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★★★疑心暗鬼を生ず★★★

 リーが俺へと右手の平を向けて来る。その表情は険しい。そしてメデスも剣の柄に手を掛けていた。

 二人は座っていた椅子から立ち上がっている。どうにも二人は俺への警戒心が最大になった様だ。これは要するに。


「・・・なあ?まさか俺の言った事、当たってたりするのか?黙ってないで何とか言ってくれない?超気まずいんだけど?あの、ホントに、当たってんのかよ?え?冗談だろ?まさか全部?え?否定・・・しないのかよ!?」


 嘘と言って欲しい。俺が並べたパターンは当てずっぽうとまでは言わないし、だからと言って雑に考えて口にした訳でも無い。

 俺の頭の中に存在する「シチュエーション」を片っ端から言葉にしてみただけであって、まあどれか一つ当たれば良いかな?位にしか思っていなかった。


(国の諜報機関とかの部分は確かに当たってたら不味い真実だったよなぁ。何で俺はそこら辺何もストップがかからずに口からスラスラ出しちゃったのか?リーもメデスも、向こうからしたら何で俺の口からそんな事がこんな時に出て来るのか、って疑う場面だ。最悪だ)


 迂闊、安易にヤベエ事を口走ってしまった。これはもう後戻りできない雰囲気である。後は二人がどう出るかに掛かっている。

 こうして二人が同時に俺に向けていつでも攻撃できる体勢に入ってしまったからには、ここで俺が下手に動けばもっと大惨事になりかねない。


 ジッと沈黙が続いた。恐らくは1分くらいだと思う短い時間。

 だけどもその沈黙の緊張感は俺にもっともっと長い時間を体感させている。


「・・・タクマは敵の間者アルカ?でも、そうだったら余りにもおかしい事が多過ぎるネ?何者アルカ?」


「あー、変に疑われる様な事を言っちまった俺がこの場は悪いのかもしれないけどさ。信じられ無いかもしれないけど、何者でも無いんだよ、俺は。」


 俺のこの返事にまた沈黙が流れる。しかし今度の沈黙した時間は短い。メデスがコレを破ったから。


「お前さんは本当に偶然に俺たちに接触しただけ?そこまで強いのも別に何らの裏も無く?こちらの真の正体も全く、今さっきのさっきまで気にもしていなかった?」


「なあ?俺がもし敵の間者で、暗殺者だったら、今頃二人はどうなってた?俺はこれまで二人を助けてきた訳だけど、それは信用を得てその懐に潜り込むための演技だと思った?」


 メデスが飛ばしてくる疑問に俺は逆に質問で返した。しかしこれに答えたのはリーだった。


「タクマがもし刺客だったらそんな迂遠な事をする意味が無さ過ぎるネ。その強さなら私もメデスも今頃とっくに殺されてるアルヨ。・・・本当に味方、って事で良いのアルカ?」


「言葉で証明するのは無理だけど、本当に俺、何者でも無いぞ?」


 俺が全く変わらずにそう言った事で気が抜けたのか、二人はドカッと椅子に座った。

 ここでメデスがぼやきをこぼした。


「マジかー。お嬢、まさか囮ってのは向こうにバレて無いですよね?」


「アイヤー、恐らくはバレていないと思うアルヨ。けど、楽観はしては駄目ネ。何時バレるかも分からないアルヨ。と言うか、タクマの想像力がおかしいアルヨ。」


 俺が先程に「こっちが囮で、他に本命が出てるんじゃないのか?」と指摘した部分の事だろう。

 メデスは俺がそんな事を口にしたものだから敵にもこちらが囮だとバレているのでは?と不安になった訳だ。


「え?何気無くなんで今これリーに俺はディスられてる感じになってんの?何か納得いかないんだけど?え?それ取り下げてマジで。」


 思考回路がおかしい、その点は取り下げさせたいのだが。


「何者でも無いと自分で言った癖にオカシイアルネ。これはどう考えてもタクマは普通じゃ無いアルヨ。自覚するべき部分ネ、そこは。」


「・・・えー?所詮は俺が以前に読んだ事ある物語の幾つかの展開ってのを口にしてみただけだぞ?」


 メデスがこれに呆れた様に俺に言う。


「幾つかって・・・どれだけの数をこれまで読んで来たんだ?それこそ、物語って言ったって、そこまでの数存在しないだろうに。どれだけの蔵書数の図書館で引き籠って読みふけってたって言うんだ?」


「・・・ん?俺は別に図書館通い何てした事無いぞ?」


 どうやらこちらの世界にはそんな展開になりそうな物語なんて多くは存在しない様だ。


「敵じゃ無いかもしれないアルネ。だけど、タクマは怪し過ぎるヨ?何者でも無いって言ってたネ?じゃあ出身は何処アルカ?これまでどうやって生きて来ていたのか教えて欲しいアル。」


「えー、あー・・・ほら?人ってさ?他人様には言え無い秘密の一つや二つや三つや四つや五つや六つや七つはあるでしょ?」


「多過ぎるアルヨ・・・私たちが抱えてる数よりもよっぽど多いネ!」


 リーにツッコミを入れられてしまったが、どうせ話しても信じては貰え無い内容だ。

 これから先も出会って、そして俺の事を疑う相手に毎度毎度に繰り返し同じ事を説明しなければならないのは、正直いって面倒くさ過ぎる。

 なので誤魔化す。正直に説明するだけが世渡り上手と言うのでは無いのだろうから。


「あー、お嬢。今はタクマが敵じゃ無いだけ良かったと思いましょうよ。寧ろこれまでに三度もタクマには助けられてますから。良い関係をこれからも維持する為にも、ここは追及をこれ以上しないでおきましょう。」


 メデスはそう言って俺の正体の事よりも、良好な関係の方に重要性を見出してリーを説得している。

 これはメデスの大人な対応と言うモノなのだろう。まあ打算と言った部分もあるだろうけど。


「あんまり納得いかないアルヨ。けど、ここはしょうが無いネ。じゃあ、その私たちのソレを踏まえたうえで、今後の事をもう一度タクマには考えて欲しいアルヨ。」


「えー?いや、うーん?敵を知り、己を知れば百戦危うからず。己を知り、敵知らずなればコレ五分なり?だったか?」


 俺のこの言葉に「なんじゃそりゃ?」みたいな目を向けて来るリー。だけどもメデスはこれに。


「ワイロイロ伯爵は肝っ玉が小さいんだ。おそらくは俺たちの泊る宿を派手に襲撃して見境無く被害を大きくする様な手は取って来ないと思う。エゴチヤ商会も似た様なモノ、と言いたい所だ。しかし・・・」


 そう言ったメデスはどうやらエゴチヤ商会がどの様に今後動くかが不安要素だと。

 恐らくは金銭面でかなりの出費となっているだろうとの予測から追い詰められていて博打に出て来るかも?と、そんな事を言いたいらしい。


(窮鼠猫を噛む、かぁ。こうなるとこっちも逆に考え無しに動くと怪我させられそうだわ)


 一気に畳みかけて潰す、そう言った処置を本来ならしたかったのだろうが。こうなっては仕方が無い。

 ギリギリを超えて大きくマイナス状態になっているのは相手がいけないのであって、俺たちが悪い訳じゃ無い。

 それこそ相手の思う壺にこちらが嵌まっていれば、リーが攫われてしまっていたか、或いは殺されていたかもしれないのだ。そんなのは冗談では無い。


「そうすると、今夜は襲撃は無い可能性が高いアルカ?」


 リーはそう言ってメデスの方を見た。けれども俺はそこで否定する。


「あー、さっきも聞かれたから答えたけど。相手は俺たちの足を潰してくる事も考えられるから。それと積み荷の盗難ね。」


 あの大蜥蜴を殺してこちらの足止め。もしくは積み荷を荒らして事件にし、騒ぎにしてこの町に引き止め、と言った事も考えられるのだ。


「はぁ~。一応馬車の荷には重要なモノは積んで無いアルヨ。だから荒らされても明日には出発するネ。」


 リーはそう言って少しだけ緊張感を下げた。だけども俺はここでちょっとだけそこに深めに踏み込んだ事を言ってみた。


「この町の警備の兵が敵と繋がっていた場合、もしかしたら「盗まれた荷について」って言い訳で俺たちを無理やり引き止めて来るかも?・・・あ、もっと酷い展開思いついた。」


「タクマ・・・私たちの気分をこれ以上に下げる様な事は言わないで欲しいアルヨ・・・しかも、もっと酷い事って、どんな事になるアルカ?」


「俺たちにあらぬ疑いを掛けてこの町に拘束し続ける。冤罪とか、でっち上げ、だな。」


 俺のこの意見に二人は物凄い顔を顰める。この反応に俺はそれに説明を付け加えた。


「もし敵が目的を一段階下げて妥協してきた場合だな。リーの殺害、或いは誘拐を諦めて、俺たちが首都に向かえ無くなる様に仕向けるとかね。」


 ここでリーは「そんな馬鹿な」みたいな顔になる。だけどもメデスは「有り得なくも無い」と言った様子に切り替わる。

 そしてメデスは真剣にリーへと意見を述べた。


「お嬢、今直ぐにこの町を出た方が良いかもしれない。町で問題が起きれば正規の兵士が正規の手続きで俺たちを引き留めて来る。その流れになるとこちらは正当な理由が無くちゃ抗えない。そこに、冤罪やらを被せられたりしたらソレが事実無根だと証明されない限り拘束され続ける。それと、その罪の証拠を無理やり作られて裁判にでもされたらこちらが不利になるどころか牢屋に入れられる事になりかねない。それらが最終的に無罪放免されたとしても、出所するまでにどれだけの日数が掛かるか分かったモノじゃ無い。」


 メデスの説明にリーは物凄く不機嫌そうに眉根を顰める。これは別にメデスの事を睨んでいる訳では無い。

 そんな展開になったら面倒でしょうがない、と想像を膨らませた結果だ。


「はぁ~。直ぐに町を出るアルヨ。宿の主人にはお金をちょっと多めに握らせて私たちが宿にまだ宿泊している様に見せかけた方が良いかもしれないアルネ。」


 リーの判断は早かった。しかもちゃんと偽装工作の事も考えている。敵に少しでも気づかれない為の時間稼ぎの為だ。


「それにしてもタクマ。お前の頭はどうなってるんだ?やけに、まあ、その、何だ?どうしてそこまで悪い事態を想像できるんだか。」


 メデスに少々呆れられてしまった。まあ俺もこれにはちょっと考え過ぎだなと言った感想は自身に持っている。


(状況を主観で見れ無いんだよなぁ、どうしても)


 まるで物語でも読んでいる様な、他人事の様な、客観視で何となく事態を捉えてしまっている。この先いつまでたっても、この様な状態から俺は抜け出せないだろうと感じる。

 だから、まるで幾つもの色々な未来を想像できてしまう。周りがソレを考え過ぎと言う程の過剰であろうとも。

 物事を何だか外側から見てしまうと言うか、まるで自分の身に起きている事としての認識がイマイチできない、と言った感じになっていると自覚はある。


(そのくせ何かしら自分のせいで取り返しのつかない事になったら鬱になるとか、精神的に追い詰められて自殺する、とか言っちゃってるけど)


 こうしてせっかく入った宿でゆっくり、と思っていた所だった俺たちであるが。

 周辺に敵の見張りが居ないかどうかを俺がざっくりと見回って確かめた後にひっそりと宿から出発した。


 町を出る際には別段門番に何かと引き止められる事も無くすんなりと通される。これに俺たちは。


「なぁお嬢?連続で襲われて俺たちはちょっと疑い深くなり過ぎていたんじゃないか?」


「アイヤー、確かにそれもあるかもしれないアルネ。すんなりと町から出れちゃったアルヨ。」


「出ちゃったモノはしょうが無いし、夜営の時は俺が責任もって夜番するから勘弁してくれ。」


 こんな中途半端なタイミングで町を出てしまえば街道途中で夜になる。なので俺は深読みし過ぎを謝罪して夜の見張り番を自分がする事で許してくれと頭を下げた。

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