て。それもそうか。多分俺の使った魔法の正体を分かっていない。

 使った俺がこの結果に驚いている始末である。滑稽だ。そんなだから他から見たらもっと混乱する事態になるだろう事は当たり前か。

 正体不明の攻撃を食らって慎重になるのは悪い事じゃない。まあこの度は向こう側としてはそんな慎重になっていられる悠長な時間は無いが。

 時間を掛ければ掛ける程にこの屋敷を守る兵が駆けつけて来てこいつらは逃げ場を失いかねない。時間稼ぎはできない状況である。


(まあ俺におびき寄せられてる時点で既にお前ら包囲されてんだけどな)


 わざとここまでこの「赤い流星」を侵入させたのだ。そしてしっかりと決着がつくまでは警備の者たちには手出しも姿も出さない様にと控えて貰っている。


(俺が動くと敵味方関係無く巻き込んじゃうから出てこないでって言っておいたんだよねぇ)


 周りに味方がいると逆に動き辛いとかやめて欲しい。とは言ってもそんなモノは愚痴でしかない。

 俺が迂闊に魔法やら剣技を放つと被害が拡大してしまうのだからしょうがない事である。我慢する部分だ。

 こんな俺をどうにかする方法が見つけられていない今はこうして暴れる際には敵以外が側にいない様にしていくしかない。


「まあ一人一人ぶっ飛ばして気絶させる事は前に成功してるんだし、魔法も剣技も使わなければ近くに味方が居ても良いんだろうけどな。」


 素手で敵の二の腕を軽く引っ叩く。これだけで無力化できるのだ。そうすればいい。

 だがこれには少々の懸念を俺は持っていた。そう、威力の問題だ。

 前に成功したからと言って、今回も上手く行くとは限らないと言う事である。

 ちょっと意識を変えただけ、ちょっと考え事をしながら、踏み込み過ぎたかもしれない、などなど。

 当たり方具合一つで相手の生死が決まる、と言うと大袈裟になってしまうかもしれないが。俺の怪力は使い方がそれ程に難しいと感じる。

 と言うか、この力は「怪力」と言うもので判断、解決して良い問題なのかどうかも怪しいのだが。


「と言う訳で、残りのリーダー以外の八人は実験台になって貰う。検証、検証っと。」


「何が実験台だ!訳の分ら無い事を!お前ら!行け!」


 とリーダーが言った瞬間に俺は踏み込んだ。しかも軽くステップする様な感覚で。

 俺の中ではたった一歩前に出ただけのつもりだった。でもそれは、俺の前に居た、しかも距離が3mは離れた位置に居た賊に体当たりをしてしまう。

 もちろんそんな事になるとは思っていなかった。俺も、向こうも。


 この結果、俺にぶつかられた賊は10m程を水平に飛んだ。多分死んでると思う。手応え的に。


「・・・うぉぉぉぉぉ・・・何だ今のは?俺も驚いたわ。何がいけないんだ?何処が問題なんだ?」


 込める力の配分か?意識の問題なのか?体勢か?踏み込む時の足への力の入れ具合?気持ちの問題か?

 俺の身体なのに、俺の意思で制御ができない何てなんと扱い辛い事だろうか?自分で自分にイライラする。

 こうしてバトルする度に以前に動いた時の感覚で全く同じに動かない何てどう言う事だろうか?


「この一歩だってアレだぞ?二の腕叩いて回った時の再現をしようと踏み込んでるんだぞ?何で再現できねーんだよ・・・」


 俺は踏み込んだ次の瞬間には腕を振って賊の横からその二の腕を引っ叩いて「ぱあん」と、前と同じ展開を再現しようとしていたのに。


「パターンが分らん。原因も分からん。こうなるとやっぱ魔法で倒した方が安定する?いや、ダメだな。どっちも上手く調整できないって点ではどっちもどっちだ。」


 魔法の方は威力が一定ではある。これは「使い易い」と言う評価を付けても良いはずのものだ。

 だけども初級の魔法だけでも威力が過剰も過剰で余り気楽にはバンバンと使えないんだから評価もし辛い。


「要らねえ・・・こんな悩み、要らねえ。チートはチートでも、もうちょっと使い勝手が良いチートを与えてくれたら良かったのに。調整ミスってる、って言うか、寧ろ、調整する気も無かったよな?コレ?」


 こうして俺が一人でぶつぶつ言ってる間、賊たちは固まったままで襲ってこない。

 まあ人が体当たりで一瞬にして10mも飛んでいく光景なんて人生で一回だって見た事が無いんだろう。そのショックで動けずにいるんだろうなと察する。


「うーん、じゃあ今のをもう一回再現をしてみるか?検証しといた方が良いな絶対に。」


 硬直している賊の内、先ほどと同じ距離に居る者を目掛けて先程の再現をして俺は一歩踏み出す。

 でも結果は変わった。その賊の右横にピタッと止まったのだ。どうやら角度が僅かにズレていたとでもいうのだろうか?


「・・・えー?コレはちょっと無しでしょ。幾ら何でも・・・」


 そこで俺は軽く腕を振ってその賊の二の腕部分を叩く。するとまた。


「おい、前は高速回転して吹っ飛んでいったはずなのに。どうして今回は回転しないで吹っ飛んで行くんだ?叩き方か?力の込め具合か?角度か?」


 納得のいく結果が出てこない。原因不明だ。こうなると実験だの、検証だのと言った所で何らの答えも得られずに終わりそうである。


 そのまま次、次、次、次と連続で再現をしてみようと頑張ってみたのだが、一度もソレは達成できずに賊が飛んでいく。


「残りリーダーを除けば実験も二回だけかぁ。まあ余り時間を掛けるのも意味は無いか。・・・むむ?もしかして今は夜だからって理由はアリか?・・・いや、でもチートアイだから暗闇も意識して集中するとばっちり見えてるしなぁ。これは関係無いかな。」


 一体何がいけないのか神様に答えを教えて欲しい。いや、それが分っても「制御できません」と告げられたらそれこそ絶望だ。こうして試行錯誤している内がまだ幸せなのかもしれない。


「くそおおおおお!一体貴様は何者だと言うんだ!?何をどうしたらこんな!ぐっ・・・うおおおお!」


 リーダーが悔しそうにそう叫んでから俺に踏み込んで来た。部下がやられる事に我慢がならなかったのか、それとも恐怖からの行動か。


 真っすぐに踏み込んでくる。かなりの瞬発力で速さも相当だ。けど俺はソレを一歩後ろに飛んで距離を取って躱した。

 リーダーの武器はナイフだ。リーチはそこまで長くない。簡単に躱せた。けれども大きく振り下ろしてきたその一撃は囮だったらしい。フェイント。

 躱される前提で動いている相手の方が俺が動き出すよりも一手も二手も早く再び踏み込んでくる。ナイフでの突きだ。

 振られたナイフは途中でピタッと止まっていて素早くその方向を変え、そのまま俺に向かって刃先が迫って来ていた。


 体捌きで体を捻って躱せない。俺は一瞬でそう判断。リーダーはこれまでに修羅場を幾つも超えて来た腕利きなんだろう。

 冷静さを失っての突撃、の様に見せかけてこちらの油断を誘う演技だったからこそのフェイント。こちらの動きを制限、誘導するテクニック。


 間に合わないと思った俺は咄嗟に拳を振って相手の腕を打ち払った。

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