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★★★待ち時間にて★★★

 結局俺は折れた。だって図書館の利用金額が結構馬鹿にならないから。やはり現実は厳しい。

 一日で俺の知りたい事が全て調べる事が出来たらそこで「ハイサヨウナラ」で、そこまで出費も痛くは無いのだが。

 だけどもその一日で俺の知りたい事が全て知る事ができるなんて保証は一切無い。

 下手すれば全てのそれらしい蔵書を調べてみても何らのきっかけすら掴めないかもしれないのだ。

 そして本と言うのは読むものであって、さて、じゃあ知りたい事の載っている本があったとして、それは何冊あり、それを全部読み終えるのにどれだけ時間が掛かるのだろうか?


 本が貸し出しできるのならば借りて泊っている宿に戻って自分のペースでゆっくりと読み、消化できるだろうが。

 もしそれができないとなれば何日も何日も図書館に通って読み続けなくてはならない。

 そうでなくとも宿泊費の方も何日も泊ればその分の料金は相当お高くなるだろう。やはり金が問題になってくる。


 入館料は馬鹿にならない金額で、一日利用で銀貨二枚が必要だった。これはどうやら本の希少性やら、汚したり破損させてしまったりした場合の事などを考えてのこの金額らしい。

 本とは情報の塊だ。それを保管、管理する為の料金も含まれているんだろう。もちろんそれらを仕事にしている司書の給料などと言った人件費にもこれらは当てられていると見て良い。


 そして俺が折れた理由はこれらの費用を侯爵代理様が出してくれると言ったからだ。何とフリーパス証を出すと。

 それにつられただけでは無い。この首都での滞在費まで出してくれると言う。何時までも、思う存分いてくれて構わないと。

 まあ要するに、侯爵代理様の客分として別邸に滞在すると言う事なのだがそれは。

 この首都で自力で金を稼いで図書館通いをどれほどの期間を掛けたら自分の納得できる調べ物ができるか分からない。

 俺は負けたのだ。カネ金かね、俺は世界の世知辛さに異世界に行っても悩まされている。


「タクマ、傭兵証を貸してくれ。そちらの方に入館許可を一緒に入れておくから。」


「・・・無い。」


「うん?」


「無いな。」


「何で?」


 キョトンとした顔の侯爵代理様に俺は何と説明したら良いかを考えた。だけどもぶっちゃけ言い訳する気も無いのでその当時に俺がどんな風にその傭兵証を「疑った」のかを話してしまう。


「あの傭兵証に追跡の魔法か何かが付いていたら俺が何処に逃げても居場所がバレそうだなと思って。小さく丸め潰して地面に埋めたわ。それに、侯爵代理様が保証人?みたいなのもソレの裏に刻まれてたんだろ?そんなの持ち歩いていてどこぞの門番などに確認されて連絡がそっちに行く様に仕向けられていたら後を追いかけられるだろうなと思ってさ。遠距離の連絡を時間的ズレも無くできる道具とかあったら直ぐに駆け付けられてしまいそう、とか考えて、持ち続けるのは逆にイカンと思って即座に捨てる事を決めたな。」


「ぶふっ!ふはっ!ふははははは!タクマは面白い事を考えるなぁ。ふふっ!じわじわ来るね。・・・ふはっ!ふふ、ふふふふふふふふくっくっくっくっ・・・」


「いや、お前の笑いのツボが何処にあるのかの方が面白いだろ。何でこんな話でお前笑ってんだ・・・」


 今、俺たち四人は侯爵家別邸の方に到着して待機の時間である。本邸は侯爵家の治める地に有る訳で、こちらにある家は侯爵家が首都での仕事で拘束される際に宿泊する為の屋敷である。

 ここで侯爵家当主様との面会を後々でする事になっているのだが、それまでの間をこうしてお茶でも飲みつつおしゃべりして過ごしたいと侯爵代理様に求められてこうなっている。

 そしてこの良く解らない無い状態である。と言うか、本当に俺の何処を気に入ってここまでしつこくグイグイと侯爵代理様は俺に食い込んでくるのかサッパリだ。心底理解ができない。納得できない。


「ふふふ。タクマが私の事をお前呼びしてくれた。少しは親しくなれたって思って良いのかな?」


「いや、もう面倒だからお前呼びしてるだけだわ。いちいち「侯爵代理様」って言わなきゃならないのが面倒になって来た。」


 俺たちのこのやり取りにリーとメデスは遠い目をしてお茶を飲んでいる。会話に混ざって来てくれない。


「・・・私たちにトバッチリが来ません様に、来ません様に・・・」


 などと小声で念仏でも唱える様にリーが繰り返しぶつぶつと言っている。それを見かねて俺はここでリーにお願いをする。


「なあリー?魔法を使って見せてくれないか?機会があったら披露してくれるって事だったよな?ここの庭広いし、ちょっと初級の魔法ってのを見せてくれないか?」


 リーには魔法を見せて貰う約束をしていた事を思い出して時間潰しも兼ねてと言う事で披露して貰う事に。

 こうして俺たちはこの別邸のだだっ広い庭の一部に出て来た。

 そう、流石に侯爵様の所有する屋敷である。めちゃんこ、広い。


「あまり派手な魔法は使わないけど良いかしら?水と、そう、氷くらい?火は火事になったら怖いので却下。風は不可視だから何も知らない人が突然近づいてくると危ないので使用はしないわ。それでも?」


「それで良いよ。この屋敷に被害が出たら弁償をどうするかなんて想像もできないし。人への被害も万が一は出したくないしね。それじゃあお願い。」


 俺はリーの動きに注目した。だってこの世界の魔法だ。俺の使う「あぶねー」魔法では無い。しっかりとこの目に焼き付けておきたい。


「水よ、ここへ。」


 そうリーが呟いたらその掌の中には直径5cm程の水の玉が出来上がった。しかもフヨフヨと空中に浮いているのだ。何とも面白い。これぞ「ザ・魔法!」と言いたくなる光景だ。


「我が魔力を糧に、より集積せよ。」


 追加でリーが発した言葉にドンドンとその水の玉が大きく成って行く。水の球と言える位になった。大きさはバスケットボールくらいだ。


「熱よ拡散せよ。虚空に逃げよ。」


 またリーが追加で言葉を紡ぐ。すると見る見るうちにその水球が凍っていった。ここで侯爵代理様が感想を述べる。


「いやー、凄いね。ここまで魔力の乱れ無く綺麗に氷にまで。私はそこら辺の精密な操作が若干苦手でね。もしよければコツなど教えて貰え無いだろうか?」


「普段から自らの魔力を感じて動かす訓練をするのが一番宜しいかと。地味ですが、これが一番の近道ですから。」


 出た、魔力操作だ。ラノベあるあるだ。主人公が魔法を使えると最初の方で訓練するやつである。


「うん、ブラボーですけども!うらやましいなぁ。嫉妬しちゃうなぁ。何で俺の使う魔法は杓子定規な威力で過剰ブッパなんだよ・・・一度放てば死人が必ず出るであろう威力とか、恐怖でしかないよそんなのは。俺もそうやって魔力操作とか精密操作とかやってミタカッタ・・・」


 俺は初めて魔法を放った時、全く何も感じなかったのだ。体の中で魔力が動いているのがわかる、みたいな主人公ムーブは完全に無かった。


「タクマの魔法はどうなっているの?そう言えば隠れた襲撃者を倒した時、魔法を使っていたわよね?でも、そう言えば不思議だわ。兆候の魔力、大気の動く気配が一切無かった?」


 リーがどうにも俺の方に視線を向けて来る。やめて欲しいそんな疑惑の目で見て来るのは。俺はこの世界での道理に基づいた魔法の使い方など知らないのだから。魔法名を意識して口にするとぶっ放しちゃうのだから。

 しかしここで侯爵代理様が要求して来た。


「タクマの魔法?どんな属性が得意なんだい?初級を見せてよ。深度はどれくらいだい?初級魔法を見ればその人の大体の魔法の腕前が分る。無難にリーのやったような水の玉を生成して、大きくして、凍らせて見せて欲しいな。そうすればタクマの熟練度がどれくらいかリーと比べればわかるね!」


「絶対に、断る!」


「えー?ケチだなぁタクマは。やって見せてくれても良いじゃないか。あ、だったら私が先に見せるから次はタクマね!」


「勝手に決めんな!俺は魔法は使えねーよ!使えないの!むやみやたらと人様に見せられるモノじゃ無いの!って!お前、俺の言ってる事聞けやコラァ!?」


 勝手に侯爵代理様はリーの見せた魔法に倣って水の玉を生成し始めた。しかも結構真剣な顔で。


「めっちゃ集中してるやん!?物凄いプルプルしてるやん!?」


 何をそんなにヤル気が出ているのか?侯爵代理様はずっと自分の生成した水の玉と睨めっこだ。どうにも全身に力を込めている様で小刻みに震えている。


 そうしていると大分時間が掛かったが、先程にリーが見せた水球と大体同じくらいの大きさに。

 そこで侯爵代理様は額に少々の汗を浮かばせながら一息吐いた。そしてまた再び、また水球と睨めっこが始まる。


「え?凍らせるの?このまま俺はこれを見て無きゃいけないの?と言うか、リーみたいに短時間で凍らないの?・・・リーってマジでめっちゃ凄い魔法使いなんだな。」


 こうして侯爵代理様は集中力を暫くの時間持続させ続けていたのだが。完全に全て凍る前にギブアップ宣言が出されたのだった。


「いやー、私は中途半端だな。剣の方は大分マシになったのだが。魔法はまだまだ精進が足らなさ過ぎるか。最近は稽古をできずにいたからなぁ。これからは言われた通りに普段からコツコツと体内魔力を操作する訓練を積んでいこうと思うよ。ありがとう、リー。」


「はい、魔法には自信がありますので。今後何か御座いましたら何なりと聞いてください。」


 リーはそう言って笑顔で侯爵代理様に返事をする。まあ確かにリーは熟練の魔法使いと言えるのだろう。

 俺も習ったらこの世界の魔法を使える様になるのだろうか?と言うか、使える様にしておきたい。

 何せ俺の使う魔法も剣技も威力が初級でも逸脱し過ぎている。威力調整とかができる攻撃方法が欲しい。


「・・・俺もそんな魔法を使いたいなぁ。」


「ならば魔法学校に通うかい?その歳で入学する者は別段珍しく無いよ?」


「・・・は?」


 侯爵代理様にそんな事を提案されてしまった。俺が魔法学校に通うとかダメだと思うのだ。

 何せ「俺なんかやっちゃいました無双」を始めてしまうか、或いはこの世界の魔法適正とやらが全く無くて「落ちこぼれ編」みたいな事になりそうだから。

 どちらのパターンも俺の大活躍がメインになりそうである。この世界の常識が無い俺が次々に舞い込む問題を力ずくで解決!みたいな展開しか思い浮かばない。


「と言うか、タクマは魔法を使えるんじゃないのかい?フーム?タクマには何だか秘密を沢山持っていそうだね?いつかソレを私に打ち明けて貰える様に信頼を重ねて行きたい所だ。」


「確か七つはあるはずですマリエンス様。」


「おい、余計な事を教えてんじゃねーよリーさんよ?」


 そんな時間を過ごして夕食時だ。侯爵家当主様はそんな時間にこちらに戻って来た様だ。俺には只の報告なのだろうに相当長い時間が掛かっている様に感じるのだが。


 こうして、どうして、俺たち四人はその当主様と一緒の席で夕食を摂る事になってしまった。


「おい、俺はテーブルマナー何て朧げにしかわからんぞ?確か食器は外側から順に使っていくんだっけか?」


 この世界のマナーが俺の知るモノと同じであるという保証は何処にも無い。不安ばかりが募る。

 一応はこの別邸で侯爵代理様の保証の元に客人として世話になるのだ。その父親に挨拶の一つもしないなどと言うのは人として駄目である。ダメったらダメなのだ。

 本心からぶっちゃけて言えば、勘弁して欲しいのだが。それこそ何で貴族などと言う俺のような一般人とは全く住む世界が根本から違う存在と食事を一緒にせねばならないのか?

 後で執務室か何処か別の席での挨拶ではいけないのか?


「大丈夫だよ。父上は私には厳しいが、その他の者には寛容な方であるからね。」


「お前のその言葉は余計に心配になるんだが?」

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