★★★試された俺と、きっと来る刺客★★★
俺が世話になった村での反応と同じ感じになるのであれば説明する意味が無い。
こちらが正直に話した所で「信じるか信じないかはアナタ次第」とか無駄な労力過ぎる。
「この私に逆らうのかね?」
「なら今すぐに俺をこの屋敷から出て行く様に命じれば済む話ですよ?」
「度胸だけはあるようだな?」
「そもそも俺はここの国に世話になった覚えって無いんですよ。立場とか権威とか、そんなものは俺に取っちゃ何の価値も無いんでね。敬うとか言った過剰な心持は無いですね。平等に話をしますよ。開き直りってやつですかね。あ、食事はご馳走様でした。リーの護衛って事で礼として受け取っておきます。どうやら今回の事は上手く行ったようですし?」
「なかなかふざけた男だな?生き辛くなっても構わないと?」
「権力を使って俺の事を排除します?ならこちらも直ぐに逃げる準備をしないといけないですね。あ、預けた剣返して貰えません?断られたら力づくで取り戻しますけどね。」
俺はまだ間に合うと信じたくて横柄で不遜な態度で当主様と会話する。
こうやって嫌われれば頭に来た当主様が俺をこの屋敷から、だけで無くこの首都からも追放の手続きをしてくれるのではと淡い期待をする。
約束だった図書館フリーパスは諦めるつもりだ。別に俺はこの世界で何ら焦る事など無かったのだ。次にいつチャンスがあるか分からないなどと悩む必要は無かった。
またその内に別の国にでも入った際にはそこの図書館で調べ物をすれば良い。その時には公権を使ってフリーパスゲット!などと言わずに地道にやっていけば良い。
この世界で俺は生きて行かねばならないのだ。世間の荒波に揉まれて生きて行く事も覚えて行かねばなるまい。
最初っから貴族の世話になって下町の常識を知らんままに居る事はそれもそれ少々危ういだろう。
ならばここで「追放だ!」のお言葉を当主様から貰えれば色々と願ったり叶ったりである。
「どうあっても口を割るつもりは無いと言いたいのか?何故そこまで頑固になる必要がある?」
「先に言っておきますけど、勘違いされたく無いし。俺は決して王族とか、貴族の出身とかじゃないですよ一切。そこは保証します。あれ?こんな事を保証すると口にするのもソレはソレで何だか可笑しいですね。あ、宗教関係者とかでも無ければ商売人の息子とか言った話も無いです。俺は本当に一般人ですよ。」
「何者かを一切語る気は無いと?」
「あー、じゃあ一つだけ。俺はこの世界の常識を殆んど知りません。一年くらい村で過ごしていたのでそう言った集落の常識は身に着けましたけどね。あ、だからと言って他国の諜報官とかでも無いですよ?何処かの国に所属しているとかは一切ありません。」
ずっと当主様に難しい顔で睨まれっぱなしな俺。そんな俺たちを侯爵代理様はどうにも普段とは違うソワソワした態度でこの会話の決着を見守っている。
リーとメデスなんかは血の気が引いているのかちょっと顔色が青い。俺の当主様への態度が気が気でならないと言った様子である。何時チャン商会にトバッチリが来ないか心配でならないのかもしれない。
「最後に聞こう。君は私たちの敵かね?」
「ボカシもせずにいきなりソレを聞いて来るのが自信の表れですよねー。俺一人何てどうとでもなる、って思ってる。実際にそりゃそうなんでしょうけど。まあ答えますけど。敵にはなりませんよ。この言葉を何に誓えば良いです?」
ここで当主様は俺から視線を外して壁際に居た執事と思われる老人へと頷いて見せた。
「どうやら嘘は言っておらんようです。全ての言葉に「白」の判定が出ておりました。」
その爺さんがいきなり何を言っているのか俺は分らなかった。そして一拍置いて「噓発見器」みたいな道具があるのか、或いはそう言ったスキル?が存在するかもしれない事に思い至った。
「あー、俺は要するに、試されてました?で、コレは不合格って事で宜しいので?」
「・・・いや、合格だな。屋敷の滞在を許可する。」
物凄く嫌そうな渋い声音で当主様はそう答えてきた。
「えぇ・・・当主様?別に良いんですよ無理しないで。俺の事が嫌いだったら「さっさと出ていけ!」って言ってくれりゃ直ぐに出て行きますよ?」
ここでリーが俺のこの言葉にぼやく。
「何でタクマはせっかくの許可を断る様な言い方を・・・」
「えー?いや、だってこの屋敷の持ち主が駄目だって一言口にすれば俺がここに居続ける事は出来ないだろ常識的に考えればさ。世話になり続けてやる!みたいな恥も知らない我儘とかを口にする様なクソ阿保じゃ無いぞ俺は?」
「寧ろだったら侯爵様に対してその口の利き方を先ず直せと・・・」
メデスは俺に対して我慢ならないと言いたげにそう指摘して来た。これに俺は「だが断る!」とだけ突き付けた。
「さて、各自に部屋を用意しよう。今日はゆっくりと休むと良い。」
懐深い当主様はどうやら俺にも部屋を与えてくれるらしい。
だがここで俺は一つ質問をした。いや、コレは要求だろうか?
「明日の予定なんですけど。クソメンドイ仕事を朝一番に先に済ませちゃいたいから「赤い流星」の拠点を教えてくれません?あ、俺ここに来たばかりだから土地勘ねーや。誰か案内を付けてくれると助かるんだけど?拠点複数あると途中で道とか迷ったら嫌だし、それとある程度の自衛ができる人だとなお良しなんで、お願いしといて良いです?」
これにこの場に居る全員から変な者を見る目を向けられた。その全員の中には壁際の爺さんも含まれる。
そしてここで侯爵代理様は。
「タクマ、それは私がやらねばならない仕事だ。各方面に根回しをして色々と準備をしてから突入と言った形を取るべきものだ。それをいきなりタクマが一人で全て片付けるつもりなのかい?その冗談は面白く無いよ?」
「いや、もうどうせそいつらに俺の見た目ってバレるだろ?そうなったら当然俺は命を狙われる事になるだろうな。だったら一々刺客だの殺し屋だのをチマチマ一回一回差し向けられてソレをご丁寧に返り討ちにし続けるのはクッソ面倒じゃねーか。ならいっその事、大本を一度で全部潰して早いトコ安心して俺は調べ物をしたいんだよ。それにそいつら放っておくとその襲撃された時に側にいた周囲の人たちにも被害を出すかもしれんだろ?手段は選ばない、って言ってな。罪の無い一般人を人質に取って俺たちを脅すとか?平気でやってきそうだろ?だから、これはそっちの都合じゃ無くて俺の都合だから、教えてくれないなら無いで俺一人で勝手にやるけどな。」
「リーの護衛はどうするんだい?契約はまだ続いているんじゃないのかい?」
「あー、いや、そう言った残る書類とか交わしてねーし?もうこの屋敷に居れば安全は確保した様なモノって事だったら俺はもう自由に動いても良いだろ。どうだリー?」
俺がここでリーに話を振った。しかし当のリーが眉根を顰めてした返事はと言うと。
「そもそも護衛と言うのはタクマが首都の図書館を目的としていたので「ついで」でありまして。いえ、確かに護衛料は払う心算でありました。書面での契約は確かに交わしてはいませんでした。」
そう、俺は最初から自由だったのだ。なのでここで誰にも俺を止める事は出来ないと言う事である。
「じゃあ依頼は完了、って事で良いなリー?まあ金は後で貰えりゃ良いよ。俺はそんな事よりも早めに赤いナンチャラをぶっ潰して安心して寝たいだけなんだ。別にリーの護衛をどうでも良い何て思っちゃいないんだけどな。」
ここでリーから盛大な溜息を付かれた。既にごたごたは解決したも同然で、後は暴力組織を潰すのみになったのだから簡単だ。俺が暴れるだけで良い。安心、安心だ。いや、違う。
「・・・まさか報復で今夜にでも即、暗殺者が送られてくるとか無いよな?」
電撃の逆襲である。余りそんな事を言うとフラグになってしまうかもしれないのだが、俺はつい口に出してしまった。
最悪の事態とはおおよそこういった「それは有り得ないだろ」と言った部分からやって来るのだ。想像力を止めないでおく事は重要だ。
何せ問題が今「全て終わった」訳でも無い。ほぼ終わった、と言った状況で油断している時である。こういった瞬間に狙われると、襲撃なんて事前に想定して無かった場合は一手遅れた対処を迫られる事になってしまう。
そんな後手に回される事となればこちらの命が危うい場面に追い込まれるか、或いは手遅れになりかねない。
狙われた命が俺だけであれば良い。対処できる自信は、まあ有る。だが、俺以外を狙った犯行などになれば?もしかしたらソレを俺は防げないかもしれない。
と、ここでやはりまたしても全員が俺を訝し気な目で見て来た。
そんなはずは有る訳無い、と、そんな事を考えているのがありありと分かる顔をしている。
「おい、リーもメデスも、ここまで来る間の事を思い出せよ。有り得無い、なんて事は有り得無いんだぞ?」
どこぞの錬金術を題材にした漫画の主人公がそう言っていたはずだ。良い言葉だと思う。
俺のこの言葉で二人はハッとなっている。どうやら思い出してくれた様だ。
リーは「姿隠しのマント」の事で予想を外した件もある。真剣な表情に変わった。きっと本日今夜に暗殺者がこの侯爵家別邸に忍び込んでくる可能性をあらゆる角度から考えているんだろう。
ここでメデスが発言を許可して欲しいと言った感じで手を挙げた。
「宜しいでしょうか?・・・有難うございます。」
ソレに許しを出すのは当主様だ。鷹揚に頷いてメデスの発言を聞く姿勢を取る。
(懐深いなー。俺に対してはかなり鋭い目で睨んでくるのに)
当主様に対してそんな事を俺が思っているとも露知らないメデスはここで質問を、と言うか、疑問と言って良いだろうか?それを口に出す。
「赤い流星、その組織の指標と言いますか、動く基準と言えば良いでしょうか?奴らの性質と言うのはどの様なモノかの詳細を教えて頂けませんか?」
どうやらメデスは俺の言葉をしっかりと胸に刻んでいるんだろう。敵を知り己を知れば、のアレである。
このメデスの質問に当主様が目を少々開く。そして沈黙した。顎に手を添えて目を瞑って思考し始める。そこから口を開いた。
「奴らは恐れ知らずで何にでも噛みついて来る。しかもその動きも早い。いや、まさか、それにしても今日の今日だぞ?組織としてソレ程の速さで動きを見せるなどと言うのは常識的に考えて有り得んだろう?襲撃の準備や情報の精査、人員を集めるなどもあるだろうに。その手間と時間を考えれば今夜は無い。それこそ高位貴族の屋敷に、それが別邸であろうとなかろうと貴族所有の物に手を出せば後が無いと言う事くらい理解はしているはずだ向こうだって。警備も我が屋敷は厳重に敷いているぞ?それを暗殺者がやって来る?考えられんな。」
「えー、ここで当主様ご自身での盛大なフラグを建てて頂きましたー。やっぱ来るじゃん。ゆっくり今夜寝れないじゃん。ダメじゃん。」
この当主様の否定っぷりに思わず俺はツッコミを入れてしまった。